前回の話
詠ちゃん痛恨のファンブルをして涼州に帰れず劉弁を拾うという圧倒的逆境の中で月の為に黄金の精神に目覚める。
本日の朝議において昨夜の張曼成からの報告を幹部の皆にも共有し、これから再び起こると予想される争乱に対して各々備える様に華琳さんから命が下った。
また戦争になるのかと全体的に嫌な雰囲気が広がる中、華琳さん本人はそこはかとなく楽しそうである。
「………華琳さんって戦争好きですよね」
思い返してみれば、この人は戦場に出る度にウッキウキだった気がする。
征服王イスカンダルかな?
俺はオケアノスとかまるで興味無いんで東に遠征とかやめましょうね?
………そういや曹操って史実じゃガッツリ徐州で虐殺してたな。
徐州って東なんだよなぁ………もしもの時は全力で止めよう。
「?…別に戦争が好きって事はないわよ?」
「その割には結構楽しそうですよ?」
ねぇと隣にいた秋蘭さんに同意を求めると、秋蘭さんも薄く笑いながら頷く。
「そうかしら…でも私は本当に戦争が好きって訳ではないのよ。 目的を成す手段としては効率が悪いし、経済的にも人材的にも消耗が激しくて統治者としては寧ろ嫌いよ」
おぉ、激しい気性の割に凄い真っ当な事を言う統治者。
大陸の全員に聞かせてやってくれ。
「ただ…我が才が一番輝くのは戦場なのよね。 だから戦場に出るのは好きよ…宿命とも言って良いわ」
は?
すげぇドヤ顔してるけど、雪蓮でもあるまいしアンタは大将なんだから直接兵の指揮とかしてないで、本陣でドカッと座って戦況を見守るのが仕事だぞ。
戦術とかの全体指揮なら基本は文若さんがしてくれるし、そもそも_____
「いや華琳さんはどっちかと言うと戦術家じゃなくて戦略家じゃないですか………部屋の中で地図広げながら大陸戦略を考えてる時が一番輝いてますよ?」
ねぇと今度は文若さんに同意を求めると、文若さんは一応同意見らしく不満げな顔をしながらも頷く。
俺のそんな言葉に華琳さんは少しムッとするが_____
「ふふっ…戦わずして勝つのが上策、だろう? 戦場になんて出ずとも勝てる戦略を思い描ける華琳さんは凄いよ」
そう言って姉さんが追い打ちをかけてくれる。
間違いなく褒め言葉ではあるのだが…孫氏の兵法を編纂し孟徳新書を書き上げたのに、戦場好きを公言する華琳さんに対して凄い皮肉になってるぞ。
そうした姉さんの言葉に、完全に不貞腐れてしまった華琳さんが面白くなさげに呟く。
「………私は自ら軍を率いて、自身の才覚を魅せつけている瞬間が一番充実するのよ」
えぇ〜?
何それ…我が才を見よ!ってか?
万雷の喝采でも欲しいの?
ネロちゃまじゃねぇんだからやめてくれよ…いや似合うけどさ。
黄金劇場でも建てようものなら全力で反対するぞ?
「…それに…楽しいじゃない?」
ん?
何が?
皆が不思議そうな顔をしていると、華琳さんはそれを説明すべく_____
「敵の策を見抜き、逆に敵を策に嵌めて打ち破るのは軍を操る者特有の快感よ…ねぇ桂花?」
そんな事をのたまう。
「えっ!?…は、はい華琳様」
滅茶苦茶動揺してるじゃねぇか!
声が震えて目も凄い勢いで泳いでるよ文若さん。
戦場において非常に…非情な効率厨の文若さんは、相手から策を仕掛けられそれを見抜いても面倒な苛立ちしか感じないだろう。
それに相手を策に嵌めても文若さんは真っ先に自軍の損害と敵軍の損害との計算からするタイプだ。
そんな文若さんが華琳さんの意見に心から理解を示す事は出来る訳がなかった。
その事に華琳さんは、あれっ?って顔をして今度は_____
「…巧みな用兵術で敵を翻弄し打ち勝つのは………指揮官の醍醐味よね?」
そう言って秋蘭さんに顔を向けて問う。
しかし秋蘭さんは苦笑いしたまま何も言わずに頭を下げる。
…気持ちはわかるよ秋蘭さん。
華琳さんの言う巧みな用兵術とやらが必要な時って、クッソ面倒な敵で、真正面からのぶつかり合いでは不利な時に必要な技だからね。
春蘭さんじゃないけどさ、突撃だけで勝てるならそれが一番楽で良いよね。
秋蘭さんからも同意を得られなかった華琳さんは、ついに焦る様に俺の方も見てくる。
………まったく、文若さんも秋蘭さんも…俺と違って普段から華琳さんフリークしてんだからさ、こんな時は熱を上げて同意してやれよ。
「そ、蒼夜なら_____「ちょっと何言ってるかわからないです」
貴方ならわかるでしょ、みたいな雰囲気で話かけられても…俺はそもそも戦場が嫌いですし、おすし。
王に人の心はわからない…私は哀しいポロロ〜ン。
「何でそんなに冷たく突き放すのよ!?」
それはすみません。
多分サンドウィッチが食べたかったんだ…古代中華にねぇけどさ。
華琳さんは、馬鹿な孤立無援だと…と言いたげな顔で他の面々にも視線を向けるが、誰もがサッと視線を逸らす。
………ただの一人…
「私はわかりますよ華琳様! 敵に突撃して倒すのは実に爽快です!」
「そ、そう………ありがとう…春蘭」
絶望した!
春蘭さんにしか同意を得られない華琳さんは絶望した!
そりゃそうだ、それはつまり華琳さんの思考レベルは春蘭さんと同等だと言われるのと対して変わらないのだから。
しかも逆に春蘭さんの思考レベルが華琳さんと同等という可能性は微粒子レベルで存在しない。
…華琳さんが自殺でもしないか実に心配になってくる。
「くっ!…冥琳………冥琳ならば理解を示してくれた筈」
華琳さんが眉根を顰めながら声を絞り出す様にそう呻くと、文若さんが非常に申し訳なさそうにアワアワしてる。
いや理解できないもんはしゃーないて。
まぁ確かに冥琳だったら華琳さんと話が合うだろうけどさ。
あいつはあれでいて戦闘狂の雪蓮の親友だからね。
実は本人も頭が良いだけで戦闘狂気質なんだよな。
敵を策に嵌めて、ニヤニヤしながら眼鏡をクイクイしてるのが目に浮かぶぞ腹黒め。
………。
た、例え親友だろうが、俺に戦闘狂気質なんてない。
ないったらない!
くっ、思考のブーメランが頭にザックリ刺さってしまう。
深く考えるのはやめよう。
「ま、まぁ良い機会ですし、これからの争乱に向けて軍師や将兵の人材募集でもしてみませんか? もしかしたら華琳さんと話が合う有能な人も来る可能性はありますよ?」
まぁ流石に冥琳クラスは来ないと思うけどさ。
「……それに、流石に俺や姉さんも軍師の真似事は出来ても適正な役職じゃありませんしね。 文若さん一人じゃキツいだろうし、そろそろ他にも専門軍師って必要だと思いますよ?」
「そうね、それがいいわ。 貴方達の負担を減らす為にも軍師や将兵は積極的に募集しましょう」
…表面上の言葉は凄くありがたいが、言葉の裏に自分と話の合う人材が欲しいと思っているのがありありと伝わって来るな。
………ところで文若さん。
何でそんなに今にも呪殺せんばかりに睨んで来るの?
貴方の負担も減る可能性がある良い提案だったよね?
………あっ、そうか。
仮に華琳さんと話が合う有能な軍師なんて人が来たら………やべぇ文若さんが嫉妬のあまり憤死してしまうかもしれん。
俺が心の中で文若さんどうか死なないで、と餃子の様な気持ちになっていたら_____
「はいっ! 華琳様、僕の友達も呼んで良いですか?」
と季衣がビシッと挙手して誰か人材を紹介してくれる様だ。
「邑での幼馴染なんですけど…僕と同じくらい強いし、流琉…じゃなくて典韋は料理も上手だし僕よりすこ〜しだけ頭が良いですよ!」
「へぇ…それは是非招集して頂戴」
「季衣、今直ぐに十日間の休暇と支度金も出すから、邑に里帰りして是非そのまま連れて来てくれ!」
お前の休暇中の仕事は俺が代わりにしとくからさ!
うひょ〜!
マジかよ、悪来典韋さんじゃないっスか!
素晴らしい人材の紹介だ季衣!
特別ボーナスも俺から出したる!
でも流石に軍師候補ではないか。
誰か他にいないかな軍師候補の人。
………この前会った司馬懿はまさかのコミュ障だったしなぁ。
史実の魏って、有能軍師多いイメージなんだけどなぁ。
………あ、そういや昔襄陽で戯志才に会ったな。
今何してんだろ?
確か戯志才って魏の軍師よな?
………ちょっと探して勧誘してみるか。
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後日
「
「
「
よし! よしよし!!
冥琳クラス来たぁ〜!!!
勝った、第三部完!
人材募集大成功!
新たにこの陣営の幹部に決まった三人は多少キャラは濃ゆいが全員非常に優秀だ。
他にも史実とか演義のどっかで見た事あるような人名の奴等もいたし、これには俺も華琳さんもニッコリである!
流琉→華琳と料理の事で趣味が合う。
稟→華琳と戦術論で話が合う。
風→華琳と謀略の話で二人して暗黒微笑。
蒼夜は桂花から罠で狙われる様になったようです。(クソしょぼい罠)
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次話投稿予定は、一週間以内です。