戦闘シーンが得意な人が羨ましいです。
陳留に帰還してから数日、俺達の下へ良い知らせと悪い知らせが届いた。
良い知らせと言うのは、華琳さんが兗州の州牧の任を得て、季衣が正式に俺達の陣営に加わった事だ。
何でも、兗州に蔓延る大量の賊に恐れをなした前州牧はこの地をとっくに去っていたらしく、その後任として華琳さんが州牧の地位を引き継ぐ事になったのだ。
勿論賊討伐の成功が評価されたから、というのもあるが、文若さんの中央とのコネが決め手だった様だ。
それで季衣の居た邑も華琳さんの支配下に入り、前に季衣に約束した通り、賊から守り、税を安くして、今までより遥かに安全で住みやすくしたのだった。
郡太守?
奴は犠牲になったのだ。
犠牲の犠牲にな……。
それはともかく、そんな風に兗州の各地が良い統治になったから、季衣も華琳さんへ仕える事を決めたのだ。
なんでも、
『華琳様が邑の皆を守ってくれるから、ぼくは華琳様を守るよ!』
だ、そうだ。
……ほんと、良い子過ぎて涙が出そうだ。
……だが良い事ばかりではない。
そう、悪い知らせだってあるのだ。
いや、悪い知らせと言うには語弊があるが、あまりよろしい事態ではない。
……華琳さんは、州牧になったのだ。
今までは、郡太守だ。
……これからは州牧だ。
解るよね?
今までですら大変だった仕事量が、どうなるかはお察しだと思う。
兗州は陳留含めて五つの郡がある。
つまり仕事量は単純に計算して五倍。
勿論、本当に五倍になる訳じゃあない。
人員だって増えたし、それぞれ太守だって居る。
腐れ役人を罰したからと言って、人材が足りなくなる訳じゃあない。
……でもね、文若さんが加入したと言うのに、仕事は減る所か増えてるんだよ。
……ねぇ文若さん、誰か人材を紹介してよ。
_____
俺が書簡を抱えて仕事をしていたある日、中庭から春蘭さんと秋蘭さんの声が聞こえて来た。
「ふむ、茶の支度はこんな物か……」
「何?……おいおい秋蘭、この程度で本当に華琳様に喜んで頂けると思っているのか?」
「どういう意味だ姉者?」
「茶と茶菓子の準備をしただけで、華琳様に喜んで頂けると思っているのか? と聞いたのだ」
……喜ぶでしょ。
俺だったら喜ぶね。
俺が中庭に目を通して庵のある方を見ると、春蘭さん達が華琳さんとの日課の茶会の準備をしていた。
……良いなぁ。
俺も参加したい。
ゆっくり茶を飲みながら、会話したり書を読んだりしたいぜ。
……忙しいからそんな時間無いけど。
まぁ華琳さんと秋蘭さんは忙しくてもやってるけどね。
「お疲れ様です。 今日も日課の茶会ですか?」
俺は一応春蘭さん達に声をかけ、自身の気分転換をしようと考えた。
……誰かと会話をするだけでも、ストレス解放にはなるからな。
……まぁ文若さんの場合は、ストレスが溜まる事もあるけど。
「! おぉ、蒼夜! ちょうど良い、今日はお主も茶会に参加しろ!」
……は?
「……一応理由を聞いておこう、何故蒼夜を誘うのだ姉者? 蒼夜が参加する事に否は無いが、蒼夜はかなり忙しいのだ。……迷惑になるぞ?」
うん、まぁ参加したいとは思ったよ?
……けどねぇ?
「うむ、日々の穏やかな生活の中に、いつもとは違うちょっとした驚きや楽しみを仕込んでこそ、潤いは生まれるのだ!」
……そこで俺?
そもそも仕事漬けで穏やかな生活なんて送れてないんですが?
「それに、例え仕事が忙しかろうと、華琳様を喜ばす事以上に重要な事はなかろう?」
「……理解出来なくは無い」
理解出来るんだ!?
……この人も大概、華琳さんの事好きだよね。
「……俺の意思は?」
「何? 華琳様との茶が嫌なのか?」
別に嫌じゃ無いけどさぁ、俺はなるべく早めに仕事を終わらせて、酒を飲んでリフレッシュしたいタイプなのよ。
「いえ、俺じゃなくても文若さんとか……」
「嫌だ。 桂花は私が嫌だ」
えー?
筆頭将軍と筆頭軍師が仲悪いとか、……この陣営大丈夫か?
そう、文若さんはその能力が華琳さんに認められ、筆頭軍師として認められたのだ。
ちなみに、霊里は政務の長官、姉さんは文官の教育者だから、上級文官の長。
ま、誰が偉いとかは無い。
皆分野が違うだけで、同等の発言力がある。
そして俺は、……監査、って事になった。
何でも出来るせいか、全ての部署を見回って、足りない所を手伝ったり、失敗が無いか、不正が無いかを取り仕切らなければならなくなった。
……だから本当に忙しいのだが……。
「諦めろ蒼夜。 姉者が一度こう言いだしたら、止められん。 お主も今日くらいは、ゆっくりして行くと良い」
……ですよね。
俺は大人しく、茶会に参加する事にした。
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「あら、今日は蒼夜も参加するのね?」
茶会に参加する事を決めて、待つ事数分。
華琳さんが、庵へとやって来た。
「はいっ! 華琳様、蒼夜の奴がどうしても参加したいと言いまして、……ささっ早くどうぞ」
……言ってねぇよ。
ほんとこの人の頭どうなってんの?
いや、まぁ面白いから良いんだけどさ。
この前なんか、別の郡の太守の名前をふわふわした感じで言ってたからね。
『えーと、……あー、あいつだ、あいつ、……張だったか、劉だったか……』
そんな奴いくらでも居るわ。
思わず吹いてしまったわ。
実際、春蘭さんが覚えている人の名前なんて、よく関わる幹部連中くらいじゃねぇかな?
……せめて重要な役職に就いている人の名前とか、中央の偉い人の名前くらいは覚えていて欲しいもんだ。
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華琳さんが到着して、和やかに茶会を楽しんでいると、秋蘭さんが春蘭さんに仕事の話題を振ったのだった。
「そういえば姉者、この後街へ新しい装備の品定めに行く予定ではなかったか?」
「おぉ、忘れる所だった」
……おいおい、仕事を忘れちゃいかんでしょ。
「……はぁ。 秋蘭が言わなければ確実に忘れていたわね。……春蘭の物忘れをどうにか出来ないかしら?」
「そ、その様な事は……」
確かに、軍務以外の仕事はすぐ忘れるからね。
しかも軍務の内、書類系の仕事もたまにしかしないし、重要でない事はすぐ忘れる。
「ふむ、確かに姉者は物忘れが激しいですね。……今は私や季衣が近くにいて、教えてやれるから良いものの、これからはそれもままならんかもしれん。 蒼夜、何か良い案は無いだろうか?」
えー?
……何かあるかな?
「んー、……そうですねぇ、……! ではその日の予定表を書くのはどうでしょう?」
「予定表?」
そ、スケジュール表だ。
「俺もたまにやっているんですけど、忙しくて何から手を付けたら良いか解らない時に、どの仕事を順番に済ませていくのかを決めるのです。 春蘭さんの場合、朝儀の最中や終わった後に、今日の予定を紙か何かに書いておくのです。 そしたらほら、今日の予定を確認出来て、忘れる事もありませんし、新しく予定が出来たら、それに書き込んでやる事を忘れたりしません」
「成る程、それは確かに有用かもしれん」
「そうね。 私や桂花、……いえ、全ての人員に仕事の予定を知らせる事が出来るわね。……ふむ……」
あ、考え込んだ。
まぁスケジュール表は会社とかにはあるからね。
あったら使い勝手は良いと思う。
「ま、まぁ春蘭さんで試してみましょう。……それで、今日の春蘭さんの予定を教えて下さい」
俺はそう言って、懐から紙と筆と小さい硯を取り出し、春蘭さんの予定を聞いた。
「……何故懐からそれが……。 準備が良いな?」
いや物書きとしては常備しときたいし。
ネタを思いついた時とか直ぐに書き込めるからね。
……ただ最近は本書いて無いからネタばっか溜まるけど。
そして俺は、今日の春蘭さんの予定を紙に書いて渡し、スケジュール表の効果を確かめてみた。
……しかし何故春蘭さんの予定を秋蘭さんが教えてくれるのだろうか?
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後日、俺の提案したスケジュール表は華琳さんの陣営で使われる事が決まり、今日のノルマを確認したり、仕事の予定を確認したりと、有用でかなり評価が高かった。
……しかし一部の馬鹿には効果が無く、スケジュール表を持っているのに、それを見るのを忘れて意味が無かった。
……春蘭さんはもう諦めたから良いけど、地理、お前……。
土日で多く投稿出きるように、頑張ります。