-二年後 蒼夜 七歳-
ひ・ま・だー。
どうもここ最近の生活サイクルに飽きてきた。
お店、勉強会、写本、山、そしてたまに邑への帰省。
最初のうちはそこそこ忙しく感じていたけど、慣れたらそうでもない。
お店はぶっちゃけそこまで忙しくないし、俺の他にも店員さんがいる。
勉強会は姉さんの都合で開かれるから一週間で二回くらいの不定期。
写本は死ぬ程やった。ってか今でもまだやってる。そのせいで最近薄めの本なら一冊を半刻(1時間)で仕上げられる。
山は今でも鍛える場所として行っているが、最近熊を倒して俺が山の主になった。まぁ武器は使ったから、次からは金太郎ばりに素手で挑む。
邑には帰るメリットが別に無いから最低限の約束である一月に一回しか帰ってない。それに急げば片道一刻(2時間)を切る。
何かが、したいです。安○先生。
考えてみたら俺って趣味が無くない?
この時代スポーツやら芸能やらもあんま無いしなー。
本も創作的な小説みたいなのも無いから、暇つぶしも出来ないしなー。
………。
待てよ?
小説が無いなら、作ったら売れるんじゃね?
俺の前世の知識からパクり、もとい、参考にしたら受けるんじゃないか?
前世ではありきたりな王道物でも、この時代なら先進的になるな。
…ふむ。やってみるか。
そうだな、まずはラヴロマンスが定番だな。
時代は昔の戦乱時代が良い。
主人公は地方の太守に仕える誠実な青年下級将校で、ヒロインはおしとやかで美しい太守の娘。その身分差の恋。
主人公がヒロインに一目惚れするも、身分差でそれを諦めようとする。
そのときに巨大な隣国の悪の太守がヒロインを嫁がせろと迫ってくる。
このままでは戦争が起こるかもしれないが、太守は自分の大切な娘を敵に差し出したくなくて悩む。
そんな時に筆頭将軍が太守を殺し、さらにヒロインをつれて隣国に降ろうと主人公側を裏切る。
そこを間一髪でヒロインを助ける主人公。
だが将軍には逃げられてしまう。
後日その将軍を筆頭に十万の軍が隣国からやってくる。この時自軍は2万。
その時主人公はヒロインを助けた功績で上級将校になり裏切り者の将軍と相対する。
激しい戦いの末に主人公が奇襲で将軍の首を取る。
この功績で主人公が筆頭将軍になる。
最後は、悪の太守が大軍を引き連れて来るも何とかそれを守りきり、平和が訪れる。
そして主人公とヒロインは結婚して主人公が太守になる。
よし、粗筋は出来た。
これに挿絵も三枚くらい付けて歴史風なロマンスラノベにしよう。
これで一本仕上げてみるか。
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「姉さん、ちょっと良いか?」
「何ー?」
「実は創作で本を書いたんだよね。推敲と感想をお願いして良いか?」
「ほうほう。わかった。じゃあ明後日までには読んどくよ。」
「よろしく。後、辛口評価は心が折れるから少なめで頼むよ。」
「だったら何で書いたのさ?」
暇つぶしだよ。
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「蒼夜さん、こちらにどうぞ。」
何故敬語?
「この本を拝見させて頂きました。すばらしい出来です。」
ちょっと、この人誰だよ?
俺の姉さんどこ行った?
「創作物とは言え、時代背景も良いですね。」
あんたに腐る程歴史書読まされたからな。
「また戦争時の戦術や地形的配慮もあって非常に身近に感じる、実に臨場感のある文章になっていました。」
戦術書も腐る程読まされたからな。
「何より!あの燃える様な、情熱的な、禁断の身分差がある恋が素晴らしい!」
お、おぅ。←ドン引き
「是非量産しましょう。直ぐにでも店にこれを置かせて下さい。あ、水鏡先生にも送りましょう。…これは流行りますよ。…それで、次回作の構想はありますか先生?」
ファッ!?先生!?
自分の先生に先生と呼ばれたでごさる。
ちょっとした出来心だったのに!
歴史書+戦術書+ラノベ=姉の暴走
ど う し て こ う な っ た
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-一ヶ月後-
「別に売れてないじゃん?」
「見通しが甘いね蒼夜。後二月もすれば凄い事になってるだろうよ。」
そんなもんかねぇ。
もしかして今の時代には先進的過ぎたかな?
いやでも姉さんは面白いって言ったしなぁ。
「とにかく、君はそんな心配しなくても良い。そんな事より早く次回作を書いてくれ。」
もうやだこの人。
-二ヶ月後-
最近結構売れて来たな。
「ねぇ、次はまだー?」
うっさい!
-三ヶ月後-
…もの凄い売れた。
それはもう爆発的に書を読む人物達の間で大流行した。
「ね?言ったでしょ?」
何であんたがどや顔してんの?
「見てよこれ。蒼夜宛に凄い手紙来てるよ?」
ほう?所謂ファンレターか。
どれどれ?
『楽しく読ませて貰ったわ。うちの子達にも凄い人気よ?次回作を楽しみにしてるわね。 司馬 徳操』
おぉ、水鏡塾でも人気なのか。
『こんな男居ないわよ!女で書き直す事を所望するわ! 匿名希望』
これはファンレターじゃないな。
ってか、主人公を女にしたら百合になっちゃうだろうが。
『何か僕の幼馴染みの親友に、太守の娘が似てるんだけど? 田舎眼鏡』
知らんがな。
それ俺に報告する必要ある?
『素晴ら●く、想像●掻き立て●●る本でし●。●回作を●しみに●て●す。 戯●才』
●=血痕
恐いよ!?何で血痕だらけなんだよ!?書き直せよ!あと恐い。
「と言う事で、先生、次回作はまだですか?」
…急いで仕上げなきゃ。(本物の義務感)
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とは言っても、あくまで暇つぶしで書いただけだったから、構想とか無いんだけどなー。
…ほんと、どうしよ。
とりあえずラヴロマンスはもう止めよう。
決してあのファンレターが怖かった訳ではないよ?ほんとだよ?(震え声)
そうだなー。また今度も書けって言われる事を考えたら、シリーズ物が良いな。
先進的過ぎるけども、ミステリーとかが無難かな?
幸い前世の知識には、子供になった名探偵だったり、名探偵の孫だったりする漫画の知識もあるし、普通に有名な小説の知識もある。
これらをリスペクトしながら考えるか。
今度は時代を現在に合わせよう。
場所は司隷(洛陽近辺)が妥当かな?都心部で起こる謎の殺人事件とかありがちだろ。
主人公は書物を愛する、グータラな下級文官で天職である書庫の管理を担当をしてるので、出世欲の無いダメ人間に見える感じがいいな。
そんで、事件を持ってくる可愛い幼馴染みが洛陽の尉官(警察)あたりが妥当だろう。
キャラが立つ様に主人公をハイスペックにして、どこぞの灰色の脳細胞みたいに、書庫の中で事件を解決させるか。
この設定で適当に二つ程事件を解決させて、二巻分稼ごう。
その後にライバルとして、同じく推理力が高いイケメンの高位文官をだそう。
んで、最後に悪のカリスマみたいな、悪を持って悪を制すみたいなキャラだしたら、まぁしばらくは保つだろ。
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-数ヵ月後-
『凄く面白いのですよー。人の黒い部分が良く出てるのです。 宝譿』
『主人公にはー、とってもとっても、共感出来ますー。 本好き』
『実に興味深い。機会があれば是非一度会って話をしてみたい。 周 公瑾』
あれ?
これ周瑜じゃね?
『私が大成した暁には是非貴方を召し抱えたいわ。 曹 孟徳』
………。
魏王様じゃないですか。
え?マジで?
俺のファンレターで赤壁が起こってる件
「…姉さん。俺暫く邑に行くわ。」
「えっ!?」
「落ち着いたら帰って来るよ。」
「ちょっ!蒼夜!?」
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誰がこんなもん予想出来るか。
俺のファンに偉人が混ざってるとかあかんやろ。
今回の事でわかったのは、そう簡単に前世の知識を使ったら駄目だと言う事。
うちゅうのほうそくがみだれる!
こうなる訳だ。
これからは気をつけなきゃ。(戒め)
最初から想定していた事ですが、作品の都合上どうしても廖化の名前が売れてる必要がありました。
これから先も暴走しますが、ご了承下さい
ファンレターが届く仕組みについて
頭の良い人達は何処がこの書物の発信地点か調べがついてます。
なので作品の著者の名前である廖元倹の名前で襄陽に出したら届く訳です。
最後に、風の頭に乗ってる人形のほうけいですが、何故か“けい”の漢字を探せませんでした。
申し訳無い
追記
誤字報告で編集されました。有難うございます。