どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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さて、十六歳編への突入です。

前話と比べると、落差が凄いと思います。


でもその甘さ、嫌いじゃないぜ?(球○川風)

-蒼夜 十六歳-

 

……最近、ここ襄陽でも賊の噂をよく聞く様になった。

 

と言うのも、どうも南陽方面の豫州から難民が流れて来ていて、それらが賊と化しているらしい。

 

南陽は袁術が治める土地の一つ。

確か御年十歳だった筈だ。

 

……何たってそんな子供が太守所か州牧の地位をやってるんだよ。

名族だからってそんなん駄目だろうが。

って言うか、側近は何してやがる?

まともな治世ならそんな事にはならんだろ。

 

この世界は間違いなく食事情が良い。

飢えた民が続出して、賊になる可能性はそこまで高くないと見積もっていたんだがな。

 

……当てが外れたな。

個人的にはこのまま三国志に突入しない未来を少し期待していたのだが。

 

……まぁ中央の腐敗が地方にまで聞こえるレベルだから、時間の問題だったのだろうけども。

 

このまま行けば、近い内に黄巾が出てくるだろうな。

 

……もう、時間が無い。

 

最近、華琳さんのあの言葉が頭を過る。

 

「わりぃ、姉さん、霊里。 ちょっと故郷の邑に行って来る。……最近、賊の噂を良く聞くから様子を見に行こうと思う。 まぁ、往復で三刻くらいだから夜には戻るよ」

 

「……そっか、うん。 気を付けてね?」

 

「あまり危険な事はなさらないで下さいね、兄さん」

 

まぁ流石に大丈夫だろう。

もし邑に賊が現れたりするなら、襄陽にも情報が入る筈だ。

何たって目と鼻の先にあるからな。

 

「まぁ問題無いだろ。 ちょっと邑長の爺に注意する様に言って来るだけだから」

 

俺はそう言って邑へと向かった。

 

 

_____

 

 

……そして俺が邑に向かったのは、運が良かった、としか言い様が無い。

 

俺が邑へと帰郷して、爺に賊に注意をする様に話しを終えて、襄陽城に帰ろうとした時に賊が現れたのだ。

 

いや、賊が現れたのは良くない事だが、タイミングが良かった。

俺が後少しでも早く来ていたりしたら、邑を去っていただろうし、遅かったりしたら、手遅れだった。

 

……相手の賊は痩せ細った奴ばかりの百人に届かない程度。

成る程、こんな数なら見落とされてもおかしくないし、この邑を襲う理由も解る。

百人以下なら充分に食えるだけの食料がこの邑にはある。

 

……邑の全員を殺して、全て奪えばな。

 

……させるかよ。

“守護鬼”の前で、そんな事させるか馬鹿野郎!

 

「……てめぇら、誰に断りを入れて、この邑を襲おうとしてやがる?」

 

「けっ! 知るかよ糞ガキが! 俺らは食わなきゃ死んじまう、奪うしかねぇんだよ!」

 

……の、割りにはこの頭らしき奴は特別痩せてねぇんだがな。

まぁ、確かに後ろに立ってる奴等は今にも倒れそうな奴ばかりだけど。

 

 

「今ひきゃあ、見逃してやる。……だが俺の目の前に立ってみろ? その首が飛ぶと思え。……まぁそんときゃ慈悲として、苦しまない様にあの世に送ってやるよ」

 

「い、言ってろ! やるぞてめぇら! このガキ殺して後ろの邑を襲えば飯が食えるぞ!」

 

「だ、駄目です、お頭ぁ!」

 

「うるせぇ! 根性無しは黙ってろ! ガキ一人にビビってんじゃねぇ!」

 

賊の頭が下手な檄を飛ばして、五人引き連れ俺に襲いかかった。

 

……真面目によ、また働きでもすりゃ、こんな事にならなかったのに。

 

「馬鹿野郎共が!」

 

……俺は宣言通り、苦しまない様に六人纏めて首を飛ばした。

 

「ひ、ひぃ~! な、何だあいつは!?」

 

「ば、化け物だ! お頭達が一瞬でっ……!」

 

俺が賊を纏めて殺した事にビビって、残った連中は戸惑い、慌てふためいている。

 

……俺程度が化け物の訳ねぇだろうが。

 

「だ、だから言ったんだ! 皆何で気づかなかったんだよぉ!」

 

先程、突撃を止めようとした奴が全員に聞こえる様に大声で説明を始めた。

 

「星空が描かれた蒼色の着物! 二頭の龍があしらわれた柄の双頭槍!」

 

「!? ま、まさか……」

 

「しゅ、守護鬼か!」

 

「な、何で守護鬼がこんな所に!? 奴は孫家の人間じゃなかったのか!?」

 

……ちげぇよ。

 

「俺が護る邑に来たのが運の尽きだな。……死にたい奴から前に出ろ、てめぇらのお頭って奴に会わせてやるよ」

 

だが誰も前に出る事は無く、かといって逃げる訳でもなく、その場でペタンと座り込んだ。

 

……しかし関係無い。

守護鬼の事を知ってるって事は、こいつらの中には呉郡での賊討伐の時の生き残りがいるのだろう。

俺の異名は、呉郡以外ではそこまで有名じゃないからな。

 

……そして未だ賊をしてるくらいだ、恐らく誰かから奪う事に慣れているんだろう。

 

……悪いが、ここで殺した方が世の為だ。

 

「なんでだよぉ~。 おれぁ、ただ飯が食いたいだけなのに。……なんだってこんな目に」

 

……ちっ。

 

「……もう良いよ、……おらぁもう疲れた」

 

んぐっ!

 

「……ははっ、これが奪おうとした罰なんだ」

 

あ~っ、ちくしょう!

 

「だったら! 最初に助けてって言葉くらい言えよ!」

 

俺には、この馬鹿共が哀れな難民にしか見えん。

 

「……助けてだぁ? 誰が助けてくれるんだよ! 何度も! 何度だって叫んださ!」

 

「俺が助けてやる! こちとら“守護鬼”の異名を持ってる男だぞ! てめぇらの守護くらいしてやらぁ!」

 

……ただの勢いだった。

何の考えも無く、何の当ても無く、何の権力も持たない俺が、ただ、勢いだけで、こいつらを救うと言ってしまった。

 

だが、この時はあまり後悔しなかった。

 

賊共の、……難民者達のポカンとしたまぬけ面に、俺は満足していた。

 

「た、助けるたって、どうするって言うんだ?」

 

知らん。

 

「……とりあえず、飯くらいは食わしてやる」

 

「……どうして、そんな……」

 

知らん!

 

「なんとなくだ」

 

「な、なんとなくって」

 

「黙れ、食べるか死ぬか選べ」

 

俺だって何でこんな事してるのか解らねぇんだよ!

……こんなの、ただの偽善じゃねぇか。

結局、何の解決にもなってねぇ。

 

……馬鹿なのは俺だ。

感情移入なんてせずにさっさと殺しておけば良かったんだ。

 

……くそ、最低でも呉郡の生き残りだけは殺しておこう。

 

 

_____

 

 

……俺はあの後、全員を脅して呉郡の生き残りを炙り出し、……やりたくはなかったが、見せしめに首を飛ばした。

 

……そして残った人数は六十八名。

聞けばこの六十八名は、南陽からの難民で、食うに困っている所を、あのお頭と言う男に取り込まれたらしい。

 

……一応は一度も強盗まがいの事はしてなかったらしい。

 

俺はその言葉を全部信じる訳ではなかったが、こいつらを俺の中で難民という事にしておいた。

 

……はぁ。

どうしようか。

もうすっかり遅くなっちまった。

姉さんと霊里は、まだ俺の帰りを待っているんだろうか?

 

「あ、あの、守護鬼様。 わ、私達はどうすればよろしいのでしょうか?」

 

……俺が聞きたい。

 

「まずは、守護鬼って呼ぶんじゃねぇ。 俺の名前は廖 元倹。 普通に元倹とでも呼べ。……後様付けも止めろ」

 

……自分で言っといて何だが、守護鬼って呼ばれるのは好きじゃない。

 

「は、はい、元倹さん。 あの、それで……」

 

解ってる。

まずは約束通り飯を食わせなきゃな。

 

「……とりあえず襄陽城に向かう。 お前らを城下に入れる訳にはいかんが、とりあえずそこで飯は出す」

 

俺がそう言うと、こいつは揃って喜び、俺の後について来た。

 

……姉さんと霊里に何て言おう。

まさか、帰省して六十八人もの人を拾って来たなんて言えないぞ。

 

……はぁ。

仕方無い。

もう開き直ろう。

 

これから自警団でも作って、そしてこの襄陽近辺の守護部隊として名を上げて、襄陽の警備隊にでも雇って貰うしかねぇな。

 

……はぁ。

今日の事で解った。

俺は戦乱の世に向いてない。

 

 

_____

 

 

あー、帰りたくない、帰りたくないよぉ。

こんなに家に入るのが嫌な日が来るなんて……。

 

でも外では難民共が待ってるし、覚悟を決めなきゃ。

 

「た、ただいま~」

 

俺がそう言って家のドアを開けたら、玄関に姉さんと霊里が待機していた。

 

……やべぇ、めっちゃ怒った時の笑顔をしている。

 

「……遅かったね?……それはまだ良いとしても、血塗れってどういう事だい?」

 

……そういや、返り血を少し浴びたんだった。

 

「詳しく説明を要求します」

 

お、おぅ。

霊里が無表情過ぎて怖い。

 

「あ~、……その、……賊と会ってな? そんで難民として拾っちゃった」

 

「「……はぁ」」

 

そんな同時に溜め息なんて勘弁してくれ。

 

……その後、俺の説明に姉さんは呆れていたが、霊里は称賛してくれて、難民の為に食料を配る手伝いをしてくれた。

 

……ただ、しっかりと説教は受けました。

 




一応、この作品では独自ルートはやりません。

この話は、史実の廖化が元々は黄巾党の仲間だった事を考えて作りました。
任侠臭い廖化は、こんな感じで仲間を見捨てる事が出来ずに賊の一員になったんじゃないかなぁ?
なんて考えて作りました。

まぁ、この作品では黄巾党にはなりませんが。

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