どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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成年期の始まりです。
なるべくさくっと纏めて原作スタートしたいです。


成年期 原作前
姉 帰還


-蒼夜 十五歳-

 

「や、ただいま、蒼夜」

 

うだる様な暑い夏の日。

我が姉、楊 威方が襄陽に帰って来た。

 

 

_____

 

 

「ったく、帰って来るなら前もって連絡くらい寄越せよ。 何も準備してねぇよ。 あー、悪い霊里、ある程度食料と酒を買って来てくれ。……ほら、姉さんも久し振りに自分の部屋を片付けてくれ。 たまに掃除はしてたけど埃とか被ってるかもしれないから、窓も扉も全開にして空気を入れ換えて?」

 

「は、はい。 解りました」

 

ほんともう、急に帰って来るんだから。

この人、旅の途中でさえ滅多に手紙を寄越したりしなかったから俺も手紙すら出せずに悶々としてたのに。

 

……ほんともう、全くもう。

 

「……はは、元気そうで、何よりだよ」

 

あんたもな!

 

「所で、何で霊里ちゃんが居るのかな? 僕何も聞いてないけど?」

 

「連絡寄越さなかったのは、姉さんだろうが! 俺に何処に連絡しろって言うんだよ!」

 

言うに事かいてこの野郎!

 

「いや、まぁそうなんだけどね? 出来れば先にその説明からして欲しいなぁー……なんて」

 

「まずは部屋の掃除! それから風呂に入って来い! 説明はその後だ」

 

「……ほんと君は昔っから、……一体どこのお母さんだい?」

 

「ぶつぶつ言ってないで行動して?」

 

ほんともう、全くもう。

 

 

_____

 

 

「さて、……じゃあそろそろ説明してくれるかい?」

 

「住み込みで霊里を雇った。 妹になった。 以上」

 

「何の説明にもなってないよ!?」

 

うっせーな。

俺はどちらかと言えば姉さんの話を聞きたいんだよ。

 

「では私から説明させて頂きます」

 

「うん、頼むよ霊里ちゃん」

 

って言うか、さっきもそうだったけど、

 

「その前に、何で姉さんが霊里の真名知ってんの?」

 

「あれ? 霊里ちゃんから聞かなかったのかい? 僕と華佗は前に水鏡女学院で霊里ちゃんに会った事があるんだよ」

 

それは知ってる。

華佗が霊里を治療した話なら司馬徽から聞いた。

 

「それでその時に華佗が霊里ちゃんの病気を治療してね? それでその後、元気になった霊里ちゃんと僕達は真名を交換したんだ。 ね? 霊里ちゃん」

 

「はい。 撈さんと華佗さんには大変感謝しております」

 

成る程な。

まぁ、考えてみりゃそりゃそうだ。

俺と姉さんも華佗に姉さんが治療された後に真名を交換したしな。

 

「って言うか、その華佗さんは?」

 

「いや、だからその前に霊里ちゃんの説明をだね……」

 

ちっ、気になるのに。

 

「簡潔に言えば、兄さんの説明で間違っていません。 私が水鏡女学院を訪れた兄さんに惚れ込んで、ここを訪れ兄さんに雇って頂き、妹にして頂きました」

 

「ほ、惚れ込んで?」

 

……あー、なんとなく解って来たぞ。

霊里は説明がド下手なんだな?

そうじゃなきゃ、俺が幼女をタブらかしたロリコンの変態になっちまう。

 

「勘違いすんなよ、姉さん? 俺の将来性や人間性に惚れ込んだって意味だ。 後、妹にしたって言うのは、……まぁあれだ、俺と姉さんみたいなもんだ」

 

「あ、そう言う事。 良かったよ、身内からまさか幼女趣味が現れるなんて流石に許容出来ない事態が起こらなくて。」

 

ほんとにね?

俺自身許容出来ないからね?

 

「そっか、なら霊里ちゃんは僕の妹でもあるね。 改めてよろしくね、妹の霊里ちゃん?」

 

「はい。 兄さんの姉さんなら私の姉同様です。 改めてよろしくお願いいたします、撈姉さん」

 

うむ、姉と妹が仲良くするのは俺としても嬉しい事だ。

でもこれで三人の義兄弟か。

桃園で何か誓いでもしようか?

……近くに桃園とか無いけど。

 

「これで霊里の説明は終わったな? 解らない事があるならまた聞いて?……さて本題だ。 華佗さんはどうした?」

 

もしかして失敗した?

ざけんなよ?

俺の姉さんの何が不満なんだこの野郎!

 

「華佗なら未だ治療の旅を続けてるよ?」

 

「……それで?」

 

「うーん、そうだなぁ、……簡単に説明するなら、僕が諦める事にした」

 

なん……だと?

 

「ど、どういう事だってばよ?」

 

「うん、華佗はね、医療に生涯を費やしている人なんだ。 だから女性に見向きする前に、患者さんを見るんだよ。……多分、僕がどうとか関係無い。 あの人は誰が相手でもきっと見向きもしないよ。」

 

ぐぬっ、……いや、構わん、続けろ。

 

「まぁそう言う所に惚れたではあるんだけどね? 流石に惚れた相手に見向きもされずに隣に居続けるのは、僕には出来そうにないや。……確かにまだそう言った感情は残っているけど、僕はこの感情を華佗に伝える事なく終わらそうと思うんだ。 伝えちゃったら、華佗が困っちゃうからね」

 

そう言って笑う姉さんの顔は、辛そうには見えず、どちらかと言うと、晴れやかだった。

 

くっそ、華佗め。

人間的には素晴らしいのを理解出来ているけど、一発殴ってやりてぇ。

 

「……それで、良いんだな?」

 

「うん、僕は後悔してない」

 

……はぁ。

 

「……俺のあの時の行動は、只のお節介の無駄な行動になっちまったな」

 

四年も姉さんとの時間を無駄にしちまったわ。

半ば脅して姉さんを追い出したのに。

 

「そうでもないよ? あの旅のお陰で僕もそこそこ体力ついたし、鍼は無理だけど医術は覚えた。 何より霊里ちゃんが救われたからね」

 

あぁ、そっか。

……そうだな、霊里と出会う切っ掛けにはなったのか。

霊里が救われてなきゃ、下手したら今一緒に暮らしてない可能性もあったのか。

 

「まぁなんにせよ、お帰り姉さん。 長旅、お疲れ様」

 

 

_____

 

 

霊里も寝て、街の音も消えて、静寂が訪れた深夜、俺と姉さんはサシで酒を飲んでいた。

 

「まさか君とこんな風にお酒を飲む日が来るなんてね。……あの日は想像も出来なかったや」

 

「……もう、十年だかんな」

 

……あの日、俺が姉さんの家族になってから十年。

長い様で短かったな。

……色々ありすぎて、全部は思い出せないや。

 

「ちっちゃくて、見下ろしていた君を今では見上げている。 ふふっ、不思議な気分だ」

 

「……だな。 見上げていた姉さんを、いつの間にか見下ろす様になるなんてな」

 

でも何も変わらない。

あの日あの時から感じている感謝の気持ち、尊敬の想い、大切な絆、……何も、変わらない。

 

「それに新しい妹まで出来た。 それも血の繋がった妹よりも可愛い妹が」

 

「流石にそれは酷いんじゃないの?……まぁ霊里が可愛いのは否定しないけど」

 

どんだけ可愛くない奴なんだよ、楊儀。

逆に気になるわ。

 

「良いんだよ別に。 解りやすく言うになら、高慢ちきで、癇癪持ち、そして自分が正しいと思い込んでいる、いかにも名家らしい名家の奴だから」

 

お、おぅ。

姉さんが他人の悪口をこんなに言うのは始めて聞いたな。

……もしかして酔ってる?

 

「その点霊里ちゃんは本当に可愛い! 人の話を良く聞くし、おしとやかだし、謙虚だし!」

 

うむ、何も間違ってないな。

 

「あ、勿論君の事も可愛い弟だと思っているよ? ちょっと生意気だけどね?」

 

「……あほか。 年齢考えろよ、俺はもう可愛いより格好いいって言われたい年頃なんだよ」

 

可愛いとか、……ほんと、馬鹿じゃねぇの?

 

「ぷぷぅ~、て~れ~て~るぅ~! そう言う所が可愛いんだって!」

 

……はぁ。

成る程、酔ってるなこいつ。

そういや絡み酒だったなこの人。

……しかも次の日は覚えてないと言う。

 

「わかったから、もう寝ろ。 疲れてるだろ?」

 

「大丈夫ですぅ~! まだ蒼夜と飲みますぅ~!」

 

何が、ますぅ~っだ。

歳考えろ、キツいぞ?

 

……いやまぁ、見た目は昔と変わらず十七歳くらいに見えるけどさ。

 

「いや俺明日も仕事なんだけど……」

 

「の☆め!」

 

……その日、なんだかんだ姉さんが帰って来たのが嬉しかった俺は、結局明け方まで一緒に酒を飲んだのだった。

 

……すまん霊里、俺を置いて先に行け。

俺は後から追いかける。

……仕事を、よろしく頼むぞ。

 




姉さんが華佗とくっつくって言ったな、あれは嘘だ。
華佗の性格上、特定の誰かとくっつかなさそうなので、こう言う結末になりました。

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