何か最近の連続投稿具合に作者が暇人に思えてくるでしょうが、……そんな事ないからね?
と、言い訳しておきます。
そして、この話で十四歳編終了です。
さて、水鏡塾から帰って来て一週間。
俺は比較的穏やかな日常を送っていた。
店の状況をチェックし、麻雀をし、本を読み書きし、山へ行く。
……ずっとこんな日が続けば良いのに、……と、思ったのがフラグだったのだろうか?
「と言う事で、どうぞ私を住み込みで雇って下さい」
……どっかで聞いた事ある台詞だなぁ、おい。
季常ちゃんが、お店の中で俺に土下座をしたのだった。
これ俺が昔姉さんにやった事じゃねぇか!
あぁ、そういや季常ちゃんに姉さんとの馴れ初めを話したんだっけ?
……いやいや、だからって普通模倣なんてしないよ!?
子供に土下座されるなんて、……姉さんは昔こんな気分だったんだろうか?
……今更ながら今度会った時は土下座で謝ろう。
「き、季常ちゃん? とりあえず、話を聞かせてくれないかな?……本当、その状態は色々不味い。 君を雇う前に俺が死ぬ」
社会的にな。
幼女を土下座させるなんて、鬼が付く畜生じゃないか。
……そういや俺、異名に鬼が付くんだったや。
とにかく、俺は急ぎ季常ちゃんを立たせて、席へと案内してから座らせた。
「えーと……それで? 話が見えないんだけど?」
「はい。 私を元倹さんのお店で雇って欲しいのです」
「……いや、何で?」
「私は元倹さんにお仕えして、元倹さんから沢山の事を学びたいのです。 そして貴方の役に立ちたいのです」
……なんだよお仕えするって。
そんなもん募集してねぇよ。
「いや、あのね季常ちゃん……学ぶなら、それこそ水鏡先生からいくらでも学べるじゃないか。 俺の所に居たって大した事学べないし、将来有望な季常ちゃんの為にもよろしくないよ」
「……選ぶ言葉を間違えました。 私が、私の為に、元倹さんへとお仕えしたいのです」
……何故だ。
何がそこまでこの子を駆り立てる?
「……元倹さんは、私を幼亀と仰りました。 実際に私にそれほどの才が有るかは解りませんが、もし有るなら、私はこの自分の才を、私を認めて下さる元倹さんの為に使いたいのです」
……あの時の誉め言葉が理由か。
「……君の才を認める人なら、いくらでも居ると思うんだけどねぇ」
「……かも、しれません。 だけど、貴方が最初でした。」
俺が最初って、……おいおい、もっと誉めてやれよ司馬徽。
人は言葉にしないと伝わらない事が多いんだぞ?
「それに、それだけじゃありません。 孔明と士元から聞きました。 元倹さんは、いずれ英雄と呼ばれる誰かに仕えるつもりがあると」
「うん、まぁ……そうだね」
「貴方はきっと、その英雄と呼ばれる方の右腕となられるお方です。 その時は、どうぞ私をお使い下さい。 その時こそ私は貴方に認められた才を存分に発揮しましょう」
……マジかぁ?
……表情を見る限りマジだな。
俺が右腕とか何かの冗談だと思うんだけどなぁ。
雪蓮の右腕は冥琳だし、華琳さんの右腕は、……誰だ?
荀彧? 荀攸? 司馬懿……は、どちらかと言えば曹丕か。
……とにかく、俺じゃない事だけは確かだと思うけど。
でもまぁ、確かに季常ちゃんが……馬良が仲間になるならとてつもないアドバンテージだよな。
現在のスペックがどの程度かは解らないけど、もし将来、史実並みのスペックになるなら、超有能待った無しだし。
……けどなぁ、俺を慕って来てくれた子を利用して出世するみたいで、そう言うのは嫌だなぁ。
「水鏡先生は、この事知っているの?」
「はい。 先生にはご報告し、卒業の証として扇子を貰いました。 また、『元倹君はこれからの先の世の重要な人物の一人になるだろうから、良く尽くすように』……と」
……なんて事言っちゃってくれてるの司馬徽さん。
「そ、そっか。 えっと、……家の人は? 馬家は有名な名家だろう? 反対とかされなかったかい?」
「いえ、特には。 私は四女ですから、あまり家は関係ありませんので」
……う、うーん。
名家の事情は良く解らんな?
「……はぁ、……よしわかった。 君が納得するまで、好きなだけ居たら良いよ」
……とりあえず今は、可愛い妹分が出来たと思おう。
「はい。 好きなだけ、居させて貰います」
そう言って笑う季常ちゃんは、やっぱり可愛かった。
_____
「さて、これから一緒に暮らして行く訳だけど? 俺と君の関係をはっきりさせておこうか」
……懐かしいやり取りだなぁ。
まさか今度は俺が言う羽目になるとは。
「はい。 店主と店員、主と臣下の関係です」
俺の時とは若干違うけど、やっぱ似たような事を言うよな。
「ふふっ、……違うよ。 それも間違ってないんだけどね? 今日から俺達は、同じ家に住み、同じご飯を食べ、同じ職場で働き、同じ書を読む」
……あぁ、本当に懐かしい。
今でもあの時の姉さんの温もりをまだ覚えている。
……俺とこの子では事情が違うけど、……出来る事なら、この子にもあの時の喜びを少しでも感じて欲しいもんだ。
「俺達は、家族になるんだ。」
「……家族、ですか?」
「あぁ、そうさ。 俺は今日から君の兄貴だ」
……流石に姉さんの時の様に、親代わりとは言えないけどね?
「兄貴……兄さん?」
「好きに呼んで良いよ?……それから、家族になるのだから真名を交換しようか。……俺の真名は蒼夜、よろしくな?」
「……改めまして、霊里と申します。……よろしくお願いします、蒼夜兄さん」
兄さん、か。
良い響きだ。
俺の妹がこんなに……ケホンケホン!
俺の妹は可愛いに決まってんだろ!
「あぁ、よろしく霊里。 それと口調は、崩しても良いんだけど……」
「私はこれが素ですので」
「そっか。 まぁこれから家族になるんだ、自分の楽な様に喋れば良いよ」
……どんな家庭事情なら敬語が素になるか解らんが、まぁ本人が楽なら良いか。
「それじゃあ、霊里。 まずは俺達の家に行こうか?」
_____
「ここが俺達の家だ。 これからここが霊里の帰ってくる場所だ」
「……ここがお家。……凄く、大きいです」
ちょっ!?
その台詞駄目!
_____
「ここが広間、あそこは客室、そこが俺の部屋で、とりあえずこの空き部屋が、今日から霊里の部屋だな。 んで、こっちが台所だけど……霊里は料理出来るかい?」
「はい。 水鏡女学院は交代制での料理当番でしたので、私も一通りの料理は出来ます」
「おー、じゃあ今日は後で俺と料理しようか」
「はい。 お願いします、兄さん」
その後、霊里と料理したが、姉さんの時の様な事は起こらず、美味しい料理が出来上がった。
……子供に負ける姉さんの料理の腕って……。
_____
-一ヶ月後-
……順調だ。
恐ろしく順調だ。
……俺が霊里に教える事は何も無かった。
最初に仕事の説明をするだけで、後は何する訳でもなく全てを上手くこなしている。
何だ、このスーパースペック幼女は?
霊里は今七歳だぞ?
俺が七歳の時って言ったら、……ごめん、やっぱ何でもない。
いや、それでも俺の時以上にスーパースペックなのは間違い無いけど。
「兄さん、仕事が一段落しました。 何かする事はありますか?」
「だったら好きに休憩しても良いけど?」
……しかも仕事熱心。
霊里の爪の垢でも雪蓮に飲ませてやろうか?
「でしたら、“あれ”がしたいです」
「了解。……残念ながら、もう俺よりも霊里の方が強いからなぁ。 お手柔らかに頼むよ」
「ふふっ、……手加減は無しです」
……霊里が嵌まったのは将棋だ。
最初の頃は俺が勝っていたが、好きな物こそ上手なれ、って事でいつの間にか俺よりも強くなっていた。
流石に姉さんの域には達していないが、既に出会った当時の冥琳くらいには強いかもしれない。
……そして最近は俺をボコボコにするのを楽しんでいらっしゃる。
「……参りました」
「兄さん、本気を出して下さい」
本気だけど!?
姉さん、早く帰って来てこの子をやっつけて?
十四歳編は相当短く纏まりましたけど、寧ろ本当はこのくらいが普通なんです。
十二歳の孫家編が長すぎただけです。