どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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ようやっと、十三歳編だ。
今度こそ短く纏める、と、嬉しいなぁ。


セカンドインパクト

-蒼夜 十三歳-

 

「御無礼、……ツモりました。 六千全(6000オール)です。……トビ終了ですね?」

 

「ば、ばかな!?」

 

「くそっ、流れを、……持っていかれた!」

 

「ひぃぃ! じゃ、雀鬼!」

 

……いや、認めたくはないが、どちらかと言えば守護鬼です。

 

 

_____

 

 

「毎度、ありあっしたぁ~。」

 

今日もお財布を厚くしてくれありがとう、カモ共。

 

……そろそろお金も良いくらいには貯金出来た頃だろう。

 

去年、孫家に手持ちの財産を全て渡した俺は、暫くの間お金が無く困っていた。

 

書店や書物喫茶があるとは言え、今まで大量にあった金が無くなると言うのは、凄く不安になるもので、急ぎ金策をしようと俺は考えた。

 

まさか孫家に、お金返して? なんて俺のプライドにかけて言える訳が無いので、俺は真剣に考えた訳だ。

 

今日の食事に困る程の貧困と言う訳では無いのだが、本を書いて何ヵ月も先にお金が入って来るのを待つ様な事はしたくなかったので、早くお金が集まるシステムを俺は考えた。

 

……人って、賭け事大好きだよね?

 

そこで俺は、前々から作りたかった麻雀を急遽作り、お店の遊戯室に置いてみた。

 

最初こそルールに馴染むまで時間がかかったが、一度慣れたらまぁ嵌まる事嵌まる事。

 

無論、直接的な金銭のやり取りはしてないよ?

 

いつぞやの姉さんの時と同じ様に、俺に勝てたら特典ありますよー、と煽って、賞金も出します、と言ったら、人がもの凄く集まった。

 

だが当然それは俺の罠で、俺は負ける気なんて全くしなかった。

 

前世の知識がある俺は、当然牌効率や和了しやすい形、手牌の読み方なんかを知っている訳で、その技術差は別の世界と言えど千八百年近くある訳だ。

 

更に嬉しい誤算だったのが、俺は相手の大まかな運量を測る事が出来るらしく、ポンやチーをして、相手の邪魔をし、運を淀ませる事が出来た。

 

……全く負ける気がしないぜ!

最近は調子に乗って、あの格好いい台詞を言う様にもなった。

 

……そのせいか、おかしな異名までついて来たがな。

 

もし麻雀が、この世界の美少女女子高生達に大人気で、大規模なインターハイとかがある世界だったら、俺は勝ち組だった。

 

……男の時点で意味は無いか。

 

だが、そんな俺も大敗を喫した事がある。

いや、そんな表現じゃ生温い。

そのままの意味で、“勝負にすらならなかった”事がある。

 

……苦い思い出だ。

 

俺がそんな風に思い出に浸っていると、カランカランと扉を開けた時に鳴る竹束の音が聞こえたので、俺は意識を戻し接客へと移った。

 

「いらっしゃ……オヒサシブリデス。」

 

……こう言う時は思う。

仕事とは、時に思わぬ弊害があると……。

 

「久しいわね。」

 

来客したのは美しい三人組。

思い出すのは三年前の光景。

 

……確かに彼女はこう言った、『また来るわ。』っと。

 

「また来たわよ、元倹?」

 

ニンマリと笑う彼女と、その護衛の二人は三年前よりも成長していてるが、その面影を残したまま、美しく成長していた。

 

曹 孟徳の再来店である。

 

……苦い思い出だ。

 

 

_____

 

 

「どうぞ、粗茶です。」

 

俺はこの三人組をいつぞやのグループ席へと通して、茶を出した。

 

「貴様! 華琳様に対して粗末な茶を出すとは、どういう事だ!」

 

ほわっ!?

た、只の礼儀的な言葉ですが!?

 

「姉者、只の礼儀だ。 本当に粗末な物を出してる訳では無い。……すまんな、元倹殿。」

 

「あ、いえ、お気になさらず。」

 

まぁ、自分で言うのもなんだが、そこそこ良い茶葉を使っているぞ?

 

「む? そうなのか? なら、初めからそう言えば良いものを。」

 

いや、自分から良いお茶です、って言えないでしょ?

 

「それは失礼しました。 次からは更に言葉を選ばせて頂きます。」

 

何て言えば良いか知らんけどな。

 

だが、夏候惇は俺の言葉に満足したのか、うむ、と頷いて静かになった。

 

「ふふっ、物書きの元倹に更に言葉を選ばせるなんて、凄いわね春蘭?」

 

「! はいっ! ありがとうございます、華琳様! 私にかかれば大した事ありません!」

 

えぇ? その反応はどうだろう?

 

「……はぁ、誉められてないぞ、姉者。」

 

うん、まぁ、皮肉だよね?

 

だが夏候惇は良く解ってない様だった。

 

「ふふっ、春蘭の非礼は詫びるわ、元倹。」

 

いえ、本当お気になさらず。

ですので、そのまま帰ってどうぞ。

 

「……それで、今日来たのには理由があるの。」

 

いやぁぁぁ!!!

聞きたくなーい!

 

「……これを、見て欲しいの。」

 

俺は最低でも成人するまでは、何処にも仕え、……へ?

 

曹操が机の上に取り出したのは、一冊の書籍だった。

 

「……! こ、れ、は!」

 

『孟徳新書』

 

まさか、まさかぁ!

 

「孟徳様、これはまさか……。」

 

「えぇ、私が書いた兵法書よ。」

 

孟徳新書キター!

 

マジか、マジか!

 

何と言う幸運!

これを著者本人から渡されるとは!

うぉー、早速読んで、本人から何を考えて書いたのかとか解説を聞きながら読みたい!

 

……っは!

まさかこれを条件に俺に配下になれと言うんじゃないだろうな!?

汚い、流石曹操汚い。

 

「これを読んだ貴方の感想を聞きたいの。……いえ、推敲をお願いしたいわ。」

 

……マジっすか。

汚いとか思って本当にすみません。

 

「全力で、お受けさせて頂きます。」

 

「え、えぇ、よろしく頼むわ。」

 

俺の熱意に曹操は若干引いていたが、そんなもん関係無い。

 

ジョ○ョー!俺は孟徳新書を読むぞー!

 

 

_____

 

 

震えるぞハート! 燃え尽きる程ヒート!

 

いや、絶対に燃やす訳にはいかないけども。

 

俺は慎重に一ページずつ読み込む。

 

「いやぁ~、……面白いっすね。」

 

孟徳新書、その内容は孫子の兵法を纏め、新たに曹操自身が解釈を書いた兵法書。

 

……確か正史では存在しない、架空の書物であった筈だが……。

 

いやぁ、嬉しいなぁ。

 

「ありがとう。……それで? まだ途中の様だけど、どうかしら? 貴方の目から見ておかしな点はあるかしら?」

 

曹操が俺にそう聞いてくるが、俺は書物から目を離さず、読みながら質問に答える。

 

「無いっすね。 基本骨子が孫子だけあって、書かれている戦略も戦術も基本的な事が多いですし、応用の方もその基本の観点を残して居るので、何も問題無いかと。 解説の方も理解しやすいですし、重要な事等は他の解説書からも取ったりしてますよね? 今まで数多の孫子の注釈書を読んでいたのが馬鹿らしくなりますよ、これ。」

 

「そう。 そこまで絶賛されると嬉しいわね。」

 

ただ、気になる点が無い訳ではない。

 

「多分ですけど、これって、『兵は奇なり』と『兵は神速を尊ぶ』を主な観点として置いているんじゃないっすか?」

 

「……直ぐ様そこに気がつくとは、……流石ね。」

 

「ども。 それで思ったんすけど、この兵法書はとんでもなく凄いとは思いましたけど、……それを実現出来る軍が居なくないっすか?」

 

俺はそこが気になる。

 

「……それは。」

 

「ぶっちゃけ、この兵法書を実現するなら、精兵が大量に、……それこそウン万単位で必要だと思うんすよ。 そんで、戦術なんかを理解出来る有能な将軍が必要ですね。 ……でもそんな軍、……あまり大きな声で言えませんけど、官軍ですら無いじゃないっすか。」

 

マジ官軍無能集団。

いや、でもまぁ、こんなん孫家でも普通に無理だかんね?

 

「だから俺だったら最初の方に、生半可な軍では不可能だ、って注意書きしますね。 もしくは、前提条件を書いておくとか。……このままだと、義勇軍とか、烏合の軍とかが試したら失敗しますよ? そんで批判とかされたら目も当てられないっすね。」

 

俺が書物を読みながら、そんな発言をしたら、誰も何も喋らなくなって、店内がシーンとした。

 

そこで俺は、自分が言い過ぎた事に気付き、はっと顔を上げ、必死に言い訳をした。

 

「い、いや、でもまぁ! 孟徳様ならいずれそんな軍を持つでしょうし、有能な将なら妙才さんが居るんで問題無いっすよね!」

 

「おい、何故私の名前が出て来ないのだ?」

 

えっ? あんたには無理でしょ?

……とは言えないな。

 

「勿論、元譲さんもですよ。」

 

とにかく、この空気をフォローしないと。

 

「……ふっ、くくく、気を使われているぞ、姉者?」

 

ちょっ!

今そんな事言わないで!

 

「?」

 

あぁ、理解出来ないお馬鹿で良かった。

 

「ふっ、ふふふ、……想像以上に良い意見が聞けたわ、元倹。……確かに、私の観点による精兵が必要になる内容だったわね。 貴方の言う通り、前提条件を付け加えましょうか。」

 

ほっ、良かった。

機嫌は損ねないで済んだ様だ。

 

「後、口調。 そっちの方が素なのでしょう? そのまま崩して話して構わないわよ?」

 

へっ?

そう言えば、俺さっきからもの凄いタメ語!

 

「た、大変失礼しました。 お言葉に甘えさせて頂きます。」

 

「ふふっ、また丁寧になっているわよ?……ま、慣れなさい?」

 

う、うむ。

不敬で斬首とかにならなくて良かった。

 

……今日の俺はミスが多いなぁ。

 




皆さんお待ちかねの覇王様の再登場です。

今回の話で覇王様に更に買い被られる主人公でした。

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