どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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よっしゃ、久々に連日投稿したる!
と、思ったら日を跨いでいました。

ゆ、赦されるよね?

孫家編の最後ですので、文字数は少し多めです。


周 公瑾は伊達じゃない!

雪蓮と共に働き始めて早一週間。俺達は毎日悪戦苦闘して働き、夜になれば酒を飲んだ。

 

時には冥琳と、時には祭さんと、またある時には思春さんと蓮華様とも飲んだ。

 

蓮華様に関しては、雪蓮からいい加減真名を交換しなさいよ、と言われ交換する事になった。

……それでもお互いに口調は堅いままだけどね。

 

だがそんな日々も今日でようやく終わりを告げた。

 

あの山の様に積まれていた書簡が綺麗さっぱり無くなったのだ。

 

……永かった。

ここにたどり着くのにどれだけの辛苦があった事か。

 

雪蓮なんてレイプ目になって、『仕事、楽しいよ』と、呟いていた。

 

……流石の俺もその時ばかりは医者に見せるべきかと悩んだ。

 

だがそんな生活はもう終わりだ。

俺達は真の自由を勝ち取ったのだ!

 

 

_____

 

 

「っつー訳で、これがその成果だ。 もう暫くは俺も字を見たくないぞ。」

 

ドサッ、と言う音と共に俺は冥琳の机の上に大量の書簡を置いた。

 

「あぁ、ご苦労だったな蒼夜。 お陰で私も暫くまた書類仕事だ。」

 

冥琳が怨みがましい目で書簡を睨んでいるが、知った事ではない。

俺を働かせたお前が悪い。

 

「人が一生懸命働いたんだ、嫌味言うんじゃねぇよ。」

 

「嫌味? 一ヶ月を目処に建てていた仕事がこんなに早く終わったんだ、感謝こそするが、間違っても批難なんてするつもりはないぞ。」

 

冥琳は、心外だ、と言わんばかりにそう言った。

 

……だが、そう言う冥琳の目は決して感謝してはいなかった。

 

「そ、そうか。 いや、まぁ良い。」

 

……気持ちは痛い程良く解る。

 

「それにしても、よくもまぁ、あの雪蓮が一週間も真面目に働いたものだ。」

 

「あぁ、まぁ、……今にも死にそうな目をしていたがな。」

 

仕事が終わって、俺がもう休めと言ったら、雪蓮は今にも消えそうな程儚い笑顔を見せて部屋に帰って行ったからな。

 

……流石に今回はやり過ぎたかもしれん。

 

「それでも雪蓮が真面目に働くとは、……どうだ蒼夜? このまま孫家で働かんか?」

 

「俺は文官には死んでもならんぞ!」

 

絶対に嫌なので、俺はつい大声で否定してしまった。

 

「そ、そうか。 武官でも別に構わないんだが、……悪い、冗談のつもりで言ったんだ。」

 

冥琳は申し訳無さそうにしているが、こっちからしてみたら冗談じゃない。

何が楽しくて地獄の書類整理をまたしなくてはならないんだ。

 

「今回はお前に感謝するつもりで書類仕事を振ったつもりが、大分苦労をかけた様だな、……すまん。」

 

感謝?

良い様に使ってただけじゃないの?

 

「どゆこと?」

 

「あぁ、今の孫家にはお前に明確に謝礼をする余裕は無い。 金銭に関してはお前から借りてるくらいだしな。」

 

……別に貸してるつもりじゃなくて、渡したつもりなんだけど。

 

「無論、金銭は必ず利子をつけて返すつもりではあるが、……それも早くても数年後の話だ。」

 

そんなもん別に良いのに。

 

「だから私は、ここでお前に文官や武官の仕事を軽く経験して貰って、お前の糧にして貰いたかったのだ。 お前が将来どうするかは知らないが、その経験は、物書きとしても、出仕するとしても必ず生きると思ったからな。」

 

……まぁ言わんとしている事は解る。

 

名君論を書く時もそうだったけど、実務経験が有ると無いとでは、大分違うからな。

 

……けど、……

 

「だからって今回はあんまりだと思う。 そりゃ確かに俺が悪い部分は多いけどさ、……文字が上手く認識出来なくなったり、上手く書けなくなったり、しまいには、宙に浮き上がったりしだしたからね? それで俺は、間違っても文官にならないと心に決めたから。」

 

もう本当、ノイローゼ寸前だと思うの。

 

「……そうか。……だが遅かったな。 ようこそ、文官の世界へ。 お前のその症状は一流文官の証だ。」

 

……なん、だと。

 

冥琳は笑顔で俺を歓迎してくれているが、……。

 

「い、いやだぁぁぁ!!!」

 

間違ってもそんな世界に馴染みたくない俺は、全速力でその場から逃げ出した。

 

 

_____

 

 

思い出したくもない記憶から更に一週間後、ようやく朝廷の使者が孫家に来た。

 

……ようやくこの時が来たか。

 

俺は大変だった分、中々感慨深い想いを持ってこの日を迎えた。

 

「孫 伯符、前へ。」

 

「はっ。」

 

使者に呼ばれ雪蓮が一つ前に出る。

 

「孫 伯符、皇帝の命にて貴女をこの呉郡の太守(・・)に任命する。……良く太守の任を果たす様に。」

 

「はっ。 孫 伯符、慎んで拝命致します。」

 

……今、何って言った?

 

太守!? 県令じゃねぇのかよ!?

県令と太守では意味合いが大分違うぞ!?

 

俺のその疑問は解ける事無く、任命式はつつがなく終わった。

 

 

______

 

 

「おい冥琳、太守ってどういう事だ?」

 

俺は任命式が終わった後、即座に冥琳に詰め寄った。

 

「ふっ、……お前が提示した案、修正が必要だと言っただろ? つまり、そう言う事だ。」

 

なんだと?

……こいつ、やりやがった。

 

「くっくっくっ、……マジか。 最高だぜ、冥琳!」

 

この野郎、県令所か太守の地位を買いやがった。

通りであんなに派手な賊討伐をしてたのか。

 

「あぁ、……だが実際の所は本当にギリギリだったな。 周家や陸家だけではなく、その他の所からも金を集めたし、賊討伐を派手に宣伝する必要もあったからな。」

 

だとしても、その価値は充分過ぎる程にある。

 

あの孫 文台も、その地位はあくまで県令だった。

 

孫 文台は、その実力だけで呉郡の県令や太守だけでなく、周りの郡太守をも支配下に置いていた。

 

だが今回のこれは、地位だけで言えばその孫 文台をも超えている。

 

これなら雪蓮が孫家の支配下を元通りにする日も遠くないかもしれない。

いや、それ所か更にそれを大きく広げる事もあり得る。

 

「ふふふ、流石は周 公瑾、その神算鬼謀は俺の遥か先を行く。」

 

「ふふっ、……それもこれも、貴方の助力があったからですよ、廖 元倹。」

 

俺と冥琳は固く握手をし、雪蓮の太守任命を喜んだ。

 

 

_____

 

 

「っかぁ~! めでたいのぉ!」

 

祭さんが酒を煽ってそう叫ぶ。

 

今は雪蓮が太守に任命された事を祝う宴会だ。

皆がそれぞれ楽しそうに酒を飲んでいる。

 

……それにしても、あぁ、本当にめでたい。

 

この日の為に頑張って来たかと思うと、俺の努力も報われるってもんだ。

 

雪蓮と冥琳が嬉しそうに、楽しそうに、酒を飲んでる姿を俺はわざと少し離れて見ていた。

 

……この笑顔を見る為に、……曇らせない為に頑張ったんだ。

 

俺はそう思いながら、その笑顔を肴に静かに酒を飲んでいた。

 

「蒼夜殿、隣よろしいですか?」

 

そう思っていたら、蓮華様が俺の所に来てそう言った。

 

「えぇ、どうぞ。 私の隣で宜しければ、構いませんよ?」

 

断る理由も無いので、俺はそう言って蓮華様を隣に座らせた。

 

蓮華様の後ろには、思春さんが警護する様に立っていたが、……その思春さんの手にも、一応酒杯があった。

 

こんな祝いの席だ、仕事を忘れて楽しんだら良いのに、とも思ったが、それもまた思春さんらしいな、とも俺は思った。

 

「蒼夜殿、此度の件、孫家の一員としてまことに感謝致します。」

 

蓮華様はそう言って、俺に頭を下げる。

 

……その態度は、俺に本当に感謝している事を現していた。

 

「……蓮華様、頭をお上げ下さい。 廖 元倹、確かに孫家の感謝をお受け致します。」

 

俺がそう言うと、蓮華様はゆっくりと頭を上げた。

 

だが、これはいただけない。

 

「蓮華様、感謝の気持ちは嬉しいのですが、貴女は簡単に相手に頭を下げてはなりませんよ?」

 

後ろで思春さんもびっくりしていたからね?

 

「貴女はこれより、太守の妹君です。 何の地位も無い相手に頭を下げてはなりません。 普通に、ありがとう、だけで良いのです。」

 

「……しかし、それでは貴方に何の感謝も示せないではありませんか。 私に、……今の孫家に出来る事と言えば、この様に頭を下げる事くらいです。」

 

姉様は何もやらないし、……と、蓮華様はそう言う。

 

……だが、それで良い。

雪蓮は俺の事を良く解っている。

 

感謝をされたくて、俺は孫家を助けたのではない。

 

俺と冥琳と雪蓮が只笑っている時間を持続させたくて、俺は手を貸したんだ。

 

勿論、孫家に借りを返すって意味合いもあったけどね?

 

だけど、これで雪蓮や冥琳が俺に対して態度を変えたら、それこそ何の意味も無い。

……だから、これで良い。

 

俺が孫家に手を貸している間、雪蓮は一度も俺に頭を下げたりしなかった。

 

仮に俺が心底困っていて、それを雪蓮と冥琳に助けられた所で、俺は孫家に仕官したりしない。

雪蓮と冥琳もその事は解っていると思う。

 

って言うか、実際助けられたけど仕官してないし。

 

だから何度だって言うが、こんなもん当然なんだ。

 

「ふっ、……蓮華様、話は変わりますが、蓮華様に親友はおりますか? 雪蓮と冥琳の様に、断金の交わりと言われる様な、……それこそ、かの藺相如と廉頗の様な、刎頚の交わりと言われる程の相手はおりますか?」

 

「え? い、いませんが?」

 

まぁ、だよね。

 

「もし、その様な相手が将来出来ましたら、私の気持ちを理解出来ますよ。」

 

蓮華様は、はぁ、と不思議そうな顔をしているが、……蓮華様と思春さんを見る限り、案外遠くない未来かもしれない。

 

……ただ、良い感じに話を纏めてしまったせいか、思春さんの俺を見る目が尊敬の眼差しなんだが、気のせいだろうか?

 

……気のせいって事にしておきたい。

 

 

_____

 

 

-翌日-

 

「では蒼夜、今回は世話になったな。 襄陽に戻っても達者でな? お前の新作を楽しみにしているぞ?」

 

建業の城の前で俺と冥琳と雪蓮は別れの挨拶をしていた。

 

「暫く文字は見たくないっつうの。 でもまぁ、程々に期待してくれ。」

 

今回の経験を生かして、久々に戦記物も良いかもしれん。

 

「どうせお店以外は暇なんだから、ずっとここに居れば良いのに。」

 

……なんでだよ。

暫く働きたくないぞ俺は。

 

それでも雪蓮は、ぶーぶー、と文句を言ってくる。

 

「わかった、わかった。 時折、顔見せに来るから文句言うんじゃねぇよ。」

 

「あはっ! じゃあ最低でも一ヶ月に一回は来てね?」

 

そんなに暇じゃねぇよ。

 

「アホか。……あぁ、解った。 お前また俺に仕事させる気だろ?」

 

「そ、そんな事無いわよ?」

 

……図星かな?

 

「……まぁ良いや。 お前がちゃんと仕事してたら、また来るよ。 報告は冥琳から手紙が来るからそれで判断するわ。」

 

俺のその言葉に、雪蓮はあの地獄の日々を思い出したのか遠い目をしていた。

 

「ほんじゃ、また。」

 

「あぁ、ではな。」

 

「直ぐに来なさいよー?」

 

俺はそう挨拶だけして、建業を去った。

 




長かった孫家編がようやく終了です。
まぁまだ閑話で孫家の話出しますが。

次は十三歳です。
なるべく短く纏めたいなぁ。

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