真名とは、親から個人に与えられた特別な名前である。
それこそ神聖視されていて、本人の許可なく呼んでしまえば殺されても文句を言えない程大切な自分自身を表す名前である。
何故今更そんな説明をするかと言うと、
「それじゃあ、今日から家族になることだし真名も交換しようか!」
姉さんに言われるまでその存在をすっかり忘れていました。
いやだって、仕方ないんだよ?
俺最近大きな事故に巻き込まれて大変だったし!
俺は未だに両親以外に俺の真名を呼ばれた事ないし!
俺自身も他人の真名を呼んだ事ないし!
五歳の子供が他人と真名なんて交換しないし!
それに何より、俺の前世の知識に真名なんて存在しないし!
一体真名って何だよ。(哲学)
いやでも冗談抜きに真名に関してはもの凄く何かのズレを感じる。
今まで、前世の知識を思い出す前までは何も違和感なんて感じずに当たり前のものとして受け入れていたが、良く考えてみたらこれはおかしい。
そもそもこの時代の人の名前は、自分の姓名、名前、そして自分でつけるもう一つの名前として字がある。
そこにさらに真名って。
姓名以外に個人を表す名前が3つもあるんですけど?
それにやはり一番おかしいのは、俺の今の知識が真名を知ってるのに、前世の知識がそれを知らない事だ。
はっきり言って、五歳の子供の知識量なんざたかが知れてる。
なんせそれまでの俺の世界はあの狭い邑の中で完結していたからな。
俺の今住んでるこの荊州のトップが、三國志である程度有名な劉表である事すら知らずに前世の知識にそれを教えて貰ったくらいだ。
にも関わらず真名については、当然の如く認知している。
三國志はそこそこ知ってる俺が大切な真名の存在を知らないってどう考えても異常だろ。
それとも俺の知識が変な方向に片寄ってるのか?
「おーい。難しい顔してどうしたんだい?…はっ!まさか真名の存在をご両親から教えて貰う前にご両親を亡くして、真名の意味を知らないとか?そして自分の真名がわからないなんて事があったら、…僕は、何て酷い事を…。」
なんか凄い勘違いされてる。
今は一旦真名の事は置いて、会話に集中しなくては。
「いえ、真名の事は当然知ってますし、自分の真名もちゃんとありますから。」
「ほっ、そうかい。それは良かった。それはそうとして、いい加減敬語使うのは止めないかい?これから家族になるんだしさ。」
「そう、ですね。…うん。わかった。俺は少し言葉使い悪いかもだけど、そこは勘弁してな。」
「ははっ、それが素かい?さっきよりもぜんぜん自然じゃないか。」
「そうかな?」
おかしいな、かなり礼儀正しく接していたはずなのに。
「自覚が無い様だから教えてあげるけど、君はまだ五・六歳って所だろう?そんな子供がさっきみたいな話し方してたら大分違和感あるよ?」
…どうやらおかしいのは俺の頭でした。
何か黒歴史が増産されて行くなー。
「じゃあ、改めて真名を交換しようか?今度は僕の方から言うよ。僕の真名は
おお、預かってしまった。
そしてこれから俺も預けるのか。
真名を預かるのも預けるのも初めての体験だから少し緊張するな。
…初体験ってちょっとエッチだな。
いやこんな時にアホな事考えるのは止めよう。
「確かに預かった。俺は
やっぱまだ恥ずかしいな。
っておい、姉さんって呼んだせいで凄いニヤニヤしてやがる。
「へぇ、蒼夜って言うんだ。凄く綺麗な真名じゃないか。」
「まぁね。自分でもそう思うよ。一応両親が亡くなる前に真名の由来を聞いた事あるんだ。…何でも、俺が生まれたのはある夏の夜だったらしいんだけど、その日は星が凄く光って綺麗で夜空が蒼く見えたんだってさ。それが由来らしい。」
正確な日付はわからないけど多分天の川かとかが綺麗に見えてた時だったんだろうな。
俺の両親なのに良いセンスだ。
「そうなんだ?本当に綺麗な真名だし良い由来だなぁ。…僕は自分の真名の由来とか知らないな。今度両親に会ったら聞いてみよう。」
撈も別に悪かないと思うがなぁ。
それよりも、
「今更だけど、家族と別居か何かしてんの?俺が一緒に住んで大丈夫か?」
姉さんは見た目的に十七・八に見える。
この時代はおおよそ十五歳では成人と言われる世の中だからそこは問題無いけど、この位の歳の女性が独り暮らししているとしたら相当レアじゃないかな?
「あぁ、まぁ少し訳があってさ長くなるから理由はまた今度話すけど、今は独り暮らししているから何も心配しないで僕の所に来なよ。」
やっぱそうなんだ。
この歳で自立して街で一番大きな書屋の店主って、相当実家が金持ちのはずだから、もしかしなくても姉さんは良い所のご令嬢か何かかな?
「ご家族にも一応挨拶に行った方がいいかな?」
「いや、いいよ。僕の家は少々口煩い所があってねぇ。君をつれて行ったら何を言われるかわかったもんじゃないよ。特に妹は癇癪持ちでね、君が嫌な思いをするだけだよ。」
へぇ、妹居るんだ。
しかし姉さんはこんなに良い人なのにその妹はヒス女とかバランス悪いな。
「楊儀って言うんだけどね?まぁ会う事は無いと思うけど、同じ襄陽郡に住んでるから気をつけておきな?」
………?
パードゥン?
「…その、楊儀?さん?字とかある?」
「うん?威公だけど?もしかして知ってるのかい?」
知りたくねーよ。
「いや、うん、知らない。一応、念のため聞いておこうと思って。」
「そう?」
「あー、あ、そう、念のため、念のために聞くけど、今の荊州牧って劉表様だよね?」
「唐突にどうしたんだい?というより一体何の念を入れてるのさ。…まぁ、劉表様で当たってるよ。」
「…劉表様って女性、だよね?」
「そうだけど?それがどうかしたのかい?」
「ナンデモナイデス。」
幻術か?幻術なのか?いや、幻術、やはり幻術。
一体何がどういう事だってばよ?
男だと思ってた人物が実は女だったでござる。
あるあr、…ねーよ。
おいマジかよ。
もしかしなくてもこれが違和感の正体か。
どうりでズレを感じるはずだ、真名の知識を知らないはずだ。
ここは、三國志に限り無く近い別世界じゃねーか!
あれ?って事はだ、もうタイムパラドックスとか気にしなくて良いし(元から大して気にしていない)俺が廖化だからといって悲惨な最期になるのを気にしなくても大丈夫なのか?
いや、油断は禁物、とりあえず蜀に属すのは止めとこう。
というか、劉表が女って駄目じゃないか?
いや、楊儀が女なのは百歩譲って良いとしよう。
そもそも古代中国にも姫武将とか居たらしいし、日本も戦国時代は女武将が居たからな。
楊儀が女文官だった可能性は微粒子レベルで存在する事は認めよう。
でも劉表、お前は駄目だ。
確か劉備が曹操から逃げて劉表を頼る事になった理由は、諸葛亮が劉表と遠い縁戚関係にあったからじゃなかったか?
そう、諸葛亮の奥さんの月英が劉表の奥さんの蔡夫人の姪だったはずだ。
その縁戚関係が無いのに、もし劉備が急に仲間を連れてやって来たらそんなもんただの糞野郎じゃねぇか。
いや、劉備も女の可能性を考えたらただ飯喰らいの糞ビッチか。
どちらにしろ三國志ズタボロじゃねぇか。
もはや赤壁とかどうなんのかな?
曹操は確か呉に居る美人姉妹の大橋と小橋を手に入れたる的な事を詩にするらしいし、それ聞いた周瑜が戦争の反対派から賛成派に変わって呉は戦う事を決めるんだよな。
それの女性版か。
そーそー『呉に大橋と小橋とか言うイケメンが居るらしいじゃん?私それ欲しーから戦争しちゃうぞ。』
しゅーゆ『私の夫を渡すもんですか!断固戦う!』
…oh
三國志はいつから昼ドラになったのだろう?
深く考えるのは止めよう。
この世界は三國志じゃない。いいね?
この結論だけ覚えておこう。
「ちょっと、蒼夜?さっきから顔が真っ青だけど大丈夫かい?」
おっと、いかんいかん。
姉さんを心配させる様な駄目な弟になるつもりはないんだ。
もうさっきの事は忘れてこれからの生活を楽しみにしよう。
「あぁ、ごめん。少しお腹がすいただけだから。」
「あぁ、そうか。もう大分遅い時間になったからね。君が来たのが昼間くらいだから、かれこれ三刻半(7時間)近くは経ってるか。」
良かった、普通に誤魔化せた。
いくら姉さんとはいえ、前世の知識があるとか頭のおかしい事を話せないしな。
「それじゃあ、今日はもう帰ろうか。僕達の家に。」
そう言って姉さんは微笑んだ。
これから、俺の新しい生活が始まるんだ。
そう、俺達の冒険はこれからだ!(未完)
作中にも出ましたが、この作品は三國志ではなくあくまでも恋姫です
女の子がキャッキャウフフな恋姫です
大事なことなので2回言いました