どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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久々の平日投稿。
少し駆け足で書きました。


労働基準局はどこだ?

さて、賊討伐も終了し俺達は本拠地の建業に帰って来た。

後は周本家の交渉次第なので、ただ待つだけなのだが……。

 

「蒼夜、穏の方を手伝ってくれ。 あそこも手が回っていない様だ。」

 

「……うす。」

 

…………。

 

「おぅ、蒼夜。 今から警邏に行くのじゃが、お主も来い。」

 

「……おす。」

 

……。

 

「申し訳無い、蒼夜殿。 報告書はどの様に書けば良いかお教え願えないだろうか?」

 

「……ぃぇす。」

 

何でこんなに働いているんだ!

 

おかしいだろ!

俺は孫家の客だろうが!

 

どいつも、こいつもよってたかって俺に仕事を頼みやがって!

 

いや、思春さんはまだ良い。

あの人は働き始めたばかりだからな。

 

でも何故俺に聞くのだろう?

お前の上司に聞けと言いたいが、まぁ良いだろう。

 

でも冥琳、てめぇーはダメだ。

書類系の仕事をアホみたいに振りやがって。

 

祭さんも祭さんだ。

俺を見つける度に引っ張りやがる。

 

ねぇ、君たち俺の事好き過ぎない?

僕の身体は一つしか無いんだよ?

 

雪蓮が県令に就任するのを見届けたら速攻で襄陽に帰る事を決意して、俺は仕事に励んだ。

 

 

_____

 

 

今日も今日とて書類天国、いい加減文字がゲシュタルト崩壊して来た。

 

あれ?

文字ってどうやって書くんだっけ?

 

……一度休憩しよう。

 

頭がおかしくなり始めた俺は、少し休憩しようと与えられた部屋を出て、大きく伸びをしながら庭に向かって歩いた。

 

……物書きの俺が文字のゲシュタルト崩壊を起こすなんて、書類仕事は恐ろしいな。

将来は文官にだけは成らないでおこう。

 

俺がそう考えながら中庭に到着したら、一人の先客が居た。

 

「あらぁ、蒼夜じゃない? しかめっ面なんてして、どうしたの?」

 

「あぁ、しぇれ……っ!」

 

雪蓮に名を呼ばれそこに目を合わせると、そこには信じられない光景、と言うか信じたくない光景があった。

 

「……お前、木の上で何を優雅に昼間っぱらから飲んでやがる。」

 

「あはぁ、楽しいわよ~。 蒼夜も一緒に飲みましょ?」

 

……本当にもう、この人は……。

 

「ど阿呆!」

 

人を怒らせるのが好きだな!

 

俺は雪蓮が登っている木を力強く蹴って、強く揺らした。

 

「ちょっ! 落ちる、落ちる!」

 

落ちてしまえ、……地獄あたりにでもな!

 

「誰かある! 親衛隊でも良い! 誰か来い!」

 

俺のその呼び掛けに、一番最初に現れたのは思春さんだった。

 

「どうかしましたか蒼夜殿?……って、雪蓮様!?」

 

「し、思春! 助けて!」

 

「あぁ、思春さん。 悪いけど急いで冥琳を連れて来てくれない?」

 

雪蓮が何か言っているが、俺はそれを無視し、思春さんと話ながらも木を蹴り揺らし続ける。

 

「い、いえ、その前に「急いで?」は、はっ!」

 

「ちょー! 思春! 助けて! 助けてー!」

 

雪蓮の願いは虚しく、結局奴は木から落ちた。

 

 

_____

 

 

思春さんが冥琳を連れてやって来たのは、雪蓮が木から落ち、俺に正座させられた直後だった。

 

「待たせた蒼夜。 雪蓮がまた何かやらかしたらしいな。」

 

「げぇ、冥琳。」

 

関羽じゃないんだからそれは止めて差し上げろ。

 

「おぅ、冥琳。 こいつが今、何をしてたか知ってるか?」

 

「? いや、部屋で書類の確認をする様に頼んだ筈だが?」

 

……知らなかったか。

ならば冥琳に罪は無いな。

 

「そうか、……だったら教えてやる。 こいつさっきまでな、木の上で優雅に酒を飲んでやがった。」

 

「何?」

 

俺の言葉に冥琳の目付きが鋭くなった。

 

それを見て焦った雪蓮は、苦し紛れに言い訳をし始めた。

 

「ち、違う! 違うのよ! ちょっと休憩してただけだから! 後でちゃんと仕事するつもりだったのよ!」

 

そんな言い訳捩じ伏せたらぁ。

 

「ほぅ? 酔った頭で大切な書類を判断するとは、孫家の当主は随分豪胆ですねぇ、雪蓮さん?」

 

「や、それは、そのぅ……。」

 

「それとも何か? 冥琳がやってる事だから、信頼して自分は適当に確認だけで良いと?」

 

「そう、それ! いやぁ、信頼出来る優秀な部下がいたら、私は確認するだけで良いじゃない? 大丈夫! 冥琳なら間違ったりしないわ!」

 

「「そんな訳あるか!」」

 

俺と冥琳の怒声は重なり、かなり大きな声となって、雪蓮に叩きつけられた。

 

その後も俺と冥琳によるステレオ大説教は続き、流石の雪蓮もかなり参っていた。

 

「……はぁ、なぁ冥琳、孫家の当主は本当に仲謀様にした方が良いんじゃないの? こいつがやってたら絶対いつか滅ぼすよ?」

 

「あぁ、仲謀様が成人していたら、その案も飲んでいたかもしれん。」

 

「そっかー。 そりゃ残念だ。」

 

俺は心底残念そうに大きくため息を吐いた。

 

そこでチラッと雪蓮を覗いて見ると、話の流れが不味いと解ったのか、かなり焦った表情をしていた。

 

……ここらが潮時かな。

 

「雪蓮、俺は今相当な量の仕事を抱えている。 孫家の客分である筈の俺が、文句を言わずにそれをこなしている理由が解るか?」

 

「……えっと、何で?」

 

「俺以上に冥琳が働いているからだ。」

 

俺の言葉に雪蓮は思う所があったのか、チラッと冥琳の方を伺って居たが、冥琳は何でもない様な澄まし顔をしていた。

 

「一度お前達を助けると言ったのだから、俺に仕事が回されるのは構わない。 だが、当主であるお前自身が仕事をしないのは流石に俺も怒るぞ。」

 

「えっと、……すいませんでした。」

 

ふむ。

 

「……本当に反省しているか?」

 

「うん。」

 

「仕事するか?」

 

「します。」

 

「じゃあ、俺の仕事もやってな?」

 

「はい。……って、え?」

 

かかった。

 

「そうか。 じゃあ、よろしく頼むぞ。 それでこの件は無しにしよう。」

 

「ちょっ、えっ!? 待って!」

 

「何だ、嫌なのか?」

 

「あの、その、嫌って言うか、その、……私にはちょっと蒼夜がやってる仕事は難しいかなぁーって。 いや、本当、嫌とかではないのよ?」

 

雪蓮は相当困ったのか、額に汗をかいて俺に待ったをかけてくる。

 

正直その姿だけでも相当面白いので、赦してやっても良いのだが、いかんせん、隣には冥琳が居る。

 

良いぞ、もっとやれ。

と、隣の彼女の目は言っていた。

 

……この期待の目は裏切れないな!

 

「仕方無いなぁ、……まぁ俺も手伝ってやるよ。」

 

「う、うーん。 蒼夜一人でやった方が速いと思うんだけど……。」

 

「そんなに仕事したくないのか?」

 

俺は出来るだけゴミを見る様な目で、雪蓮を見てみた。

 

実際そう思ってる訳ではないけどね。

 

「そ、そう言う訳ではないわ! 仕事はちゃんとやるわ!」

 

「なら明日から一緒に頑張ろうな? きちんと仕事したら、夜は酒にも付き合うよ。」

 

「え、えぇ。 わかったわ。」

 

「じゃあ、まずは今日の仕事を終わらせてこい。」

 

俺がそう言ったら雪蓮は首肯だけして、自分の部屋へと向かった。

 

恐らく納得はいっていないのだろう。

その後ろ姿は何度も首を傾げていた。

 

 

_____

 

 

「悪いな蒼夜。」

 

雪蓮が去った後、冥琳がそう俺に言ってきた。

 

「いや、良いよ。 イラつきはしたけど、本気で怒っていた訳じゃないし。 まぁ、客に働かせといて自分がサボるな、とは本気で思ったけど。」

 

一応ああいう奔放さが雪蓮の良い所ではあるし。

 

「しかし、罰が少々手緩いのではないか? お前に割り振った仕事はそこまで多くないだろう? それもお前が手伝うとなればあまり意味は無いと思うが?」

 

「はぁ?」

 

もしかしてあの量は冥琳にとって少しなのだろうか?

だとしたら、こいつどうかしてるぞ。

 

「うん? もしかして多いのか?」

 

「いや、冥琳の基準がわからないからなんとも言えないけど、……少なくとも俺の机には山程書類があるぞ?」

 

「何? 私はお前にそんなに書類を渡した覚えは無いぞ?」

 

どゆこと?

 

「え? だって、あれと、これと、それと……」

 

俺は今ある書類の内容を冥琳に話始めた。

書類の内容は多岐に渡り、主に賊討伐の時の軍関係の書類や、それに伴う軍費の書類が多かった。

 

最初のうちは冥琳もうんうん聞いていたが、後からどんどん顔が険しくなっていく。

 

「蒼夜、……あまりこう言う事は言いたくないが、自分で仕事を増やしていないか? 他所の仕事をお前が請け負っているぞ?」

 

「……マジ?」

 

その後詳しく冥琳から話を聞いたら、俺に割り振られた仕事は本当に少しで、俺が勘違いして他からも仕事を貰っているのが、今の状況らしい。

 

冥琳赦さんとか思っていてごめんなさい。

俺が自分のミスを人のせいにする只のアホでした。

 

けど雪蓮の罰には丁度良いと言う事で、仕事の量はそのままになった。

 

それはつまり、俺の仕事もそのままの量と言う事で……。

 

……深く考えるのは止めよう。

 




戦って、終わった後の方が忙しいらしいですよね。

と、言う事で原作雪蓮の仕事サボり回を少しアレンジした話です。

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