どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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次回から十二歳と言っておきながら、お茶濁しで申し訳ありません。
修業?回です。
いえ、修業をしようとする回です。


閑話 モテる男はつらいぜ

-蒼夜 十二歳-

 

姉さんが華佗と旅に出て、ある程度の時がたった。

俺は姉さんが居なくなった後、暫くの間その後始末に追われていた。

 

まずは姉さんの書物の店、そこは俺がオーナーとして引き継ぎ、一番長く働いていたリーダー的店員さんに、雇われ店長として働いて貰う事で店を存続させた。

これらの引き継ぎは凄く時間がかかった。

 

次に“棋聖”への挑戦の廃止、これが何かと問題になった。

……どうやら姉さんのファンは相当居たらしく、かなりの数の問合せが店に来た。

……冥琳もまた、がっかりしていた。

 

その冥琳達だが、最近ようやく成人と認められ孫家の一員として働き始めた。

そのせいで、襄陽に来る事が無くなり俺は寂しさと暇を持て余す事になった。

 

 

_____

 

 

……そろそろ将来を考えて本格的に修業するか。

 

暇を持て余した結果、やる事の無い俺は以前に雪蓮から貰った双頭槍の訓練に励む事にした。

 

姉さんがいない今、俺に勉学を教えきれる人物が襄陽にいないので、暫くはたまに読書をして毎日訓練する、今までの生活と逆の事をしようと思った訳だ。

 

そこで俺はお店の事を店員達に任せ、最低限の荷物を持ち、山に向かった。

 

昔から一応山で鍛えてる俺は崖の登り降りだろうが関係無くスムーズに行動出来る。

以前雪蓮と来た時は、雪蓮にその移動力はおかしい、とさえ言われている。

多分全体的に能力が結構上がっているのだろう。

 

そんな俺が久々に山でピンチを迎えている。

 

熊でさえ割りと楽に倒せる俺は、今やこの山の主と昔から言えるのに、その俺に立ち向かって来る奴がいるのだ。

 

 

_____

 

 

……やべぇ、やべぇよ。

超でっかいよ。

アイツ絶体俺の事喰うつもりだよ。

めっちゃヨダレ垂らしてるもん。

あのでかさはヤバイだろ。

あれってシベリアトラだろ?

何で居るんだよ、おかしいだろ!

絶滅危惧種じゃねーのかよ!

……あ、これ前世の知識か。

 

まぁとにかくヤバイ。

どのくらいヤバイかっつうと、曹操が赤壁で蔡瑁をぶっ殺して、鳳統を信じて、黄蓋の裏切りを信じるくらいヤバイ。

 

「ぐらぁぁぁ!!!」

 

「きゃーーー!!!」

 

死ぬ! 死ぬー!!!

 

俺は形振り構わず逃げる事にした。

虎が追って来れない様に勾配の厳しい崖のような所を使って全速力で逃げた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

崖を登りきり振り返れば反対側の崖で虎は俺を睨んでいた。

 

へ、ざまぁないぜ。

……俺を喰おうなんざ百年は早ぇ。

 

「けっ、一生そこでさまよってろ糞猫が!」

 

「がぁぁぁぁ!」

 

俺が悪態をついた次の瞬間、虎は崖を勢い良く降った。

そして無事に降りきり、今度は俺側の崖を勢い良く登り始めた。

 

「嘘! 嘘だから! 来んな! 来んなぁー!!!」

 

いやぁーーー!!!

 

どうする? どうするんだ、俺!?

ラ、ライフカード、ライフカードどこ!?

ねーよ!? んなもん!

 

これ以上逃げ回ってもいずれ俺の体力が切れて死ぬ。

それに近場でここ以上に激しい勾配の崖らしい場所は無い。

 

……やるしかねぇじゃないか!

 

「くそっ、たれがー!!!」

 

俺は虎が崖を登り切って着地した瞬間を狙い、その顔面に向かっておもいっきり双頭槍で突いた。

 

「ぐらぁぁぁ!!!」

 

運良く、……いや運悪く、俺の突きは眉間から少しずれて虎の大きな右目を貫いた。

……重傷こそ負わせたが、これでは致命傷にならない。

 

「ぐるるるる!」

 

それでも虎の勢いを消し、警戒させるには充分だったようで、虎は低い体勢の臨戦態勢のまま唸っているだけだった。

 

……このまま押しきれるか?

……それとも逃げるか?

 

尋常じゃない程汗をかいてる。

双頭槍を掴んでいる柄の部分が汗で滑りそうだ。

 

……退いた方が良いかもしれん。

 

俺は刃を虎に向けながら、ゆっくり、ゆっくりと後ろに下がった。

 

ガサリ

 

虎に意識を集中していた俺は後ろから音が聞こえて、はっとして振り返ってしまった。

 

俺が振り返ったそこには、熊がいた。

 

不味い!

 

「がぁぁぁぁ!」

 

熊がいたのも不味いが、虎から目を離したのが不味かった。

目を戻した時には一瞬の隙で、虎は飛び掛かってきていた。

 

考える猶予も無く、俺は手にしていた双頭槍を離し、横っ飛びしてクルリと地面を転がりなんとかそれを回避した。

 

そして直ぐ様顔を上げ、虎と熊を確認したら、熊は立ち上がり両手を上げて虎に威嚇しており、虎の方も熊に向かって唸っていた。

二頭はお互いを敵と認識したのか、今にも交戦しそうな雰囲気だ。

 

……今のうちに逃げられないだろうか。

 

一瞬そう思ったものの、俺は逃げる考えを諦めた。

何故ならば、虎の飛び掛かりを回避する為とはいえ、双頭槍を手放してしまったからだ。

 

あれは雪蓮から貰った大切な武器だ。

親友から貰ったものを手放して逃げる事は、俺の本当に数少ない矜持に反する。

 

命あっての物種だし、後から拾いに来るのが賢いやり方かもしれないが、それは俺の中で雪蓮に対する裏切りだ。

 

双頭槍は闘う為の武器だ。

俺にそれを贈ってくれたのに、棄てて逃げたら雪蓮に顔向けが出来なくなる。

 

俺の中では危険な相手と闘う事の拒否は出来る。

自分の命を危険に晒してまで闘う趣味は俺に無い。

だが自分の命を優先して、親友から贈られた大切な物を逃げ棄てる事は許されない。

……そんなクソヤローに俺はなりたくない。

 

……なんとか、取り戻さないと。

 

二頭は警戒しあって、今は俺に目もくれず唸りあっている。

 

……まるで俺は存在しない様な扱いだな。

……くそったれが。

これじゃあ、俺が雑魚みたいじゃねぇか。

 

この時、頭の中で何かが切れる音がした。

 

「山の主は俺だ! てめぇらまとめてぶっ殺してやる!」

 

 

_____

 

 

そこから記憶が曖昧だ。

アドレナリンやらエンドルフィンやらが大量に出てたのかは知らないが、少なくとも超興奮状態だった俺が気がついた時には、俺は熊を素手で撲殺した後らしく、虎も近くで頭を下げて伏せていた。

 

……どういう状況だこれ?

もしかして俺にビビったのか?

 

良く見れば虎の方にも打撃痕が残っている。

 

……嘘だろ?

俺ってば、虎に素手で挑んだのかよ。

……一体いつから俺は愚地 独○になったんだろう?

武神とか名乗っていいのかな?

 

……とりあえず、雪蓮から貰った双頭槍を拾わなきゃ。

 

俺が虎の近くに落ちている双頭槍を拾う為に虎に近づいたら、ビクッと反応して凄く怯えているようだった。

 

でもその虎のビクッに反応して怖かったのは俺の方でもある。

 

俺は虎を警戒しながらも、なんとか双頭槍を取り戻し、ある程度ほっとした。

 

……さて、この熊どうしよう。

 

いつもなら捌いて持って帰り、食料にするのだが、正直そんな元気が残っていない。

 

それでもと思い、一応殺したからには礼儀として食べようと俺は熊を捌く事にした。

 

 

_____

 

 

重い。

 

熊を捌き終えて、肉塊にしてもまだかなり重く、正直これを持って帰るのが面倒に思えた。

 

そこで思い至り、俺はまだ近くにいた虎に熊肉を半分程やる事にした。

 

「……食うか?」

 

俺が結構な量の肉を目の前に差し出したら、虎はオドオドと近寄り肉を貪り始めた。

 

「……これって、餌付けになんのかな?」

 

とりあえず、俺が上でお前が下という事は肉体言語で教えてやったらしいので、俺に歯向かう事はもう無いだろうが、俺になつかれても困る。

俺に虎を飼う趣味は無い。

 

「……とりあえず今日は家に帰ろう。」

 

死ぬ思いまでして、疲れきった俺は、虎の食事が終わるのを待たずさっさと山から降りる事にした。

 

 

_____

 

 

家についた時はもう外も真っ暗で、食事をする気力も無い俺は直ぐに床についた。

 

それから目覚めたのは翌日の昼過ぎで、トイレに行こうと思い、床から出ようとしたら全身に激痛が走り、俺は床の中で悶え苦しんだ。

 

こんな筋肉痛、大分久しぶりだ。

 

その日は一日中、何をするのも億劫で、最低限の食事だけして、後は寝て過ごした。

 

その後一週間くらいは街で過ごし、店の状況をチェックしたり、本を書いたり読んだりして過ごした。

 

……さて、そろそろまた山に向かうか。

 

 

_____

 

 

そこまで来たい訳でもなかったが、いつまでも倒したはずの虎にビビって街に引きこもる訳にもいかない。

なんせ、この先の時代は少なくとも虎くらい倒せる程強くないと生きて行けない。

……何処に所属するかは全然決めていないが、蜀以外の魏か呉に行くなら俺は一町人としては暮らせないだろう。

……もう、曹操にも雪蓮にも目をつけられてるからな。

 

まぁ気持ち的にはどっちでも良い。

と思わなくもないが、多分安泰なのは魏だろう。

……でも呉にはデカイ借りもある。

 

……多分冥琳と雪蓮は呉に行ったら喜んでくれると思う。

けど、だからと言って魏に行った所で文句は言わないだろう。

 

まぁなんにしても、俺は強くないとやって行けないのは確実だ。

 

「ぐるる。」

 

そんな考え事をして山を歩いていたら、目の前にまた虎が来た。

右目に大きな傷があるし、先日の虎だろう。

 

なんだ? リベンジか?

いいだろう、受けてたってやる。

 

一度倒した経験からかあまり恐怖を感じない俺は、今度こそこいつに上下関係を教えてやろう考えた。

 

……膝が笑っているのは、きっと武者震いだ。

 

「がぁ。」

 

うひゃぁ!

く、来るか!?

 

だが、予想に反して虎は俺に頭を下げて伏せている。

 

……これはあれか?

山の主に挨拶に来た感じか?

 

とりあえず、恐る恐る近づき頭を撫でてみると、何やら気持ちよさそうだった。

 

……どうしよう。

めっちゃなつかれてる。

俺に虎を飼う趣味は無い。……はずだ。

でもこいつ可愛いな。

 

……これから先はこいつより物騒な奴等が闊歩する時代が来るのか。

 




今年はこれで投稿を終わらせて頂きます。
大変申し訳なく思いますが、年始年末は忙しいのです。

また来年に落ち着いてから投稿を再開します。
それでは良いお年を。

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