この回で、十歳が終わり、次回から十一歳です。
「ふっ。 実に華琳殿らしい去り際だったな。……それで、どうするつもりなんだ蒼夜?」
笑い事じゃないんですが?
「……とりあえず、今は孟徳さんの気の迷いだと思っとく様にする。」
いざとなったら逃げよう。
……でも、何処に?
大陸の上半分は最終的に魏の物になるんだぞ?
蜀は論外だし、……呉か? 呉なのか?
うーん。 でもなぁ。
冥琳と雪蓮の事は好きだけど、呉もなぁ…。
まぁ、いいや。
行き当たりばったり上等。
今までだってそうして来たんだ。
後で考えりゃいいや。
多分どうにかなるでしょ。
「えー。 蒼夜、うちに来なよ。」
「あぁ。 適当に考えとくわ。」
おいおい答えは出すよ。
「おい雪蓮! 私達は蒼夜にとてつもない借りがあるんだぞ。 そんな私達が孫家に仕えろだなんて間違っても言うな!」
あ、意外と気にしてたんだ。
「でも冥琳も来て欲しいでしょ?」
「……だとしても、言って良い事と悪い事がある。 そもそも私達は今日、詫びに来たんだぞ。」
曹操の相手してくれたからチャラで良いよ?
「そーだけどさー。」
「別に深く気にしなくても良いよ? 確かに今回の孟徳さんみたいに、俺の所に直接来るみたいな事があったら困るけど、普通はそう無いだろうし。」
「ほら、こう言ってるじゃない?」
だからと言って孫家に仕える訳じゃないからな?
「……お前まで事の重大さを理解してないのか。」
えー?
「重大さって。 言っちゃ悪いけどさ、それは殆んど孫家の問題だろ? 俺関係無いじゃん。」
「そんな訳あるか。」
「あるよ。 だってさ、あの本は俺が主導で冥琳と一緒に作ったじゃん?」
「そうだな。」
「で、誰の為に何で作った?」
「……雪蓮に読ませる為だ。」
「その通り。 あの本は雪蓮に読ませる為に作って、雪蓮に、ひいては孫家に贈った本だ。 その本をどう使おうが、どう扱われようが、それは孫家の自由だ。 俺は関係無い。」
それを量産されたり、売られたりしたのは純粋に孫家の管理不足でしょ。
「……止めてよ。 なんか私が悪いみたいじゃない。」
「「いや、お前は悪い。」」
おぅ、ハモった。
「……しかし、それでは私達の面子もあるし、何よりお前の名誉が…。」
面子と名誉ってあんた、ヤ○ザじゃないんだから。
「要らない、要らない。 そんなもんどうでも良いから、今回みたいな直接俺に被害が出るのを防いでくれるようにしてくれりゃ、後はどうでも良いよ。 あの本に関する損も得も全部孫家で片付けてくれ。」
ぶっちゃけ名君論にはもう関わりたくないしな。
「……はぁ。 わかった。 今回の事は孫家の大きな借りとして残しておく。 それと、今回の犯人にはキツく罰を与えておこう。」
「雪蓮に与える奴くらい?」
「それ以上だ。 こんな事二度と起こらない様に徹底的にきちんとしておく。」
……oh
冥琳の目が恐ろしい。
陸遜さん御愁傷様です。
ま、自業自得だね。
「では、雪蓮。」
「はいはーい。」
ん? 何? どしたの?
佇まいを直したりなんかして。
「廖 元倹殿。 此度の一件の事を孫家の代表、孫 文台の名代として、孫 伯符がお詫び致します。 多大なご迷惑をお掛けして大変申し訳ありません。」
……ファッ!?
だ、誰だこいつ! 貴様雪蓮じゃないな! 雪蓮を何処にやった!
「お、おぅ、あ、いえ。 んん! ……廖 元倹、孫家の謝罪を確かに受け取らせて頂きます。」
び、びびったぁ!
呉郡一帯の県令をしている孫堅の名前で正式に謝罪されるとは思わなかった。
殆んど太守みたいな、そんな権力ある人が簡単に謝って良いのかよ?
こちとら只の物書きだぞ?
「はい。 じゃあ堅苦しいの終わりね?」
あぁ、良かった。 雪蓮さんおかえり。
「後日、正式に書類としてまた持ってくる。 そこに陸遜の処遇も添えておく。」
い、いらねー。
「……だが、本の売り上げも本当に要らんのか?」
「あぁ、要らん。 金なら有る。 無駄に増やすつもりも無いさ。」
ただでさえ最近増えすぎてどうすっか困ってるんだ。
「それに、孫家から俺に金が流出してるのを誰かに知られる方が遥かに恐い。 言ったろ? その本に関する損も得も孫家で片付けてくれと。」
「……そうか。 お前がそう言うなら、そうしておく。」
「でも今回の一件は凄い大騒ぎになったわよねー。」
そうなん?
陸遜がやらかした! あの馬鹿!
で、済むかと思ったわ。
「一時期は穏の首を差し出して謝罪するべきって意見もあったぐらいよ?」
「いらねーよ!? そんなもん絶対に止めろよ!?」
「まぁそう言うだろうと思い、その意見は却下されたがな。」
当然だろうが。
人の首みて、良しじゃあ赦す。 みたいな事俺は言わねーよ。
って言うか、まじで発想がヤ○ザなんですが。
「文台様が直接謝罪に行くと言う案もあったな。 まぁ流石にそれは不味いし、文台様は忙しい方なので無理だったが。」
……あのさぁ、あんたらさぁ。
そんなもん謝罪じゃなくて、寧ろ暴力だよ?
民衆の前で土下座して赦しをこう様なもんよ?
……俺も昔は姉さんに似たような事やったな。
「もう、この話は終わりにしようぜ? 俺の胃が痛い。」
「まぁ、待て。 一応お前の孫家に対する希望は何かないか? 出来る範囲の事は何でもするつもりだが。」
「別に無いけど、……孫家の出来る範囲ってどんくらい?」
太守レベルの権力持ってる人の出来る範囲って凄そうだな。
「そうねー、……あ! これも謝罪案の一つだったんだけど、私の妹を嫁に出す、ってのもあったわよ? 大体そのくらいまでなら大丈夫なんじゃないかしら?」
うぇ?
「……あの、雪蓮の妹、って言うと…。」
「文台様の次女、
孫権かよぉ!!!
「もしかしてそれが良い? 多分
「ナイッス。」
「ん?」
「キボウトカナイッス。」
本当に夢も希望もねぇ。
「なんだ、ざーんねん。 蓮華は相当蒼夜の事気にしてたわよ? あの本読ませた後に、それを書いたのが同い年の男の子だと教えてあげたら、すっごい質問責め! 今日も来たがっていたくらいなんだから。」
いいよ、もう。
曹操でお腹いっぱいなんだよ。
既に過食気味なのに孫権とか、……せめて別の機会にしてくれ。
「……しかし、そうなると孫家には借りを返す宛が思いつかなくなってくるな。」
「いらねーよ。 もういいよ。 この話を掘り返さないのが一番の謝罪だよ。」
孫家の謝罪は、謝罪じゃねーよ。
「そうも行くまい。 こんな大きな借りを放って置く等、末代までの恥だ。」
「じゃあもう、その恥を持っておくのをお前らの謝罪にしろよ。」
「……なんか、凄い投げやりになって来たわね。」
当たり前だろうが。
寧ろ俺としてはよく付き合った方だよ?
「はい! じゃあこの話終わり! それより俺は腹へった。 飯にしようぜ、飯。」
「全く、お前は…。」
「あはは! こういう所が蒼夜らしいじゃない。 ね、冥琳?」
「……はぁ。 そうだな。」
そう、俺はまだ登り始めたばかりだからな、……この果てしなく胃の痛くなる坂をよ……。
未完!
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-数ヶ月後-
「蒼夜、先日言った正式な文書を持って来た。」
「と、いう言い訳で遊びに来たわよー!」
「おぅ、そんなん要らないから帰……えぇ?……あの、そちらにいらっしゃるのは…。」
「初めまして、いつも姉様と冥琳がお世話になっています。 私はこちらに居る、孫 伯符の妹の孫 仲謀と申します。 お目にかかれて光栄です。 ご迷惑とは存じますが、是非ともあの書に関して御指南の程を承りたく、此度は参上致しました。」
「ア、ハイ。 リョウ ゲンケンデス。」
……そうですか。
孫家はそんなに俺の胃に恨みがあるのですか。
……助けてあねえもん。
と、言う訳でちょこっとだけ蓮華さんが出ました。
でもこれからも暫くは出番少ないかも。