さて、どうしようか。この採用試験の話。
まず、受けるのは論外。前にも言った通り俺の夢は専業主夫だ。わざわざ社畜になるようなことはしない。受けてわざと落ちれば良いという考え方もあるが、それは色んな意味で申し訳ない。
また、受けないとなるとこの人たちが俺をどうするかが分からん。少なくとも手ブラで帰らせはしないだろう。
どうしたもんかと考えていると、
「署長、私は反対です。」
凛とした声が響き渡った。ぱっと見てみるとレインさんの後ろからどっかの制服を着た金髪で釣り目の美少女がやってきたところだった。
何か声が放課後に会ったあの罵倒女とそっくりなのは気のせいか?
「おー、美鈴帰ってきたのか。」
「はい、やることは終わったので。」
レインさんと気軽に話していることから、どうやら彼女もここの署員らしい。
「あの、レインさんその子は?」
「お、八幡紹介するぜ。こいつは其方美鈴。見ての通りここの署員だ。お前より年下だな。こいつにはお前の観察をしてもらったぜ。」
は?……観察だと?
「観察って、まさか。」
「おう、お前が通ってる学校に潜入してお前の行動とかを観察してたってことだ。」
はあ!この女の子が俺を観察だと!全く気づかなかったぞ。
「すみません。あなたの腐った目で私を見つめないで下さい。そんな目で見られると私の目も腐りそうなので。」
ぐほ!出会って早々毒を吐いてきたぞこの女。こいつあの罵倒女と親戚じゃないだろうな?
「ぷっ、今日も美鈴は元気だな。」
いや、レインさん笑ってないで何か言ってよ。話が進まないでしょ!
キツイ視線をレインさんに送る。
「うっ!……コホン、で美鈴。反対ってどういうことだ?」
「そこの人は独り言を呟くことから分かるように妄想癖があります。客観性を求められる警察官には不向きです。」
……ご最もだな。
「さらに、目が腐ってます。これでは警察官というより不審者と勘違いされてしまいます。」
……目が腐ってるのは別に良いだろ。確かにこの目のせいでよく不審者に間違われるが……
「それに彼はぼっちです。いつも教室では寝ていて、昼休みには教室を出て行き誰も行かないような場所で一人寂しく昼食を取っています。」
おい!そんな悲しい情報を暴露すんじゃねーよ!周りのうわ〜って視線が痛いじゃねーか!
それにどんだけ俺のこと見てんだ!俺のこと好きなの?勘違いちゃうよ?
「つまり、このことから彼には協調性がないことが明らかです。あの人をエルドライブにいれたら、我々の評判が下がってしまいます。」
なっ、そこまで言うか!
『八幡、言われ放題だな。』
……普段あまり怒らない俺だが、何か腹たってきたな。こんなに苛立ってんのは放課後のことのせいか?
「おい、小娘。」
ドスの利いた声を出すと、其方は目を鋭くして俺の方を向いた。
「何ですか?何か文句でも?」
「大アリだ。お前がどれだけ俺を観察してたかは知らないが、さっき言ったことは全部お前の独断と偏見だろ?」
「なっ!」
「確かにお前の言ったことは事実だ。けど、それで完全に俺のことを把握したことにはならないだろ?違うか?」
「!!そ、それは」
「それに見た目とかで人を判断しちゃいけないって親や上司に習わなかったのか?」
「くっ……」
「ふっ。どうやら、お前の方が警察官に向いてないかもな。」
「なっ、何ですって!」
「だってそうだろ?そうやって、人を自分の価値観で判断する時点で警察としてアウトだ。いい加減認めろよ、小娘。」
「!!」
おっ、其方のやつ言葉に詰まってやがる。少し気分はスッキリしたかな?……てか、俺なにムキになって年下の子をネチネチと責めてスッキリしてんだ?恥ずかしくない?
「おいおい、あいつ美鈴を黙らせたぞ。」
「やるじゃない、あの子。」
「これは中々面白い光景だな。」
また、外野がざわつきやがった。これ見世物じゃないんだけど。
「……じゃあ、あなたはどうなんですか?」
「は?」
「それじゃあ、聞きます。あなたは試験を受けて本気でエルドライブに入りたいんですか?宇宙を守るために命を削る覚悟はあるんですか?」
突然其方が俺との距離を詰めて問いただしてきた。
ちょっとやめなさいよ。ぼっちの俺はパーソナルスペースが人より広いからそんな近くに来られると困っちゃうでしょ。
「…それは……」
「はっきり答えて下さい!」
其方がさらに大きな声で詰め寄る。
あー、うぜー。こいつマジでうぜー。何でそんなに噛み付いてくるんだよ。どうでもいいだろ?俺のことなんて。
『八幡!試験受けろ!」
は?
『エルドライブ絶対に受けろ!面白そうだ。絶対に受けろ!』
くそっ、お前までそういうか。俺の意見は無視か。……くそ。
「答えられないんですか?何か言ってくださいよ。」
『絶対受けろ!八幡!エルドライブ受けろ!』
「答えられないんですか?このヘタレ!」
プチッ
俺の感情のリミッターが外れた。
「…っせーよ。」
「は?」
「うっせーんだよ!お前は黙ってろ!」
「!!」
「大体何なんだよ!いつも偉そーに!!やってやんよ!やりゃいんだろ!ああ!試験受けてやんよ!エルドライブになってやんよ!それで満足か!ああ!バカヤロー!コノヤロー!」
ハアハア。やべ。怒りすぎたな。今日はやけにやなことばっかだったからな。自分がさっき何言ったかわからんくなった。怒りって怖いな。流石七つの大罪のうちに入るだけある。
……あれ?何か周りの空気が冷たい。辺りを見渡すと署員の皆さんがドン引きした目で俺を見ている。目の前にいるレインさんもだ。あれ?レインさん、距離遠くなってないてますか?
そして下を見下ろすと、涙目の其方がへたり込んでいた。
……やべ。これは
「っひく。うっ。」
おいおい、泣き出しちゃったよ。女の子泣かしちゃったよ。流石にやり過ぎた。
『あーあ、八幡が女の子泣〜かしたー。』
いや、黙っててくんない?また、キレちゃうよ?
「お、おい。あいつ美鈴を泣かしたぞ。」
「うわ〜、流石にやり過ぎじゃない?」
「地球人って怒るとあんな風に怖くなるのか?」
「今のはやばかったな。」
「てか、美鈴が泣くなんて初めて見るぞ。」
あ、外野が喋り出した。俺が悪者みたいに色々言ってる。……はい、これは完全に俺が悪いです。
「ひ、比企谷八幡。お前の意思は分かった。と、とりあえず試験内容説明するから、美鈴泣き止ませてくんない?」
レインさんは震える声で俺に言う。
え〜、俺が泣き止ませるの?やだなぁ。まぁ俺のせいだし、仕方ないけど。
あれ?いつの間にか試験受けることになってる?……しょうがねぇ。
何とか其方を泣き止ませて、レインさんから試験内容の説明を受けた。どうやら試験は特定の犯人を俺が逮捕するということらしい。ただし、殺したりするのは禁止。そのことに関してレインさんは、エルドライブは犯人に罰を与えるのではなく更生させることを重視しているからだと言っていた。
何か日本の警察とあんまり変わんねーな。
しかし、素人の俺に犯人逮捕なんて出来るのかね?どうやって捕まえたら良いですか?と聞いたら、
「そこは自分で考えろ。」
と言われた。マジかよ。
更に、素人の俺だけやるのは危険なので、補佐として俺をここに拉致した青い人形もといチップスとかいう宇宙人が付くことになった。やっぱこいつも宇宙人だったんだな。
そして、今レインさんから手錠を渡され、チップスと転送装置とやらの部屋にいる。
「さあ、頑張るッチュよ。八幡。」
「……おう。分かった。」
「それじゃあ、転送よろしくッチュ。」
チップスがそう告げると、辺りが光に包まれあの時と同じように俺たちはどこかに転送された。
はぁ、ヤバくなったら逃げよ。
続く
中々展開が進まなくてすみません。