リーリエ「どうしてお母様と裸で抱き合ってるんですか!?」 作: junk
その日、リーリエはご機嫌だった。
母ルザミーネの治療のために、断腸の想いでアローラを立ったリーリエだったが……なんやかんやとあって、一月ほどでルザミーネの体調は回復したのだ。
そしてリーリエの強い要望で、二人は直ぐにカントー地方に別れを告げ、ここアローラに戻って来たのである。
リーリエは会いたかった。グラジオやハウ、ククイ博士。そして憧れの──真っ先に出迎えてくれた“彼”。
最近“彼”は、リーリエの家に良く遊びに来ていた。まだ付き合ってはいないが……距離が縮まっていることは間違いない。実家に頻繁に訪れるなんて、普通の友達じゃあまりない。そう本で読んだ。
そんなわけで、リーリエはご機嫌なのである。
「ふんふんふふーん」
鼻歌を歌いながら歩くリーリエ。
ふと、彼をお母様に紹介しようと思い立った。
かつては戦い合った二人だが──いやだからこそ、わかり合ってほしい。リーリエはそう考えた。だって二人ともリーリエは大好きだし、もしかしたら家族になるのかもしれないのだから……
「お母様、いらっしゃいますか?」
コンコンコン、とノックをする。
しかし返事は返ってこない。
居ないのだろうか? そう思い戻ろうとしたが……部屋の中から、物音がする。もしかしたら音楽でも聞いているのかもしれない。もう昔みたいに、仲違いしているわけじゃないんだ、部屋にいきなり入っても怒らないだろう。
リーリエは扉を開き、中に入った。
「ああ──イイ──イイですわ!」
「」
ベッドの上で、“彼”に跨る裸のお母様の姿がそこにはあった。
「な、何をしているんですかお母様!?」
「あら、リーリエ。貴女、いつからそこに?」
「今です! お母様は何をして──ちょっと腰を振るの一旦やめてください!」
ルザミーネはアゴに手を当てて少し悩んだ後、また腰を振り出した。
「!? なんでまた腰を振るんですか!」
「わたくしの愛を……」
「い・い・か・ら! 離れてください!」
がんばリーリエは一生懸命ルザミーネを“彼”から引き剥がした。
ルザミーネも対抗したが、ちょっとした理由で体力がなくなりかけていたので、抵抗むなしくベットから引きずり落とされた。
「正座して下さい」
「わたくし、裸なのだけど……」
「正座して下さい」
「……せめて汗と愛の汁だけでも拭かせて下さるかしら?」
「正座」
「はい」
リーリエは顔を赤くして、体を震わせた。
真っ裸のルザミーネは不敵な笑みを浮かべながら床で正座。
“彼”は真顔。
「で?」
「……?」
「何を不思議そうな顔をしてるんですか! ど・う・し・て! お母様が“彼”とそ、その、え、えええ、えっちな──」
「セッ◯スですわ」
「直接的な言葉は控えて下さい!」
「あらあら、リーリエったらウブなんだから。ねえ、ダーリン」
そう言ってルザミーネは“彼”の腕に纏わり付いた。“彼”もルザミーネの頭を愛おしそうに撫でる。
ルザミーネと“彼”は少し微笑み合ってから、徐々に顔を近づけ──
「はいストープ! お二人だけの世界に入らないで下さい! 私もいますから!」
「あら、リーリエ。まだいたの?」
「いますよ! むしろ、なんで居なくなったと思ったんですか!?」
「早く出て行ってくれないかしら……」
「本音が漏れてますよ! ほら、貴方からも何か言って下さい!」
いつもピンチの時には颯爽と登場して助けてくれる“彼”の方を見る。
──真顔だ。
これ以上ないほど真顔だった。
「なんなんですか、もう!」
リーリエは頬を膨らませ、ぷんすかと怒った。
「でもリーリエ、どうしてそんなに怒ってるのかしら?」
「え?」
「今のわたくしは独り身、ダーリンもそう。二人が愛し合うのは、なんの問題もないのではなくて?」
「うぐぐ……いえ、あります!」
「それは?」
「わ、私が面白くありません!」
「えぇ……」
リーリエの言い分に、流石のルザミーネも頭を抱えた。こまルザミーネである。
「いつからですか?」
「……?」
「だから、いつから交際していたんですか!?」
「そうですわね……三ヶ月ほど前からかしら」
「三ヶ月前!? それって、まだカントー地方にいるころじゃないですか!」
「ええ、そうですわ。文通してましたの。何度か写真も贈り合いましたわ。時には裸体を贈り合うこともしばしば。テレビ電話でお互いの情事を見せ合うこともありましたわ。
……ロトム図鑑に記録が残ってるかもしれませんわね、拝見なさる?」
「…………………見ません!」
「我慢は体に良くありませんよ。“彼”ったら、とっても可愛い顔で──」
「具体的な話はやめて下さい!」
母には敵わない。
リーリエは改めてそう思った。
そこで、矛先を変えることにした。先程から真顔でルザミーネの裸を凝視してる“彼”に……
「って、いつまでお母様の裸を見てるんですか!」
「……」
「魅力的だから仕方がない? まったくもう! 大体、なんでお母様なんですか!? もっとこう──身近というか、一緒に旅をして親交を深めた女の子といいますか──あるでしょう!?」
リーリエは“彼”の肩を掴み、そう言いよる。しかし彼は思いっきり首を横に振り、ルザミーネを見た。
「まあ、僕にはわたくししか居ないなんて……わたくしも同じ気持ちですわ。わたくしの愛は、もうダーリンだけのもの……」
「そこ、うっとりしないで下さい! こら、は・な・れ・て・く・だ・さ・い!」
再び寄り添い合う二人を引き剥がすがんばリーリエ。
「キッカケはなんですか?」
「……そうねぇ。ウツロイドと同化してる時は、他の物は何も見えなくなっていたのですけれど、わたくしとウツロイドを脅かす“彼”だけは良く見えたんですの。敵として……でしたが、意識したのはその時ですわ。
その後、倒された時に思いましたの。リーリエ、貴女がわたくしを助けに来てくれたのはわたくしが母親だったから……では“彼”は? 赤の他人である“彼”はどうして見ず知らずのわたくしの為に、危険を冒して来てくれたのか……。
そして答えにたどり着いたのです。これこそ愛だ、と」
「か、語りましたね……貴方はどうなんですか?」
「……」
「居なくなった夫、崩壊した家庭、ポケモンへの愛──支えてあげたくなった? それほとんど私にも当てはまることなんですけど!」
「ダーリン……」
「そこ、うっとりしないで下さい!
大体、お母様のどこに惹かれたんですか? 私とお母様の容姿はそっくりです。こう言ってはなんですが、私の方が若いですし、一緒に居た時間も長いです! なのに、どうしてお母様をお選びになったのですか? ナッシー・アイランドで雨宿りした時とか、物凄く良い雰囲気だったじゃないですか!」
「……」
「えっ、容姿は関係ない? 内面で惹かれた? お母様なんて、貴方の前にいるときはウツロイドキチ◯イだったじゃないですかぁ!」
そう言ってリーリエはびええぇぇぇんと泣き出してしまった。それを見てルザミーネと“彼”はどうしようか、と肩を竦ませる。
しかし、それが逆効果だった。
以心伝心。
二人の仲の良さを見せつけられたようで、リーリエはより一層泣き出してしまった。びええぇぇぇんがうぎゃあーになったのである。
「もうこうなったら、お兄様のところに行きますからね!」
最近、親身になって恋愛相談にのってくれたグラジオ。
彼は頼れるお兄様だった。そのアドバイスは的確で、いつも的を射ていた。
リーリエはまだ知らない。
グラジオが隣の部屋でハウと裸で抱き合っていることを……
最後リーリエと別れる時「アローラ」って言って別れると思いきや、普通に「さよなら」と言って別れた時の衝撃たるや。
リーリエは次回作で博士かチャンピオンで出てきて、新主人公に「あの人と似てる……」見たいなこと言う、間違いない。