A,八月のイベントラッシュで書く時間ありませんでした
Q,九月はなにしてましたか?
A,艦〇れやってました(おい)
そんな訳で更新遅れました、本当にすみません。
「はい、はい…………了解、こっちでなんとか手を打ってみますよ」
上司の皮肉のほとんどを聞き流し、重要な部分だけ頭に入れるとさっさと通話を切った。
「ん……?」
不意に左腕に重みを感じると“まいまい”が持たれかかっていた。
なにやってんだ、そう呆れデコピンの一つでも食らわせてやろうかと思い、右手を握りしめる。
「……寝てんのか……?」
だがすぐにそれは解かれた。
時間は既に十時を回っている為か“まいまい”は眠っているようだった……しかも何故か安らかな表情を浮かべながら。
この様子だとさっき連絡を取ってる最中に眠った可能性が高いな。本当ならこいつの虫の能力も解け、最悪通話をハッキングされる虞(おそれ)がある為しからなければいけないのだが……。
……多分、疲れが出たのは俺の所為でもあるんだよな。
ラナとの一件を思い出し、軽く自己嫌悪してしまう。暴走した挙げ句、よりによって“まいまい”に止められるとは……一体、どっちが守ってるんだか。
「今回だけだぞ」
そう呟き、“まいまい”をお姫様抱っこの要領で持ち上げる。
うん、小柄な所為か、やはり軽いな。そんな感想を抱きつつ俺達に割り振られた客間のベッドに寝かし着ける。
あの後、ラナの
俺との確執の一件もあるだろうが、一番の原因はやはりほのかだろう。何せ味方だと思っていた少女がいきなり敵対している相手を擁護した上に
ちなみにそれを行なった当の本人は特にこれといった変化はなく、何時も通りである。後々不仲にならないか一応心配だったので『仲間にあんな態度を取ってよかったのか?』そう訊いてみたところ……。
『? 別にラナちゃんとはそんな関係じゃないよ。ただ、逃げ出す時一緒だっただけ』
思いの外ドライな反応が返ってきた。
流石にそれには俺と“まいまい”は首を傾げた。何しろ元々ほのかと行動する際、一度ラナについて訊かれていたのだ。
『私と同じく特環から逃げてる虫憑きがいるんだけど……もしよかったら、その子も迎い入れてくれない……かな?』
自分と同じく、俺達の所属する支部に入れて欲しい。そう言っていた為てっきり仲間だと思っていたのだが、どうやら俺達の間では思い違いがあったらしい。
疑問を感じ、詳しく話を聞いた所、別に彼女はラナの事を配慮してそう言ったのではなく、ラナが“原因で”自分が捕まる事を危惧しての発言だったらしい。
……特殊型でも真っ当な性格の持ち主かと思っていたが、やはりというかなんというか……ほのかも何処かズレているようだ。
単純に情で助ける訳ではない、ただ偶々ラナが自分の情報を持っていた為、その手段を用いた。それだけの事なのだろう。
情報を封じるというのなら、恐らく欠落者にするという選択肢もあったはずだし、それを実行する可能性すら持っていたのだろう。それをしなかったのは俺達の人柄を把握した為だと考える。俺達……特に“まいまい”は争い事を好まない、これから借りを作る相手の機嫌を損ねるのはどう考えてもマイナスでしかないからな。
朝霧ほのか……思っていた以上に腹黒いかも。
「どうしたの?」
「……いや、別に」
ソファーで休んでいたほのかが俺の視線に気付き、振り返る。無論、思った事をそのまま口にする訳にはいかないので、「なんでもない」とだけ答えると「そう」と興味なさそうに寝転がる。
……ここ数時間でほのかに対する認識が変わったのは言うまでもなかった。
――――――――――
――変わりたい。
最初にそう思ったのは、一体いつからだっただろう。
よく外見的特徴を冷やかされる事はあった。別に染めた訳でもないのに、金色に
みんなと同じなら……何度そう思ったか。
子どもとは純粋だが、同時に残酷だ。自分達と違うというだけで『異端』扱いする。
全ての人がそうだとは言わない、中には綺麗だねと言ってくれる人だっている。
――でも……それでもやっぱり……。
そんな思いをずっと抱き続けたまま中学に上がると環境は変わっていった。
別段、小学校の頃に比べればイジメと呼べるものはなくなった。寧ろ逆に好意の眼差しを向けられる方が多くなった。
中学に上がり価値観が変わったのだろう、不気味に見えていた“それ”が綺麗に見え、その持ち主に対してもマイナスの感情がなくなる。
別に当人が変わった訳でもないのに、手の平を返して優しくする元イジメっ子もいる。下心丸出しなのが丸分かりだ。
おまけに小学校時代下手に問題が起きないよう、静かにしていた事が災いし、勝手に『物静かな少女』という位置付けもされてしまう。……本当は体を動かす事の方が好きな、どちらかというと体育会系なのだが。
どんどん本当の自分と周りが認識する自分との差が離れていく。
このまま本当に違う人間になってしまうのではないか? そんな被害妄想に襲われる程彼らが自分に抱く
――アタシは何処?
いつからか自問するようになったが、決まって答えはない。
本当の自分が誰なのか分からなくなり、文字通り自分を見失っていた。その度に現状から『変わりたい』という想いが強くなっていく。
――貴女の夢をきかせて?
だからだろう。
そんな想いに引き寄せられた赤いコートの女性とラナは出会う。
女性の甘美に囁くような問いに、自然と口が動いた。
「アタシの夢は――」
――――――――――
不意に、瞼に重みを感じ、目を開く。
見慣れない天井が視界に入り、一瞬混乱するが、意識が覚醒し自分の現状を思い出すとほっと胸を撫で下ろす。
改めて今の自分の姿を確認する。
トレードマークと言える帽子はなく、着ている服も何時もの動き易い物とは違い、寝間着の様な代物だ。
部屋を見渡すとテレビと電話が最初に目に入った。なるほど、客室ながら最小限の情報は手に入れる事が出来るようだ。
次にクローゼットが気になった。痺れがなくなり、元の自由を取り戻した体を使い、クローゼットの中を漁ると自分の着ていた服が出てきた。……いや、よく見るとまだ綻びも汚れも付いていない……つまり、全く同じ服が新しく用意されていたという事だろう。気を効かせてかどうかは知らないが、やはり着なれた服の方がいい。そう思い、さっさと着替える事にした。
「……よし」
上着に腕を通し、最後にトレードマークの帽子を被ると、気合いを入れる様に意気込み、窓を開ける。見た目通り、人が出入りが出来そうな大きさだ。幸い、屋敷自体が洋式のお陰で靴も新しく用意されていた。出る事は容易いだろう。
縁に足を掛けた所で後ろ髪を引かれる思いで振り返る。僅かとはいえ、ほのかの無事を確認できたのは喜ばしい事だ。それに誠に遺憾だが、あの特環局員ならほのかに危害を加える心配もないだろう(実力差があり過ぎて手が出せないとも言えるが……)。
唯一の心残りがなくなったというのに彼女の足は重く鈍く、部屋から出ようとしなかった。
無意識での事だったがラナは何でそんなに行きたくないのか、なんとなく分かっていた。
それはあの少年――元の所為だろう。
『死んだ方がマシ』と言った自分に怒り、怒鳴り付け、あまつさえ殺そうとした彼に最初は嫌悪感しか抱けなかった。だが暫く経つとある事に気付いた。
――あんな風に怒られたのは一体いつ以来だろう。
元々問題を起こさないよう努めていたラナは滅多な事では叱られなかった。それが虫憑きになった際、人との関わりを断った所為で『怒られる・叱られる』という行為そのものがなくなった。
恐怖や侮蔑と言った負の感情はよく向けられたが、あそこまで明確な怒りを向けられる事はそうはなかった。しかも内容が内容だけに、まるで自分の為に怒ってくれたみたいだ。勿論違うだろうが、一度そう考えてしまうと嫌悪感はなくなり、寧ろ嬉しいとさえ思っていた。思いの他、自分は人に飢えていたようだ。
だからだろうか、こんなに名残惜しい気持ちになるのは……。
「……じゃあね」
しかし……いや、『だからこそ』ラナは行かねばならなかった。……彼らの元へ。
一瞬、雲に遮られ部屋が暗闇に閉ざされた。それはすぐに晴れ、再び月明かりが部屋を照らしたがそこには既にラナの姿はなく、ただ開かれた窓から入る風がカーテンを靡かせるだけだった。
――――――――――
黒い空にぽつぽつとまばらに煌めく星が見える。
ふと、昔を思う。星空は満天に輝き、夏には天の川が見えた。人工的な光では決して出せないであろうそれを見上げては、よく心が躍ったものだ。今立っている所もかつては田んぼで夜には蛍も飛び交い、少し幻想的な風景を見ることが出来たというのに……。
視線を左右に向ければそこには見渡すばかりの人工物の森、昔の面影など既にどこにもなかった。
--本当に変わったものだ。
そんな感慨に耽りながら、弄るように手に持った和傘の柄をくるくると回す。赤を基調とした蛇の目傘(じゃのめがさ)と呼ばれるその和傘は、まるで蛇の目の様に彼女の反対側を注視していた。
その目に待ち人の姿を捉えると同時に彼女は反転し、姿を見せた。
黒地に青、赤、緑といった複数の色で彩った、鮮やかな着物を着た少女。腰まである長い黒髪を一束にした髪型、如何にも『和風美人』という言葉が似合う彼女は、夜であるにも関わらず赤い和傘を差していた。
明らかに目立つその容姿を勿論待ち人が見逃すはずもなく一直線に向かってくる。
鞭の様にしなり、伸びる二つのそれを器用に使ってビルの間の縫うように跳んでくる。
「遅かったですね、ラナ」
「…………」
誰も、何もないビルの屋上で一人ぽつりと佇む着物の少女は、ようやく来た待ち人に文句を言うもののその表情は微笑んでいた。だが、そんな出迎えを受けてもラナの気持ちは晴れず、その心に影が落ちる。
「その様子では会えたようですね。では、今度はこちらの番です」
その言葉を聞いた瞬間、ラナの肩がピクリと震える。
わかっていたはずだ、元々彼女とはそういう契約を結んでいたのだから。
「貴女が出会ったはずの特環局員に会わせて下さい」
――
それがあの時差し出された交換条件。
特環に捕まり、ただ見世物にされるだけの状況から逃がして貰った代償。これからも逃げ続けるための誓い。……だと言うのに何故今更胸が痛む? 何故割り切ることが出来ない?
それが出来なければ……ただのたれ死ぬしかないというのに。特環と彼らの二つの勢力から狙われることになるというのに。
此処にきて、なんと意気地のないことか。……いや、薄々はわかってはいた。他人を切り捨てれるほど自分は非道になれない……「甘い」人間であることくらい。
……しかし、こうも口を紡ぐのは、実際に会って話しただけでなく彼の人柄を知ったことの方が大きいのかもしれない。本気で死んだほうがマシだと思っていた自分に、あそこまでの感情をぶつけた相手は今までいなかった。だから無意識に意識してしまっているのだろう。
その考えに至ると自然と深くため息を一つ、本当になんて自分はダメなのか。約束を果たせず、見捨てることもできない。奇麗事で生きていけるほど世界は甘くないというのに……。
(ま、でも――)
仕方ないか。誰が決めた訳じゃない、自分自身が選んだことだ。
そう、心に決めるとまるでそれを汲み取るように一匹の虫がラナの頭上に降り立つ。黄色の斑紋や短いすじ模様が前翅に並ぶその特徴的な虫は、シロスジカミキリと呼ばれる虫に酷似していた。
その虫がラナの右手に触れると、灰褐色の身体のそれはゴツゴツと金属質に似たガントレットのような形体に姿を変えた。カミキリムシ特有の長い触角は鞭の様にしなやかに垂れている。
「……なんのつもりですか?」
いきなり戦闘態勢を取るラナを少女の視線が射抜く。その眼には非難と怒りが篭っていた。
その少女に問いにラナは腕を振ることで答えた。腕を振るという動作に連動し、二本の
彼女が如何に強いのかは知っている。故に手加減はしないし、する気もない。文字通り殺す気で挑まなくてはいけなかった。だから一撃で仕留める。仮に自制心が躊躇おうとも重症は負わす覚悟だった。 ――そのはずだった。
「そうですか、それが貴女の選択ですか」
不意に、視界の端に薄黄緑色の蝶が入った。次いで後ろから彼女の声が聞こえた。
「……限られた選択の中で新たな答えを出す、それは実に彼好みなのでしょう――しかし」
危ないと感じ、振り返りざまに距離を取ろうとした彼女の視界を埋め尽くす程の赤が津波のようにラナを襲う。
「私は『裏切りを赦さない』とそう言いましたよね?」
交換条件の際彼女が言ったその言葉が、まるで走馬灯のようにリフレインされ、現実の彼女とまるでシンクロするように重なった。
そして、それを思い出した瞬間――屋上は火の海に包まれた。
更新遅れてすいません。大事なことなのでこっちでも言います。
あともう少しで底王編の折り返し地点のはずです。
とりあえずラナの虫は本編でも書いた通りカミキリムシです。実は自分、カミキリムシのことで子どもの頃からずっと思っていたことがあったんです、それは……。
「カミキリムシの触覚ってなんか武器になりそうじゃね?」という、なんともアホらしい考えなんですね。
いや、勿論触覚を武器にするなんて出来ないのは分かるんですけど……なにぶんあのやけに長い触角をみるとどうしてもそう思わずにはいられないんですよね、何故か……。
そんな自分の長年の思い(?)によって生まれた虫がラナの虫です。装備型にしたのも触覚を武器にしやすくする為です。うん、もう装備型の虫ではやりたいこと終わったな(おい)。
そんな訳で次はまた戦闘になると思います、書くのが大変そうだ……。和服少女の虫の能力初見で分かる人いるかな……うん、普通にいそう。