あと今回からオリキャラ出ます。
それと元の持ってる原作知識に関して。
原作知識に関してはbugは全巻、原作が11巻までを想定しています。
念のため持ってきたスポーツバッグを担ぎ、すぐに店を出る。
会計は“まいまい”任せになってしまうが仕方ない……早速手掛かりらしきものが掛かったのだ。のんびりとしていられる訳がない。
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元々、そこまで発展していなかった市が、此処数年で急激なスピードで成長している。新しい市長が優秀だとか、大富豪だとか様々な噂があるが、それが此処――波施市の世間一般的な解釈だ。
だが……その他にある関係者の間で、この街は少し曰くがある。
それは『虫憑きの目撃例が酷く低い』という事だ。聞いた限り別段おかしな所はないかもしれない。街や村だからといって必ず虫憑きがいる訳でもないのだから。
だがしかし、考えてもみて欲しい。経済改革に見舞われ、一気に街としての機能が十二分に発達している所だ。必然的に人は多くなるだろう。人口増加に反して虫憑きが少ないというのは何処か引っ掛かる。しかも波施市の規模は桜架市とほぼ同じで人口もかなり近い。なのにこちらにはいないというのは流石におかしい。
一般人の目撃情報から、特環での『発見』と『捕獲』はある程度出来たらしい。だが、ただでさえ少ない『目撃』の数に比べて明らかに『発見』以降の数が少ないのだ。もはや、何か意図があるとしか思えないほどに……。
一応この街にも特環の支部が存在する。が、どうにもきな臭いらしく俺達の事は伏せてある様だ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……出来れば何も出ませんように」
デパートの脇道に入るとバッグからゴーグルとコートを出して装備する。
手掛かりは欲しいが下手に強いヤツとは会いたくないなぁ……。などと思いながら、ガッチリと“大蜘蛛”が固定された腕を、そのまま空――正確に言えばデパートの屋上付近の非常階段――目掛けて狙いを定める。大蜘蛛は俺の狙った場所に寸分狂わずロープ状の糸を吐き出す。
そしてそれが目標地点に付くと、今度は糸が縮み俺の体は吸い込まれる様に非常階段に向かって文字通り飛んで行く。景色が次々と横切っていく程の速さ、このまま頭から行ったら確実に重症、下手したらお陀仏だ。
だから少し早いタイミングで糸を切り、余った勢いを殺す為に八本ある脚の内四本から糸を出し階段の上下左右に備え、更に以前使ったクッションの役割を果たす毛玉を新たに吐き出す。
「ッ――……てぇ……」
衝撃に耐えられるよう体を丸めたが特に意味はなく、少し鈍い痛みが体を走る。やはり、アニメやマンガの様に糸を出しただけで素早く動くというのは難しい……蜘蛛の怪人の皆さんは一体どうやっているのかコツを聞きたい所だ。
「まあ、その前に仕事なんですけどね」
起き上がり、コートについた埃を払う。まだ軽く痛みを残すものの動くには差し障りはなさそうだ。
「面倒くさいが仕方ない、給料貰っている以上は働かなくてはいけないからな」
呟きながら上を目指し駆け上がる事十数秒、思いの外早くに屋上に繋がる扉へ到着した。
鍵が掛かっているそれに、液体に近い状態の糸を鍵穴に流し込み形を固形する。そしてそのまま回すと扉は呆気なく開いた。
(ホント、こういうどうでもいい事に対しては使えるよな……)
電子ロックやダイヤル以外のアナログ式の施錠なら今の方法であらかたは解錠出来る。しかも下手な痕跡は残さない仕様。
「……何だろう、この泥棒スキル……」
地味だ……地味過ぎるよ、俺の“虫”……。いや、確かに便利っちゃ便利なんだけど、やはり戦闘には向いていないというか……。別段望んで戦いたい訳じゃないけど、いざって時を考えるとやっぱり強い方が良いんだよな……。
自身の“虫”の脆弱っぷりを嘆きながらもゆっくりと扉を開け、中の様子を見る。
定番とも言える小さなメリーゴーランドに休憩用のベンチが三つ……と言っても既に壊れた状態だが……。その近くに一人の少年が倒れている。
遠くにいる為うまく見えないが光を失い、生気のなくなった目を見るに『欠落者』だろう。生半可な攻撃では“虫”は殺せない、基本的に“虫”は“虫”で殺すのがセオリーだ。となれば、近くに彼を『欠落者』にした虫憑きがいるはず……。
肩にとまっている大蜘蛛の六本の脚から、細く透明な糸が屋上内に発射される。正確な位置は分からずとも、せめてどの辺りに居るのか確かめないと次の行動に移れないからな。ちなみにこの糸に関しては、あのコクワガタの一件から使えるようになった。
さて、内側の状況を確かめようと意識を集中した瞬間――一陣の風が吹く。
それは小さく糸を揺らす程度だったが、一秒後暴風へと姿を変え、張ったばかりの糸を引き裂いた。
予想以上に強い勢いで引っ張られる扉を何とか抑えつける。
「――ッ……ペッ! なんだこれ!?」
持っていかれそうになる扉の僅かな隙間から、砂の様な微小の物体が何度も顔に当たる。ゴーグルを着けてる為目は守られているが、口や鼻は片手で覆う事しか出来ず、僅かに侵入を許してしまったかもしれない。
数秒後、文字通り嵐の様な一波が去り。ようやく一息出来るかと思うも、口に違和感を感じた。何かが口内全体を張り付く様な感覚が襲う。
「――ッ!?」
鼻呼吸で何とか空気を取り込むも、口が使えない所為で吐き出す量が少なく、かなり危険な状態だ。
危機感に襲われた俺は、その状況を打破する為非常階段から飛び降りた。
以前の三十階ダイブに比べれば何てことない高さだ、すぐに“大蜘蛛”から毛玉を吐き出し、その上に落ちる。多少の衝撃が身体を貫くものの下手なマットよりも柔らかい糸の塊は難なく屋上からの自由落下の衝撃を逃してくれた。
だがその際、肺から空気が失われた事も事実。俺は急いで先程投げ捨てたスポーツバッグを漁り、中にあったミネラルウォーターを引っ張り出した。そして、それを多分に口に含み、濯いだ後吐き出す。一度ではまだ張り付く感触はなくならず二度三度繰り返し、ようやくまともに呼吸出来るようになった。
「はぁっ……はぁっ……っ」
なくなった酸素を取り戻すべく、気付けば過呼吸になっていた。十数秒、ようやくまともに呼吸が出来る様になると、吐き出した水を見る。
濁った色のそれは明らかに異物が口に入り込んだ事を表している。“虫”どころか下手したら宿主すら殺し兼ねない危険な能力。関わり合いになんかなりたくない、だが放置するには危険過ぎる。
虫憑きがやられるだけならまだいい。だがこの能力は、明らかに一般人すら巻き込む可能性が高い。
「やっぱ、放っては置けないか……」
せめて、相手の容姿くらいは確認しないと、防衛すら出来ないからな。らしくない義務感を胸に、再び屋上へと戻って行く。
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白い髪が風に吹かれ靡く。腰まである長いそれを見て、息が止まった。
それは地毛でも白髪でもなく、色素が落ちた事で今の色を放っていた。
屋上、その一角にある壊れたステージの前。恐らく休日ではヒーローショーが行われるであろうその場所に一人の少女が佇んでいる。
白いワンピースに似た服を着た、見た目12、3才程で顔付きから察するに恐らく日本人だろう。だが、長い白髪の所為か彼女を違う世界の住人だと錯覚してしまう。雪の様に舞う微小の粉も相成って余計にこの世のものとは思えない夢とも思える儚さが漂う。
そんな彼女の周りに数人の少年と少女が倒れている。一般的な服を着ている者の他に、特環局員も何人かいる。捕獲しようとして返り討ちにでもあったのだろう。まだ真新しい“虫”の残骸や体液が散らばっている。
「……?」
ふと、先程から降り続けている雪の様な物質が気になり、近くに倒れている少年の上に積もっている物を掴む。
雪とは違い冷たくはなく、砂の様にサラサラとした感触。だが肌触りは砂のそれとは少し違う……これは……?
「……灰……?」
砂とは違い、払っても完全に落ちない特有のそれは正しく『灰』。大量の灰がまるで火山灰の様に降り積もっている。
(まずい……)
さっき口内に張り付いていたのはこれだったのか。ダイオキシンを取り込んだ灰だったら、水と溶け込んだ場合人体に害を与える物質になると昔教えられた気がする。呑み込んではいないにしろ、吐き出す為にミネラルウォーターを口に含んだのは事実、あとで……というかコレ終わったらすぐに病院に行こう。ついでに此処にいる奴らも病院行きかな……俺より吸い込んでる可能性高いから……。
「……大丈夫だよ」
心情を察した様にそう言ったのは、壊れたステージ……その先にある屋上を囲うフェンスを見ていたあの少女だ。正確にはフェンスの向こうにある風景を見ているのだろう、心ここに在らずといった様子で言葉を続ける。
「一応口や鼻には入らないように気をつけた……と思うから……たぶん……そのはず……」
余程自信がないのか、どんどんすくんでいく。
「…………おい」
少し心配になり、近くに倒れていた少年の様子を伺う。見た感じ異常はなさそうだが、不安なので先程とは別にスペア(“まいまい”の分)のミネラルウォーターを取り出し、口に含ませてから吐き出させる。その結果、どうやら大丈夫な様だ。
「はぁ……」
「よかった……」
安堵の息が漏れると、ほぼ同じタイミングで少女が胸を撫で下ろした。顔を上げると少女は体をこちらに向けていた。
確実に美少女に該当するであろうその顔に、少し胸がときめく。ほっとしている様子を見ても純粋に可愛いらしい少女だ。
――ゴーグルのスイッチを押すと、画面の右上にRECの文字が浮かぶ。
しかし、如何に可愛い女の子だとしても、これだけの虫憑きを倒す程の手練れだ。細心の警戒をしなくてはいけない。
「さて、単刀直入に訊きたいんだけど、いいかな?」
「……なに?」
「キミは虫憑きかい?」
余計な溜めはなくすっぱりと訊く。……いや、この惨状を見るにどう考えても応えは分かり切っているんだけど、一応念のため。
「……うん」
そして、やはりと言うか何と言うか、思った通りの応えが返ってきた。
「そういう貴方は……特環? 見たことないコートだけど……」
だが予想に反して、今度は少女の方が質問してきた。普通ならもっと警戒してもよさそうなものだが……。
「訳有りでね、此処とは違う支部の局員だよ」
確か、この辺りの支部のコートは群青色だったな。と、倒れている局員を一瞥して思い出した。
「……違う、支部……」
何か思う所でもあるのか、少女はぶつぶつと呟きながら考え始めた。
一体どうしたのか、そう思いながらも相手の意識が別の方に向かっている内に罠を仕掛ける。
卑怯と言うヤツもいるかもしれないが仕方ない、戦力差が有りすぎのだから。恐らく相手は特殊型、そして媒体は灰と見て間違いないだろう。正直言って勝てる気がしないので、罠と言っても逃げる為の時間稼ぎ程度だ。号指定クラスの特殊型とか無理、勝てない、相性的な意味含め。
罠を張り終わるのと相手の考えが纏まったのはほとんど同じタイミングだった。
いつでも逃げられるよう、罠を発動させる準備をする。
「あの……私をその支部で保護してもらえませんか?」
「………………はい?」
だが、思いもよらない発言に俺の思考は軽くフリーズしてしまった。
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「――という訳で、今日から仲間になったほのかだ」
「……よ、よろしくお願いします……」
紹介の後、俺の後ろに隠れていたワンピースの少女――
……ちなみに身長は彼女の方が五cm程大きいようなので、実は完全に隠れることは出来ていない。……なんか虚しい……はやく来い、俺の成長期!
『イッエース! “まいまい”ちゃんは大歓迎ですよ! ……ところで“大蜘蛛”さん、私が支払ったパスタの代金を要求します。千円プリーズ、返してください!』
ケータイの着信音が鳴り、通話ボタンを押すと案の定騒がしい声が最大音量で聴こえてくる。それに呼応する様に、“まいまい”は
「あぁ、そいつは悪かったな」
仕方なく財布から数枚の小銭を取ると、無防備な手の平に叩きつけた。
『みゃああああああ!!!』
「あのパスタはそんな高くねぇよ、自分の分をちゃっかり混ぜるな!」
基本後方担当とはいえ、伊達に一年近く戦闘班にいる訳ではないので、俺の『叩き』は一般的な子どものそれよりも数段威力が高い。結果、手が紅葉の様に紅く腫れた“まいまい”は妙な奇声を上げて、のたうち回る。
「だ、大丈夫?」
『へ、へっちゃらです! “かっこう”さんにぶたれるより数倍マシです!』
背中に隠れながらも、心配して顔を覗くほのかに涙目ながらにVサインを送る。
「じゃあ、今度は本気で叩くが問題ないな」
『ごめんなさい、嘘吐きました。ホントは凄く痛いです、だから止めて下さい、お願いします」
極上の笑みを浮かべながら指の骨をぱきぱきと鳴らすと“まいまい”は直ぐ様土下座をした。
――彼女、朝霧ほのかが出した『保護してほしい』という頼みを俺は断った。……というか俺自身が了承した所で、それはその場しのぎに過ぎないだろう、特環に戻ればあの支部長が笑顔で却下を下すはず。数多いる“虫憑き”の中で一人だけその待遇を許してしまえば他の虫憑き達から不満が溢れ、下手したらクーデター物だ。稀少な能力や一号指定とかならまだしも彼女は特殊型だ。特殊型は確かに珍しいが、そうまでして守る程でもない。
だから『保護は出来ない』ときっぱり断った。ただし、純粋に
その事を説明するとほのかは「うん、いいよ」と意外な程あっさりと返事をした。もう少し考えるものだと思っていたが、どうやらこの街の支部の管轄から抜けれるなら待遇に関してはあまり気にしないようだ。
その後、“まいまい”に連絡してから帰宅し、現在に至る。その際「なんでいきなりいなくなったのか」と最初は拗ねていたが、今度お菓子を買ってやると言ったら一秒と経たずに直った。……本当に単純だな、オイ。
「ま、アホなコントはこのくらいにして本題に入るか」
一連の流れを思い返し、未だに土下座をしている“まいまい”に目を向ける。このままアイツに構っていたら日が暮れる為仕方ないが話を切り替える。別に弄くるだけならそれでもいいのだが、生憎と今は面倒事がある為却下だ。
出来れば関わりたくない案件だが、仕事上無視することはできず、やむなく話を切り出すことになった。
ほのかの苗字、本当は「浅葱」にしようと思ったんだけど、それだと戌子のコードネームと被るから一文字足して「朝霧」にしました。あと「ほのか」という名前に関しては漢字で書くと「仄」となり、媒体である灰と似た漢字になるのでそういう名前にしました。まあ、基本ひらがななのであまり関係ありませんが……。