ムシウタ~夢捕らえる蜘蛛~   作:朝人

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前半は仕様です。


一章『夢巣食う底王』
チャット


“大蜘蛛”さんが入室しました。

 

 

“大蜘蛛”:よ、久しぶり

 

(テラス)”:おひさ〜

 

“大蜘蛛”:最近どう?

 

“照”:ぼちぼち、そっちは?

 

“大蜘蛛”:聞いて驚け、ついこの間十号に昇格したぜぇ!(ドヤァ)

 

“照”:おお、凄い凄い! ……ま、うちは五号になったけど(笑)

 

“大蜘蛛”:なん……だと……!?

      普通を自称している癖に……この裏切り者ーー!

 

“照”:いや、うち普通だし

    偶々大物を倒しちゃって、その功績で上がっただけだし

 

“大蜘蛛”:く……世の中不公平だ……俺だって腕折ってまで八号クラスの奴倒したのに……

      それもこれもみんなあの支部長のせいだー!

 

“照”:あー、アンタの所結構腹黒らしいね……てか、思っていた以上に重傷だった件ww

 

“大蜘蛛”:今度アイツの眼鏡カチ割ってやる……!

 

“大蜘蛛”:左腕一本と肋骨三本もいったのに、手当金降りない特環マジブラック企業

 

“照”:実際うちらの人権ってあって無いようなものだしね

 

“大蜘蛛”:労働基準法? なにそれ、おいしいの? ですね、わかります

      でも何気に給料は高かったり

 

“照”:『局員』とは言ってるけど、実質兵隊扱いだからね、うちら

 

“照”:それに給料貰える程生き残れる奴も限られるし

 

“大蜘蛛”:そんな中、無指定並の火力で頑張ってる俺

      果たして生き残れるのか……?

 

“照”:次回『“大蜘蛛”死す』

 

“大蜘蛛”:ちょw 勝手に殺すなしww

 

“照”:(>ω・)てへ♪

 

“大蜘蛛”:……殴りたい、その笑顔

 

“照”:そういえば噂で聴いたんだけど、“かっこう”の奴中央本部に飛ばされたってホント?

 

“大蜘蛛”:ああ、その話か……それは

 

“大蜘蛛”:お腹すきました

 

“照”:え……なに、それ?

 

“大蜘蛛”:あれ? いや、俺打ち込んでないけど?

 

“大蜘蛛”:お腹すいた……“大蜘蛛”さん、朝食ぷりーず

      早くしないと“まいまい”ちゃんのお腹と背中がくっついてしまいます!

 

“大蜘蛛”:………………スマン、急用が出来た

      悪いが落ちる

 

“照”:あー……うん、大体察した……アンタも大変だね

 

“大蜘蛛”:……うん(涙目)

 

“大蜘蛛”:ノシ

 

 

“大蜘蛛”さんが退室しました。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 ため息と共に今まで向けていた意識をパソコンの画面外(そと)に移す。BGMを切り、イヤホンも外す事で周囲の様子を確認し易くする。

 一度霧散した集中力、それが落ち着く前にケータイに着信音が入る。軽快に鳴り続けるそれを手にするも、かけてきた相手が予想出来る為、あまり出たくない。

 だが、そんな俺の気持ちなど知る由もない機械(ケータイ)は無慈悲にメロディを奏で続けている。

 ……あ、ちなみに着信音に関しては俺、着うたよりも着メロ派です。

 と、至極どうでもいい事を思いながら通話ボタンを押す。そしてそのまま耳に当てた、

 

『おっはよーございまーす! みんなのアイドル“まいまい”ちゃんのモーニングコールのお時間でちゅッ! ――か、噛んでませんよ、全然余裕でセーフです!』

 

 瞬間、とんでもないハイテンションな声が耳に響いた。

 

「うざ」

 

 そのあまりの鬱陶しさに、ついそう言葉が漏れ、危うく通話を切ってしまう所だった。

 

『がーん! どんまい、“まいまい”ちゃん! 例えパートナーにウザがられても挫けません! 輝ける未来のために! ……ところで、そろそろお部屋から出て来てくれると“まいまい”ちゃん凄く嬉しいです。あとお腹すきました』

 

 時間を確認すると七時を回っていた。チャットしてたから気付かなかったが、朝食時か……。

 今回の俺がチャットしていた相手は北中央支部所属の“照”という局員だ。実際に会った事はないが、俺と同じ分離型の蜘蛛系統の“虫”を使うタイプだと聞いている……ただし強さに関しては全然違うがな。まず第一に“照”が特環に入るまでの経緯がとんでもない。

 三十五人もの刺客を全て返り討ちにした上、“かっこう”と“あさぎ”という上位の実力者二人を投入してやっと捕まえる事が出来た程だ。

 当人は『普通』を自称しているが、普通の人は三十人以上もの刺客を撃退なんか出来ないし、あの二人を相手に生き残るなんてまず無理だろう。

 上記の様な戦歴を持っている為、本来であれば話なんて合うはずもないのだが……なにやら“かっこう”関係で苦労しているらしく、つい共感を覚えてしまった。……実際俺もアイツの無茶に振り回された事や、後始末等で苦労とかしてるから気持ちは分かる……ま、俺はその分アイツをいじってるから、ある意味お互い様なんだけどな。

 そんな訳で、発案者・俺、賛同者・多数の局員達が企画提案、特環のネットワークを利用して技術部が作った、局員が愚痴を溢し合えるチャット広場にて知り合い意気投合、今ではネット友達の様な関係になっている。ちなみにチャット広場とは言ったが、セキリティは完璧だし、愚痴以外にも昼間学校とかで行動を制限されている局員達が作戦会議する際に用いたり、情報交換したりと思いの外役に立っている。

 “照”とのやり取りは何かと楽しく、つい時間を忘れてしまう。今回の様に気付いたら飯時を過ぎているとかはザラにある。

 

 

 ……少し脱線したが、話を戻そう。“照”とのチャットを終えるのは惜しいが仕方ない……。“まいまい”を放って置いたら今以上にうるさくなるのは目に見えている。若干面倒だが相手をするか……。

 そう思い、パソコンの電源を切り、自室から出る事にした。

 

『おぶっ!』

 

 その際、俺の部屋の前でスタンバっていたと思わしき“まいまい”がドアにぶつかり、ケータイから奇声が聴こえたが……大した問題ではないだろう。

 

 

 ----------------

 

『いただきまーす!』

 

 ケータイから聞こえる声に呼応する様に“まいまい”は合掌をし、食事を始めた。

 目の前でガツガツと朝食を食らう眼帯少女を余所に、俺も自分の食事を取る事にした。

 “まいまい”があれだけ騒いでいた理由は至ってシンプル。本人も言っていたが『お腹が空いた』という有り体で至極普通な物だった。

 それを聴いた時『勝手に作って食べればいい』。そう思ったが、“まいまい”に作らせたらどんな劇薬が出来上がるか分かったものじゃない。仮に、まともな物が出来ても恐らく台所は大惨事となり、後片付けをするのは恐らく自分だろう。

 そう考えると、最初から素直に俺が作った方がマシだ。考えが纏まるとすぐに行動を始め、八時前には終わった。

 

『“大蜘蛛”さんにこんな特技があるとは驚きです! “まいまい”ちゃんが星三つあげます、ぷれぜんとふぉーゆーすたー!』

 

 即席で作ったスクランブルエッグに舌鼓を打ちながら“まいまい”は不慣れな英語っぽいものを使う。多分、意味とかは分かっていないのだろうが……。

 ちなみに今日の朝食は時間がなかった事もあり、トーストとスクランブルエッグと簡素なサラダだけだ。正直、誰でも作れる簡単な物で、味もそこまでいいとは言えないと思うが、“まいまい”は上機嫌に食べ続けている。

 

「ありがと」

 

 しかし、悪い気はしないので素直にそう返すと、残っていたトーストの一切れを食べ、完食する。

 

 

 

『ごちそうさまでした、美味しかったです!』

 

「お粗末さま」

 

 数分後、“まいまい”も食べ終えると食器を洗う。

 ふむ、時間も時間だし、そろそろ出かける準備でもするか。そう思い、用意を始めると“まいまい”が近付いてくる。

 

『お出かけですか? なら“まいまい”ちゃんも行きます! れっつショッピングです!』

 

「……………………」

 

『いたたたた!! 何故無言でぽっぺをつねるんですか!?』

 

「……お前、何で俺達が此処にいるのかちゃんと理解しているか?」

 

 そう訊くと肝心の“まいまい”は小首を傾げる。このやろう……。

 

『痛い痛い痛い! 痛いです!! 何故ぐりぐりされなくてはいけないのか“まいまい”ちゃんは説明を求め……て、更に威力がー!!』

 

 それから十数秒後、手が疲れたので離すと、“まいまい”は頭を抑えながらふらふらと数歩程歩くと、パタリと倒れてしまった。……軟弱者め。

 

 




使っといてなんだけど……“まいまい”扱い辛い……。

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