ムシウタ~夢捕らえる蜘蛛~   作:朝人

19 / 37
相変わらずの独自解釈やオリジナル設定があります。


情報整理

「……なんか納得いかねぇ」

 

 早条達の来訪から一晩明けて、体調も全快になった俺は今台所に立っている。フライパンに卵を二つ割って入れ水を適量にして蓋を、そして待ってる間に適当且つ等間隔に切った野菜を盛り付け終える。弱火で熱していた味噌汁の火を止め、焼いていた鮭の切り身を人数分取り出す。

 最後に目玉焼きを皿に乗せて副食(おかず)は完成。

 

「料理するのが俺なのはわかるが、なんでパン派とごはん派に分かれるんだよ! しかも2:2とか……作る方の身になれよ!」

 

 苛立ち気味にトースターにパンを入れる。

 “まいまい”が壊滅的なのは予想着いていたが、まさかほのかやラナも料理が出来ないとは……いや正確には未経験者らしいが、いくら簡単なものでもいきなり四人分を作るのは少しハードルが高いだろう。だから病み上がりとはいえ俺が作っているわけなのだが。

 パンとごはん。朝食の際必ず主食をこの二つが二分するわけだが、その主食により副菜というのは変えないといけない、味とか見栄えや栄養面など様々な要素、バランスというのが大事なのだ。……主夫思考になりそうな頭を振りながらごはんをよそう。

 

 昨夜、早条から聞いた事含めこの町と『コロッセオ』についての情報を東中央支部に送った。とてもではないが俺たちでは対処できない案件であり、もしも任務を続行するのであれば援軍が欲しいと書き添えたのだが、あの腹黒はちゃんと読んで対応してくれるだろうか? ……とりあえず、良い返事は期待しないでおこう。

 本来調査だけを請け負った俺は解決に力を注ぐ様な真似はしない。それは俺より強い奴らの仕事だ。故にとっとと撤収してもいいのだが、現在俺は無所属の虫憑き二名を保護している。ここ最近は一時とはいえ“かっこう”が東中央支部から離れることもありゴタゴタしており、こんな時に連絡もなしに号指定クラスの虫憑きを連れていけば更に混乱が増すだろう。最悪俺はあの上司に仕事を増やされ、馬車馬の如く働かされるかもしれないのだ。

 流石にそれだけは御免被るので連絡を待っている最中だ。無論アイツからの連絡を受けてそのまま御役御免になるとは思っていない。いつもなら事後承諾よろしく帰ってからするのだが、今回は特別なケースだ。だから前もって「援軍寄こせ」と言ってるのだが未だ音沙汰無し。最高戦力がいなくなってゴタついてるとはいえ何をしているのやら……。

 

 先行きが不安になりついため息が漏れると同時にトーストが出来上がったらしい。ちなみに俺は本来ご飯派。この前は炊き忘れていた為パンだったが今回はちゃんと炊いた、抜かりはない。

 出来上がったそれらをテーブルに並べていく途中ラナが手伝ってくれた。四人用のテーブルの手前の方にご飯と鮭の切り身と味噌汁という和テイストを並べ、奥の方にはトーストと目玉焼きとサラダというオーソドックスな朝食が並ぶ。

 

「へぇ、結構美味しそうに出来たわね」

 

 醤油やソース、ジャムなどを運んでいるとふとラナがそんなことを言ってきた。

 「普通じゃないか?」と口では返すものの若干照れくさく、油断すると口元が緩みそうになる。褒められて嬉しくない人間はいないだろう。だから俺の反応は普通だと思いたい。

 

「まともな料理なんて久しぶりかも」

 

 その言葉に「ああ」と納得した。虫憑きとバレて追われるとなると必然今までの生活から離れるわけだ、そうなると今まで普通に口にしてきたものすら出来なくなる場合がある。色々とあるが、その最たるものはやはり「手料理」だろう。特に母親の手料理は一生食べられなくなることが多い。何せ虫憑きになって一番最初にショックを受け、拒絶する大半が家族なのだから。

 恐らくラナも同じなのだろう。自分もだが、ある日突然家族から切り離されるというのは精神的にくるものがある。その上特環から逃れ続けていた、心境や状況的にそんなにのんびりとは出来なかったのではないか?

 そう思うと同情の念が浮かび、つい頭の上に手を置く。

 いきなりのことで驚いてこちらに顔を向けるラナ。そして“つい”でやってしまった俺は激しい自己嫌悪に駆られた。……というのも俺は成長期が遅い所為か未だに身長が150ちょっとしかなく、対してラナは160を越えている。つまりその差は十cmくらいあるわけだ。これが逆なら理想的なのだろうが、生憎現実は非常である。結果は弟が必死に姉を慰めるような構図になってしまった。……格好付かない。

 この事実に気付いた俺は一人気落ちしており、そしてラナは何故かわなわなと体が震えている。

 一体どうしたのか? そう思い、(背丈の都合上)覗き込むようにその顔色を窺った。

 

「か、か……可愛い!」

 

「はぁッ!?」

 

 その瞬間何をトチ狂ったのか、そんな言葉を吐きながらラナは俺を抱きしめた。

 突発的な行動故に反応することすら出来ず、訳が分からぬまま今度は逆に頭を撫でられ始めた。それはもうわしゃわしゃと。

 

「小さくて可愛いと思ってたのよね、でも特環だがらって言い聞かせていたけど、もう無理! 今ので限界!」

 

「離れろ! あと小さくて悪かったな!!」

 

「そんなことない! 最高!」

 

「お前はショタコンか何かか!?」

 

 抱きついた(ホールドした)上に頬擦りとか止めろ。密着に密着が重なって色々と危ない。

 ラナは俺より一つ年上らしいのだが、歳のわりにスタイルがいい。分かりやすく言うと胸がでかい。それはもう貧乳比率が大多数を占めるムシウタ世界においてはほとんどが羨むレベル。これがクォーターの力か……。

 それがさっきから当たってる、背が低い所為で顔に当たってる。本音を言えば嬉しい、だがその分羞恥心も半端ではない。顔だけが熱暴走を起こし破裂するんじゃないかってレベルで熱い。

 

「ほのか! 助けて、ほのかぁぁ!!」

 

 放っておいたら永遠に抜け出せないような気がした俺は、素直にほのかに助けを求めた。

 

 

「もう、何してるのラナちゃんは?」

 

「……ゴメン、つい……」

 

 仁王立ちしているほのかの前で正座させられているラナは深々と頭を下げた。

 曰く、ラナは可愛いものが好きらしく、俺の容姿と先程の行動の前に理性がやられたらしい。……いや確かに、俺は平均的に見ても成長は遅くその所為でどこか小学生っぽいとか思われたりもするけどさ。美少年というわけではなく、子どもらしさというかあどけなさがまだぬけていないのだろう。しかしまさかあんなことになるとは思ってもいなかった。

 やっぱり身長って大切だと思う。さっきの頭を撫でるという行為も背が低ければほとんど機能しない、なでポとかは無理だろうね。……まあ別の意味では効果あったみたいだけど……二度と背が高い奴には試さない。

 成長期ってこんな遅かったっけ?

 

「早く大きくなりたい……」

 

「元はそのままの方がいいって!」

 

 願望交じりの呟きを速攻で否定するなよ。シビアな現実が待ってる大人にはなりたくないが、だからといって子どものままでもいたくないよ、俺は。エターナルショタとかマジ勘弁。

 

『元さんお腹空きました! いい加減食べていいですか!』

 

 そしてお前は本当に空気読まないな!

 

 

 

 朝食は何事もなく終わり、後片付けはほのか達に任せた。俺はソファーに腰掛け、改めて情報の整理をしていた。

 昨夜、あらかた纏めて土師に送ってはいたが、それでも見落としているものもあるだろう。だから見直すことにした。

 さてまずこの町、波施(はぜ)市についてだ。ここは昨今著しい経済革命に見舞われており、人の出入りが激しい。地形的に東中央支部と中央本部の丁度真ん中に位置している所為か試験的に支部がある。中央支部と比べれば小さいが、それでも機能は十分らしい。

 今現在主だった特環の支部といえば東西南北の中央支部に中央本部の計五つだ。今の所はそれで問題なく機能しているが、将来的に見てこれだと不安が残る。

 一つはこれからも増え続ける虫憑きを全部管理するのは難しいということ。どこぞの原虫が手当たり次第に虫憑きを生み出し続けるため、今はともかく長い目で見るとこの体制だと処理が遅れてしまう。何せ島国とはいえ日本は一つの国だ、地図で見れば小さいかも知れないが生身では普通に広い。その中でほぼ毎日のように生まれる虫憑きを五つの機関だけで収めるのは将来的に難しい。

 二つ目は位置の問題だ。中央支部が建物である以上、それは一つの県にしかないことになる。ご存知日本には47都道府県があるわけで、一つの中央支部が五県くらい担当したとしても全部合わせても25県のみ。明らかに足りない。まあ原虫は海を渡れないらしいから、除外される都道府県がいくつかあるが、それでも足りない。それに何かあった場合やはり近い方がいいだろう。

 そういった理由からそれぞれの中央支部の下に幾つかの支部を設けようという話があったらしい。秘密裏に行われていたそれだが、その試作として作られた内の一つがこの波施(はぜ)市だ。波施市は都市開発とかが進んでおり実験場としては最適だったそうな。

 そんな所でコロッセオ(あんなもの)が在ったのは皮肉以外のなにものでもないだろう。

 

 次にそのコロッセオについて、あれは金持ち達が娯楽として作ったものらしい。ただし当時は虫憑きではなく、猛獣とか表に出れない危ない奴を戦わせるためのものだったようだ。簡単に言うと闇試合だ。それがいつの間にか虫憑き同士の殺し合いに変わった。それによりコロッセオの用途事態も変わってきた、虫憑きや欠落者の競売、欠落者の処理、臓器の売買。メインである殺し合いの他にもこれだけの非道なことをしている。

 こちらも解消すべき点だろうが、問題はもう一つある。

 

 最後に、此処の支部とコロッセオを繋いでいる人物だ。ぶっちゃけると今回の元凶らしい。

 名前はアキラ。フルネームは不明だがそう名乗り、呼ばれていた。かつて早条達の仲間として過ごしていたが、その中で最も強いこなたという同化型の少女と共に離反。今その少女はコロッセオで底王として座している。そしてアキラはそこの支配人として管理しているらしい。

 早条達の仲間だったことから虫憑きであることは間違いないが、肝心な虫については分からないらしい。早条の見解では虫や人に干渉できるタイプで自分の意のままに操る能力ではないか? とのこと。彼はその能力の応用として他人の能力を引き上げることも出来るらしく、仲間であった頃は主にその能力を使用していたらしい。確か原作二巻辺りにもそんな感じの能力を持った奴がいたような……でもアイツは一人(一体)しか操ることが出来なかったのに対し、このアキラという虫憑きは多数を支配下に置けるとのこと。それに能力の引き上げと聞くと茶深辺りを連想してしまう。この二人の能力を合わせた完全な上位互換として見るべきなのか……? うん、戦いたくない。

 しかし他者を操る能力か。断定はできないが、それが本当なら納得できることもある。支部とコロッセオ、両方の人間を洗脳すれば辻褄が合うからだ。

 この支部でのきな臭い部分や、コロッセオにいる虫憑き、早条達の行動の一端など。

 アキラを確保するか欠落者にするかのどちらかでこの件はケリが着く。しかし彼を護る盾は異様なまでに強固だ、虫憑きの中でも最高峰の性能を誇る同化型。早条曰く、アキラの支配下から抜け出すことが出来れば味方になってくれるだろう、とのことだが……説得が通じない相手をどうやって解放するんだ?

 そこが一番の問題点だ。援軍が来ても一号指定並みの火力の持ち主が相手じゃ勝てる気がしない。“かっこう”が来れば話は別だが今は中央本部の下にいる為呼び戻すのは難しい。それにもし“かっこう”が来れてこなたを退けても“かっこう”が洗脳される可能性がある以上迂闊に接触させるわけにはいかない。

 アキラがどんな手段で操ってるのかが解らない、それも不安材料の一つだ。流石に際限なくってことはないだろう、それが出来るのなら既に中央支部の一つくらい落とされていてもおかしくはない。故に操れる数にも限界はあるはずだ。

 量はともかく問題は質だ。正直俺の小細工が通用するとは思えないし、ほのかやラナの力を借りても厳しい。癪だが、早条や四季が力を貸してくれるのなら偶然や奇跡やご都合展開を考慮して、なんとか六割くらいの勝率は叩き出せる。しかしその後のアキラとの戦闘で壊滅される可能性が九割強なんだよなぁ……こなたが支配下から除かれることによって洗脳できるストックに空きが生まれ、大方四季辺りを操られて全滅。

 うわ、容易に想像がつく。

 

「……どうするんだ、これ……」

 

 まず戦力が足りないのとアキラの情報が足りないのがきつい。せめて操る為の条件さえ分かれば対処法を見つけられるかもしれないのに……歯痒いな。

 

 それから午前中一杯使って思案続けたが、結局対抗策は見つからず、援軍の報せもなかった。




気付いてる人いるかもしれないけど私はキャラに名前付ける時何かしらそのキャラに関連したものから付ける癖があります。
能力の他にも境遇とかからも持ってくる時があり、この作品だとラナと宗析を除いた全員はそんな感じで付けちゃってます。
勿論主人公の元も例外ではなく、彼はある境遇からその名前を取りました。一見捻くれた感じで分かりづらいと思いますが、色んな角度から見たり読んだりするとムシウタ関連の単語を参考にしたことがわかると思います。
次の更新までの間暇すぎるという人はちょっとした謎解き感覚でやってみてください。多分そんなに難しくはないと思うので。
ちなみに元に関してはフルネームで読まないとわからないです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。