3章プロローグです。
緑谷出久は保須市にきました プロローグ
雄英体育祭襲撃事件。
ヴィラン連合によって引き起こされたこの事件が世間に与えた影響は非常に大きかった。
組織化したヴィランによるヒーローの祭典襲撃という
ある者は力で、ある者は利害で、ある者は思想で。
どんな目的であれ、人は集団になればそれなりに力となる。当然、規模が大きくなればなるほど強大となる。
この動きを受け、ヒーロー側は後れを取ることとなってしまった。
いままでは少数のヴィランを多数のヒーローが相手にしていたものが、逆に少数で多くのヴィランを相手取らねばならない状況が多くなったのだ。
これはヒーローたちの能力が低いというわけではなく、ヒーロー社会のシステム的な問題が原因だった。
ヒーローたちは基本的に協力しあうものだが、所属事務所が違うため統一された組織にいるわけではない。
必然、連絡を密に取り合うわけではなく、ヴィランの組織的動きに対して遅れをとることとなってしまったのだった。
事務所同士の交流を計っているところは当然あるものの、ヒーロー事務所が乱立するヒーロー飽和社会でいったいどれほど事務所同士の連携というものを意識していただろうか。
こうしてヴィランによって壊滅した小さなヒーロー事務所やフリーのヒーローのニュースが世間を煽り、多くのヒーローを抱える大手の事務所に期待と負担が寄せられることとなった。
――――東京 保須市
『インゲニウム ヒーロー事務所』
この街一番の規模を誇る、大手のヒーロー事務所だ。
情勢の悪化を受けていち早く
雄英体育祭襲撃事件から一週間と少しばかりしか経っていないが、すでに30名近くの
インゲニウム所属のヒーローたちによるマンパワーによって組織化したヴィランと戦う日々。
今日もヴィランが暴れていると通報があり、『インゲニウム』自ら出陣して指揮を執っていたのだが――――
「嘘だろ……」
人気の無い路地裏。
アスファルトに広がる血溜り。
むせ返るような鉄錆に似た血の匂い。
暴れていたヴィランたちを鎮圧し、その報告のためにインゲニウムを探していた彼が見つけたのは、血を流し、倒れ伏したインゲニウムの姿だった。
致命傷を受けているのは明らかで、速やかに治療を受けねば危険だ。
であるにも関わらず、彼は動くことができなかった。
なぜなら――――
「おまえは、ヴィラン連合の!?」
目の前には、拳を血で濡らした改人・骸無が立っていたのだから。
先日、その脅威を世間に見せつけた改人を前にしてうかつに行動はできない。
彼は震えそうになる声を必死で張り上げて言葉を投げかける。
「インゲニウムさんをやったのはおまえか?」
対して骸無は問いに答えることなく、背を向けて立ち去っていった。
脅威が目の前からいなくなり、ホッとするのも束の間、慌ててインゲニウムを病院へ運ぶ手配をする。
そうして病院へ運ばれたインゲニウムはそのまま緊急手術に移る。
数時間にも及ぶ手術。
その甲斐なく……インゲニウムは死亡した。
そしてその結果は、ちょうど職場体験で兄・インゲニウムの元に来ていた飯田天哉にも知られることとなる。
「兄さんが……ヴィラン連合の改人に殺された!?」
別の場所でパトロールに出ていた飯田は兄の死亡を知らされ愕然とする。
憧れの兄の死亡。
その悲しみにくれた心に次に灯ったのは暗い復讐の炎。
「ヴィラン連合、改人・骸無……おまえは、僕が……殺してやる!」
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――――山梨県 某市 グラントリノ事務所 地下トレーニングルーム
「クソジジイがぁ……ッ!」
「
息も荒く膝をつく爆豪と轟。
「どうした、限界か受精卵小僧ども」
見下ろすのは古豪『グラントリノ』
特別製のトレーニングルームで二人の修行を見ていたグラントリノはフェーズを次に移行することに決めた。
「まぁ、だいぶ基礎もできたことだし、そろそろフェーズ2に移行するとするか」
「フェーズ2? なんでもこいや! 次こそブッ殺してやる!」
グラントリノの言葉に爆豪が吠える。
『やる気は充分。結構、結構。威勢のいい小僧は嫌いじゃねえ』
爆豪の様子にグラントリノはにやりと笑って言う。
「せっかくの職場体験だ。ヴィラン退治くらいやらんともったいないだろう」
「ハッ、上等!」
「ああ、望むところだ」
コスチュームを纏い、ヴィラン退治へ東京へ向かう3人。
偶然か、必然か。
彼らは事件への渦中へと足を踏み入れることとなる。
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「ギャアアア!」
断末魔をあげて倒れ伏す身無。
刃を振るい、改人である身無を斬殺してのけたのは、覆面の男・ステイン。
背中の鞘に刃を収めながら彼は苛立ち気につぶやく。
「ハァ……徒に力を振りまく犯罪者は粛清する……だが、最近はバカが多すぎて困りものだな……ハァ」
ヴィランを殺した彼にまた新たな来客が。
「またおまえか、改人」
音もなく現れた骸無に向き合い、再び柄に手をかけるステイン。
臨戦態勢の彼に骸無はなんの感慨も見せることなく、ただ宣告した。
「あなたは邪魔だ。ここで死ね、“ヴィラン殺し”」
「信念無き操り人形が、俺を殺せるものか!」
拳と刃が交差する。
保須市という舞台に役者たちは集う。
ヒーロー、ヴィラン、第三勢力。
三つ巴の戦いが幕を開く。
遅くなりました。
前作に引き続きインゲニウム(兄)になんの恨みがあるのかって感じの扱いです。
嫌いじゃないんですよ? ただ、好きになるくらい登場してないので……
次回、本編ですが、下手をすれば前半・後半くらいにわけるかも。
あと、お気に入り1000件越えありがとうございます。
これからもごひいきにしてもらえると嬉しいです。
何か記念の閑話でも書いた方がいいのだろうか? ネタを、アイデアが欲しい(泣)