緑谷出久が悪堕ちした話   作:知ったか豆腐

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最終章。


英雄失墜編(バッドエンド最終章)
緑谷出久は○○○○になりました


ーー雄英高校 職員室

 

 普段は教師達が日々の職務を行うその部屋はひどく荒らされ、書類や教科書が無造作に撒き散らされている。

 その場所で、死柄木と骸無は二人きりで向かい合っていた。

 

「話ってのは何だ、骸無。俺はこれでも忙しいんだぜ?」

 

 作戦は既に大詰めで、あとは人質を餌にオールマイトをおびき寄せて血祭りに上げるだけの状況だ。

 そんな大事な時間を、骸無によって呼び付けられた死柄木は苛立ちを隠さずに骸無へぶつける。

 が、死柄木の苛立ちなど気にも留めない様子で骸無は用件をこともなげに言い放った。

 

「うん。悪いね、死柄木クン。でも大事な話が、いや、頼みごとかな? があるんだよ」

「頼み? おまえが? 冗談だろ。付き合ってられないね」

 

 死柄木が呆れた口調で返事をしてさっさと出口へ向かい始める。

 たとえヴィラン連合の最高戦力の一つとはいえ、骸無は一戦闘員にすぎない。

 この大事な局面で一戦闘員の要望など聞いている暇などなかった。

 

 その背に向かって、骸無はとんでもない一言を放つ。

 

「オールマイトを殺す手筈はボクに任せてほしい」

「……なんだと?」

 

 骸無の言葉に思わず死柄木は振り返り、聞き直す。

 その言葉は間違いではなく、骸無はもう一度同じことを告げた。

 

「オールマイトを、平和の象徴を殺す最終段階はボクに任せてほしいと言ってるんだ」

「ハァ? 正気で言ってるのか?」

「正気だよ。ボクにはオールマイトを殺す算段はもうできてるんだ」

 

 オールマイト殺害に自信を持つ骸無に死柄木は不信の目を向ける。

 骸無は確かに対オールマイトを想定して造られた改造人間だ。

 スペックだけならオールマイトを超えることは間違いない。

 

 だが、それだけで勝てるほどオールマイトは甘くはないことを知っている。

 過去の敗北。過去のデータ、経験。

 それらを経て学習を重ね、成長を遂げた死柄木はそう簡単に博打に出るような真似はしない。

 リスクを考え、目的の遂行に最適な手段を採る。

 そんな集団を率いる者として当然の考えを身に着けつつあった死柄木にとって、骸無の提案は受け入れられるものではない。

 

「……そっか。ボクが勝てるか信じられないんだね。そりゃ当然だよね。失敗できないんだから。

 でも、ボクにはまだ誰にも知られていない切り札があるんだ」

「切り札? 何のことだ?」

「それはね――――――」

 

 死柄木の不信を感じ取り、自分の意見を通すために秘密をそっと耳打ちする骸無。

 密かに伝えられた事実は、死柄木を驚かせ、かつ恐怖させるにふさわしい一言だった。

 

「おまえ、本当に? そんなバカな!!」

「本当だよ。証拠をみせようか?」

 

 驚愕に目を見開き、骸無をただただ見つめるしかない死柄木。

 骸無は嗤う。己の力を見せびらかすように、誇るように。

 

 骸無の告げた通りなら、ヴィラン連合に、いや、ヒーローにすら骸無を止められるものはいないだろう。

 つまりそれは骸無がその気になればヴィラン連合を無視して行動に移せるという意味でもあった。

 

「死柄木クン、ボクも手荒なことはしたくないんだ。受け入れてくれないかな?」

「骸無、おまえッ!」

 

 もはや頼みごとの体をした脅迫だった。

 死柄木に選択肢などなく、答えは「Yes」か「はい」のどちらかしかない。

 苦渋の表情に歪む死柄木の決断を促すために、骸無は甘い毒を流し込む。

 

「死柄木クン。これでもボクはキミたちに感謝してるんだ。こうして力を得ることができたのもキミたちのおかげだし。

 だから、今回ボクの好きにさせてくれたなら、今までと変わりなくボクは力を振るうよ。ヴィラン連合のために」

 

 履行の保証などない口約束。

 だが、これは骸無の最大限の譲歩だ。死柄木はそれを信じて受け入れるしかなかった。

 

 こうして、オールマイト抹殺の采配は骸無の手に渡った。

 かつてヒーローに憧れた少年が、嬉々としてNo.1ヒーローの殺害を計画する。

 悲劇だ。悪夢だ。残酷な運命だ。

 

 しかし、もはや止められない結末だった。

 

「骸無。おまえは何のためにこんなことをするんだ?」

 

「ボクは……刻み付けたいんだ。オールマイトを殺すことで、この個性社会に“ボク”という存在を」

 

 

 

        =========

 

『オールマイトに告げる。雄英高校の生徒と教員は我々が預かっている。

 我々はオールマイトとの決闘を要求する。

 場所は雄英高校の大運動場。時刻は明日の正午。一人で来ることだ。

 もし、条件を破るならば人質の命は保証しない』

 

 TVの電波をジャックして犯行声明を出すヴィラン連合。

 画面には気絶した根津校長と磔にされた教師たちが映し出されている。

 

 オールマイトは拳を握りしめ、覚悟を決める。

 

「いいだろう。その挑戦受けてやる。何があろうと、平和の象徴は倒れないことを教えてやる!」

 

 決戦まで、あとわずか。


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