緑谷出久が悪堕ちした話   作:知ったか豆腐

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雄英高校USJ襲撃事件編
緑谷出久は敵堕ちしました


「“無個性”というだけで、いままでしなくてもいい苦労をしてきたんだろう?」

 

 “個性”がないってだけで馬鹿にされてきた。

 

「『“無個性”のくせに』『どうせ“無個性”だから』そんな言葉で皆が君を自然と見下してきたんだね」

 

 “個性”がないってだけで努力を笑われた。

 どんな頑張っても、どんな結果を出しても、“無個性”ってだけで否定された。

 

「“個性”がない、それだけで今の社会は生きていきにくい……“無個性”なのは君が悪いわけでもないのに」

 

 “個性”さえあれば……

 そう、何度思ったことだろう。

 

「もう大丈夫。僕が君に“個性”を上げようじゃないか」

 

 僕は“個性”が欲しかった……

 

 

 

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 ――――雄英高校 ウソの災害事故ルーム 通称“USJ”

 

 ヴィラン連合を名乗る集団に、ヒーロー育成校の名門・雄英高校が襲撃されるという前代未聞の事件。

 警報は無効化され、通信も妨害されて孤立無援の状態で、さらに敵の個性でエリアの各地に生徒が散らされる。

 そんな不利な状況を跳ね返し、オールマイトが駆け付けるまで耐え抜いた雄英の生徒と教師。

 だが……その代償は大きかった。

 その場にいた教師(プロヒーロー)2人、スペースヒーロー「13号」は、自らの力を利用され背に大怪我を負った。

 抹消ヒーロー「イレイザーヘッド」は、右腕の裂傷に加えて全身打撲・骨折の重傷。

 両者ともに意識もなく、戦闘不能である。

 

 

 その惨状を作り出したのは3人。

 ヴィラン連合の首魁・死柄木 弔。

 死柄木のお目付け役にして側近。“ワープゲート”の黒霧。

 そして、対“平和の象徴”改人・骸無(がいむ)

 

 目元を隠す黒いバイザーと口元に金属製のパーツがついた後頭部を覆うヘルメット。額からは2本の飾り角が取り付けられている。

 体は肘・膝・肩の要所を保護するプロテクターがついた強化繊維のジャンプスーツに手足を守るグローブ・ブーツ・レガース。

 黒を基調とした不気味な戦闘服(コスチューム)

 こいつこそが相澤に重傷を負わせた張本人だ。

 

 

「オールマイト、気をつけて。あいつ、相澤先生の個性を受けてもすごい力だったわ」

「先生に個性を消されてたのに、軽々と先生を振り回してブン投げてたんだ。あいつ、素の身体能力も化け物だぜ、オールマイトォ!」

 

 先ほど、死柄木に殺されかけた蛙吹梅雨と峰田実がオールマイトへ自らが知りえた骸無の情報を話す。

 生徒たちの健気な献身にオールマイトは笑みを見せ、

 

「ありがとう。どうやらあのマスクマンがあいつらの切り札のようだね」

 

 2人にお礼を言ってヴィラン連合の主力3人に向き直った。

 

「作戦会議は終わったかな、オールマイト。あんまり待たせるなよ、俺はおまえを早く殺したくて仕方ないんだ」

「わざわざ待っていてくれてるとは、案外律儀じゃあないか。

 さぁて、覚悟はいいか? ヴィランども」

 

 死柄木の言葉に答え、拳をかまえるオールマイト。

 鋭い眼光と共に向けられた戦意から死柄木をかばうように骸無が前に出た。

 

 瞬間。

 局地的な嵐が巻き起こった。

 

“CAROLINA SMASH!!”

“GRAND SMASH!!”

 

 オールマイトのクロスチョップと骸無のストレートパンチがぶつかり合い、轟音と衝撃波をあたりにまき散らした。

 互いの攻撃を相殺した2人はそのまま乱打戦に突入。

 真正面からの殴り合い、ラッシュの速さ比べだ。

 

「おいおい、これ本当に弱ってるのか?」

「くっ、近づけません」

 

 その迫力に、死柄木と黒霧の二人が声を漏らす。

 天候を変えるほどの威力を持った一撃が2人の間で連続で繰り出され、近づくどころか身動きすら取れない。

 

 

『私並のパワー。いや、パワーだけなら私の100%以上か……死柄木(やつ)が自慢する切り札だけはあるな。

 時間制限、力の衰え、未だ未知数の相手の個性……不利ばかりだ。

 だが、それがどうした! 私は平和の象徴!! どんなときでも、負けるわけにはいかないのだ!!』

 

 No.1ヒーローとしての意地で限界以上の力を引き出すオールマイト。

 その気迫は、スペックで勝るはずの骸無を圧倒して、ついに骸無の顔面に一撃をくらわせた。

 

 振りぬく拳。

 

 吹き飛び、地面を転がる骸無。

 

 舞う土埃。

 

 オールマイトの一撃。普通の敵ならばこれで決着がつくだろう。だが……

 

 

「立てよ、骸無。その程度でやられるような身体じゃないだろう」

「……了解。死柄木クン」

 

 何事もなかったかのように立ち上がる骸無。

 戦闘に支障をきたした様子はなく、平然とした姿はまさに化け物のようだった。

 

 ただ、さすがにコスチュームは無事ではなかったようで、金属製のプロテクターはヘコみ、スーツに傷ができていた。

 特に直撃を受けたヘルメットは損傷がひどく、飾り角はへし折れ、左半分が割れて素顔が露わになってしまっている。

 

「なっ、その顔。君はまさか!?」

 

 骸無の素顔に驚くオールマイト。

 それを見て死柄木は笑みを浮かべる。

 

「ハハハ、気が付いたのか。いいなァ。感動のご対面だ。せっかくなんだから挨拶の一つもしてやれよ、骸無」

「…………わかったよ」

 

 死柄木の言葉を受けて、口元の留め具をはずしてヘルメットを脱ぐ。

 色素の抜けた灰色の髪に、そばかすのついた頬。特徴的な緑の瞳は光なく、無表情でオールマイトを見つめている。

 

「緑谷……少年ッ!!」

「……お久しぶりですね、オールマイト。覚えていてくれて嬉しいです」

 

 改人・骸無の正体、それは約1年前に行方不明になった緑谷出久であった。

 

 何故!?

 そんな気持ちを隠せず、動揺するオールマイトに出久は無感動に言葉を返す。

 いま見ているものが信じられないと、オールマイトは言葉を投げかける。

 

「何故だ! あれほどヒーローに憧れていた少年がヴィランになど!」

 

 悲痛な声で叫ぶオールマイト。

 だが、出久は笑みを浮かべ、

 

「ええ、憧れていました。でも、憧れは憧れでしかなかった。“無個性”のボクはヒーローにはなれない。それが現実だったから」

「ッ!……少年」

 

 現実を見たから、だから諦めたんです。

 

 そう告げる出久の言葉に、オールマイトは自責の念を覚え何も言えなくなってしまった。

 確かにあの時、自分は言ったのだ。

 

 

『夢みることは悪いことじゃない。 だが……相応に現実もみなくてはな少年』

 

 

 この言葉が少年を絶望させ悪の道へと引き込んだのなら、これは己の罪だと。

 いまの個性社会で“無個性”がどんな立場になるのか、すぐ予想できただろうに。

 本当は現実を彼自身が一番分かっていたことだろう。分かっていても、それでも縋るようにオールマイト(No.1ヒーロー)に言葉を投げかけてきたのだ。

 そしてオールマイトはそれを振り払った。

 かつて己も無個性であったことを忘れ、冷徹に答えを突きつけたのだ。

 

 それが、あの日、誰よりもヒーローらしく動いて見せた少年の運命を変えてしまったならば……

 

 後悔。罪悪感。

 

 オールマイトの心に重くのしかかり、絶望感がジワジワと体を侵していくようであった。

 

 “平和の象徴”

 

 その偉大なカリスマは、良くも悪くも影響を周りに及ぼす。

 オールマイトの動揺が生徒たちも伝播し、不安で身動きがとれなくなってしまった。。

 

 

 1人を除いて――――

 

「てめええええええぇぇぇ!!!」

「……あぁ、キミか」

 

 雄たけびをあげながら右手の爆発をぶつける爆豪勝己。

 爆破をこともなげに右腕で払いのけて出久は爆豪に視線を向ける。

 

「言ってた通り、雄英高校に入学したんだね」

「ハッ、んなこたあ、どうでもいいんだよ。なんでてめえがここにいるんだァ? クソナード」

「なんで? 頭のいいかっちゃんにしては当たり前のことを聞くね。

 

 そんなの……ボクがヴィランだからに決まってるじゃないか」

 

 

 爆豪の問いに出久は平然と答えた。

 なんの感情も示さないその様子が逆に、爆豪は苛立たせる。

 

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえ! 突然いなくなったと思ったらヴィランだぁ!? いままで何をしてやがった!!?」

「それ、キミにはどうでもいいことだろ? どうして教える必要があるのかな」

「なん……だと……てめえ」

 

 苛立ちをぶつけるように吼える爆豪。

 だが、出久は無感動のまま淡々と返事をするだけだ。

 

「だってそうでしょ? ボクはキミにとって路傍の石っころでしかないって言ってたじゃないか」

「ざけんな! てめえがいなくなって、インコのおばさんがどれだけ心配したか分かってんのか!」

「心配……ハハッ、キミがそれを言うのか。“ワンチャンダイブ”なんて自殺教唆まがいのことを言っておいてさぁ!

 あれって、ヒーロー志望の人間が言うセリフじゃないよね。いまからでもヴィラン(こっち)側に来たらいいんじゃないかな」

 

 口が浅く弧を描き、嘲笑の色を表情に滲ませて言う出久。

 1年前まで格下だと思っていた相手からの挑発に、爆豪の堪忍袋の緒は容易くブチ切れた。

 

「ハッ、何もできない“無個性”のクソナードはパンピーとして過ごしてるのが分相応だってのによぉ、何を勘違いしてヴィランになんかなってやがんだァ、“雑魚で出来損ないのデク”さんよォ」

「デク? ……いま、デクって呼んだな!」

 

 かつてと同じく、罵倒の言葉と蔑称でコンプレックスを刺激する爆豪。

 その言葉に出久の顔に激情の色が灯った。

 

「ボクをその名で呼ぶな! ボクはもう、“無個性”じゃない!!」

 

 憎しみに満ちた目で爆豪をにらみ、怒号を上げる。

 

「そうさ! ボクはもう“無個性”じゃない!

 何もできない木偶の坊、“デク”なんかじゃない!

 ボクは選ばれたんだ! ちょっといい個性を持っている人間とは違う。

 オールマイトみたいなパワー。オールマイトみたいなスピード。オールマイトと同じくらいのスペックの体にたくさんの“個性”があるんだ!」

「ゴチャゴチャと訳の分かんねえことをほざいてんじゃねえ!」

 

 叫ぶ出久に、爆豪が個性を使って攻撃を仕掛けた。

 爆音が響き、もうもうと煙があたりにたちこめる。

 先ほどまでチンピラどもと戦い、身体が温まっていたこともあって爆破の威力はかなりのものとなっていた。

 

「右の大振り。昔から最初の一撃はそれだよね」

「ッ……クソが!」

 

 煙が晴れたときには、左手の手刀を振り切った出久と右腕を押さえてうずくまる爆豪の姿があった。

 爆豪の動きを読んで右腕にカウンターの手刀を当て、攻撃を逸らしたのだ。

 

 出久は痛みに悶える爆豪に歩み寄り、片手で首をつかんで宙に持ち上げた。

 

「さてと。これからさんざん馬鹿にしてた“デク”に殺されるわけだけど、何か言い残すことはあるかな?」

「クソ、クソが! てめえなんぞにやられるか!」

 

 ボボボッ、と、小規模な爆破を持ち上げている出久の右腕にぶつけて抵抗する。

 だが、出久は対“平和の象徴”として造られた改人・骸無。生半可な抵抗ではその拘束を外すことは叶わない。

 

「それじゃ、さよなら。来世では、もうちょっとまともな性格になれるといいね」

 

 出久の左腕が後ろに引かれ、貫手の構えを取った。

 狙いは……心臓。

 

「よすんだ、緑谷少年!」

「おっと、邪魔はさせないぜ。こんな面白いショーはなかなかないんだから」

「オールマイト、あなたには生徒が殺されるのを指をくわえてみていてもらいましょう」

「シット! 君たちに構っている暇はないぞ!」

 

 助けに入ろうとしたオールマイトは、死柄木と黒霧のコンビネーションに邪魔されて間に合わない。

 

 爆豪の命は風前の灯火。

 

「爆豪を離せ! この野郎」

 

 それを助けたのは、爆豪と共に飛ばされていた切島鋭児郎だった。

 『硬化』の個性で拳を堅め、無防備な出久の顔に叩き込んだ。

 

 ガツンと、硬い物がぶつかる音が響く。

 

()ぅ――――」

 

 数瞬後、声を上げたのは殴られた出久ではなく、殴った側の切島だった。

 硬質化した拳にヒビが入り、血が流れ出していた。

 

「硬くなる個性か。いい個性だね。――――ボクのほうが固かったみたいだけど」

 

 そう口にする出久の頬は黒光りする何かに覆われている。

 

 『炭素硬化』

 

 人体の炭素原子の結合度合を変化させ、硬度を変える個性。

 

 それによって、硬度を高めた皮膚を変化させて攻撃を受けたのだ。

 切島はダイヤモンド並みに硬さの物へ拳を叩きつけ、逆にダメージを負ってしまった。

 いくら硬化の個性といえど、ダイヤモンド並みの硬さまでには及ばない。

 

 ついでに言えば、出久は『ショック吸収』の個性も同時に使ってノーダメージ。

 吊り上げられた爆豪の拘束はほどけることはなかった。

 

「邪魔だね。キミは」

「なっ、ヤベえ!」

 

 出久の言葉と共に、突風が吹き荒れて切島を吹き飛ばした。

 

『風力操作』

 

 周囲の空気を操り、風を起こす個性を使い邪魔者を排除する風の結界を作る出久。

 

 だが、風を避けるように地面を這って冷気が出久の左半身を包み込む。

 

「てめぇがどうやらオールマイト殺しの切り札らしいな」

 

 現れたのは、紅白の髪が特徴的な少年。轟焦凍。

 彼の強力な氷結の個性は、特殊な素材の強化戦闘服(コスチューム)すら凍らせて出久の動きを封じたのだった。

 

「いい加減、離せや、コラッ!」

 

 その隙を逃さず、爆破を使って拘束を外す爆豪。

 吹き飛ばされた切島も戻って来たため、半身が凍結された状態で3対1に追い込まれてしまった。

 轟が告げる。

 

「動くなよ。無理に動かそうとすれば体が砕ける。ヴィランとはいえそんなのは見たくねえ」

 

降伏を促すそのセリフに出久は、持って生まれた者の無自覚な驕りを感じて嫌悪に顔を歪めた。

 

「もう勝ったつもり? ずいぶんと自分に自信があるんだね」

 

憎々しげに轟をにらみながら、体の凍結を解除するためにまた新たに個性を使う。

 

「熱吸収/放出」

 熱を吸収し、放出する個性。

 爆豪の爆破による熱を利用し、凍らされた半身を溶かす。

 この程度の氷の拘束では出久の障害にはなりえない。

 

「なに!?」

「また新しい個性かよ。ありえねえ!」

 

 また新たに使われた個性に驚く轟と切島。

 その傍らで、爆豪が警告を発した。

 

「バカ野郎!油断すんな!」

 

 タッ

 

 と、爆豪の声と同時に地を蹴る音が聞こえ、意識を戻した時にはすでに致命的な隙が生まれていた。

 目の前には腕を振り上げる出久がいる。

 

「クソが!」

「チッ、速い……」

「うお!? おおおぉ!」

 

 爆豪は無事な左手で爆破を。

 轟は右足を伝って氷を。

 切島は硬化させた左ストレートを。

 各々のとっさの反応で迎撃に動いていた。

 

 ここで誰一人として防御も回避も選んでいないところは、さすが雄英のヒーロー科。勇敢だ。

 だが、連携も取れていないのでは、ほぼ同時に思える三方向からの攻撃といえど、改造人間となり知覚が強化された出久にはぬるい。

 

 爆豪の腕をつかんで爆破を逸らし、氷は炎熱で融かす。

 切島の攻撃に至っては防御すらなく、真正面から受け止めてみせた。

 1-Aでも高い戦闘力を持つ3人の攻撃は、いとも容易くあしらわれてしまったのだった。

 

「嘘だろ……」

 

 見ていた生徒の一人が思わず漏らした言葉は、その場の生徒全員の代弁に思えた。

 圧倒的な戦闘力の差。

 それを見せつけられて、オールマイトが来たという希望に徐々にヒビが入り始めるのを感じた。

 

 そして、さらに絶望させるような光景が続く。

 

「ガアアアアア!」

「冷てえ!?」

 

 出久に触れていた爆豪と切島の二人が苦悶の声を上げる。

 少し離れてそれを目撃した轟は呆然と言った表情で声を漏らした。

 

「バカな……()()()()()()だと……」

 

 その目に映るのは、腕を()()()にされて倒れる二人の姿だ。

 先ほどの炎の放出と今見せた氷結。

 自らの個性と同じような能力を見せつけられて平静を保てない轟に、出久は告げる。

 

「同じ? 違うよ。氷だけのキミと違って、ボクのは応用を効かせれば熱するも冷やすも両方できるんだ。いわばキミの上位互換ってやつだよ」

 

 見下すような歪んだ優越感に満ちた言葉は、轟の心をえぐる。

 

『俺の炎だけでなく、氷も操れるお前は“俺の上位互換”だ! いずれは俺をも超える最高傑作だ!』

 

 過去、忌み嫌う父親から言われたことが頭にリフレインする。

 “半冷半燃”の己の個性を父への反抗から封じている轟にとって、炎と氷を使う出久は父親の言う通りになった自分の姿に思えてならなかったのだ。

 

「ざけんな! 俺はこの“個性(ちから)”だけで――――」

「遅いよ」

 

 激昂し、氷の個性の最大出力を放とうとする轟だったが、その左腕はすでに出久によって掴まれてしまっていた。

 瞬間、冷気と共に轟の左半身が凍りつき、動きを奪う。

 いや、動きだけではない。自身が耐えられる冷気の限度を超えたため、氷の個性すら封じられてしまった。

 

 轟は無力化されてしまった。

 正確には、左の炎の個性を使えば戦闘に復帰できるだろう。

 だが、父親への対抗意識がぬぐえない轟には、この期に及んでも左を使う決心がつかなかったのだった。

 

 邪魔者がいなくなった出久は、爆豪のもとへ歩き出す。

 倒れ伏した爆豪を見下ろす出久は、嬉しそうに嗤った。

 

「いいざまだね。お似合いだよ、その姿」

「デク……てめえ……グッ!」

「その名前で呼ぶなって言ったら何度分かるの……さッ!」

 

 爆豪の頭を足で踏みにじり怒りをぶつける。

 その表情は憎しみに彩られている。

 痛みと屈辱、そして怒りでうなり声をあげる爆豪。

 

 “New Hampshire SMASH”

 

 このままとどめを刺されるばかり。

 そんな状況を救ったのは、やはりオールマイトであった。

 

 拳の風圧で死柄木と黒霧への牽制としながら、その反動で出久のもとまで移動したのだ。

 空中で反転し、出久に向き合う形となったオールマイトは、勢いのまま掴みかかった。

 

「クッ、離してくださいオールマイト」

「NO! いいや、離さないぞ緑谷少年。私は君に言わねばならないことがある」

 

 両者組み合う形で、出久に語りかけるオールマイト。

 オールマイトは、あの日、出久に言うことができなかった言葉を伝えるつもりであった。

 

「少年、私はあの時、ヘドロのヴィランに立ち向かっていった君の姿に私は動かされた!

 ほかでもない、小心者で“無個性”の君だったから!!!」

「な、なにを言ってるんです!? オールマイト!!」

 

 オールマイトの言葉に、出久は心臓が早鐘を打つのを感じる。

 

「トップヒーローの多くはこう語る『考えるより先に体が動いていた』と! 君も、そうだったんだろう!?」

「あぁ……あああ」

 

 忘れていた何かを思い出すような。

 ずっと欲しかった言葉を。

 

「あの日、私は君に伝えたかったんだ。

 

『君はヒーローになれる』」

「う、うわあああぁぁぁ!!」

 

 オールマイトの言葉を受けて叫び、その腕を跳ね除けて飛び退る。

 その言葉は出久の心をぐちゃぐちゃにかき回し、狂乱状態へと導いた。

 

「僕がヒーローに? でも僕なんかじゃ分不相応で……だからボクは諦めたんだ。そんなボクを“先生”は選んでくれた……だから、その恩返しをボクは……でも僕は、僕は本当はヒーローに……僕は……ボクは――――」

 

 頭を抱え、うわ言のようにブツブツとつぶやく出久。

 死柄木はその姿にイライラした口調で文句を言う。

 

「チッ、こんな肝心な時にバグりやがった。ふざけんな!」

「落ち着いてください、死柄木弔。まだ、骸無がやられたわけではありません」

「適当なこと言うなよ、黒霧ィ。アレがまだ使えるように見えるのかよ!」

 

 ガリガリと首をかきむしりながら苛立つ死柄木を黒霧は何とかなだめようとする。

 思い通りに進まないことに腹を立てる様子はまるで子供だ。

 

 子供の癇癪など、それで事態が好転することなどほぼない。

 そんな死柄木の態度が招いたわけではないだろうが、ヴィラン連合にとって最悪の状況が訪れた。

 

「ごめんよ皆。遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めてきた」

 

 玄関の扉が開かれ、校長の独特な高い声が響く。

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉! ただいま戻りました!!」

 

 委員長飯田が増援の知らせを告げ、雄英教師のヒーローたちが姿を現した。

 形勢逆転。

 追いつめられたのはヴィラン連合だ。

 

「あーあ、来ちゃったな……ゲームオーバーだ。帰って出直すぞ、黒霧、骸無」

 

 死柄木に反応して出久がヒーローの攻撃を防ぎながらワープゲートをくぐる。

 

「待つんだ、緑谷少年! くぅ、こんな時に制限時間が!」

 

 オールマイトの必死の呼びかけにも、出久は答えることなくワープゲートへ消えていく。

 

 

 ヴィラン連合の幹部の撤退により、雄英高校USJ襲撃事件は幕を閉じた。

 

 この事件は、ヴィラン連合が起こした最初の事件として――――

 

 そして、行方不明になっていた緑谷出久が(ヴィラン)堕ちしたことが確認された事件として記録された。




原作主人公を(文字通り)改造したらすごいことになった。
プロット初期にはなかった、個性とか、どうしてこうなった。

ちなみに、緑谷くんはまた改造される予定です!

次回もお楽しみください。

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