ヤンデレな彼女達   作:ネム男

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今回はちょっと長めです。


私はずっとあなたの味方です

 ♪~♪~♪

 

 「……ん」

 

 スマホのアラームが五月蝿く鳴り響く。俺はけだるい体を起こして、スマホのアラームを止めた。

 

 「はぁ……飯の準備しよ」

 

 

 俺は柿原 雅人、高校2年生だ。両親はすでに他界していて今は1人で生活している。食事から家事全般、学費を払うためにアルバイトをしたりなど色々と忙しい日々だ。だかそんな忙しい俺にも……

 

 ピーンポーン

 

 「先輩!おはようございます!」

 

 1個下の彼女がいる。

 

 黒髪のショートヘアーに150cmの小柄な身長。彼女の名は杉村 真央。俺の後輩であり、いつも家事を手伝ってくれている。

 

 「何時もすまないな。真央」

 

 「何言ってるんですか!私が好きでやってることなんですし、大好きな先輩のためなら私頑張ります!」

 

 「真央……ありがとな」

 

 俺はお礼を言って、真央の頭を優しく撫でた。

 

 「えへへ……やっぱり先輩のなでなではいいです……///」

 

 「よし、じゃあ準備しますか」

 

 「はい!」

 

 通学路--

 

 「それでですね先輩。やっぱり先輩の生活を手伝う以上、同居することも考えた方がいいかと」

 

 「いや……さすがにそれはできねぇよ」

 

 「なんでですか!私と先輩の仲なんですよ!?」

 

 「アホか。そしたらお前とお前の親に迷惑がかかるだろうが」

 

 「……先輩、そこの所真面目ですよね~」

 

 「真面目も何も、ちゃんとしないといけないことだろうが」

 

 「むぅ……私はいつでも準備できてますよ?」

 

 「はいはい」

 

 いつも俺は真央と2人で学校へ登校している。去年までは色々とひとりで全部やっていたため、疲れが溜まった状態で登校していた。しかし彼女が家事のことを手伝ってくれているおかげで前よりも健康な状態で学校に行く事が出来ている。

 

 そして学校の目の前まで来ると急に黒色のリムジンカーが校門の目の前で止まった。

 

 「おぉ、見ろ。あの人だぞ」

 

 「わぁ……お嬢様だ……」

 

 ちょうどそこにいた何人かの生徒がざわつき始める。黒色のリムジンカーから出てきた長い銀髪を靡かせているその少女に周りの者は惹かれていた。ちょうど俺はその少女と目が合ってしまう。

 

 「あら、おはよう。雅人君」

 

 「あぁ。おはよう」

 

 お互いに挨拶を交わし、彼女は微笑みながら校舎へと歩いていった。

 

 「ちょっと先輩?誰ですかあの人?名前で呼ばれてましたけど?」

 

 「あぁ。同じクラスの佐原さんだよ。あの人はあの佐原財閥の娘なんだ。まぁ要するにお嬢様ってこと」

 

 「ふぇ~……先輩のクラスにあんな美人が……」

 

 真央は目を丸くして驚いていた。

 スラリとした背丈に綺麗な銀髪のロングヘアー、彼女は佐原 アリサ。俺と同年代にして佐原財閥のお嬢様。勉学はもちろんのこと、運動や料理、何から何まで完璧にこなしてしまう人だ。

 

 「……先輩を、取られないようにしないと……」

 

 「ん?どうした、真央」

 

 「何でもないです!はやくいきましょ?」

 

 「そうだな」

 

 

 ------

 

 

 放課後--

 

 「先輩、本当に大丈夫ですか?私が行かなくても平気ですか?」

 

 今日も1日が終わり、帰宅するところを真央に止められている。

 

 「大丈夫だよ。真央は部活頑張ってきな」

 

 「でも……」

 

 真央はテニス部に所属しており、夜に俺の手伝いができないという事で心配してくれている。

 

 「心配すんな。前までは俺が全部やってたんだから。朝だけでもお前が手伝ってくれるだけで俺は本当に嬉しいからさ」

 

 「先輩……わかりました。じゃあ部活に行ってきます。絶対に無理しないでくださいね!なんか困った時とか、寂しくなったら遠慮なく言ってくださいね!」

 

 そう言い残して真央は活動場所であるテニスコートに向かって走って行った。

 さて、今日は商店街で買出しの日だったな……早速向かうとしよう。

 

 

 1時間後

 商店街にて--

 

 「ふぅ……買った買った」

 

 俺はスーパーで食品や日常用品など色々と買って、帰宅している。すると、とある光景に目がいった。

 

 「なぁ嬢ちゃん、俺達と今から楽しいことしない?」

 

 「俺達がおごるからよ。一緒に付いて来てくれないか?」

 

 「あら、楽しいこととは?」

 

 人通りの少ない所で女の子が3人のヤンキー集団に絡まれていた。今時こんな馬鹿なことするやつもいるんだな……

 

 「まぁまぁ。それは後でのお楽しみってことで……」

 

 「キャッ!」

 

 女の子が1人のヤンキーに腕を掴まれ、強引に連れていこうとする。

 さすがに見て見ぬ振りはできないな……

 

 「おい」

 

 「あぁん?」

 

 俺は女の子を助けようと、ヤンキー達に声をかけた。

 

 「彼女嫌がってるだろ?やめたらどうだ」

 

 「ほうー、今の時代にヒーロー気取りか?」

 

 「ぶっは!マジで!?ちょーウケるんだけど!ギャハハハハ!」

 

 「お前みたいなガキはさっさと帰って、お子様が見るアニメでも見てな」

 

 ヤンキー達は大笑いして、俺をバカにしてくる。まぁ、そうなるだろうな。

 

 「はぁ……いいから、さっさとその子を離せよ」

 

 「ちっ、うるせぇな。てめぇ、俺達に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇか」

 

 「よほど怪我したいっぽい?」

 

 「じゃあ正義の味方らしく、俺達を倒してみろよ!ギャハハハハ!」

 

 ヤンキー達は拳をゴキゴキ鳴らしながら俺を挑発する。

 

 

 「……へぇー、いいんだ。じゃあ……」

 

 「あ?」

 

 

 「骨の1、2本くらい、折れても文句言わねぇよな……?」

 

 

 と俺はヤンキー達を睨みつける。

 

 「ひっ……」

 

 「おいどうした、かかって来いよ。来ないなら……俺から行くぞ?」

 

 拳の骨をパキパキっと鳴らす。

 

 「ちっ……いくぞ!」

 

 「お、おう!」

 

 ヤンキー達は何もせずにその場を立ち去った。ヘタレな野郎達だ……

 

 「ふぅ……大丈夫?」

 

 「ええ、ありがとうございます」

 

 「って、あれ?佐原さん!?」

 

 「はい、佐原です。雅人君」

 

 驚いた。さっきはヤンキー達に囲まれていてよく姿は見えなかったが絡まれていたのは佐原さんだったのか。

 

 「なんでこんな所に?」

 

 「ちょっと暇だったから色々と店を回ろうと」

 

 「こんな所で暇潰すなんて……佐原さんに似合うような店なんてここにはないぜ?」

 

 「そうでもありませんよ?私はキラキラした高級感がある所よりこういうちょっと落ち着いた感じの所が好きなので……」

 

 「な、なるほどなぁ……」

 

 財閥のお嬢様なのに、佐原さん自身は意外とこういう所の方が好きなのか?

 

 「お嬢様!探しましたよお嬢様!」

 

 すると執事姿のガタイのいい爺さんが走ってきた。

 

 「困りますお嬢様!勝手に外へ出かけられるなど!もう帰宅時間を30分過ぎています!」

 

 「あら、もうそんな時間?」

 

 「まったく……申しわけない。お嬢様がご迷惑をおかけして」

 

 執事の爺さんは深々と頭を下げる。

 

 「い、いえ。大丈夫ですよ」

 

 「そうですか……では行きますよ。お嬢様」

 

 「ええ。今日はありがとう雅人くん。また明日ね」

 

 そして佐原さんは執事の人と一緒に去っていった。

 

 ------

 

 翌日--

 

 

 四時間目の授業が終わり昼休みに突入。俺はバックから弁当を取り出して友人の元へ行こうとすると、

 

 「雅人くん。たまには私と一緒にお昼を過ごしませんか?」

 

 佐原さんから誘われてしまう。

 

 「昨日のお礼も兼ねてあなたのためにお弁当を作ってきたのです。食べてくれませんか?」

 

 と言って、佐原さんは三段に重なった弁当箱を持ってくる。既に自分の分は用意してあるし、どうしようか……

 

 「げ!弁当忘れた!あっ、金もねぇ……昼飯どうしよう……」

 

 どうやら1人の友人が弁当を家に忘れて落ち込んでいる。ちょうどいい。俺の弁当をあいつにあげよう。

 

 「俺の弁当いるか?」

 

 「えっ、いいのか!でもお前は……」

 

 「俺は大丈夫だよ。佐原さんからご馳走になるから。ほら」

 

 弁当をちょっと強引に友人に渡す。

 

 「おぉ……心の友よぉぉ……ありがとな!雅人!」

 

 友人は俺の弁当を持って教室を出て行った。さて、問題は解決したし、これで安心して佐原さんの弁当が食べれるぞ。

 

 「さぁ、行きましょうか」

 

 「えっ?ここで食べないの?」

 

 「いい場所があるのです。ついてきてください」

 

 とりあえず俺は佐原さんについて行くことにし、教室を出る。

 向かった先は図書室にあるフリールームだった。ここの学校の図書室は交流を深める目的で作られたフリールームという場所があり、ここで食事をとったり遊んだりなど名前の通り自由に使っていい場所がある。静かな音楽が流れており、とても落ち着ける場所だ。ただ生徒は学年ごとに使える日が分かれており、週に一回しか使えない。今日は生徒達は使えない日のはずだが……

 

 「先生にお願いして、貸切にしてもらいました。安心してゆっくり過ごせますよ」

 

 さすが学年トップの優等生。ほかの生徒達はそんな事を頼んでも許してはもらえないだろう。優等生である佐原さんの頼みだから許可してもらえたのだろう。

 

 「なんかすまねぇな。わざわざ昼飯や場所までとってもらえて」

 

 「いえいえ。あなたが満足してくれれば、私はそれで充分ですよ」

 

 さすがお嬢様。感謝の気持ちしかございません。

 

 「お腹がすいているでしょう?さぁ、どうぞ。存分にお食べください」

 

 三段に重なっている弁当箱をテーブルにそれぞれ分けて置いて蓋を開ける。中身は高級感満載のおかずが入っていた。

 

 「おおっ、美味しそうだなぁ」

 

 「ふふっ♪これ全部、私が作ったのですよ?」

 

 「えっ!?マジでか!」

 

 なんということだ。こんな量をひとりで作ったのか。さすが佐原さん。本当にひとりで何でもできるんだなぁと思った。

 

 「これ、全部俺のために?」

 

 「はい♪一生懸命作りました」

 

 昨日ちょっと助けただけでここまでしてくれるとは……

 

 「ありがとな。じゃあ、いただきます」

 

 俺は箸をとって一番の好物、唐揚げを口に入れる。

 

 「……うめぇ」

 

 「……!良かった……」

 

 「すげぇうまいよ!……これも!……あっ、これもうめぇ!」

 

 佐原さんの料理の腕は完全に俺を越していた。どのおかずもよく出来ており、どれも美味しい。バクバクと食べる俺を佐原さんは満足そうに見つめていた。

 

 「佐原さんも食べなよ。こんな量俺1人じゃ食いきれないよ?」

 

 「えぇ。いただきます」

 

 そして3箱あった弁当箱を2人で完食し、その後は昼休みが終わるまで、2人で色々な話をして過ごした。

 

 佐原さんは友達が居なかった。財閥のお嬢様だからだろうか。その高貴な雰囲気からほかの人たちからは近寄り難く、無意識に避けられていた。昼休みはいつもひとりで読書していたのをよく見かけた。でも俺はそんな近寄り難いことなど気にしなかった。

 

 「おっ!その本、佐原さんも読んでるのか」

 

 「……え?」

 

 これが俺と佐原さんの最初の会話だった。その時は席替えで隣同士だったため、交流を深めようと佐原さんに話しかけたのがきっかけだ。話しかけられた佐原さんは驚いた顔をしていたのをよく覚えている。

 それ以来、俺と佐原さんは本の話や世間話などをして次第に打ち解けていった。佐原さんも前より笑顔になることが増えて、今では俺にとって大切な友人だ。

 

 

 

 

(あぁ……雅人くんが喜んでいる……頑張ったかいがありました)

 

 

 

(もっと頑張れば、雅人くんに振り向いてもらえる……もっと私を求めてくれる……)

 

 

 

(……どうしたら、あなたは私の物になるんでしょうか……)

 

 

 

(雅人くんの全てが欲しい……大好きなあなたを独占したい……ずっと2人っきりで幸せに過ごしたい……)

 

 

 

(どうすれば……)

 

 

 

 

 放課後。俺は帰宅しようとするところを佐原さんに止められ、

 

 「家まで送っていきますよ?」

 

 と言われた。さすがにそこまでしてもらうのは悪いので俺は丁重に断った。

 

 「そんな遠慮しなくてもいいのですよ?」

 

 「いや、本当に大丈夫だよ。今日は色々とありがとうな」

 

 そう言って、この場から立ち去ろうとする。

 

 「せーんぱいっ!」

 

 すると背後から声がして、振り返るとそこには真央の姿があった。

 

 「あれ?お前今日部活は?」

 

 「今日は休みです!だから先輩と一緒に帰れますよ!ささ、行きましょう!」

 

 と強引に手を繋いでくる真央。

 

 「わかったから、そんなに慌てるんじゃない」

 

 「えへへ~♪」

 

 「………」

 

(誰なんでしょう、あの女……そういえば、今朝も一緒に登校していましたね……)

 

 その光景を後ろでまじかに見ていた佐原さんは何を思っていたのかは知る由もない。

 

 

 ------

 

『ごめんなさい!><今日は私が朝練の当番なので家に来ることができません。本当にごめんなさい(´;ω;`)夜はちゃんと来ますからね!先輩、大好き(*´ω`*)』

 

 翌日。朝起きるとケータイに1着の着信メールがあった。それは真央からのメールで今朝は来れないという内容だった。仕方が無い。今日の朝食は食パン2枚でやり過ごそう。

 

 

 学校へ行くと、周りの生徒達が俺を見てなにやらヒソヒソと話している。まるで汚物を見ているような痛い視線が周りから突き刺さる。俺、何かしたっけな……

 

 「あ、おい!雅人!」

 

 「おう。おはよう……ってどうしたんだよ?」

 

 校舎内に入ると1人の友人が血相を変えてこちらに来る。

 

 「どうしたって!お前あれ本当なのか!?」

 

 「あれってなにが?」

 

 「いいから来い!」

 

 友人は俺の腕を力強くつかんで引っ張りながら階段を登る。2年生の教室がある2階に辿り着くと、掲示板に生徒が集まっていた。

 

 「なっ……!」

 

 掲示板に貼られていたのは大きな1枚の写真。その写真の内容は、セーラー服を着ている女子中学生が目隠しをされており、口には猿轡をかませられ腕を縄で縛られた状態で男に犯されている。

 

 そしてその男の顔は、俺の顔であった。

 

 「な、なんだよこれ!」

 

 俺はその写真を剥がした。よく見ると顔の部分だけ合成されている。当たり前だ。俺はこんな事をした覚えはない。

 

 「見て……あの人よ。まさかあんな趣味があったなんて……」

 

 「マジキモイんですけど……」

 

 「中学生を犯すなんて、変態だな……」

 

 周りからはザワザワと俺を軽蔑するような感じの声が聞こえる。

 

 「違う!俺はこんなことやっていない!本当だ!」

 

 「嘘つかないでよ!だったらこの写真はなんなのよ!?」

 

 俺が否定すると、1人の女子がそう言ってくる。

 

 「合成に決まってるだろ!誰だよ!?こんなイタズラしたやつ!出てこい!ぶっ殺してやる!!」

 

 俺は完全に頭に血が上っていた。冷静さを失い、このどうしようもない怒りを周りにぶつけていた。

 

 「うわ、殺すだって……やっぱり犯罪者は違うねぇ……」

 

 「絶対あいつが犯人だよ……」

 

 しかし周りからはさらに軽蔑の声が上がり、説得するのがさらに難しくなった。

 

 「さっさと刑務所に行けよ犯罪者!」

 

 「なんだと……」

 

 1人の男子生徒がそう声を上げると、その声の主の胸ぐらをつかむ。

 

 「ひっ……ついに本性を出しやがったな!やっぱりお前が犯人だ!」

 

 「てめぇ……っ!」

 

 そしてそいつを殴ろうと右拳を振りかざそうとすると……

 

 「やめんか」

 

 生徒指導部の先生に右肩を掴まれる。俺はハッと我に返って、掴んでいた相手の胸ぐらを離す。

 

 「柿原。お前、これはどういう事だ」

 

 「違うんです!俺はこんなことしていません!」

 

 「詳しくは指導室で話を聞こうじゃないか。ほら来い」

 

 先生に肩をグイっと力強く寄せられる。後ろをチラッと見ると、集まった生徒達は相変わらず蔑んだ目や軽蔑の目で見られている。

 

 「………」

 

 「あっ……」

 

 するとその集団にいた真央と目が合ってしまう。

 

 「違うんだ……本当に俺じゃない……」

 

 「……っ」

 

 しかし真央は目をそらして走り去っていってしまった。

 

 「はやくしろ!」

 

 「そんな……真央……」

 

 一番信頼していた真央に見捨てられてしまった。考えてみればあんな写真が出た後じゃ関わりたくはないだろう。誰もがそう思う。別におかしいことじゃない。だけど俺は結構悲しくなった。

 

 結局今朝の出来事は俺の無実で終わった。俺は何度も何度も否定したが先生達からはあまり信じてもらえなかったが、写真を詳しく調べると合成だと発覚し、柿原雅人へのたちの悪いイタズラだという事になった。

 だが、あんな事が起きた後だ。いつも通りの生活が戻ることなどないだろう。

 取り調べが終わったのは2時間目がちょうど終わったところだ。俺は3時間目から授業を受けるため、教室に戻る。

 

 「おっ!来ました!変態犯罪者、柿原君!」

 

 自分のクラスの教室の引き戸を開けるとクラスのやんちゃ者の1人の男子がそう言った。俺が戻ってきたことにより、ヒソヒソと陰口を言う者や、警戒している者もいる。無実が証明されたのはつい先程だ。まだ他のみんなが知る訳がないだろうし、俺の口から無実だと訴えても信じてもらえないだろう。何言われようと我慢することにした。

 

 「あれれ~?無視っすか?やっぱ格が違いますねぇ~」

 

 ケラケラとやんちゃ者の男子集団は笑う。無視だ無視。あんなのは気にする必要は無い。

 

 「……チッ」

 

 自分の机の上にはマジックで書かれた落書き。椅子には画鋲がぎっしりと針を上にして乗せられている。小学生のいじめかよ……と呆れながら椅子の上に乗っている画鋲を回収しようとすると

 

 「あっ!手が滑ったぁ~」

 

 「ッ!」

 

 1人の男子が俺の背中を力強く押す。咄嗟に反応し、俺は上半身を守ろうと片腕を椅子の上に置く形になった。画鋲が何本か片腕に突き刺さる。

 

 「ごめんごめん~、大丈夫かい?ありゃあ血が出ちゃってるよぉ。こりゃ大変だぁ~」

 

 周りの者はケラケラと笑う。……ぶっちゃけ俺1人でこいつら全員再起不能になるまで叩きのめすことはできるが、感情的になったらそれこそあいつらの思うつぼ。下手に反応しないように我慢する。とりあえず腕に刺さっている画鋲を取る。

 

 「……チッ、つまんねぇ……」

 

 「面白くないぞ犯罪者~。今朝みたいに怒らないのかぁ~?ほらほら、胸ぐら掴んでみろよ!ガッと!」

 

 野次馬共の五月蝿い声がするが気にしない。実力は圧倒的にこちらが上なのだから。試しにやんちゃ共を睨みつけて威嚇してみる。

 

 「ひっ……お、おおう!?やる気かぁ!?かかってこいよぉ!?ほらほらぁ!!」

 

 手と足が震えているのが分かる。やはりただのヘタレみたいだ。俺はそいつらを無視して回収した画鋲を元々あった箱に戻す。教室を出て傷口を軽く洗い、濡らした雑巾で落書きを消す作業を行う。

 

 「む?これはこれは……みんな見てくれ!」

 

 メガネ男子が声を上げる。俺は声の主の方を向くと1枚の写真を見せびらかしている。

 

 「てめぇ……なんでそれを……!」

 

 その写真は学ラン姿に、その上から『絶対王者』赤い文字で大きく書かれた白い上着を着ている俺の姿……当時ヤンチャしていた時の写真だった。

 

 中学の頃に両親を失った俺は見事にグレてしまい、喧嘩に明け暮れる日々で片っ端から1人でヤンキー団体をぶちのめし、舎弟を作って団体を作りながら別のヤンキー集団をぶちのめす。遂には番長になってでも先陣を切って数々のヤンキー集団をぶちのめし、さらに舎弟を増やしていった。

 

 「元はお前番長だろ?何がきっかけで更生したのかは知らんが、これが出回れば先生達がだまってないな?」

 

 クソが……俺の過去まで引っ張ってくるとは……そもそもあのメガネ野郎は俺と同じ出身の中学校ではないはず。なんで他校出身のやつがそんな写真持ってるんだ?一体どうやって手に入れた?

 

 「なぁに、僕もそこまでゲスじゃない。この写真1枚で君の行動は制限されるからね。大切に保管しておくよ。ふふふ」

 

 写真をポケットにしまい、ゲスな顔で微笑むメガネ男子。もう俺はこのクラスでの立場がない。味方してくれる奴もいないだろう……

 

 

 また、1人になってしまった。

 

 

 「授業だぞ!席につけー!」

 

 授業開始のチャイムが鳴り、生徒達は自分の席に座る。

 

 「授業の前に、今朝のことだがあの写真は合成であることがわかり、柿原は無実だ。誰の仕業かは知らないがこれは悪質なイジメだ。イジメは絶対に許してはならない----」

 

 その後、先生は4時間目の授業が緊急全校集会になることと、これからの事を厳重注意して授業が始まった。無実と知ったやんちゃ者の男子達や例の写真を見せびらかしたメガネ男子は表情に焦りが出ていた。俺がそいつらを睨みつけると、ビクッと怯える。どうやらさっきみたいな事はもう起きる事はないと思った。完全に俺に怯えてしまっているからである。

 

 授業が終わり、生徒達が集会場所である体育館へ移動する。先生に集会が終わるまで指導室で待機していてくれと言われたが体調が優れないことと、精神的なダメージを訴えて早退しても良いかと訪ねた。先生は渋々了承し、俺は学校から自宅へ帰宅した。

 

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 帰宅後、着替えもせずに自分の部屋のベッドに寝転がった。

 

(どうして……こうなっちまったんだろうな……)

 

 何も無い天井を見つめて、そう思った。いくら無実が証明されたからって、俺の人間関係は完全に壊れてしまっただろう。また孤独に戻ってしまった。

 

 ふと真央の顔を思い浮かべてしまう。すると何故か色々と昔のことを徐々に思い出していった。

 先輩!と笑顔で呼びかけてくれる真央。

 ケチですね。とちょっとムスッとした顔で言う真央。

 あはははっ!先輩!これ面白いですよ!と爆笑する真央。

 そして……

 

 

 

 「やめてください……」

 

 「おお?なんだ嬢ちゃん。いいじゃないか俺達と楽しいことしようぜ?」

 

 夜の暗い通路。ある1人の女子中学生が5人組のヤンキー達にからまれていた。

 

 「きゃっ!やめて!離して!」

 

 「へへへへっ」

 

 そしてその長である1人の大男が女子の腕をつかみ、連れていこうとする。

 

 「おい」

 

 すると大男の背後からまた別の男の声がする。

 

 「あぁん?なんだてめ--」

 

 「ふんっ!」

 

 大男の背後にいた学ラン姿の男は右拳で振り向いた大男の顔面を殴る。

 

 「ひぎゃっ!」

 

 「お、親方ぁ!」

 

 ほかの4人が喧嘩の構えに入る。

 

 「こ、こいつ……やっちまえぇぇ!」

 

 

 …………

 

 

 「す、すいませんしたぁー!!」

 

 コテンパンにやられたヤンキー達はその場から逃げるように去っていった。

 

 「ふぅ……大丈夫か?」

 

 「はい……ありがとう、ございます」

 

 

 これは俺が真央と最初に出会ったことである。これを思い出した時には、俺はいつの間にか眠っていたのであった。

 

 

 

 ………………

 

 

 

 「……ん」

 

 ふと目が覚める。体を起こして時計を見ると既に19:00を過ぎていた。帰ってきたのが確か12:10分くらいですぐ寝てしまったから約7時間程寝ていたことになる。こりゃ夜は寝れないな……

 とりあえず夕飯の準備をしようと部屋から出てリビングにあるキッチンへ向かう。するとインターホンが鳴った。この時間帯に俺の家に来る奴はあいつしかいないだろう。俺は玄関の扉を開けた。

 

 「こんばんは、先輩」

 

 「真央……」

 

 もう今日は誰にも会いたくない気分であった。2人の間に気まずい空気が流れる。

 

 「夕食、作りに来ましたよ?」

 

 「悪い。もう済ませたから、帰ってくれ」

 

 真央に帰宅するよう要求する。

 

 「先輩……」

 

 「……ごめん。しばらくひとりでいたいんだ。じゃあな」

 

 そう言って俺は玄関の扉を閉めようとすると

 

 「……嫌です」

 

 真央は扉を掴んで閉めようとするのを阻止する。

 

 「なにしてるんだよ。いいからさっさと帰れよ」

 

 「嫌です!帰りません!」

 

 「なっ……」

 

 どうやら帰るつもりは毛頭ないみたいだ。

 

 「なんだよ!ひとりにさせてくれって言ってるだろうが!さっさと帰ってくれよ!」

 

 「今の先輩はそんな事言っても説得力ありません!」

 

 「はあ!?なんでたよ」

 

 

 「だって先輩……今にも泣きそうな顔してるじゃないですか……」

 

 真央は目に涙を浮かべた表情でそう言ってきた。

 

 「な……」

 

 「先輩の思ってる事はだいたいわかります。何年先輩の隣にいたと思ってるんですか。先輩は優しいから今朝の事件のことで私に迷惑がかからないようにわざと避けているんですよね?」

 

 「………」

 

 何か言い返そうとするが言葉が浮かばない。

 

 「今の先輩は初めてあった時と同じ、寂しい顔をしてますよ。そんな顔で帰れって言われても私は帰りません!先輩の隣にいます!」

 

 真央は真面目な表情でそう言ってきた。

 

 「………」

 

 「例え先輩の周りの人達が先輩の事を否定したり、避けたりしても私は先輩の傍に居ます。だから、そんな顔をしないでくださいよ……」

 

 「……真央」

 

 完全に嫌われたと思っていた。だけどそれはただの思い込みだったみたいだ。真央はちゃんと俺の所に来てくれた。

 初めて会った時と同じように、俺が離れようとすると付いて来る。何回避けてもそれと同じ、いや、それ以上の回数で付いて来てくる。真央のしつこさは4年間一緒にいたから嫌というほど分かっていた。

 涙が出そうになるがググッと堪える。

 

 「……ありがとな。真央」

 

 ありがとう。とそれしか言葉が見つからなかった。そして優しく真央の頭を撫でる。

 

 「えへへ///」

 

 いつもの可愛い笑顔になる真央。そして気まずい雰囲気は無くなり、いつもの心地よい雰囲気に戻っていた。

 

 「とりあえず上がれよ。一緒に飯食おうぜ」

 

 「はい!そうです……ね……?」

 

 真央はなんとなく西側の方向を向くと、すぐ近くにある電柱をじっと見つめていた。

 

 「どうした?」

 

 「……いえ、何か誰かに見られていたような気がして……」

 

 覗きかストーカーだろうか?俺は真央が気になっている電柱に近づいた。

 当然そこには誰もいない。付近を見回してみるが歩行者は見当たらず、野良犬や野良猫の気配もない。

 

 「気のせいじゃないのか?」

 

 「うーん……なにか視線を感じてたんですけどねぇ~……気のせいみたいですね」

 

 「心配ならお前が帰るときに家まで送って行くよ」

 

 「はい。ありがとうございます♪」

 

 最近この市内で殺人事件やストーカー事件が起こり始めたから用心しなければならないなと思いながら、俺は真央と一緒に自宅へと戻った。

 

 ------

 

 翌日--

 p.m.16:20

 

 「じゃあ先輩!部活行ってきますね!」

 

 「おう。行ってらしゃい」

 

 事件から一晩経ち、今日は無事学校生活を送ることが出来るのだろうかと不安であったが、特に何事も起こることなく過ごすことができ……

 

 「コラァ!雅人!お前昨日の宿題出してないだろ!」

 

 なかったみたいだ。何故か機嫌が悪い国語の先生に呼び止められる。そういえば昨日提出の宿題があったのだが、俺は早退していたため提出することが出来なかった。しかも2年生担当の国語の先生は宿題に関しては本当に五月蝿い。提出しないとその日の放課後までに提出するまで居残りさせられてしまう。

 そして、俺は昨日やっておいたはずの宿題を家に忘れてしまっていた……

 

 「はぁ……」

 

 もちろん居残り☆

 嫌々ながらなんとか宿題を終わらせて、国語の先生に提出し、時刻は既に17時を過ぎていた。

 そうだ。ついでに頑張っている真央の姿を見に行くとしよう。俺は手ぶらで昇降口にある靴箱に向かい、靴を履いてテニスコートへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は、人生でいちばん最悪な出来事を目の当たりにしてしまうなど、この時は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「確かこれが好きだったよな……」

 

 俺はテニスコートへと向かう前に自動販売機へと足を運んだ。いつも頑張ってる真央にジュースでも奢ってやろうと思ったからである。

 真央が飲み物の中で一番好きな炭酸飲料を買った。そしていざ真央の元へ向かおうとすると……

 

 「キャーーー!!」

 

 女子生徒の悲鳴があがる。それはテニスコートの方から聞こえてきた。まさか何かあったんじゃないかと俺は片手にジュースを持って走った。

 

 悲鳴がした場所に到着すると、体育倉庫の前に腰を抜かして座っている1人の女子生徒がいた。倉庫の扉が開いており、その中を青ざめた表情で見ている。俺は倉庫の中に何があるのかが気になり、中を覗いた。

 

 

 

 

 

 

 「………は?……嘘……だろ……?」

 

 

 

 

 

 

 それは信じられない光景であった。

 

 

 

 中にいたのは1人のユニフォーム姿の少女。

 

 

 

 

 だがその少女は内蔵が抉られており、五寸釘で両手両足を串刺しにされて壁に貼り付けられていた、真央の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ……あ……」

 

 

 目の前の光景が信じられなかった

 

 

 なんでこうなったんだ?

 

 

 どうして真央がこんな目に会わなきゃいけないんだ?

 

 

 どうしんて殺されたんだ?

 

 

 変わり果てた真央の姿

 

 

 生臭い匂いが充満した倉庫

 

 

 だんだんと思考が崩レテイク

 

 

 心臓の鼓動ガだんだんとはやくなる

 

 

 いきがだんだんとあらくなる

 

 

 あたまがくらくらする

 

 

 きぶんがわるくなって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 俺は全力で走った。

 その場から一刻も早く立ち去りたかった。

 あの光景は夢だ。

 真央が死ぬはずがない。

 あいつが死ぬなんてありえない。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 これは夢。全部夢--

 

 「あがっ……!」

 

 足首を捻ってバランスが取れなくなり、物凄い勢いでこけてしまう。

 捻った左足首がズキズキ痛むがあまり痛みは感じなかった。

 

 「まお……まおぉ……」

 

 最愛の人を突然失った痛みの方が大きいからだ。俺は足首の痛みを気にせずに立ち上がる。歩こうとするが嫌な感じに捻ったみたいで左足があまりいうことを聞いてくれない。ズルズルと左足を引きずりながら歩いて靴箱へと戻った。学校内を歩くためのスリッパは履かず、靴下のままで校舎内を上がりる。

 

 そこでまたとんでもない光景を目にしてしまう。

 

 「………」

 

 それを見た時、俺は真央を失った悲しみと同時に怒りがこみ上げてきた。

 

 

 

『犯人は柿原雅人!!』

 

 赤い文字でそう書かれた紙が一階の掲示板にぎっしりと貼られてあった。

 

 

 

 

 「俺が……俺がなにをしたっていうんだよ!!!」

 

 

 

 大声でそう叫んでしまう。今までの人生の中で一番大きく声が出た瞬間であっただろう。その叫びには怒りと憎しみしかなかった。

 

 「柿原……お前……」

 

 「!」

 

 気が付くと俺は先生達や、少数の部活動生に囲まれていた。

 

 「お前、本当に杉原を……」

 

 違う。俺が真央を殺すわけがない。

 

 「柿原君。あなたには失望したわ」

 

 だまれ。なんでそんな紙のことを簡単に信じるんだ。

 

 「覚悟しろよ殺人者……」

 

 もう何を言っても、全力で否定しても信じてもらえないだろう。

 

 「抵抗するなよ?」

 

 ジリジリと先生達が距離を詰めてくる。

 

 なんでこんな目に遭わなくちゃいけない。

 

 誰なんだよ。俺を追い詰めて何が楽しいんだよ。

 

 「………」

 

 完全に周りは俺がやったと思っている。俺の言うことなんて誰も信じてくれない。唯一信じてくれた真央はもう……いない。

 

 

 「……」

 

 

 

 

  また、ひとりになった。

 

 

 

 

 「今だ!捕らえろ!」

 

 先生、生徒達が一斉に襲いかかってくる。

 

 「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 襲いかかってきた1人の生徒の顔面を全力で殴る。殴られた生徒は約10メートルくらい吹っ飛んだ。それでできた隙間を通って全力疾走する。

 

 「おい、逃げたぞ!追いかけろぉ!」

 

 走る、走る、走る、走る、走る、走る。

 捻った左足首の痛みなど気にせずに走る。

 

 もう何もかも嫌になった。何も考えたくなかった。ただひたすら走った。何も考えずに、何かから逃げるように、ただ必死に足を動かした。

 

 「がっ……」

 

 その時、横腹に激しい痛みを感じた。

 

 「なんだ……いきなり……からだが……」

 

 体の力がだんだんと抜けていく。徐々に走れなくなり、歩くどころか立つ力すら失われていき、俺はその場に倒れてしまう。

 

 「やばい……眠い……いしき……が……---」

 

 そして俺は意識を手放した。

 

 

 ------

 

 

 

 

 

 

『お前の言うことなんて誰も信じない』

 

 --だまれ………

 

『犯罪者め!とっとと消えちまえよ!』

 

 --だまれ……

 

『ほんと、趣味が悪い。早く死ねよ』

 

 --だまれ…!

 

『雅人……失望したぜ』

 

 --黙れ!

 

『先輩……最低ですね』

 

 --黙れぇぇぇぇ!!

 

 --俺は何もしてない!本当になにもやってないんだ!

 

 --頼む!誰か信じてくれ!本当なんだ!!

 

『……嘘つき……』

 

 --!

 

『あなたの事なんて、誰も信じません』

 

 --なんで……なんでたよ……!

 

 --俺は何もしてないって言ってるだろうが!!

 

 --あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 

 …………

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 「雅人くん!雅人くん!」

 

 「……ん」

 

 目が覚めると、最初に映ったのは見知らぬ天井と、物凄く心配そうにしていた佐原アリサの姿であった。

 

 「……あれ、どうして……」

 

 「大丈夫ですか?凄くうなされたみたいですが……」

 

 確かに目覚めの気分としては最悪だ。汗をひどくかいていて、少し頭痛がする。

 

 「どうして……佐原さんがここに?」

 

 とりあえず状況を整理しよう。ここは何処なのか。今は何時なのか。なんで佐原さんがここにいるのか。色々と分からないことだらけだった。

 

 「ここは私の家ですわ。ちょっとした用事で車に乗っていたらちょうどあなたが倒れているのを見かけました。凄く気分が悪そうだったので私の家まで運んで今に至るわけです」

 

 「そうか……ありがとな」

 

 「いえいえ。貴方のためならこれくらいのこと……///」

 

 とはいえ、いつでもここに長居してるわけには行かない。俺は負傷した体で無理にでも起き上がろうとする。

 

 「いっ……!」

 

 左足を床につけた瞬間鋭い痛みが走る。どうやら思った以上に怪我はひどくなってしまっているみたいだ。まぁ、怪我した足であんな無理したら酷くなるのは当たり前か……

 

 「ちょっと!なにしてるんですか!?まだ回復しきってないというのに!」

 

 バランスを崩し、倒れそうになる俺を佐原さんが受け止めてくれた。

 

 「すまねぇ……でももう俺は、行かなくちゃ……」

 

 「行くって、どこにですか?そんな体じゃ歩くことすらできないじゃないですか」

 

 「でもっ……くっ……!」

 

 言えない。言えるわけがない。どうせ誰も信じてくれない。何を言っても、やっていないと何度否定しても、それを受け止めてくれるやつなんているわけない。左足首の痛みに苦しめられながらなんとか立つが、歩こうとするとさらに痛みが増す。

 

 「……なにか、あったんですか?」

 

 佐原さんは心配そうに問いかける。

 

 「なにも……ないよ」

 

 「じゃあなんで無理してでも急ごうとしているのですか?やはり何かありましたね?」

 

 「……お前には関係ないだろ」

 

 「確かに関係ないかもしれませんが、私はあなたの身が心配で……」

 

 「……治療、ありがとな。とにかく、俺はもう行くから」

 

 俺はそう言ってこの部屋から出ようとする。

 

 「待ってください!」

 

 しかし佐原さんが俺の腕をがっしりと掴んでくる。

 

 「……何があったんですか?」

 

 「……離してくれ」

 

 「嫌です。私はあなたが何故そこまで無理をして出ていこうとするのか気になります。理由を教えて頂けませんか?」

 

 「……断る」

 

 どうせ言っても信用してくれない。

 

 「何故ですか!?私に言えない事なんですか?」

 

 「……特に理由は……」

 

 「いえ!絶対何か隠してます。教えてください。せめて何かあなたの力になれれば……」

 

 「余計なお世話だ……さっさと離せ」

 

 「……どうしても、だめなのですか?」

 

 「………」

 

 「私を、信用してないのですか?」

 

 その通りだ。と言いたいところだが、佐原さんの真剣な表情に不安が出ている。あまり相手を傷つける行為は避けたい。むしろ女性ならなおさらだ。

 

 「………」

 

 「……大丈夫ですよ」

 

 すると佐原さんは俺の片腕の手のひらを両手で優しく包み込んだ。

 

 「あなたに何があったのかはわかりませんが、これだけは言わせてください」

 

 そしていつもの優しい表情になって

 

 「私はいついかなる時もあなたの味方です。あの時、誰も相手にしてくれず一人孤独に過ごしていた私に話しかけてくれた。お嬢様とかそういう立場など関係なしにあなたは私を一人の女性として見てくれて、ちゃんと向き合ってくれました。私はそれがたまらなく嬉しかったのです……」

 

 

 「佐原さん……」

 

 

 「そんな優しいあなたを、私は心からお慕いしております。例え周りの人達があなたの事を信用してくれなくても、私はずっとあなたの味方です」

 

 

 「………」

 

 

 佐原さんは笑顔でそう言った。

 俺は何を思ったのだろうか。重たい口を開き、今までにあった事を全て話した。

 

 ………

 

 

 「そんな事が……」

 

 「あぁ……これから、どうすればいいんだろうなぁ……グスッ……あれ……」

 

 誰かに話せた事で安心したのだろうか。気がつけば俺は涙を流していた。

 

 「ぁぁ……グスッ……ちくしょう……女の子の……グスッ……前で……泣くなんて……男らしくねぇ……グスッ……」

 

 まだ俺を信用してくれる人がいる。ちゃんと俺の味方になってくれる人がいる。それだけで俺の心は満たされていた。

 

 「雅人くん……」

 

 俺は佐原さんに引き寄せられぎゅっと優しく抱きしめられる。佐原さんの手が俺の頭を優しく撫でていた。

 

 

 「怖かったでしょう……辛かったでしょう……もう大丈夫ですよ。私が、ずっとあなたのそばにいますから……」

 

 

 「……佐原……さん……」

 

 

 

 そして今まで溜まっていたのを全部吐き出すように、俺は声を荒らげて泣いた。

 

 

 

 ------

 

 数分後。ようやく泣き止んだ俺はさっきまで寝ていたベッドに座って、これからどうするかと悩んでいた。正直もう家には帰りたくないし、あの学校ももううんざりだ。

 

 「あの、雅人くん」

 

 「ん?」

 

 俺が悩んでいると、隣に座っていた佐原さんから声をかけられる。

 

 「これから、私と一緒に暮らしませんか?」

 

 「……へ?」

 

 それを聞いた俺はつい腑抜けた声を出してしまう。

 

 「今頃先生達は警察と協力してあなたを捜索しているはずです。無実なうえに怪我や精神も回復していないでしょう?だから事が落ち着くまでここで暫く身を潜めてはどうですか?」

 

 「だけど、お前はそれでいいのか?それにお前の両親達の許可は……」

 

 「ここには両親は居ませんよ。両親は別居でこのお屋敷は私と数十名の執事やメイドしかいませんし、もし何かあった時は私含め、佐原財閥が全力であなたを守ってあげます」

 

 こんなでっかいお屋敷が佐原さん一人のものなのか……さすがお嬢様。

 

 「そうか……」

 

 

 正直、もう疲れた。立ち直れる気がしない。

 このまま佐原さんと一緒にいれば、色々と楽かもしれない。

 誰からも信じてもらえなくなった俺を唯一信用してくれている彼女と一緒にいたい。

 

 

 

 彼女とずっと一緒にいたい。

 

 

 俺はその想いでいっぱいだった。

 

 

 「じゃあ、しばらく世話になるよ。よろしくな、佐原さん」

 

 「………」

 

 あれ?なんか微妙な顔をしているぞ?

 

 「……『アリサ』と、これからは名前で読んでくれませんか?」

 

 なんだ、そんな事か。

 

 「これからもよろしくな、アリサ」

 

 「はい!雅人くん!」

 

 彼女は笑顔で喜んでくれた。その可愛い笑顔が俺の心を癒してくれる。

 するとさらに安心したのか、俺の腹がぐぅ~と情けない音で鳴る。

 

 「うふふっ。お食事、持ってきますね♪」

 

 「あ、ああ。すまないな」

 

 アリサは微笑して部屋を出た。時刻はすでに19時を過ぎている。窓から外を見るとあたりは暗くなっていた。今頃先生達は警察の力を借りて俺を探しているだろう。

 

 もうあんな出来事はごめんだ。今まで関わってきた人達の顔を見るのが怖い。学校に行かずにここで働くという選択肢もある。色々とこれから先不安ではあるが、ちゃんと隣にはアリサが一緒にいてくれる。

 

 もう失わないように、彼女を大切にしよう。

 

 そう心に決めたのであった。

 

 

 ------

 

 

 「………」

 

 2階の部屋から1階にある厨房までの長い距離。私は口角が上がるのを抑えられなかった。

 

(ここまで来たら……)

 

 ここから雅人くんの部屋までは距離がある。

 

 

 

 「ふふ……ふふっ……」

 

 

 

 

 

 もう我慢の限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やった!遂に叶った!これで雅人くんを独占することが出来る!!

 

 

 

 完全に思い通りになって、嬉笑いが抑えきれなかった。

 最初はこんな計画で大丈夫のだろうかと不安だったが思いのほか事がうまく進んだみたいで本当に良かったと思っている。

 

 

 二日前。私は雅人くんが他の女といちゃついているのを見て雅人くんを独占したい気持ちがさらに高くなり、同時にその女に対しての殺意も高まりました。

 雅人くんが私以外の人といるのがすごく嫌だった。彼には私だけを見て欲しい。私だけを愛して欲しい。ずっとそう思っていました。

 

 私はあることを思いつきました。

 そうだ。周りのやつを彼の周りから消せばいいんだ……と。

 私は早速計画を実行することにしました。

 

 周りの人達に彼の悪い印象を与えて離れさせる。

 それを狙いで数ヶ月前に起きた女子中学生拉致事件で実際に犯されている写真を極秘で入手し、その写真に写っている犯人と同じ角度で写っている雅人くんの顔を合成しました。出来上がったそれを2年生の学年掲示板に貼り付けて、誰もが目を通すようにしました。

 

 結果は大成功。周りの人達は彼を避け、嫌い、罵倒したりなど色々と酷い有様でした。そして雅人くんの近くにいたあの女も失望した感じでその場を離れて行きました。その時の絶望した顔をした雅人くんを見て、あれは完全に関係が壊れただろうと確信しました。

 

 さらに誘いやすくするために雅人くん自身の精神も追い込もうと思い、同じクラスの男子にお願いして1枚の写真を渡し、それを使って彼の元番長だった過去をばらし、立場を壊そうとしたのも私の計画のひとつです。しかし、色々と雅人くんに対してやってくれたあのヤンチャ野郎はさすがに殺意が湧きましたがなんとか我慢しました。

 

 夜に雅人くんの家を訪ねて元気づけてあげようと思い、私はその日に手作りの弁当を用意して彼の自宅へと向かいました。

 だがありえないことに、彼の自宅にはあの女が居ました。私はとっさに隠れて様子を見ました。しばらく口論していましたが、最終的に和解していつも以上の関係になってしまったのではないかと不安になりました。

 やはりあの女は邪魔だ。本格的に消さないといけない。

 そして私は奥の手を使うことに決めました。

 

 その日の夜、私はある男を金で雇いました。その男は残酷な殺人をする事が大好きなサイコパスな人でした。

 

 ターゲットは杉原真央。彼女を殺してくれれば報酬として100万払いましょう。

 

 そう命令すると男は快く引き受けてくれて、指名した日にちゃんと殺してくれました。

 そして私は《犯人は柿原雅人》と荒々しく紙に書き、1階の掲示板に貼り付けました。これでもう彼に関わろうとする者は誰もいなくなると思いました。

 

 学校から少し離れた人気の少ない場所。仕事を終えた男は私に報告すると、私の護衛を務めている執事に気絶させられました。私は脳に障害を起こさせる薬が入った注射器をその男に注入しました。男は目を覚ますと激しく混乱し、頭を抱えながら悶え、激しく暴れまくり、最後にはあの女を殺した凶器で自分の心臓を突き刺し、自ら命を絶ちました。

 

 そして私はもう1人の執事に彼、柿原雅人を捕獲する事を命じていました。

 執事は逃げ回っている彼を遠く離れた距離から睡眠弾を装填したスナイパーライフルで射撃。見事彼の動きを止めて、回収することに成功しました。

 

 心身共にボロボロになった彼を安心させ、癒し、彼の心を私のものにする。こうしてこの計画は成功しました。

 

 「これからもよろしくな、アリサ」

 

 これを聞いた瞬間、私はどれだけ嬉しかったのか計り知れません。大好きな彼と一緒にいられる。そう思うと幸せな気持ちでいっぱいでした。

 

 もう彼には私しか頼れない……

 

 もう彼には私しか見れない……

 

 もう彼には私しか愛せない……

 

 

 

 「お待たせしました」

 

 「おぉ……相変わらず美味そうだなぁ」

 

 「ふふふっ、自信作ですよ」

 

 「そりゃあ、楽しみだ。いただきます!」

 

 「はい、召し上がれ♪」

 

 これからの事を考えると私は楽しみで仕方なかった。

 

(大好きです……愛していますよ……一緒に、幸せになりましょうね?雅人くん♡)

 

 あぁ……私は幸せです……。

 




ヤンデレで1番恐ろしいのは孤立誘導型……((((;゜Д゜)))

書き溜めたものはこれで終わりました。新しい話を書いているので投稿期間は空きますが、なるべく早く投稿できるようにがんばります。

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