ヤンデレな彼女達   作:ネム男

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妹は良い文明?( ˘ω˘ )


絶対離さないから!

 「………」

 

 6月の下旬。そろそろ期末試験の時期なので僕は学校の図書室に残って勉強をしている。

 

 「あれ?今日も残ってるんだね?」

 

 図書室で仕事をしている河原 梅子さんに声をかけられる。

 

 「河原さんか。お仕事お疲れ様」

 

 「ほんと疲れたよ~。まったく……ここ1週間、佐藤君が休みで仕事がこっちにまわってきちゃってね~……」

 

 佐藤 拓也。同じクラスの男子で僕の友人の1人であるが、1週間くらい前に病気ということで休んでいる。

 

 「あの元気で真面目な佐藤君がこんなに長く休むなんて珍しいよね。何かあったのかな……?」

 

 そういえば3日前にメールを送ったが、未だに既読がつかないままだ。病気で寝込んでいるだけだといいけど……

 

 「あいつのことだから大丈夫だよ。心配なら今日あいつにメール送っとくからさ」

 

 「うん。ありがと」

 

 ♪~♫~♪~♫

 

 「あっ……もうこんな時間」

 

 気づけば夜の19時になっており、完全下校時刻時に流れる曲が流れ始めた。

 

 「じゃあそろそろ帰るかな。じゃあね!」

 

 「うん。じゃ」

 

 河原さんがバッグを持って図書室を出る。僕も勉強道具一式をバッグに入れて図書室を退室し、学校を出た。

 

 普通の眼鏡男子高校生である僕こと原口 護はあまり家には帰りたくない。だからこうやってギリギリまで時間をできるだけ潰している。今回は期末試験が近いため、学校に残っていた。

 

 どうして僕が家に帰りたくないって?別に家が貧乏なわけでもないし、親が暴力ばっかり振るう悪い人達でもない。むしろ優しくてとてもいい両親だ。

 

 

 ただ……ある1人の人物のせいで、家に帰りたくないと思ってしまうのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま~……」

 

 自宅の玄関の扉を開けて、家に入る。

 するとドタドタと誰かが走って来た。

 

 「おっかえりー!」

 

 そして走った勢いでギュッと僕に抱きついてくる。

 

 「はぁ……ただいま。優里香」

 

 「お帰り!お兄ちゃん!」

 

 そう。帰りたくないと思う原因は、僕のいっこ下の妹。原口 優里香だ。

 

 

 「ん~っ!お兄ちゃんの匂い……///」

 

 優里香は僕の体に密着して匂いを嗅いでいる。僕はため息を吐いて

 

 「もういいだろ?そろそろ離れてくれない?」

 

 と優里香に言った。

 

 「いや。だって今日もお兄ちゃん帰り遅かったじゃん」

 

 「それは、テストが近いから学校に残って勉強してるんだよ」

 

 「お兄ちゃんは相変わらず真面目だね~」

 

 「それしか取り柄が無いだけだよ。あとそろそろ離れて?部屋に行けない」

 

 そう言いつつ僕は無理矢理密着していた優里香を引き剥がした。

 

 「あん……もうお兄ちゃんったら……意外と強引なんだから♪」

 

 「五月蝿い」

 

 「ぶー……」

 

 そんな可愛い顔でぶすくれてもダメだからな……。いつからこんなにデレデレになったんだっけ?覚えてるわけがない。気づいたら優里香が異常なほどに僕に執着していたのだ。なんでこうなったか原因が知りたいよまったく……

 

 

 -----

 

 

 優里香は中学三年生で明るい性格の持ち主であり、中学校では結構な人気者らしい。特に優里香は運動神経が抜群に良く、どんなスポーツでもコツをつかんでしまえば、やりこなせる感じだ。

 155cmくらいの身長に飴色のショートヘアー、そして中学生とは思えないその豊富な胸!CかDくらいは……もしやそれ以上はあるんじゃないか?そんなエロい体してる優里香は巨乳好きの中学男子からしたらいいオカズであろう……

 

 「ちょっとお兄ちゃん?今卑猥なこと考えてなかった?」

 

 「滅相もございません」

 

 「ふーん……」

 

 まあそんな妹に欲情してしまうような愚か者ではないぞ僕は。

 そんなことを考えながら僕達は今家族で夕食をとっている。

 

 「あらまぁ。護ちゃんもそんな年頃なのねぇ~」

 

 母さんはいつもののほほんとした雰囲気で言う。

 

 「お前の年齢の時はちょうど思春期真っ盛りだからな。その事に興味があるのは普通のことさ。うんうん」

 

 そして父さんも納得したようにそう言った。

 

 「だから考えてないってば……」

 

 「隠さなくていいんだぞ?そうだ!今度俺と一緒に巨乳もののエロ本を--

 

 「あ な た ?」

 

 母さんは笑顔だが、その目は笑ってはいない。

 

 「ひっ……じ、冗談だよ!全く母さんったら本気にしちゃってー!あっはっはっはっは」

 

 「………」

 

 父さんに母さんと優里香のジトーっとした痛い目が突き刺さる。

 

 「ごほん……安心しろ。俺はどんなにエロい子が来ようが、愛してるのは君だけだよ、母さん……」

 

 「あなた……///」

 

 そして勝手に和解して、2人でイチャイチャし始める。いつもの光景だ。僕はそれを華麗にスルーしながら箸を進める。

 

 「………」

 

 そして隣にいる優里香はチラチラと俺の方を伺う。断じてあの2人のようにイチャイチャしないからな!断じて!と優里香に目で訴える。

 

 「ぶー……」

 

 どうやら伝わったみたいだな。優里香がぶすくれている。

 

 「ねぇ~。私達もお母さん達みたいにイチャイチャ--

 

 「だからしないからね!?ご馳走様!」

 

 一刻も早くここから逃げ出そうと俺は食べ終わった食器を片付け、いそいそと部屋へ戻った。

 

 「もぅ……最近お兄ちゃん冷たいなぁ~」

 

 「うふふ。あれはあれで結構恥ずかしがってんのよ、あの子は」

 

 「そうかな……?」

 

 「きっとそうよ。だから優里香も頑張って!あなたの想いはきっと届くわ!」

 

 「……うん!がんばるよ私!」

 

 

 

 

 「へっくしょん!」

 

 なんだ……急に寒気が……気のせいかな。

 

 あ、そういえば今日は拓也にメールを送らなきゃいけないんだった。僕はスマホの電源を入れ、あの某メールアプリを開く。

 

<拓也~。生きてますか~?

 

 拓也の個人チャットに送る。すると今日は直ぐに既読が付いた。

 

<……護ぅぅぅぅう!

 

<・゚・(つД`)ノタスケテー!

 

 すると拓也からの返信は助けを求めるような内容であった。とりあえず何があったのか様子を見よう。

 

<どうしたんだ?

 

<いやね……わたくしちょっと非常に危険な状況になっててね……(ºωº)

 

<病気で休んでたんじゃないのか?

 

<違うよ!俺はバリバリ元気だよ!٩( ´ω` )و

 

<ならなんで、2週間も休んでるんだよ。河原さん怒ってたぞ?

 

<うわ、マジか~。仕事のことだろうなぁ……申し訳ない(´・ω・`)

 

<実はな……

 

<おう。言ってみ。

 

<あ、やばい帰ってきた

 

<ん?

 

<とにかく!俺はバリバリ元気で、もうすぐ脱出できるよう頑張るから!じゃ!( 。`- ω -´。)ノシ

 

<お、おい!

 

 そこから先は既読が付かなくなった。

 危険な状況?脱出?あいつは一体どんな目にあってるんだ……とりあえず元気そうだったし、心配はないだろう。さて、テスト勉強の続きをしよう……

 

 

 ------

 

 

 2時間後--

 

 「ふぅ……そろそろ寝ようかな」

 

 深夜0時を過ぎ、そろそろ眠気がさしてきた頃なので寝るとする。

 

(その前にトイレ行こうっと……)

 

 そう思って僕は部屋を出る。

 

 --数分後

 

 再び部屋に戻ると、僕がベッドの上に掛け布団を綺麗に畳んでいたはずなのに、それが綺麗に広げられている。

 

(はぁ……またか……)

 

 僕は呆れながら掛け布団をめくると、

 

 「温めておいたよ、お兄ちゃん♪」

 

 「………」

 

 妹の優里香が僕のベッドに入っていた。これもいつものことである。

 

 「はぁ……優里香、お前毎日こんなことして飽きないのか?」

 

 「全然!むしろお兄ちゃんのベッドはフカフカでいい匂いするからこっちが寝心地いいの~」

 

 「優里香のベッドと僕のベッドは同じやつだろ……」

 

 「違うもん!そこにお兄ちゃんの匂いがあるからいいんだよ!」

 

 「訳わからん……」

 

 優里香は両腕を僕の方にバッと広げ、何かを受け入れるような体勢になる。そして何かを待っているかのような期待の眼差しが僕に向けられる。

 

 「さぁ、お兄ちゃん!私の胸に飛び込んでおいで!」

 

 「はい帰った帰った~」

 

 僕は無理矢理に妹をベッドから引きずり出し、部屋を出ていかせる。

 

 「お兄ちゃんったら……そんな恥ずかしがらなくてもいいのに」

 

 「僕にとっては充分恥ずかしいっての。はいお休み!」

 

 そして僕は部屋のドアを力強く閉めて、鍵をかけた。

 

 「もぅ……」

 

 そしてスタスタと優里香が自分の部屋に帰っていく足音がする。僕は安堵したようにふぅ……とひと息ついてベッドに入る。明日も学校だからさっさと寝よう……

 

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 …ガチャ

 

 ……

 

 …モゾモゾ

 

 「うふふ♪」

 

 と安心して寝られると思ったのだが、そうはいかなかった。

 

(なんで入ってきてるんすか!?)

 

 なんで優里香が僕のベッドにまた入ってくるんだよ!?こっちは安眠したいのに!

 こんな事になるのは今日が初めてだ。普通ならさっきのように無理矢理にでも出ていかせるが、そんな気力は起こらなかった。今回は無視してとっとと眠りにつこう……

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「zzz……」

 

 「……寝てる……よね?」

 

 「zzz……」

 

 まだ眠ってはいないが、とりあえず眠っている振りをする。

 

 「………」

 

 「zzz……ッ!」

 

 すると背中に2つの柔らかい感触が走る。さらに僕の腹回りに腕が回され、優しく優里香の方へ抱き寄せられる。

 お願いだからやめてくれ!ほんとに寝れない。色んな意味で。

 

 「えへへ……あったかいなぁ……」

 

 「………」

 

 でも僕はもう色々と面倒だし、放っておくことにした。無駄なことを考えず早く眠りにつけばどうとでもなるだろう……ほら、もう眠く……なって……---

 

 「………」

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「………」

 

 「………」

 

 「……んっ……」

 

 「んっ……あっ……おにぃ……ちゃん……」

 

 「好き……大好きだよ……おにぃちゃん……」

 

 「………」

 

 「可愛い寝顔……うふふっ」

 

 

 チュ……

 

 

 「今度は……起きてる時に、キスしたいな……お兄ちゃん♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……寝れるかよコンチキショーが!!

 

 

 

 そして優里香の甘い攻撃を耐え続け、遂に彼女が力尽きて寝てしまうまで僕は寝れることができなかった。

 

 

 

 翌朝--

 

 ピピピッ! ピピピッ!

 

 「んあ……」

 

 五月蝿く目覚まし時計が鳴る。どうやらもう朝が来たみたいだ。僕は目覚まし時計を止めて、それの隣に置いてある眼鏡をかけて起き上がる。

 隣にいたはずの優里香の姿は見当たらない。どうやら僕より先に起きたみたいだ。

 昨日は優里香のせいであまり眠れていない。口の周りがベトベトする……今度からは寝る際に絶対優里香を入れないように厳重に閉めておこう。そして僕は顔を洗いに寝ぼけた状態で洗面所に向かった。

 

 …………

 

 「あっ、おはよう!お兄ちゃん」

 

 「おう……」

 

 僕の元気のないことに対し、優里香は朝から元気よく挨拶してくる。

 

 「あれ?お兄ちゃん、目にクマが出来てるよ?昨日は寝れなかったの?」

 

 「………」

 

 誰のせいで寝れなかったと思ってるんだ。誰のせいで。とジト目で訴える。

 

 「?」

 

 優里香はよく分からないと首をかしげる。例えお前が昨日の事を忘れていようが、俺はちゃんと覚えてるからなこの野郎……。

 

 

 

 

 

 そして高校にて--

 a.m.11:20

 

 1-1

 

 「はぁ……」

 

(疲れた……)

 

 昨日の寝不足が響いているのか、3時間目を終えた頃から疲れがきていた。僕は机でぐて~っとだらけていた。

 

 「おいおい珍しいな。お前がそんなに疲れてるなんて」

 

 クラスの男子から声をかけられる。

 

 「まぁ……ちょっとね……」

 

 「ふーん……まぁ根詰めすぎんなよ~」

 

 「うん……」

 

 そう言ってクラスの男子は去って行った。僕も机に伏せて次の授業が始まるまで仮眠をとった。

 

 

 中学校にて--

 

 「♪~♪~」

 

 「どうしたの優里香?今日ずいぶん機嫌いいじゃん」

 

 「え~?そう見える?」

 

 「うん。何かいい事あった?」

 

 「まぁ……ね……うふふっ♪」

 

(んー、何があった?もしかして彼氏でもできたのかな……?)

 

 「♪~♪~」

 

 

 ------

 

 

 「はぁ……」

 

 今日は一段と疲れた。今回は普通に家に帰って寝よう……

 

 「……あ、そういえばノートなくなったんだった……」

 

 そして僕が読んでいる小説の新刊も今日発売だ。仕方ない、今日は本屋によって用を済ましたらすぐ帰ろう。

 

 

 商店街の本屋--

 

 「ノートと……おっ、あったあった」

 

 僕は今日発売の小説本を手に取ると、

 

 「あれ?護?」

 

 「おっ、奏」

 

 たまたまそこにいた黒髪セミロングヘアーで眼鏡少女の幼馴染み、木原 奏に声をかけられた。

 奏とは小学校からの友達で、趣味が読書ということから僕達はすぐに仲良くなり、よく優里香と奏で一緒に外で遊んだり、本を読んだりしていた。今は僕と違って奏は別の私立の高校に通っているが家が近いため、よく朝の通学で会ったりする。

 

 「あっ、それ私まだ読んでないんだ~。面白いんでしょ?」

 

 「凄く面白いよ。なんたってこの本の魅力は--

 

 それから僕は奏と本のことや世間話など色々なことを話しながら一緒に帰った。

 

 

 

 

 

(……お兄ちゃん……)

 

 商店街の通り、たまたま買い物をしていた優里香は護と奏が一緒に帰っているのを目撃していた。

 

 

 

(なんで、そんなに楽しそうに話してるの?私の時は冷たいのに……)

 

 

 

(なんであの女は嬉しそうなの?なんでお兄ちゃんもあんなに笑顔なの?ふざけないでよ。お兄ちゃんは私のものなんだよ?)

 

 

 

(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?)

 

 

 

(お兄ちゃん……?)

 

 

 ------

 

 

 「じゃあね護。さっきは楽しかった♪時間があったら今度は一緒に図書館にでも行きましょ?」

 

 「うん。じゃあね」

 

 別れ道で奏と別れ、僕はすぐそこの自宅に到着する。

 

 「ただいま~……」

 

 「……!……!」

 

 玄関の扉を開けて家に入ると、何故かリビングが騒がしかった。よく見ると父さんと母さんの靴が置いてあった。今日は仕事終わるの早いんだなと思いつつリビングへ入る。

 

 「ただいま」

 

 「あっ!護ちゃん!」

 

 「おかえり護!」

 

 父さんと母さんが嬉しさで興奮している。何かいい事でもあったのだろうか?

 

 「何かあったの?」

 

 「見てみて!」

 

 そうして母さんは2枚のチケットを取り出した。

 

 「今日買い物してて、気まぐれで商店街にあるくじ引きしたら大当たりしちゃって、2人分の1週間分の温泉旅行券が当たっちゃったの!」

 

 「だから今から俺達は母さんと2人で温泉旅行に行くんだ!だから急ですまないが留守番頼めるか?家事は優里香と2人で協力してやってくれ。お土産はちゃんといいもん買ってくるからよ!」

 

 

 ……なん……だと……

 

 

 「え?今から?」

 

 「おう!」

 

 

 ……まてまてまてまて。今から父さんと母さんは旅行に行く……1週間の間両親は家を空ける……家に残るのは僕と優里香……つまり……

 

 

 「………」

 

 「大丈夫だよ!家のことやお兄ちゃんの事は私に任せて!」

 

 「お~。優里香は頼もしいな!じゃあよろしく頼むよ!」

 

 「じゃあ2人とも、後は宜しくね。いってきま~す♪」

 

 「うん!いってらっしゃい」

 

 そうして2人は大きなバッグを持って家を出た。

 

 「………」

 

 「……うふふ♪」

 

 「今日から2人っきりだね!お兄ちゃん♡」

 

 

 こいつと2人っきりってことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 数時間後--

 

 「はい、お兄ちゃん!優里香特製オムライスだよ!」

 

 そう言って優里香は、美味しく出来上がっており、ケチャップで堂々とハートマークが書かれてあるオムライスが乗っている皿を僕の前に置いた。

 

 「優里香、料理できるんだな」

 

 「毎日お母さんに教わりながら手伝いしてるからね。もう料理も充分出来るよ!」

 

 「そっか……いただきます」

 

 「はい、召し上がれ♪」

 

 そしてスプーンでオムライスをスプーンで掬って口に入れる。

 

 「……うん。美味しい」

 

 「……!!」

 

 それを聞いた優里香はパアっと今までよりも明るい笑顔になった。

 

 「えへへ……お兄ちゃん!褒めて褒めて!」

 

 「はいはい。優里香は凄いよ」

 

 「それだけじゃ嫌。なでなでして」

 

 「今は食事中でしょ?」

 

 「………」

 

 まったく……来年は高校生になるってのにそんな精神年齢で大丈夫なのか……?そう思いつつ僕はせっせと食事を進める。

 

 

 「……ねぇお兄ちゃん……最近、私に対して冷たくない?」

 

 するとさっきまで明るかった優里香がいきなり静かな雰囲気でそう言った。

 

 「そうか?いつも通りだぞ」

 

 僕はそんなこと気にせずに食事を進める。

 

 「昔みたいに一緒に遊んでくれないし……褒めてくれないし……私の話を真剣に聞こうともしない……」

 

 なんだ?何が言いたいんだ優里香は?

 

 「ねぇお兄ちゃん……私のこと、避けてるの?嫌いなの?それとも……」

 

 

 

『私が本当の妹じゃないから?』

 

 

 

 その言葉を聞いて、僕は絶句した。

 

 

 

 「なんで……お前が……」

 

 あまりにも驚いて僕は持っていたスプーンを落としてしまう。

 

 「私が知らないと思ってた?実は結構前から知ってたんだよ。私とお兄ちゃんが血の繋がってない兄妹ってこと」

 

 

 「……いつから……気づいてた……?」

 

 

 「そうだなぁ~……私が中1の頃かな」

 

 

 「……どうやって、その事を知った……?」

 

 

 「えっとね、たまたま親のアルバム見てたらさ、1枚だけお父さんと知らない女の人が写ってたんだ。それをお父さんに問い詰めたら申し訳なさそうな顔をして全部話してくれたよ」

 

 

(父さん……優里香には高校生になってから話すんじゃなかったのか……)

 

 

 「その時はショックだったなぁ……いつも優しかったお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんじゃないって知って大泣きしたなぁ……」

 

 「私ね、小学校ではずっと1人だったんだ。その頃は暗い性格で、上手く友達も作れなくて、ひとりで過ごしてた。だけどお兄ちゃんはそんな私の手を取って、一緒に居てくれたよね。お兄ちゃんはいつでも優しくて、かっこよくて、お兄ちゃんみたいな人が彼氏だったらいいなって思ってたんだ」

 

 そういえば、小学校の頃は優里香は暗い性格であった。あの頃の僕は1人でいるあいつが見過ごせなくてよく一緒にあそんでやったっけ……

 

 「でもね、よくよく考えたら私達は兄妹だけど、血は繋がってない。だからお兄ちゃんと兄妹の関係じゃなくて、本当に彼氏彼女の、それ以上の関係になれるんじゃないかって……そう思ったの」

 

 

 「………」

 

 

 「だから私はお兄ちゃんに振り向いてもらえるようにいっぱい努力して、いっぱいアピールしたけど、お兄ちゃんはどんどん離れていくだけ……私の事なんか見てくれてない……むしろ他の女と楽しそうに笑ってる……」

 

 

 

 

 「そんなの嫌だ!お兄ちゃんの笑顔は私だけのもの!お兄ちゃんの幸せは私の幸せ!お兄ちゃんを私から奪おうとする雌豚はみんな殺す!絶対に殺す!!」

 

 

 

 

 「ひっ……」

 

 

(なんか今日の優里香は怖いぞ……さっきから何を言っているんだ……?)

 

 僕は優里香から放たれる得体の知れない恐怖で体が震えて、嫌な冷や汗を流す。

 

 

 「私は好きなのはお兄ちゃんただ1人。ほかの男なんか興味ないし、死んだってどうでもいい。私にはお兄ちゃんしか見ないし、お兄ちゃんが求めることならなんだってする……お兄ちゃんさえ居てくれれば何もいらない……だから……」

 

 

 

 そう言って優里香はどこから取り出しのか、肉切り包丁を持った。

 

 

 「なっ……!」

 

 僕は席を立ち上がって、少しずつ後ずさりする。

 

 

 「何をしてるんだ優里香!そんな危ないもの早くしまえ!」

 

 

 

 「お兄ちゃんが私以外の場所に行くその足も、私以外のものを触るその手も、全部要らないよね?」

 

 

 

 少しずつ優里香は僕との距離を詰める。

 

 

 「大丈夫だよ!お兄ちゃんの手足が無くなったって、私が全部お世話するから!食事だって、お風呂だって、トイレだって……性処理だって、全部するから!」

 

 

 「前はお兄ちゃんが私に優しくしてくれたから今度は私の番。私はお兄ちゃんの為ならなんだってするよ?だから……」

 

 

 

 「あっ……あっ……」

 

 

 

 

 「私とずっと一緒にいてね?お兄ちゃん……♡」

 

 

 

 「うわあああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される!

 

 

 

 僕は必死になって家を飛び出し、無我夢中で人通りの少ない夜の道を走った。

 

 

 

 「……へぇ……逃げるんだぁ……」

 

 「ふふふっ、鬼ごっこかな?久々にお兄ちゃんと遊べる……」

 

 「まっててね?何処に行こうが、私はお兄ちゃんのこと、絶対離さないから……♪」

 

 「今捕まえるよ、お兄ちゃん♪」

 

 

 ------

 

 

 「はあっ……!はあっ……!」

 

 必死に走る。

 ただ必死に走る。

 ただ無我夢中に走る。

 捕まらないために。

 殺されないために。

 僕はただ必死に、足を動かした。

 

 「うわっ!」

 

 不意に足がもつれて、思いっきりこけてしまう。

 

 「いてて……くそっ」

 

 さすがに運動は苦手だからそこまで体力は持たないどこかで休憩しないと……

 そう思って僕は近くの公園に避難した。

 

 「ふぅ……」

 

 小さい子が入って遊ぶ砂場にあるホールに僕は隠れた。ここに入るのはいつぶりだろう……

 

 

 

(どうして……こんな事に……)

 

 

 僕と優里香は実の妹ではない。僕が生まれてからすぐに実の母親は不倫をしていた。僕が1歳の頃に2人は離婚し、僕は父さんに引き取られた。

 しかしその1年後、今までDVを受けていて、その夫と離婚してシングルマザーだった女性と再婚する。その女性には1歳の娘がいた。その娘が優里香である。

 

 その事を父さんと母さんに言われたのは僕が中学2年生の頃だった。理由はたまたま僕がビデオを探っていると、古いビデオテープを発見し、それを見ると、父さんと知らない女性が映っている動画だった。それを僕が見つけてしまい、もう隠すことはできないと思って父さんと母さんは僕に全てを教えてくれた。

 それはもう本当にショックだった。泣きはしなかったが、家族と距離をとるようになった。主に優里香との距離を離そうとした。

 

 だがそれから1年、あいつは僕から離れるどころか距離を縮めてきたのだ。不思議でたまらなかった。どうしてそんなにくっつこうとする?どうして兄妹じゃないのに仲良くしようとする?と。

 しかしその頃には優里香は真実を知っていた。それなのにあれだけくっつこうとしてきた。あれは何も知らなかったからじゃなくて、分かっててやっていたのか……?僕と優里香は血の繋がってない、赤の他人と今まで暮らしてきたのに、優里香は嫌とは思わなかったのか……?

 

 この暗い空間で、僕は落ち着いた頭で色々と考えていた。

 

[私が好きなのはお兄ちゃんただ1人。]

 

 なんで僕なんだ?僕以外にも他にいい男がいるだろう?こんな何も魅力もない僕の何処がいいんだ?僕の何処がいいって言うんだ?

 

 考えれば考えるほど、分からなくなった。

 

 

 

 

 「お兄ちゃん~」

 

 「ッ!」

 

 唐突に優里香の声がし、僕は驚いてホールに空いてる小さな穴から外の様子を見る。

 そこには、ケースに入れた包丁を持ってキョロキョロと僕を探す優里香の姿があった。

 

 さてこれからどうする……ここが見つかるのも時間の問題だ……あいつに身体能力で勝負しようとすれば絶対に勝てない。裏から逃げるのもいいが、バレてしまったらそこで終わりだ。どうする……どうする……どうすれば……

 

 

 「あれ?優里香ちゃんじゃない」

 

 「ッ……!」

 

 するとそこに自転車に乗っている奏が優里香の前に現れた。優里香は右手に持っていた包丁をサッと後ろに隠す。そういえば奏は今日のこの時間は塾帰りだったっけ……

 

 

 ってまずい!今あいつに近づいたら……!

 

 「奏さん……」

 

 「優里香ちゃんがこんな時間に外出るなんて珍しいわね。何してるの?」

 

 奏は自転車から降りて、優里香に近づいて行く。優里香はそ~っと包丁の刃部分のケースを取り出そうとする。

 

 やめろ……

 

 「まぁ……すこし用事がね……」

 

 「へぇ、そうなの?誰かと待ち合わせ?」

 

 優里香の顔が徐々にニヤけたものに変わっていく。既に包丁はケースから取り出していて、鋭い刃が街灯の光で輝いている。

 

 やめろ……!

 

 

 「いや、待ち合わせというより……」

 

 

 やめろ!

 

 

 「……雌豚駆除だね♪」

 

 「えっ?」

 

 

 くそおぉぉぉぉぉぉっ!

 

 

 優里香は右手で包丁を振り上げていた。

 

 気づけば俺の足は、2人の所へ向かって走っていた。

 

 

 「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 そして僕は飛び出して奏を突き飛ばしていた。振り下ろされた包丁はギリギリで僕の足を掠めた。

 

 「きゃっ!」

 

 「ちっ……あっ……お兄ちゃん、みーつけた♪」

 

 「優里香……」

 

 「いたた……ちょっと護!これはどういう事!?なんで優里香ちゃんが包丁持ってんのよ!?」

 

 「とりあえず落ち着いてくれ!」

 

 「これが落ち着いていられるもんか!なんで私が優里香ちゃんに殺されなければならないのよ!説明してよ!」

 

 「だから落ち着けって……」

 

 奏は予想以上に取り乱している。それはそうだろう。なんたって幼馴染みの妹に殺されかけているのだから。

 

 「また……お兄ちゃんと話してる……」

 

 「はぁ!?一体何なのよ!私あんたに何か殺されるようなことしてないでしょ!?」

 

 「私のお兄ちゃんを奪ったから奪い返しにきたのよ!」

 

 「何を言ってるの!?私は何もしてないし、何も奪っていない!」

 

 「黙れ雌豚!!お前みたいなやつがいるからお兄ちゃんは私を見てくれない!私を愛してくれない!だからここで殺してやる!」

 

 「ひっ……!」

 

 「………」

 

 そして僕は黙って優里香に近づく。

 

 「ちょっと護!」

 

 「あっ、お兄ちゃん♪」

 

 優里香は目を細めてとろんとした顔で僕を見つめる。その目に光は宿していなかった。

 

 「優里香……」

 

 「えへへ。さっ、帰ろう?私達の家に」

 

 「その前に、一ついいか?」

 

 

 今ここで、僕が優里香の暴走を止めないと……!

 

 

 「なぁに?お兄ちゃん」

 

 「優里香……」

 

 

『どうしてそんなに僕がいいんだ?』

 

 

 僕は今さっきまで疑問に思っていたことを本人に問いかける。

 

 

 「どうしてって、それは私がお兄ちゃんが好きだからだよ!この世で1番大好きなお兄ちゃんだから!」

 

 「何を根拠にそう言ってるんだ?僕は優里香に何一つその異常なほど好かれるような事はしていない」

 

 「ううん。してるよ。私に優しくしてくれたこと。私に勉強を教えてくれたこと。私に色んな本を教えてくれたりとか、いっぱいあるよ!」

 

 「そんな事、他のやつでもできるだろ?なんで僕にこだわるんだ。こんな何も無いような僕に、どうしてそこまでの好意を向けられるんだ?」

 

 「お兄ちゃん……?」

 

 「僕以上にいい男なんていっぱいいる。今の優里香だったら、そこらへんのイケメンを捕まえることくらい容易いだろう?」

 

 「………」

 

 「なぁ、本気で教えてくれ。どうして僕なんだ?なんで優里香は僕をそうまでして手に入れたいんだ?」

 

 僕はありったけの疑問を優里香にぶつけた。

 

 「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

 「……なんだ」

 

 優里香は構えていた包丁を下ろす。

 

 「私ね、小学生のあの時から私はお兄ちゃんの事大好きだったよ?1人でいた私を強引に引っ張って、色々遊んだり、教えてくれたりしたあの時から」

 

 「………」

 

 「私は他の男の優しさよりも、お兄ちゃんの優しさの方が心地よかったんだ。私が嬉しい時も、悲しい時も、寂しい時も、ずっと隣にいてくれたよね。私にとってそれがたまらなく嬉しかった。」

 

 「でも、お父さんから本当の事を聞いて、ショックの方が大きかったけど心の隅では、本当の兄妹じゃないなら他の男結婚しなくてもお兄ちゃんと結構できるんだって。ずっと一緒にいられる……って」

 

 

 そんなことを……

 

 

 「私はお兄ちゃんのこと、兄としてじゃなく男として見てたんだよ?ずっとね」

 

 「だからこの暗い性格や悪いところを直そうと必死に頑張って、努力して、少しでも褒めてもらいたかった……お兄ちゃんにいい方向に変わっていく私を見て欲しかったんた……避けて欲しくなかったんだ……大好きなお兄ちゃんに」

 

 

 まさか……そこまで思い詰めていたとはな……

 ただ僕に見て欲しいだけ、ただ僕に避けられたくないだけ、そんな優里香の気持ちを分かろうともせず、僕はただ優里香を知らぬ間に傷つけていたのか……

 

 

 「でも、お兄ちゃんが迷惑してるなら……仕方ないよね……」

 

 すると優里香は肉切り包丁を今度は自分の首に向けた。

 

 「優里香……?」

 

 「お兄ちゃんが私のことを迷惑だって思ってるなら、私は消えるよ。お兄ちゃんのためだもん」

 

 「そんな!迷惑だなんて思っていない!だから包丁をはなせ!」

 

 「ふふふっ。今更そう言っても、説得力がないよ……」

 

 優里香が涙を流しながら微笑む。

 

 「じゃあね、お兄ちゃん。今まで迷惑かけてごめんなさい……そして、こんな私を少しでも気にかけてくれて……愛してくれて、ありがとう……」

 

 そして優里香は包丁を振り上げる。

 

 はぁ……まったく、僕の妹は……!

 

 

 「………」

 

 

 「……えっ?おにぃ……ちゃん?」

 

 

 僕は優里香を優しく抱きしめた。

 

 

 「優里香……ごめん」

 

 「!!」

 

 

 謝らなければならないのは僕だ。優里香の頑張りを僕は今まで気づいてあげれなかったせいで優里香をここまで追い詰めてしまった……僕の責任だ。

 

 

 「今まで、ずっと頑張ってきたんだな……こんな僕のために……」

 

 「……そうだよ……あれだけアピールしてもお兄ちゃん、ちっとも反応してくれないから……嫌われてるのかなって……不安に……」

 

 「嫌ってなんかないよ。でも色々と思うところがあって、無意識に優里香のこと避けてた。本当にごめんな……」

 

 「ひぐっ……ぐすっ……おにぃちゃん」

 

 「ん?」

 

 「……もっとギュッてして……」

 

 僕はさっきよりも力強く抱きしめる。

 

 「うぅ……ぐすっ……おにぃちゃん……!」

 

 「よしよし」

 

 僕は泣いている優里香の頭を優しく撫でる。

 

 「ごめんなさい……お兄ちゃんに包丁振っちゃって……ごめんなさい……お兄ちゃんの事考えずに迷惑ばっかりかけて……」

 

 「こっちこそごめんな……気づいてあげれなくて……」

 

 この責任は……僕がとらないとな……

 

 

 「好きだよ。優里香」

 

 「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

 優里香は今までの不安をかき消すように大声で泣いた。

 

 「………」

 

 「はぁ……」

 

 「奏、このことは……」

 

 「分かってるわよ。私は何も見ていない」

 

 「……あぁ」

 

 奏はわかっているという感じで僕にそう言った。

 

 「じゃあね。しっかり責任とんなさいよ」

 

 そう言い残して奏は自転車に乗り、その場を去った。

 

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「ん?」

 

 「好き……大好き……もう絶対離さないからね!」

 

 「……あぁ。望むところだ」

 

 「えへへ///」

 

 「………」

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「……ん」

 

 「んっ……」

 

 

 そして、僕のファーストキスの相手は優里香になった。

 

 

 ------

 

 

 翌朝--

 

 「zzz……」

 

 

 「おにぃちゃああん!」

 

 

 ボスッ!

 

 

 「ぐええっ!」

 

 

 翌朝、俺が寝ているところに優里香はダイビングしてくる。

 

 

 「えへへ~♪お兄ちゃん、お兄ちゃん♪」

 

 

 「ぢょ……やめで……くるじい……」

 

 

 「いやー!離さないもんねー!」

 

 

 「ぬおおお……」

 

 

 「あっ、そうだ」

 

 

 「なに……?」

 

 

 「おはようのキスがまだだったね!はいお兄ちゃん!チュー……」

 

 

 「朝からって……!ちょ、まず離して……」

 

 

 「いいからはやく♪ほらほら♪」

 

 

 「もう……勘弁してくれ~!!」

 

 

 今日も僕と優里香の1日が始まる。




今回はハッピーエンド?っぽく仕上げました。上手くかけたかな?(´・ω・`)

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