四日目の夜、宿舎の中庭でボンヤリとしていると、少し離れた所に工藤と久保が居た。
ひそひそ声で話している訳でも無く、少し近付いて耳を澄ませばはっきりと話の内容が聞こえる。
「設備が1ランクダウンか…卓袱台からミカン箱にチェンジしちゃったね。」
「これも僕たちが代表や木下さんに流されてしまったんだ。僕も君にも非はあるよ。」
やはり今日の試召戦争の話か。もっと何か話さないのか…?
「他のみんなはどうなの?女子はいつも通り優子と代表の悪口を信じきって嫌な雰囲気だったよ。」
「男子も似た感じだよ。でも三、四人は少し代表達に疑問を持ち始めてる子は居る。」
やはり女子は霧島達の影響力が強いか…アイツらが考え直してくれれば俺達もAクラスと無駄な争いをしなくて済むのだが。
「今回の事件は男子にとっては無関係だったしね。女子にとってもボク達Aクラス、Bクラス、Cクラスは関係あるけど他は関係無いし、色んな人に迷惑かけちゃったね。」
「そうだね…間違いに気付けた僕達はどうすれば良いんだろう。」
「取りあえず、霧島達から距離を置いてみたらどうだ?」
横から少し口を挟んでみた。こう言う話題なら俺が力になれるしな。
「わっ、大谷君。いつから居たの?」
「割と最初の方から聞いてたぞ。」
「それより、距離を置けと言うのはどういう事かな?」
久保が興味を示してきた。ここできちんと説明できればこの二人を霧島達から切り離せる。
「俺達がAクラスの設備を奪う前からお前達は基本的に霧島達と共に行動していた。だからあのグループを通してしか物事を見ることが出来なかった。で、アイツらと距離を置くと恐らくだが、お前達個人で物事を見ることが出来るはずだ。そこで見たものを判断し、自分達が本当に正しいことをしているのか、それとも間違っているのかと言うのを考えろ。」
俺らしくないな、こんなに長く語ってしまうとは。だがこれで工藤と久保が自分で考えることをしてくれるのであれば大きな収穫だ。
「…もしそれで、ボクが代表や優子達と一緒になっちゃったらどうするの?」
「知らん。お前が考えて出した結論だ、俺がとやかく言う筋合いは無い。」
「今この場で決めてしまうのは良いかな。僕は補習の間、ずっと考えていたんだ。」
「それを俺に言わなくでも良い。お前は学年次席だ、クラスの中でもかなり発言力はあるはずだし、お前の行動でクラスの雰囲気が変わるかも知れんぞ。」
それで男子と女子で対立が始まると言う可能性も無いわけでもないがな。
「ありがとう大谷君、ボクも少し考え直してみる。」
「僕は早速行動に移してみるよ。自分の考えを共有できる人が居ないかをまず見つけてみようと思う。」
「ああ、頑張れ。」
二人は何か吹っ切れた笑笑顔をして宿舎に戻って行った。時計を見ると既に夜の九時を回っていた。
消灯まであと一時間半か。ここで飲み物でも買って夜風に当たりながら十時位まで過ごすとするかな。