あと、高虎の考えがそこまで深いものになりませんでした。何とか自分の思い通りに事は進むと思いますが…
「…何をするんだ?」
雄二が不思議そうな顔で高虎に尋ねる。
「なに、あいつらは他のクラスが自分の味方をしてくれると考えている。逆に俺らの味方に組み込んでしまえば良い。」
「どうやってするの?霧島さん達が言ってたように、盗撮犯と思われてるんだよ?」
「昨日の小山と姫路の会話を聞いていたんだが…小山に俺達が本当に盗撮していたのかを疑っている節がある。そこで明智先生、少し動いて下さい。」
「…教師の私が皆さんの無実を伝え、Fクラス側にCクラスとBクラスを引き込むのですね。」
なるほどな…雄二や明久は小山の心境の変化を見ていない。見ている高虎や俺なら気付けるモノだな。
「だが、試召戦争に教師が介入するのは良く思えんぞ。」
西村教諭が難色を示す。
「明智先生はFクラスの担任だ。その担任が自らの教え子の無実を訴えても何の問題も無いはずだ。それにこれはただの試召戦争じゃない。Aクラスへの懲罰の様なものになる訳だから、普段のルールに則らなくても良いと思うぞ。」
高虎が即座に言い返す。前者の意見は少し賛同しがたいが、これがいつもの戦争と違うのは俺も同感だ。
「西村教諭、俺も高虎の意見に賛成です。確実に俺達が勝つ為に教師陣が手助けをしてくれるのはとても有難いかと。」
「鉄人、わらわからもお願いするのじゃ。高虎や吉継た達への誤解を解くために協力してほしいのじゃ!」
玉が頭を下げる。
「…明智先生、あなたは、どうしたいですか?」
西村教諭が明智先生に尋ねる。明智先生は少し考える素振りをした後、口を開く。
「…この戦争はAクラスを負かすための芝居、と考えれば藤堂君の案は名案かと思います。私も最近のAクラスは目に余るものがあると思っています。個人的には出来ることは最大限したいと思います。」
明智先生が協力を約束する。その言葉を聞いた西村先生は放送器具を取りだし、放送をかける。
『現在宿舎内に居る教師の方々は、11時になりましたら生徒指導室にお集まり下さい。緊急の案件があります。』
俺達は一旦出来ることは無くなったな。部屋に戻ってゆっくりしていよう。
「雄二、明久、部屋に戻るぞ。お前達はここに来てから全然勉強してないだろ?」
高虎の言葉に二人はギクリと言う擬音が聞こえてきそうなほど肩を跳ね上げる。
「ま、まあな…」
「う、うん…」
「そろそろ期末試験だ。何かしらの準備をしないと悲惨な事になるぞ。な、吉継。」
「そうだな、高虎の言う通りだ。俺達は既にやろうと思っていたことはやった。お前達二人もやらなければいけない事があるんじゃないか?」
俺達のやり取りを見ていた明智先生が横から口を挟んだら。
「そういえば…数学の長谷川先生からまだお二人の先月の課題が提出されてないと聞きましたね。」
「「ギクッ。」」
「それに…化学の布施先生からも、実験レポートがまだだとも言われました。それらはいつ頃に出すことが出来るのでしょうか。」
妙な笑顔を浮かべている。これでもう出しませんなんて口走ったらどうなるのだろうか。
「は、はは…合宿中に終えて出すつもりたったな…」
「ぼ、僕もそのつもりでいました…」
「では、部屋に戻りましょう。数学は姫路さんが一番得意とする教科ですから、わからなければ教えて貰うのも一つの手です。化学はそこまで難しくないので大丈夫でしょう。恐らく今日中には終わる量でしょう。」
「坂本も吉井も今日中に終わらせろ。今夜には学年全体での試召戦争の開催の発表をしなければならない。お前達が居なかったらFクラスは正常に機能しない。」
「…そんなの分かってるぜ。今日中に終わらせる。行くぞ明久!」
「ゆ、雄二、待ってよ!」
二人が部屋から出ていく。あの二人なら何だかんだでどうにか出来そうだな。全く、あいつらは勉強に力を注げば軽くCクラス位なら行けるだろうに…
「では、俺と高虎もこの辺で。」
教師に軽く会釈して部屋を後にする。
「今夜からAクラスとの戦いが始まるのか…高虎、お前の策が上手く行くことを信じるぞ。」
「任せろ。今回もAクラスをギャフンと言わせてやろう。」
少し早いが試召戦争への決意を固め、皆が待つ部屋へと向かって行った。