強化合宿も三日目を迎えた。今日のやる事も二日目とはたいして変わらないな。昨日のうちにやりたい勉強はやったからずっと自由時間みたいなモンだが。
「吉継、高虎、今日は暇か?」
朝飯の時に雄二が俺達に聞いてきた。この言い方から雄二が何を言わんとしているかは直ぐに分かる。
「俺は暇だ。高虎は?」
「俺も特にやることは無いな。」
「なら都合が良い。勉強時間になったら生徒指導室に来てくれ。ムッツリーニが昨日のAクラスの様子を撮ってくれていたんだ。」
お、早速撮影に成功したのか。流石だな。
「分かった。姫路や島田や秀吉はどうする?」
「今日はFクラスだけで勉強だろ?須川とか他の連中の勉強を見てもらうように言っておく。」
姫路はどの教科も出来るし島田も数学ならBクラスに引けを取らない。秀吉は…確か古文はまあまあ出来たはずだ。少なくとも他の連中よりは良い。これから今の設備を守るには点数の向上は必須だし、雄二の判断は正しいだろう。
「分かった。さっさと飯を食い終えて生徒指導室に向かう。」
「おう。」
~時間経過~
「大谷も藤堂も来たか。」
「彼らも坂本君、吉井君と同室です。この問題に大きく関わっている生徒なので、私からも来るよう朝食後に言いました。」
「父上、今日は何をするのじゃ?」
「土屋君がこっそり仕掛けていたカメラの映像の確認です。」
西村教諭に明智先生、娘の玉も一緒だ。
「…再生開始。」
カメラをテレビに繋げ、再生ボタンを押す。皆、身を乗り出して画面を見る。
昨日のAクラスは他クラスとの合同では無いらしく、同じクラスの人間だけになっている。
「…木下姉と翔子、久保が近くに固まってるな。」
「工藤さんはすこし離れてるね。てっきりこの四人で固まってるのかとおもったよ。」
特に怪しい事はしていないな…他のAクラスの奴らも特に変な動きはしていない。
「む?今、霧島が木下に何かメモの様なものを渡したのじゃ。」
「本当ですね。そして、その紙に何か書いて霧島さんに渡していますね。」
残念ながら何を書いているのかは分からない。そしてその紙は霧島が畳んでポケットに入れてしまった。もう確認はできないだろう。
「…午前中は目立った動きはないな。」
「まだ何もないと決まった訳じゃない。土屋、午後の様子も見せてくれ。」
「…承知。」
早送りにして昼食終了の午後一時まで進める。どんどん部屋にAクラスの生徒が入ってきて、少し後ろの方に木下が、更に遅れて霧島と久保が、最後に工藤が入ってきた。
そして勉強開始。初めは特に何もなかったが、一時間たった頃、霧島が木下、久保、工藤を自分の机の周りに集めた。
「霧島さんの周りに木下さん、久保君、工藤さんが集まってきましたね…」
「これから何を話すのかのう。」
『…集まったから、これから話をする。』
『そんなことわざわざ言わなくても良いのよ…』
『で、話し合いって言うのは何?』
『…私達の現時点の目標は?』
『霧島さん、いきなり何を言い出すんだ。Fクラスから僕達の設備を奪い返す事でしょ?』
『…それが、合宿の期間中に出来るかも知れない。』
『えっ!?でも、戦争禁止期間の三ヶ月は過ぎてないわよ?』
『…これから説明する。Fクラスを元の設備に戻して、私達が元の設備を取り戻すための作戦。』
「…おいおい翔子、何考えてるんだ。」
雄二が呆れたような声を出す。この二人の関係、修復の道は遠いか…?昨日の決意が早速揺らぎそうになるな。
「…理解不能。」
ムッツリーニは難しい顔をして黙り込んだ。
「くそっ…今すぐAクラスに行って事情を聞いてやる!」
「落ち着くのじゃ鉄人!最後まで話を聞くのじゃ!」
「西村先生、落ち着いてください!」
曲がった事の嫌いな西村教諭を玉と明智先生の親子が必死に押さえている。と言うか玉も明智先生も力あるな。西村教諭、あの二人が押し戻そうとしているせいで前に一歩も進めてない。
「高虎、何が起こるの??」
「俺も分からん。ただ…俺達にとって良いことではけして無いだろう。」
明久と高虎はこれからの展望を語っている。
「まあとにかく、続きを見てみるぞ。」
止めていた映像を再生させる。
『…簡単に言うと、学年全体で試召戦争をする。』 『…?どういうこと?Fクラスとボクたちが戦うんじゃなくて?』
『他のクラスを巻き込んで、全体で戦争をする。』
『つまり…Fクラス派か、Aクラス派かを他のクラスに選ばせて、二チームで戦争をするってこと?』
『…そう。向こうは私達が騙したとはいえ盗撮犯の汚名が付きまとってる。多分、味方してくれるクラスは居ない。そして、その戦いに勝ったらAクラスとFクラスの設備を交換する。』
『でも、僕たちはまだ戦争禁止期間だ。そこまで僕達に有利に事が運ぶとは思えないけど…』
『大丈夫よ久保君。盗撮は犯罪よ。この学校から犯罪者が出る事を学園長も望んでいないはず。アタシ達の条件を拒否したら坂本達を警察に突き出す、と脅せば良いのよ。』
『…優子の言う通り。』
『だ、代表…そんなことしてもFクラスも他のクラスも得をしないし、それでFクラスと関係が直る訳じゃないし、止めようよ。』
『…それじゃあ、何か方法があるの?』
『いや、普通に二学期に仕掛けようよ。』
『それじゃ遅いのよ。最悪でも一学期には取り返さないと気が済まないわ。』
『…とにかく、ボクはこれに反対だよ…』
『…愛子、どうしたのかしら。まあ良いわ。一応聞きたいんだけど、どうやって他のクラスを味方につけるの?』
『それは僕も気になっていたんだ。何か良い方法があるのかい?』
『…DクラスとEクラスは私が直々に頼みに行く。Cクラスは代表の小山が一日目に私と一緒に部屋に押し入っているから、何もしなくても味方になるはず。Bクラスも、代表の根本が小山と付き合ってるから自然とこっちにつく。』
『なるほどね…まあ、DとEはどちらについても同じね。』
『この案を通したら僕達の勝ちって訳か。面白い事を考えたね。』
『…ふふ…』
「…何だよ、自分達の逆恨みの為に他のクラスも巻き込むのか、翔子!」
怒りのあまり、雄二は握り拳を壁に叩きつける。
「…明智先生、霧島と木下、久保に呼び出しの放送を。」
「少しお待ち下さい。用意をします。」
明久とムッツリーニと玉が驚きでフリーズしている横で、教師陣が主犯共を呼び出そうとする。
「少し待ってくれ。」
それを高虎が止める。何を考えているのか、顔には笑みすら浮かべていた。
「この戦争…敢えて乗ってやろう。あいつらに灸を据える為にもな。」