因みに次回はDクラス戦です。
とりあえず、教室に入ろう。何も始まらないしな。
「まだ俺達の他には誰も来ていない様だな。」
教室を見渡して、雄二が俺達に言う。
「そうだな。ところで、俺と高虎の他にFクラスに来るような奴は居るか?」
「おいおい、居ないだろ。学年下位50人に入る様な奴が俺達の周りに・・・居たな・・・三人・・・」
言葉の途中で思いついたのか、高虎が頭を抱える。
「ああ、明久、秀吉、ムッツリーニか。」
高虎の頭の中に浮かんだであろう三人を挙げてみる。「そうだな。あいつらは確実に来る。それと・・・姫路だ。」
先程の三人の他に、雄二がもう一人挙げた。
「ん?姫路って言うと・・・学年次席の姫路瑞希か?」
「そうだ。俺と吉継と姫路は同じ教室だったんだ。そこでテストを途中退席してた。」
「確かに途中で倒れた女子が居たな・・・そこまで気にしてなかったが、あれは姫路だったのか。」
そこまで気にしてない、と言うよりは関心が無かったと言った方が正しいのかも知れないが。
「結構良い人材が集まるかもな。」
「そうだな。わざわざ点数調整して代表になった甲斐があった。」
…それにしても、雄二は良くピンポイントでFクラス代表になれたな。何か根回しでもしていたのか?
同じことを思っていたらしく、高虎が尋ねていた。
「それで、どうやってぴったりFクラス代表になったんだ?姫路のような途中退席者が居たなら計画が狂う事だってあり得る。」
「ん、それに関しては少しだけ学園長のババアに協力して貰った。」
「協力…?意図的に点数を下げてもらったりしたのか?」
「いや、仮に点数が上回ったとしても、Eクラス程度の点数ならFクラス代表にしてくれる、との事だ。」
「なるほどな。」
その時、扉がガラッと開いた。
「おお、雄二に高虎、吉継じゃな。」
入って来たのは雄二や高虎、俺の友人の木下秀吉。割と中性的な容姿で、よく双子の姉に間違えられている。
教師も間違える位だが、ヘアピンの付け方とかで見分けはつくのだ。
「どうしたのじゃ、吉継?ワシの顔をじっと見て…」
「いや、何でもない。ちょっとボーッとしていただけだ。」
「そうだ秀吉、俺や雄二、吉継の他にここに来そうな奴は誰だ?」
高虎が先程の話題を秀吉にも振っていた。
「そうじゃな…明久やムッツリーニ、島田は来るのではないか?」
島田?ドイツからの帰国子女と聞いているが、詳しいことは解らないな。
「島田ってどういう奴だ?俺は余り分からないのだが…」
高虎、本人が来たときに聞けば良いじゃないか…余り女子の事を詮索するのは良くないぞ。
「帰国子女らしいな。子供の頃からドイツに居たから、日本語でのコミュニケーションが苦手、と言っていたな。」
「帰国子女…そして日本語でのコミュニケーションが苦手と言うことは国語や古文での点数は期待出来ないな。」
「吉継の言葉に付け足すと、そもそも問題文を読むこと自体が難しい、と考えてもいいんじゃ無いか?」
「お主ら、手厳しいのう…」
済まない、秀吉。言い過ぎたかも知れない。
「まあ、そんなとこだろうな。さて、ゆっくりと他の奴らの到着を待つか。」
雄二はそのまま自分の席に行き、突っ伏して寝てしまった。
俺達もすることが無くなったので自分の席に戻る。
「む?座席表はどこじゃ?」
「「自由席だ。」」
「設備が酷いのは仕方ないが、座席表も無いのじゃな…」
苦笑しながら秀吉も席に着いた。
~時間経過~
チャイムがなり、席もほとんど埋まっている。
少しして、担任であろう教師が入って来た。
「皆さんおはようございます。Fクラスの担任の福原慎です。」
と、福原先生が黒板に名前を書こうとするが、チョークが無かったのか書くのを止めた。
「吉継…俺達大丈夫なのか?」
「俺にも分からん。」
たかとらの問いには俺も答えられない。ほんとに大丈夫なのかも俺には分からない。
と、その時、扉がガラッと開き、二人の生徒が入って来た。
「遅れてすみません!」
「ごめんなのじゃ!」
片方は明久、もう片方のワイン色の髪をツインテールにしている女子は…誰だ?
「高虎、あの女子は誰だ?」
「俺も詳細は分からないが…確か明智先生の娘じゃないか?一度駅前のデパートであの娘と明智先生が一緒に歩いてたのを見たことがある。」
ほう、あれが明智先生の娘か…親バカなのは聞いていたが、あの見た目なら納得できる。
「遅いぞ、クズ虫。」
「誰がクズ虫だ!」
「そうじゃ!わらわはクズ虫じゃないのじゃ!」
雄二の言葉に二人とも反応する。雄二は女子に失礼な物言いはしないと言った方が良いだろうか?
因みに島田と秀吉以外のクラスメイトは明智先生の娘に釘付けにされていた。
『すげえかわいいぞあの娘!』
『現実でツインテールの女の子に出会えるとは!』
『俺と結婚してくれ!』
「こいつらの頭の構造はどうなってるんだ?」
「高虎や俺には分からないだろうな。」
誰かが結婚してくれと言ったとき、再び扉が開いた。顔を見せたのは明智先生だった。
「一応言っておきますが…私の娘に手を出そうものなら、有無を言わずに腕を切り落とします。」
早口で言ったあと、扉を閉めて戻って言った。
『…』
触れてはいけない何かに触れてしまった連中は、完全に黙り込んでしまった。
「…とりあえず二人とも開いてる席に着いてくれ。」
雄二にそう言われて、二人とも近くの席に腰を下ろした。
「えー…それでは窓際の人から自己紹介をしてください。」
福原先生がそう言うと、順番に自己紹介をしていく。
「工藤信也です。特技は…」
「横溝浩二です。趣味は…」
次は明久の番か…
「吉井明久です!皆さん、ダーリンと呼んで下さい!」
『ダァーリーン!』
「…すみません、冗談です。」
一体何をやっているんだ明久は…
明久な自己紹介が終わったとき、またしても扉が開いた。
「お、遅れてすみません…」
ピンク色の髪が目立つ元学年次席、姫路瑞希だ。
「姫路さん?」
明久が少し驚いた様に言う。
他のクラスメイトも彼女を見て驚きを隠せない様だ。
『何で彼女がここに?』
『成績はトップクラスなんじゃ…』
次々と疑問の声が上がる。
「あ、あの…試験の日に体調を崩してしまって…」
そう言って一番前の列の席に腰を降ろす。
「では、自己紹介を続けて下さい。」
その後も俺や高虎、秀吉、ムッツリーニや島田も自己紹介を終え、後は代表の雄二のみになった。
「最後に代表の坂本くん、教壇に立って何か言ってください。」
雄二がゆっくりと教壇に向かっていく。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。とりあえず初めに聞いておこう。ここの設備は足の折れかけたちゃぶ台、ぼろぼろの窓、綿なしの座布団。対してAクラスはシステムデスクに個人用冷蔵庫にディスプレイもあるし、教材も無料で提供してくれるらしい。」
ここで一拍置いた。
「不満は無いか?」
『大有りじゃあっ!』
高虎やムッツリーニ等も含むクラスの殆どが叫んだ。叫ばなかった秀吉、島田に姫路と明智先生の娘も不満があるに違いない。もちろん俺だって不満しかない。
「だろうな。俺だってこの環境は大いに不満だ。そこで皆に提案だ!この設備を試験召喚戦争でどうにかしようではないか!最終的にはAクラスのシステムデスクに変えようじゃないか!」
雄二がそう言った瞬間、クラスが一瞬で静まりかえった。
『無理だ。』
『勝てる訳無い。』
一気にクラスの雰囲気が重くなる。
「大丈夫だ、このクラスにはAクラスにも対抗できる人材が多数いる!まずは、木下秀吉!」
「わ、ワシか?」
雄二に指名された秀吉が少し驚いていた。
『おお、木下秀吉といえば…』
『演劇部のホープ!』
『双子の姉が成績優秀なことで有名だな!』
「次に…おい、いつまでも姫路のスカートの中を覗いてるな。」
「は、はわっ!?」
「…!?(ブンブン)」
「土屋康太。こいつはかの有名な寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ。」
『ば、バカな!?』
『こいつがあのムッツリーニなのか!?』
『いや、あの必死に否定するところ…まさにムッツリーニという二つ名に、ふさわしい!』
「それじゃ次だ。島田美波。」
「う、ウチも?」
「ああ、そうだ。こいつはドイツからの帰国子女。」
『帰国子女だと!?』
『そんな奴が居たのか。』
「姫路に関しては言うことが無いな。次は…大谷吉継に藤堂高虎だ!」
俺達の名前が出たとき、皆驚いていた。
『大谷に藤堂だと!?』
『日本史や世界史で600点を越えたと言われる奴らか!?』
『一度は二人とも霧島さんに総合科目で上回ったとも聞いたぞ!?』
俺達はそこまで有名なのか…
「次に明智玉。明智光秀教諭の娘だ。」
雄二の言葉に皆反応しそうになるが、先程の事があって余り過激な言葉は聞こえなかった。
「そして…吉井明久!」
その言葉が出てきたとたん、ヒソヒソ声で話していた連中が完全に静まった。
『誰だソイツ?』
「知らないなら教えてやろう…明久は観察処分者だ!」
教室が次は先程とは別な雰囲気でざわめき出す。
『観察処分者って…』
『バカの代名詞だよな?』
「ち、違うよ!ちょっとお茶目な高校一年生に付けられる称号で…」
「そうだ、バカの代名詞だ。だが…教師の雑用によって召喚獣の操作は誰にも負けない。間違いなく役に立つだろう。」
召喚獣の操作が上手いと聞いて、明久の評価が一変した。
『確かにそれなら大きい戦力になるな!』
『点数が低くてもな!』
何気にディスってる気もするが、それは置いておこう。
「もちろんこの俺、坂本雄二もいる。」
『坂本って言うと、悪鬼羅刹で有名な?』
『しかも小さい頃は神童と呼ばれていたそうだ!』
『こんなに凄い奴がいるなら本当にAクラスに勝てるんじゃないか?』
クラスの雰囲気がどんどん明るくなる。単純だな…
「そうと決まれば早速仕掛けるぞ!高虎、Dクラスに宣戦布告に言ってくれるか?」
「…俺がか?」
「ああ。もしもその時に危険な目に遭いそうになったら常識の範囲内で反撃して良い。」
「了解だ。」
高虎はゆっくりと立ち上がり、教室を出ていった。