強化合宿1
清涼祭からしばらく経過し、五月の下旬になった。
「明日から強化合宿か…」
強化合宿は五日間。今日の夜の準備が大変になりそうだな。
ん?前を歩いているのは…
「明久か。」
「あ、おはよう吉継。」
いつもは遅刻寸前なのに、どういう風の吹き回しだ?
「少し早く目が覚めてね。家に居てもやることが無くて…」
「そういう事か。」
まあ、たまにはそういうこともあるよな。
「ところで、お前は強化合宿に何を持っていく予定か?」
原則では、ゲーム機やマンガは禁止。トランプや小説等は持ち込み可能らしい。建前は勉強合宿だから当然とも言えるが…
「うーん…あそこで没収されたらたまんないし、暇潰し程度にトランプとかを持っていくかな。あとはまだやってない宿題とか…」
「俺は小説を五冊ほど持っていく予定だ。自由時間は読書に徹する。」
集団で勉強しても効率が上がるとは考えにくい。他の学校との違いを出そうとしているのだろうな。
そんな他愛の無い話をしている内に学校に着いた。
「ん?…何これ?」
「?」
明久の方を振り返ると、手に白い封筒を持っていた。
「…お前に伝えたい事でもあるんだろう。ラブレターとかか?」
「もしそうだったら嬉しいな~!」
嬉しそうに封筒を破き、手紙を取り出す。そこにあったのは…
『あなたの弱みを握っています。』
と書いてある紙だった。明久が悲鳴を上げていた。
………
「と言う事があってだな。」
教室に着いて、すぐに雄二と高虎に相談した。
「明久、何か恨まれるような事したのか?」
「いや、特に何も無いけど…」
「自覚が無くとも恨みを買ってしまう事はある。まずは、これを出した奴の特定だな。」
高虎がそう言って鞄からノートを取り出した。
「この時期に送って来ると言うことは、強化合宿で何か行動を起こそうとしているのだろう。」
「だがあの行事はクラス単位で行動する。明久だけをピンポイントで狙うとは考えにくい。だとしたら…」
「俺達全員が標的、か。」
高虎、俺、雄二の順番で話す。
「そう言えばだが、明久の弱みって何だろうな。俺も高虎も雄二も明久とは親しいし、行動パターンも大体把握できる。明久、お前は何か見られてまずい事があったりしたか?」
「いや、特にやましい事はしてないけど…」
「それじゃあ、この手紙はハッタリか。」
ハッタリ…ハッタリをする意味は何だ?相手は何も得をしない。だとしたら狙いは…
「相手は、俺達に良い思いをして欲しく無いのだろうな。」
「吉継どういう事だ?」
雄二が何を言っているんだと言いたげな目でこちらを見てくる。
「明久や俺達に恨みがあるなら、自分に利益が無くとも相手が損をすれば良い、と考えた。」
「でも、僕たちをそこまで恨む人って居るかな?こんな脅迫をするような…」
少し前なら考え込んだのかも知れないが、今なら直ぐに分かる。
「「「Aクラスだ。」」」
俺、高虎、雄二の声がハモった。考えは同じか。
「翔子の指示の可能性があるな。不良を仕掛けてきて以来、もう会いたくないと言って会ってないが…」
雄二と霧島、あんなに仲睦まじい(笑)様子だったのにな…
「他に関係してそうな奴は…」
「木下と久保だろう。特に木下はお前と相性が悪いし、二回も召喚獣の勝負で負けている。発案があいつと考えてもおかしく無い。」
清涼祭の時は不良を仕掛けてきた。こんな消極的なやり方をするだろうか…?たが、他に考えられる選択肢は無い…
「吉継、お前はAクラスに親しい奴は居るか?」
「他のクラスに友人と言える奴は居ないが…」
言っている途中で思い出した。Aクラスで木下や霧島と親しく、このやり方を良く思っていない奴が。
「…これについて聞ける奴は居るな。」
「そうか。それなら、そいつに何か聞くことは可能か?」
雄二が光明が見えたのか、明るい顔になった。
「今日の昼休みにでも試してみよう。」
「よし、じゃあこの話はこれまでだ。一応秀吉やムッツリーニ、島田に姫路に玉辺りには話しておく。」
雄二がそう言って自分の机に戻り、突っ伏して寝始めた。
「俺達も戻るか。」
「そうだな。さて、饅頭でも食べるか。」
高虎や明久も自分の席へと戻っていった。
その後、他のクラスメイトも到着し、その度に雄二が説明していた。
そして朝礼で、明智先生が強化合宿のしおりを持ってやって来た。
「明日から強化合宿です。必要な物等は書いてあるので、自分で確認をして下さい。」
それなりに厚いな。自由時間は…午前、午後の勉強時間の合計四時間以外は自由か。中々に良いじゃないか。
「明日は一旦学校に集合して下さい。リムジンバスで現地に向かいます。」
リムジンバスをこんなことに使うのか。ホントに無駄使いだな。
「Aクラスはどうなるんだ?」
雄二が明智先生に聞く。
「現地集合です。」
「そ、そうか…」
雄二も流石に引いていた。今回行く場所、電車を乗り継いで数時間だ。大変だな。
「朝の連絡は以上です。それでは、一時間目の準備を始めて下さい。」
明智先生も教科書を出し、ディスプレイの準備を始めた。
~時間経過~
昼休みになり、皆が昼飯を食べ始めた時、俺はAクラスがある旧校舎へ向かっていた。
しばらく待つと、明るい緑色の髪をした少女が出てきた。
「待て。」
「ん?キミは大谷君だっけ?どうしたの?」
「…少し話がある。」