赤波根さんちの事情~秘書見習いの受難   作:すかーれっとしゅーと

3 / 3
いつも読んで下さり、ありがとうございます。


第3話 禁秘

 目の前に、大きな茶色の両開きトビラがある。

海外の城や屋敷では、よく見られる形のものだ。

最も知識として得たのは、洋画からなので、実際に見るのは初めてだ。

赤羽、お前、お嬢様だったのか……。

 

コンコン

「連れてきました」

 

赤羽が、トビラをノックして、声をかける。

 

「入って」

 

 部屋の中から、女性の声が返ってきた。

赤羽がトビラを開ける。彼女に促されて、部屋に入る。

 

 この部屋は「謁見の間」。

上には多数のシャンデリアが、キラキラ輝いていた。

トビラから、奥へ向かって真っすぐ、約3m幅の赤い絨毯が引いてある。

赤い絨毯の外側は、白い床になっていて、シャンデリアの光が反射する。

部屋の両側には、天井まで続く石造りの円柱が5本ずつ、壁に沿って1列に並んでいる。

その円柱それぞれに、彫刻が施され、見た感じ豪華な造りになっていた。

柱と柱の間が約1m、そこには、様々な壁画が飾ってあり、鮮やかな雰囲気を演出している。

吹き抜けで、2階部分が見える。そこの柵にも飾り彫りが施されていた。

 

 この、普通に生活していると出会うことのない光景に、思わず見渡してしまう。

そんな俺の左側に、赤羽がいる。

右側にはかすみちゃん、ともみちゃんという形で、横一列に並んでいた。

彼女たちは、声を出すこともなく、正面を向いている。

 

「この部屋は、こんな使い方しか、できないけどね」

 

 不意に声を掛けられ、その方向に顔を向ける。

赤絨毯の先には、大きな机が鎮座していた。

その机も、何処かの講義室でしか使わないような、教授用机。

 

 その奥には、黒く長い髪をした若い女性が、こちらを向いて立っていた。

顔は、赤羽や双子に似ているため、彼女たちと血縁があるひとだということは、分かる。

ただ、赤羽よりも、より女性的な怪しさをまとっている。

着ているベージュグレーのワンピースが、雰囲気を醸し出しているようだった。

 

彼女と目が合ったような気がした。

 

彼女がニヤリと微笑む。

自然と彼女の立ち姿から、目を離せなくなっていた。

 

「服、似合ってるかな?」

 

不意にそんなことを聞いてくる。

答えるまでもない、非常に魅力的だ。

 

「はい、非常に似合ってます」

「生涯の伴侶との、初めての顔合わせということで、気合い入れて選んだから、当然だね」

 

 さも当たり前のように答えられる。

「生涯の伴侶」、それはどういう意味なのだろうか。

しかし、そんな疑問は一瞬で手放していた。

彼女から目を離せない。魅力的だ。

机の方へ、一歩ずつ、足が動いていく。

 

「……お姉様、生涯の伴侶って、どういうことですか!」

 

 悲鳴にも似た、聞き覚えのある声により、俺は歩くことを止めた。

……というより、足が止まった。

そして、彼女から離せなかった目を、離すことができるようになった。

 

「しかも、コージ君に『魅了』を使うなんて!」

「悪い悪い、なんか面白くなってね」

 

 赤羽が女性に向かって怒ってる。

「お姉様」と呼んでいたなぁ……。

ところで、「魅了」ってなんだろう……?

 

「でも、あゆみ。伴侶は間違ってないと思うぞ」

 

赤羽が睨みつけている。

その目線を受けている女性は、気にしていないようだ。

 

「彼は、私の秘書になってもらう予定だからな」

 

 彼女はそう言うと、俺の方を向き直る。

秘書……、そういえば、そんな理由でここに来たはずだったな。

赤羽はというと、小さくため息をついていた。

 

「赤波根家・長女で次期頭代の赤波根(あかばね) さくらだ。よろしく」

「私は、田中 浩二です。よろしくお願いします」

 

 次期頭代って、女のひとだったのか。

確か、母さんが「さくらちゃん」と言っていたような……。

軽く頭を下げられたので、こちらも自己紹介をして、頭を下げる。

 

「……で、浩二よ」

「何でしょうか」

 

「ウチのあゆみとは、付き合ってるのか?」

「「……えっ?」」

 

赤羽との関係を問われたので、赤羽と顔を見合わせる。

そもそもなぜ、最初にその質問が出るのか……。

 

「さっき、廊下でいい雰囲気だったではないか」

さくらさん、見てたのか?

 

「防犯のために、カメラがセットされてるからな、しっかりと観察させてもらった」

 

 赤羽は、バツの悪そうな顔をしている。

付き合ってはいないが……。

赤羽の方を見る。彼女の顔が真っ赤になっていく。

 

「あかね姉は、おにいちゃんのこと、すき」

「おにいちゃんの『せーえき』も、あかねおねえちゃんに、はんのうしてる」

「……そうか、2人は両想いか、そうかそうか」

 

ここぞというところで、かすみちゃんとともみちゃんが、報告している。

それを聞いて、さくらさんも笑顔で頷いている。

 

「まあ、お互いが好きで、付き合うなら、何も言いはしないが……」

 

さくらさんは、2人を交互に見て確認する。

その後、ニヤリとしてこう言い放った。

 

「……浩二よ、体調管理を怠るなよ」

「……えっ、どういうことですか?」

 

意味が解らなかったので、問い返す。

さくらさんは、少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻す。

 

「……あゆみ、浩二に、何も言ってないのか?」

「はい、これが終わり次第、コージ君に伝える予定です」

 

終わり次第伝える……。

ここに来る前に、赤羽が言っていた「彼女の秘密」のことだろう。

 

「ならば、そのことについては、あゆみに任せよう」

「はい、わかりました……」

 

「それ以外については、私から説明する」

さくらさんは、この赤波根家について、説明し始める。

 

「ウチは、他と違って少々特殊だからなぁ……」

 

 まず、この家の頭代は、赤波根(あかばね) (まこと)といい、ヴァンパイアであるということ。

そして奥方様は、(ともえ)といい、こちらは、サキュバスである。

この2人から生まれた子供は、3男4女、全部で7人いる。

その子供たちは、一部を除き、親のどちらかの性質を多く受け継いでいる。

 

「例えば、私は、ヴァンパイアの性質を濃く受け継いでる」

さくらさんは、さらに説明を続ける。

 

「見分け方は簡単だ、黒髪だとヴァンパイヤ、茶髪だとサキュバスの血を濃く受け継いでいる」

 

 なるほど。そんな見分ける方法があるのか。

赤羽とともみちゃんは、茶髪だからサキュバス。

かすみちゃんは黒髪だからヴァンパイヤということなんだな。

当然、さくらさんは、自己申告した通り、黒髪ということで、ヴァンパイヤということになる。

 

でも、それって、髪を染めたら、わからなくなるのでは……。

 

しかし、ヴァンパイヤとサキュバスか……。

ヴァンパイヤは血を吸い、サキュバスは精液を吸うと言われているのが一般的。

 

だから、かすみちゃんは血を吸いたがり、ともみちゃんは、「せーえき」と発言するのか。

 

 小学生としての在り方として、大丈夫なのだろうか。

赤羽はどうなんだろう……。

彼女から、そのような発言は、聞いたことがない。

俺の知らないところで、男を襲ってる?

……彼女に限って、そんなことはないとは思うが……。

 

「そういえば、浩二。お前の両親が、ウチの両親の秘書をやっていることは聞いているか?」

「はい、聞いています」

 

「そして、先祖代々、ウチに遣えているのだが、理由がある」

「……」

 

「お前の一族は、血が非常に不味い」

「……はあ」

 

「なので、近くにいても、吸いつくして、殺してしまうことがないんだよ」

「それで、代々……」

 

「そうだ。初美さんは、一族ではないが、親を喰らうわけにいかん」

「親?」

 

「ああ、私たちにとっては、大切な乳母だからな」

 

 そういうことか……。血が不味いのか。

そして、母さんは、彼女たちの乳母。

そんなことをしていたなんて、まったく気が付かなかった。

納得できるような、できないような……。

 

「あと、お前には、これを持たせておく」

さくらさんは、机からカードを取り出す。

 

「ヴァンパイヤは、血が不味いことで回避できる」

さくらさんは、言葉を続ける。

 

「サキュバスの能力回避は、このカードで対策するようにしている」

「サキュバスの能力の回避?」

 

「ヴァンパイヤも一応ある能力なのだが、相手を魅了してしまう能力があってな」

 

 ヴァンパイヤやサキュバスは、吸うものが違うが、人間を襲うというところは一緒である。

映画などで、ただやみくもに襲い掛かっているように見えるが、実はそうではないようだ。

 

 ヴァンパイヤは、イケメンな男が多い。それは、女性を魅了して寄ってきたところを襲うためである。

女性であるヴァンプも、同じように女性的な身体の、男性受けをするオーラをまとっているそうだ。

そして、寄ってきた人間に嚙みついて、血を吸いながら、自分の血を送り込む。

ヴァンパイヤの血を送られた人間は、ヴァンパイヤとして、活動を始めることになるのだ。

 

 サチュバスは、襲う対象になった人間の、理想の異性に化けて、おびき寄せて性交をする。

欲しいのは、人間の精液。相手にいい気分になってもらい、注入してもらう。

あまり知られていないが、サキュバスは、雌雄同一で、サキュバスの男版、インキュバスにもなれる。

インキュバスは、サキュバスとしてもらった精液を、人間の女性と性交することによって、送り込み、自分の子を孕ませる。

その生まれた子供は、サキュバスになる、そんな節理だ。

 

そういうこともあり、ヴァンパイヤもサキュバスも、仲間を作るために、人間を襲う。

 

 人間側から見るとそうなのだが、ヴァンパイヤ、サキュバス当人から見ると、少々違うようだ。

サキュバスを人間が見た場合、その人間が勝手に、理想の異性に見えてしまい、好きになってしまうのだそうだ。

同じように、ヴァンパイヤの場合も、イケメンや美女として見えてしまうらしい。

勝手にそのオーラがにじみ出てしまうため、普通に生活するには、苦労するようだ。

 

「そのオーラの影響を抑えるために、このカードがある」

カードを俺に手渡す。何の変哲の無い、赤いカードだ。

 

「まあ、田中家の場合、下着にその効果がすでに施されているが、な」

「どういうことですか?」

 

「ウチの親父が、研究と発明が好きでね、このカードと同じで、わざわざ作ったらしい」

 

 さくらさんの親父……赤波根 誠・現頭代が、サキュバスの奥方と結婚するときに発明したそうだ。

理由は「周りの人間がウザい」というものだったようだ。

まあ、どちらも人間を誘惑してしまう能力を持つため、必要以上に集まられるのは、障害以外の何物ではなかったのだろう。

また、周囲で働いてくれる人間が正常でなくなるのも、困る。

そのため、赤波根家に出入りする両親が住む俺の家には、自然と置かれるようになったようだ。

俺についても、周囲に赤羽がいるため、両親が頼んだらしい。

 

「まあ、ここまでが、ヴァンパイヤとサキュバスの説明と、赤波根家の秘密の説明になるが」

さくらさんは、付け加える。

 

「そもそも、私ら子供は、どちらの血も受け継いでるから、一概には言えん」

 

 赤波根家の子供たちの場合。

まず、血や精液を身体に取り込んでいなくても、死ぬことはないようだ。

代替品でいいらしい。

ただし、体調は良くはなく、ヴァンヴァイヤの血を強く受け継いでいる場合は、貧血気味である。

サキュバスの血を受け継いでいる場合は、精液を取り込んでいなくても、体調に支障はないが、男の匂いに敏感になるようだ。

 

さくらさんの場合、ヴァンパイヤの血を濃く受け継いでいる。

・ニンニク、香草は苦手

・日光に少し弱く外での運動では貧血気味

・鏡やガラスには、少し薄く映る

・体力は無尽蔵にある、ただし室内に限る

・コウモリに化けることができる

 

 その他のヴァンパイヤが苦手とされる物事は、サキュバスの血が入ることで、緩和されているようだ。

かすみちゃんも同じ性質ようで、俺の隣で1つ1つ頷いている。

 

「まあ、これについては、個人個人で微妙に違うから、あゆみたちに聞けばいい」

俺の隣で、赤羽と双子が頷いている。

 

「まあ、お前は今日ウチに来たばかりだ。、ゆっくり覚えて、慣れるといい」

「ハイ」

 

「秘書の仕事というのも、浩二が大学を出るまでは、試用期間なので、思ってくれているだけでいい」

そこまで言うと、さくらさんは、赤羽の方に目を向ける。

 

「あゆみ。後の詳しい説明はお願いしてもいいか?」

「ハイ、お任せください、お姉様」

 

さくらさんは、ウンウンと頷いた後、思いついたように、一言付け加える。

 

「あゆみ、避妊はしろよ!奥方様と違って、放出できないだろうからな」

「お姉様!」

 

 赤羽は、その言葉で真っ赤になっている。

避妊って……、赤羽とそういうことをするかも、そういうことだよな……。

想像して、身体が熱くなった。

 

「おにいちゃんのせーえきが、あゆみおねえちゃんにむいてる、よ」

「おにいちゃんは、やっぱり、あゆみ姉のことが、すき」

 

「あーあーあー、2人とも、ちょっと黙って!」

 

かすみちゃんとともみちゃんの発言で、赤羽が尚も混乱する。

その様子を見ているさくらさんは、まんざらでもなさそうだ。

 

「では、赤波根 さくら次期頭代、私はこれで」

「ああ、これからはよろしく。そうそう、私のことは『さくら』でいいから」

 

「いいんですか?」

「いい、いい。畏まられると、こっちの肩が凝る」

 

「わかりました。失礼します」

 

 俺は、トビラから部屋を出る。姦し三姉妹は、まだ中にいるようだ。

ヴァンパイヤとサキュバス。赤波根家の秘密を思い返して、辟易してしまうのであった。




ヴァンパイヤとサキュバスについては、諸説ありますが、都合のいい説を織り交ぜて採用してみました。

……サキュバスに関しては、人間側に害なくね?とか思ったり。
イケメンと美女と結ばれる……。

昔、忌み子が生まれたときは、インキュバスに襲われたとか言われていたようです。

赤波根家の秘密ですが、さくらさんは話せることだけ話しているだけ、です。
他については、そのうち明らかになるかも、しれませんね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。