赤波根さんちの事情~秘書見習いの受難   作:すかーれっとしゅーと

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第2話目です。
今回もよろしくお願いします。


第2話 双子

 部屋で、メイドが呼びに来るまで待つ。

宮本さんに「19時に謁見の間に来てくれ」と言われていいた。

ただ、それは母さんに用事がなかった場合だったようだ。

 

現に、今は19時を過ぎている。

 

 しかし、まだ、メイドは来ない。

部屋にある収納にキャリーバッグの中身を入れようか。

そう思って行動を起こそうとしたとき、それは起こった。

 

コンコン

 

 ドアをノックする音がした。

メイドさんが呼びに来た……しかし、ノックの後、言葉がない。

おかしいなぁ。

物語やアニメなどで登場するメイドなら、一声あってもいいはず。

ノックだけなのは、しかもドアも空けてこないのは、不思議だ。

誰かが呼びに来たのは、間違いない。

 

そう思い、こちらからドアを開ける。

 

 外には、小さい女の子が2人。

黒髪と茶髪で、2人とも顔がよく似ている。

背丈や顔が幼いところから、子供のようだ。

俺は、彼女たちに目線を合わせるため、その場でしゃがんだ。

 

「こんにちは」

「「こんにちは」」

 

始めて会うこの娘たちに、まずは挨拶だろう。

怖気づくかと思ったら、すぐに返事が返ってきた。

 

「おにいさん、さっきここにあんないされてた」

「ミヤモト、とハツミ、に、つれてこられた、の、しってるよ」

 

 2人はたどたどしくも、なんとか話してくる。

子供相手は、友人の弟を相手したことがあるので、少々慣れている。

でも、女の子相手は、初めてなんだよなぁ……。

とりあえず、自己紹介をして、警戒を解いてもらおう。

……って、警戒していなさそう。堂々としているな、この()たち……。

 

「俺の名前は、田中 浩二だよ」

「わたしのなまえは、『あかばね かすみ』」

「ともみの、なまえ、は、……『ともみ』……」

「ともみは、わたしのいもうと」

 

 彼女たちも自己紹介をしてくれた。

黒髪の方がかすみちゃんで、茶髪の方がともみちゃん。

そして、どちらも赤波根家の関係者らしい。

かすみちゃんの方が、少ししっかりしているようだ。

 

「2人とも、よく似てるね。双子ちゃんかな?」

 

 俺がそう声をかけると、2人とも目を見開いた。

そして、ともみちゃんが、かすみちゃんの背中に隠れる。

さっきまでの、自信あふれた表情は、鳴りを潜め、見た目でもわかるほど、おどおどしている。

 

「おにいさん、わたしたちが、ふたごって、わかる?」

 

かすみちゃんが、妹を背中に庇いながら、聞いてきた。

いや、どう見ても双子だろう。

 

「……わたしたちが、しまいってわかるひと、あまりいない」

「……えっ!こんなに似てるのに?」

 

「うん、がっこうでは、なまえでしか、しまいって、わかるひと、いない」

 

 なぜなのだろう。髪の色以外、顔、身長、体格も全て一緒の彼女たち。

こんなに「私たち、双子なんです」と主張しているのに、誰も気づかないなんて……。

しかも、かすみちゃんの話だと、見た目では、「姉妹」にも思われないようだ。

 

「……で、お兄さんに、何か用かな?」

 

こんな子供に、ましてや、赤波根家関係者に呼びに行かせるわけがないので、質問を投げてみる。

 

「ようはない、ただ、ちがほしかった、だけ」

「……かすみ、ちゃん……、つまみぐい、は、おねーちゃん、に、おこられる、よ」

 

 かすみちゃんは、堂々とそんなことを言っている。

ともみちゃんは、かすみちゃんの背中に隠れながら、諫めている……のだろうか。

しかし、ともみちゃんは、まだ、俺のことを怖がっているようだ。

 

 ちがほしかった……血が欲しかった……うーん。

先程のメイドさんも血が吸いたいとか言っていたような。

この赤波根家、おかしいことが多すぎる。

父さんも母さんも、「慣れよ慣れ」とは、言っているけど、慣れることができるだろうか……。

 

「ところで、かすみちゃんは、血が好きなの?」

「うん、ちがすき」

 

「どんなところが?」

「のんでいると、しあわせなきぶんになる」

 

「どういう感じで、吸うのかな」

 

かすみちゃんが言うには、人さし指を安全ピンで少し傷つけてくれると、吸えるのだ、とか。

学校では、工作と体育の授業のときに、たまに、ケガした友達のものを吸うらしい。

……これって……でも、子供が好き好んで血を飲んでいるだけ……ないか、ないない。

なぜ、血がそんなに好きなのだろうか……。

 

「かすみちゃんって、もしかして、保健委員、やってる?」

「うん。なんでわかった」

「なんとなく……な」

 

しかしな、この姉妹、美人になりそうな顔立ちしてるんだよな……。

女子はともかく、男子からも、血をもらうことがあるのだろうか。

思春期を迎えつつある、彼女たちの同級生男子にとっては、悩ましいことになっていそうだ。

 

「かすみちゃん、クラスの男子からも、血をもらったことは?」

「あるよ」

「……お父さんは、許しませんよ!」

「「……!?」」

 

おっと、こころの声が出てしまった……。

2人とも、一瞬、何が起こったのかわからず、絶句している。

羨ましいのう、羨ましいのう、この姉妹の同級生だったらよかったのう。

これは、この()たちのクラスの男子、こぞってケガをしているかもしれない。

ケガした箇所から、口で吸うんだろうから、危ない絵が思い浮かぶ。

 

「おとこのこって、よくけがするけど、わたしよりも、ともみにたのみたがる」

「……かすみちゃん、ともみには、いらない、から、まわして、こないで」

 

姉妹でも複雑な事情がありそうだ。

しかし、双子でも好みは分かれるようだ。

友美ちゃんの方は、血を好まないらしい……って、普通はそうだよな。

 

「ともみは、せーえきが、すきなんだよね?」

「うん。せーえき、を、さがし、なさいって、おかあさん、いってた」

 

「せーえき」ってなんだろう?

俺の頭の中に、それに該当しそうなものが思い浮かんだ。

が、そんなわけがないと、あわてて候補から消し去る。

……きっと、この家族で「せーえき」と呼ばれる何かがあるのだろう。

 

「ともみちゃん、『せーえき』って、何かな?」

「んーとね、白くて、ドロッとしてて、ネバネバ、しているもの?」

 

思わずギクッとしてしまう。

先程、思い浮かべたものと、特徴がほぼ同じ……。

誰だ、こんな子供にそんなものを与えるヤツは。

しかも「好き」と言わせてしまうまで。

……そこまで思い浮かべて、かき消す。そんなこと、あるはずがない。

これ以上、質問してもいいのだろうか。

怖い反面、興味も出て来る。

この姉妹の容姿は、子供とはいえ、美人なのだ。

 

「ともみちゃん、それは、どうやって吸うのかな?」

 

とうとう、興味本位に禁断の質問をしてしまった。

 

 ともみちゃんが、「せーえき」をどのように摂取するのかは、わからない。

分からないのに、「吸う」という表現を用いてしまったことに、自分でも苦笑する。

吸うってどこから?

賢明な男子諸君、経験を済ませた淑女の皆さんならば、お分かりだろう。

なぜか、心臓がドキドキしている。

 

「……コ・ウ・ジ、君……」

 

 かすみちゃんともみちゃんは正面にいるはずなのに、左から声がする。

しかも、名前で呼ばれている。この声は、聞き覚えがあるぞ……。

 

「ウチの妹たちに、何てことを聞いてるのかしら」

 

声の主は、俺のこめかみに、両手をグーにした状態でセットすると、力強く挟んでくる。

 

「いてえから、いてえ、赤羽(あかば)、何するんだよー!」

「フン、コージ君が、変な質問するからですよ!問答無用!」

 

子供たちは、目の前の光景にキョトンとしている。

 

「このおにいちゃん、何か変なことを、しませんでした?」

「……あゆみ姉、おにいちゃんとなかがいいんだね」

 

赤羽は、子供たちに問いかける。

 

 この女性は、赤羽(あかば) あゆみ。

俺の高校の同級生で、一番仲のいい女友達である。

中学時代から仲良くなって、高校も同じ。付き合いも6年目に入った。

恋愛感情がないといえばウソになるが、俺としては、今のままでも満足している。

告白して、関係がぎくしゃくするよりは、今の関係を続ける方が、お互いのため。

 

……まあ、学校では、「公認夫婦」とウワサにはなっているようだが……。

 

「あゆみおねーちゃん、ごめんなさい」

「……えっ?」

 

 不意にともみちゃんが謝罪してきた。

予想していなかったことのようで、赤羽はキョトンとしている。

 

「おにいちゃん、あゆみおねーちゃん、の、獲物(せーえき)、だった、んだね」

「……何を言ってるのかしら、この()……」

「ほら、おにいちゃん、の、せーえき、が、あゆみおねーちゃんに、はんのう、してる、よ」

「…コージ君!違いますからね!違いますって」

 

 赤羽の顔が真っ赤になっている。

彼女は必死に弁明しているが、俺には、聞こえていなかった。

俺のせーえきが、赤羽に反応してる?

どういうことなんだろうか。

思わず、自分の下半身を、まじまじと眺めてしまう。

 

赤羽がともみちゃんに弁明している合間に、かすみちゃんが寄ってくる。

 

「……おにいちゃんの、すけべ」

 

 かすみちゃん、そんなこと、ボソッと言わないで!

さらに爆弾を落としていく。

 

「あゆみ姉は、おにいさんのことをすきっぽいから、あんしんしてください」

 

 その言葉が聞こえたのか、赤羽がこちらを見ていた。

顔が真っ赤で、余裕がなさそうだ。

アイツ、テンパったらどこまでも行くからなぁ……。

仕方ない。俺は、自分自身の心の中の動揺を抑えながら、行動に移す。

 

「赤羽」

「……何ですか!私は、どうせ、貴方のことが好きですよ、悪いですか?」

 

「悪い!」

「えーーっ?そんな、ご無体なーー!」

 

「ところで、赤羽は、ここに何しに来たんだ?」

「あーっ!そうでした!忘れてました」

 

一瞬、愕然とした表情をした赤羽だったが、俺の質問を聞いて、ようやく落ち着きを取り戻す。

 

「そうでした、そうでした。私は、コージ君を呼ぶためにここに来たのでした」

「赤羽は、メイドのバイトをやってたのか……」

 

「えっ?ああ、メイドさんは、手が離せないようでしたので、私が呼びに行くことになりました」

 

そうかー赤羽が、メイドの代わりに呼びに来たのか。

……と、いうことは、ようやく次期頭代なるひとに会いに行けるということらしい。

 

「かすみ、ともみー!行くよ!」

「「うん」」

 

子供2人もついてくるようだ。

先程と比べると、大人しい。赤羽を揶揄うのは飽きたのか、空気を読んだのか。

 

「ところで、赤羽」

「何でしょうか、コージ君」

「お前って、ココの関係者なのか?」

 

4人で歩きながら、先頭を歩く赤羽に、声をかける。

もし関係者なら、いろいろ聞いておきたい、そんな軽い気持ちだった。

 

「関係者も何も」

 

彼女は、ここで言葉を止めた。

そして、立ち止まって、俺と向かい合う。

 

「私は、赤波根家・次女・赤波根(あかばね) あゆみ、といいます」

「あれ?お前の苗字、赤羽(あかば)じゃ、なかったのか……」

 

「うん……」

 

 驚いた。今まで苗字を偽っていたのか……。

彼女の目を見つめる。彼女も見つめ返したままだ。

子供たちは、何が起きたのかわからないのか、俺たちを静観している。

 

「今まで、騙していて、ごめんなさい、コージ君」

 

彼女は、丁寧に謝ってくる。

 

「父の方針で、苗字をかえていました。ごめんなさい」

 

 彼女の目から、涙がこぼれてくる。

6年間騙し続けていたことについて、罪の意識があったのだろう。

俺は思わず、彼女を抱きしめていた。

 

「コージ君に、ずっと言えなくて、心、苦しくて」

「大丈夫、名前が違うと驚いただけだ。気にするな」

 

 そう言いながら、彼女の頭を撫でる。

赤羽は俺の胸の中で、泣いているようだ。

同級生女子にこのようなことをするのは、気恥ずかしい。

けど、自分の思いついた最良の行動は、これしか思いつかなかった。

 

「許してくれますか?」

「ああ」

 

2人で見つめ合う。

お互いの顔が近づき、唇と唇が……

 

「キス、するの、かな」

「するんじゃないの」

 

「わー、あゆみおねーちゃん、獲物(せーえき)、かくほ、だね」

「あゆみ姉のもの、だったら、わたし、ち、すえないな、ざんねん」

 

そんな2人の子供の視線に気づき、中断した。

俺と赤羽、お互いを見つめ合い、苦笑する。

 

「コージ君」

「……なんだ」

 

「この用事が終わりましたら、私の秘密を、全部、話しますから」

「……秘密?まだあるのか?」

 

「はい。全部、受け止めて貰えますか?」

 

懇願するような表情で、頼まれると……、断れないじゃない。

 

「……ああ……」

 

 俺が了承すると、「よかった」と小さく呟き、笑顔を見せる。

改めて見ると、髪形は違うにしても、双子が成長した感じの美人だということに気づく。

3人を見並べると、姉妹なんだなーということが、よくわかった。

 

「では、謁見の間へ向かいましょう。姉が待っています」

 

そう言って、彼女は前を歩いていく。

俺は、彼女の横を歩く。

 

 

彼女の秘密……。

 

 どんな秘密なのだろうか。

この赤波根家の秘密のことも気になるが、赤羽の秘密は、もっと気になる。

彼女もこの家の関係者。

彼女の秘密を聞く事で、この家の秘密もわかってくるはずだ。

なぜかそんな確信を持っていた。

 

「コージ君、着きました、入りましょう」

そこには、大きなトビラが鎮座していた。




「せーえき」は「精液」のことです。
まあ、理由があるのですが、それはあゆみさんに任せます。

……本当は、題名を「精液」にするか迷った。
さすがに話が出る前にそんな題名はなー

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