赤波根さんちの事情~秘書見習いの受難   作:すかーれっとしゅーと

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他作品と違って、かなり自由に書いています。
自由になりすぎないように、制御するのが課題、ですかねー

……他作品の更新のモチベ低下につながりそうで……頑張ります。


第1話 霹靂 

「いきなりだが、お前には、家業を継いでもらうつもりでいる」

 

 18歳の誕生日を迎えた日を過ぎた休日。

俺、田中(たなか) 浩二(こうじ)は、父さんにそんなことを言われた。

家業ってなんだ?そんなこと聞いたことがないのだが。

 

「ウチは代々、とある家の秘書を務めている」

 

 初耳なんだけど。

確かに父さんは、常に家にはいなかった。

けれど、それは普通に友達から聞く、「サラリーマン」である父親と、何ら違いはなかったはず。

 

「母さんも、それなりによくしてもらってるわ」

 

 父さんの隣で、母さんが付け加える。

両親の間では、公然の事実のようだ。

 

「お前に黙っていたのは、理由があったりするのだが……まあいいか」

 

 少し微笑みながら、そんなことを言っている父さん。

その隣で、母さんは、優しい目で見つめてくる。

 

「どうせ、将来のこと、まだ決めてないんだろ?」

 

 確かに決め兼ねている。けど、そろそろ決めなくてはいけない、高校3年生。

何となく大学に行って……そんな青写真を思い浮かべてはいた。

父さんには、そんな心を見透かされていたようだ。

 

「それは、大学進学は、許されないってことだろうか?」

 

 ウチってそこまで貧乏ってことなのかな。

大学に通わすお金が工面できないって。

それなら早く言って欲しかった。

ウチの高校って進学校なんだぜ。そこに行かせておいて、それはないだろう。

例えそうであっても、早く言ってくれればよかった。

奨学金を申請したり、アルバイトでお金を貯めるとか、方法はいくらでもある。

 

「いや」

 

親父は首を振った。

 

「むしろ、大学は出ておいて欲しい。世の中を知っておくために必要だ」

 

そうなのか。では、なぜこのタイミング……。

 

「先日、18になっただろう?そういう年齢になったからな」

 

 そういうことなのか……。

まあ、聞くだけ聞こうか。

 

「で、ある家、とは?」

「俺が、というか母さんもだが……、ウチが遣えている家は、赤波根(あかばね)家という」

 

「父さんと母さんは、そこで秘書をやってるの」

 

 赤波根家。馴染みのない名前だ。

父さんだけでなく、母さんも秘書をやってるのか、そこに驚いた。

母さん、秘書って感じ、全然しないからなぁ……。

秘書を必要としているということは、それなりの家なんだろう。

なにせ、代々続けている。

赤波根家は、歴史もある旧家であるに違いない。

 

「で、これもいきなりなんだが、その赤波根家の屋敷に、住んでもらおうと思っている」

「父さんも母さんも、これからは忙しくて、世界中を飛び回るから、面倒見てもらおうと思って」

 

「ならば、(まこと)のところ……赤波根家で面倒みてもらおうと思ってな」

 

 また、予想していないことを言われた。

つまり、これからは、父さんと母さんは、仕事が忙しくて、家に帰れなくなる。

1人暮らしをさせるよりは、そのうちお世話になるであろう赤波根家に預けようとしているようだ。

ゆくゆく秘書家業を継いでもらう家、これを機に、顔通しってことなんだろう。

代々秘書をしていると言われても、俺、何も知らないし。

 

「あ、住むだけだからな。仕事はしなくてもいい」

「そうね、いきなり秘書の仕事は無理なのは、父さんも母さんも、よくわかってるから」

 

 そうなのか。少し安心した。

けど、何も事情を知らない家に住むのは、少し気が引けるというか……。

 

「いや、その、何も心配はいらない。慣れるだろう」

「母さんも、父さんに嫁いできて、いろいろ知ったけど……、……そうね、慣れるかな……」

 

 慣れるって何?慣れるって。

母さん、その間は何?その間は。

今まで過ごしてきた自分の周りの環境と、そこまで変化があるのだろうか。

 

「ただ、少し……秘密が多い。ただ、それだけだ」

 

 秘密、ね。

まあ、秘書ってことは、そうなんだろう。

一般に公にできない事柄とか、たくさんありそうだ。

 

「ちなみに、その家には次期頭代とかお嬢様、おぼっちゃまとか()られるが、丁寧語はいいだろう」

「なぜ?」

 

「旦那様と次期頭代がそれを望んでいる。お前は、ご子息様方との年齢差が、ないからな」

「それに、浩二、アナタには、ゆくゆくは、さくらちゃん……、コホン、次期頭代の秘書になってもらおうと思ってるの」

 

次期頭代の秘書か……。

とりあえず、そのひとがどんなヤツなのか、ってことだな。

 

「わかった。とりあえず、赤波根家ってとこで、お世話になればいいってこと?」

「そうだ。と、いうことでな、今夜向かうからな、簡単な荷物をまとめてくれ」

 

「えっ?今夜?」

「ああ、18時に家を出ようと思ってるから、それまでにな」

 

「ここに、キャリーバッグとダンボール箱を用意してるから、荷造りお願い」

「ダンボールは、業者に頼んで、明日中には届けさせるつもりでいる。安心しろ」

 

 これで話が終わったようで、両親は、それぞれの行動をし始めた。

父さんは、テレビを付けてのんびり、母さんは、台所で皿洗いを始めた。

とりあえす、18時までに引っ越し準備をしなければならないようだ。

キャリーバッグと、何個かのダンボール箱を持って、自分の部屋に戻る。

 

どうやら、俺の引っ越しは確定事項らしい。

 

 両親共に忙しくなり、家に帰ってこれないと言っていたが、どこまで本当なのか。

少なくとも、俺に1人暮らしはさせたくないみたいだ。

そして、次期頭代の秘書というのも、両親の中では、決定されていることらしい。

とはいえ、仕事をする必要がない……まあ、学生だし、学業を優先しろってことなのだろう。

 

とりあえず、次期頭代、彼がどんなヤツかによる。

俺は、ため息をつきながら、引っ越し準備に取り掛かった。

 

 

★★★

 

 

18時。

 

 父さんの運転する車で出発する。

そういえば、学校は代わることになるのだろうか。

そんな疑問を抱えながら、窓の外を眺める。

どうやら、車は高速道路を使うようだ。

2つほどインターチェンジを経て、下りる。

 

 しばらく走ると、駅の前を通り過ぎる。

駅からすぐの場所に、大きな石造りの門があった。

門の周りには、背の低い樹木が、塀代わりとして連なっている。

車が門の前に進むと、自動的に扉が開く。

 

 さらに車は奥に進んだ。

視界が開けたところに、何個かの明かりを伴う大きな建物が見えてくる。

まるで、中世ヨーロッパの城を思わせる、この国には不釣り合いな城が。

 

 城の入口付近はロータリーになっている。そこに車が着いた。

車から出て、思わず見渡してしまう。デカい城だなぁ……。

父さんは「屋敷」って言ってたけど、これ、違うよなぁ……。

 

「ようこそ、いらっしゃいました、浩二様」

 

 不意に声をかけられる。

目の前には、壮年の白鬚を蓄える男性が立っていた。

 

「私、ここで執事をしています、宮本(みやもと)、と申します」

 

 男性は軽くお辞儀をしてくる。

黒い執事服がよく似合う。

綺麗な白髪白鬚は、彼の笑顔と相まって、とても好感を持てる。

そんな年の取り方をしたい、そう思えるくらいに。

 

「どうか、お見知りおき下さい」

「それはご丁寧に。私は田中 浩二と申します。よろしくお願いします」

 

そこまで挨拶をすると、宮本さんは、両親の方を見る。

 

「これはこれは、久志(ひさし)様と初美(はつみ)様ではないですか」

「ご苦労様、宮本」

「ご苦労様です、宮本」

 

「ところで、ウチの愚息を連れて来たのだが、次期頭代様は()られるか」

「ハイ、19時に到着すると伺っていましたので、お待ちになられています」

「そうか、では、宮本。愚息の案内を頼む」

 

 そう言うと、父さんは車に戻っていく。駐車場に停めに行くようだ。

母さんは、引き続き、俺と宮本さんと共に行動するようだ。

 

「とりあえず、部屋に案内します」

 

 宮本さんは、そう言うと、つかつか歩き始めた。

俺と母さんはそんな彼についていく。

 

「あ。初美様、来られていたのですね」

 

 途中、母さんに声をかけてくる女性が。

彼女は、白を基調とした服……いわゆるメイド服を着用している。

顔はモデルのように綺麗で、髪の毛は白。いや、銀髪か。

背も少し高い。

 

「まあ、サクヤさん」

「いえ、咲○ではないです、パット長ではないですので」

 

「そう?あ、少し首がずれてますね」

 

 そう言うと、母さんは、メイドさんの頭を両手で挟む。

そして上へ持ち上げると、「置き直した」。

 

「これでヨシ、と」

「初美様、ありがとうございます」

 

「ひとの頭を持つって、サクヤさん相手じゃないと、なかなかできませんからね」

 

……置き直す……頭を持つ……?

 

あれ?気のせいか?今、そのメイドさんの頭と胴体が離れていたような……

 

「……母さん」

「何」

 

「今、そのメイドさんの頭……」

「あ、そうだ、サクヤさん、この子、息子の浩二」

 

俺の言葉を遮って、メイドさんに紹介を始める。

 

「ああ、あなたが浩二様」

 

そう言うと、綺麗なお辞儀をした。

が、彼女の頭が床にコロン……

 

「私はメイド長をしている、如月(きさらぎ)と申します。以後、お見知りおきを」

 

 床に転がった頭が、そのまま自己紹介をし始めた。

顔はこちらに向いていない。あらぬ方向に向いて話している。

身体は、お辞儀をしたままだ。

 

「サクヤさん、頭、頭」

 

母さんが慌てて拾い上げ、如月さんの首にセットする。

 

「ね、浩二。言ったでしょ、秘密がいっぱいある、って」

 

 俺には、そんなフォローをしてくる母さん。

いやいや、そんな秘密だとは思っていないから。

秘密の種類が違い過ぎる。予想斜め上だよ。

 

「最初は驚くだろうけど、慣れるよ」

 

 慣れるよって……、限度があるって……。

如月さんと別れて、引き続き、宮本さんの後を歩いていく。

 

「あっ、初美様。ごきげんよう」

 

母さんは、また、メイド服を着た女性に声をかけられている。

この女性は、赤い髪をしていて、八重歯が可愛い。

掃除中なのか、手には、モップとバケツを持っている。

 

「ねえ、初美様ー、貴女のいい匂い、堪らないから、吸わせてよー」

「ダーメ。魅力的な女は、誰にも縛られないも・の・よ」

 

「チッ、久志には縛られてるくせに!」

「ふふーん、アナタは、トマトジュースで我慢なさい」

 

「人間の血が吸いたい……」

 

ここまで言った後、メイドさんの目線がこちらを向く。

 

「あっ、クンクン……いい匂い。人間。ねえ、私にシェアしてくれない?」

 

野性的な、獲物を狩るような目で睨まれて、動けなかった。

俺に向けて手を伸ばしてくる。母さんがその手を叩いた。

 

「初美、何すんのよ!」

「その子、私の息子よ。あとは、わかるよね」

 

「えーっ!初美の息子ってことは、久志の息子だよねー」

「そうよ」

 

「ちくしょー、あの男と同じじゃない!信じられない!」

 

メイドさんは地団太を踏んでいる。母さんはどや顔。

 

「久しぶりに、私のダーリン(えさ)が、手に入ったと思ったのにー」

 

 メイドさんはそう言うと、ボンッと、煙に包まれた。

煙の中から、少し大きめのコウモリが廊下の奥の方へ飛んで行った。

飛んで行った後、煙が晴れてきたが、そこには誰もいなかった。

モップやバケツなど、清掃用具を残して、メイドさんは何処に行ったのだろうか。

 

「か、母さん」

「何?」

 

「メイドさんが消えた……」

「もう、皐月(さつき)ったら。仕事放棄して……。サクヤさんに報告案件ね」

 

 こんな事態にも、母さんは通常営業。

俺がおかしいのか?いや、そんなはずないはず。

 

「まあ、慣れよ、慣れ」

 

 驚いている俺に、母さんは笑顔でそんなことを言ってくる。

慣れにも限度があるわ!

 

「浩二様、ここでございます」

 

 宮本さんに案内された部屋は、それなりに広かった。

ベッドもあり、テレビや冷蔵庫、洗濯機。

炊事場もトイレもあり、この部屋だけでも暮らすことができそうだ。

しかし、風呂どころか、シャワーもない。

 

「浩二様、19時になったら、謁見の間までお越しください」

「謁見の間って、どこ?」

 

 宮本さんは、地図を渡してくれた。

主に使うであろう部屋には、蛍光マーカーで分かるようにしてあった。

この城、どうやら主に使っている部屋は、1階と2階の一部にしかないらしい。

 

「宮本さん、わざわざ、ありがとうございます」

「いえ、執事として、当然のことです」

 

彼は恐縮している。

 

「あと……、浩二様、(わたくし)のことは、『宮本』とお呼び下さい」

「はあ……」

 

「そして、ウチのメイドがご迷惑をおかけしました」

「……それは、いいのですが……」

 

ご迷惑……というか、普通では起こらないことがあったような……。

 

「ムムッ」

「どうしたの?宮本」

 

「初美様、(ともえ)様がお呼びです。至急来てくれ、だそうです」

「全く、あのお嬢様は……、今日くらい休ませてよ……」

 

「初美様、そんなことを言わずに、お願いします」

「わかったわよ、行けばいいんでしょ、行けば。行くと言っておいて」

 

「ハイ、承りました」

 

 宮本さんと母さんは、そんな会話をしている。

母さんへの呼び出し?

でも、さっきまでは、そんな物なかったような対応をしていたはず。

 

……宮本さんは、どうやって連絡を受けたのだろうか……

 

「浩二、母さんは、ちょっと行ってくる」

「うん」

 

 母さんは部屋を出て行った。

地図はもらったけど、初めての建物内移動だ、母さんがいないのは、不安だなぁ……。

決して寂しいわけではない。

ただ、時間が指定してるため、迷いそう……。

 

「初美様が出て行かれたので、案内メイドをよこします」

「ハイ」

「それまで、部屋でごゆるりと」

 

そこまで言うと、宮本さんも部屋を出て行った。




読んでくださり、ありがとうございます。

メイド長の首が落ちたり、メイドがこうもりになったり……。

メイド長のイメージは東方projectのあのお方です。
かといって、サクヤという名前ではなく、如月さんです。
あれは、初美さんが勝手に呼んでいます。だって胸が……。

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