サザンビークの結界使い   作:すけ

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第一話 プロローグ

よう。俺はサザンビークで冒険者を職業にしているものだ。訳あって今、リーザス村にいる。名前は今はどうでもいいだろう。俺は君たちに今すぐに知らせたいことがある。それは

 

「私はゼシカ・アルバート。ねえ!?あなた、凄い魔法使いなんでしょ?私に魔法を教えてよ!」

 

俺は今、あのゼシカ(幼女)に話しかけられたってことだ。

 

 

なぜこうなったかを俺の紹介を踏まえながら示していこうと思う。少し長くなるが勘弁してくれ。

 

俺は日本からこのドラクエの世界に迷い込んだ所謂、別世界に迷い込んだ日本人だ。いつものように寝て、目が覚めたら見知った天井ではなく、ムカつくほど清々しい青空が俺の目に入った。俺は最初自分の家の天井に穴が開いたと思ったが、辺りを見回すと俺の家すら無い。混乱したさ。昨日は酒を飲んだ覚えも無いから何処かで酔い潰れて寝てしまったということもない。いや、俺そもそも酒飲めないな。ということはまさか俺は拉致られたのか?そんな風に嫌な思考が頭の中にぐるぐると回りながら俺はパンツ一枚で森の中をさまよっていた。

仕方がなかったんだ。俺は寝るときはパンツ一枚で寝る習慣があった。いないか?俺の他に寝る間はパンツ一枚になる習慣を持つやつが。きっといるだろう?

 

パンツ一枚で10分ほど森の中を歩いていると小さな小屋を見つけた。俺は警察に通報されることを覚悟しながらも、とりあえずその小屋に入ってみることにした。ここが何処なのか、そしてできることなら服を貸してもらうために。

 

 

中に入るとまず目に飛び込んできたのは、青く丸っこい物体。だが俺はその物体の正体を知っていた。

 

「ピキー!なんだお前は!今は爺さんはいないだっち!嘘じゃないだっち!」

 

そうスライムが独特な声を発しながら俺にそういった。

え?スライム、スライムなんで。てかスライムって喋るのか!?というかやばいぞ!これがあのスライムなら俺は間違いなく殺される。なにせおれは今、パンツ一枚な一般人なのだから。や、やばい、純粋に怖い。怖くて体が動かない。

俺が恐怖で動けなくなっていると、部屋の奥から何処か優しげな声が聞こえてきた。

 

「これ。あまり人を無闇に驚かすでない。いや、すまない。この子は魔物だが悪い子ではないのだ。許してやってくれ。」

 

「え?え、いや。こちらこそ勝手に家に入ってしまって申し訳ありません!しかもこんなに姿で。」

 

「こんな姿?すまない。生憎私は目が見えないのだよ。したがってそなたが今どんな格好をしているかがわからないのじゃよ。よかったら君の今の格好を儂におしえてくれるかな?」

 

「え!?えっと、それはその…」

 

「ほっほっほ。無理に答えなくてもよいぞ。そなたは素直なのじゃな。儂が目が見えないのなら嘘をついてもばれはしないものを正直に答えようとみせた。やはり儂の心眼に狂いはないようじゃな。どれ、なにか困ったことがあるのじゃろ?儂にできることなら手伝うぞ。」

 

そういって老人は優しく微笑んだ。俺は泣いた。こんな訳のわからない状況の中、不安と恐怖で一杯になっていた俺には老人の言葉はあまりに優しく、そして救いだった。

 

「あ"、ありがどうございまず!本当に、あ"りがどうございます!」

 

号泣しながら俺は精一杯の感謝の言葉を口にした。

 

 

 

 

 

あの感動の出来事から三年。俺は老人のもとで魔法の修行をしていた。ちなみにあの老人の名はフォルテットという。長いからこれからはフォル爺と呼ぶことにする。

俺はあの後自分が置かれている現状をフォル爺に包み隠さず全て話した。こんな荒唐無稽な話をフォル爺は信じてくれ、俺を彼の家に住まわせてくれることになった。なんでも、フォル爺には目が見えない代わりに心眼という人の本当の姿を見る目があるらしい。それは魔法のようで魔法でない、彼の長年の経験からできた技でありその精密さにはかなりの自信を持っていたようだ。だから俺の言葉に嘘がなく本当に困っていると確信できたと後に教えてくれた。

 

俺はこの家に居候させてくれるお礼にフォル爺になにかできることはないかと考えた。そしてフォル爺が高齢のため魔物退治が大変だという悩みを聞いた。だから俺は彼の力になりたくて彼に戦う術を教えてもらうことにした。

しかしフォル爺は猛反対。お前が魔物と戦っても死ぬだけだとバッサリと断られた。確かに俺は、あのスライムにすら恐怖で動けなくなるほどの臆病者。そりゃそうだ。平和な日本に住んでいたんだ、今の俺では戦闘なんてできるはずがない。でも、俺はフォル爺の役にとにかく立ちたくて必死にお願いをした。俺がお願いをする、フォル爺が断るを繰り返すこと30日。ようやくフォル爺が折れ、簡単な魔法なら教えてくれるという。ようやくだ。ここまで長かった。朝起きてお願いをして、日課である薬草取りに帰ってきたらお願いをして、昼ごはんを食べ終えたらお願いをして、家の近くにある畑を耕し終えて帰ってきたらお願いをして、晩御飯を食べ終わったらお願いをしてを30日間繰り返した甲斐があったよ。フォル爺も流石にこの生活にも耐えられなかったようで、諦めの表情を浮かべながら折れてくれた。そうして俺はフォル爺の元で魔法を教わりながら魔物退治をするようになる。

 

 

 

魔法を教わることさらに五年。俺はフォル爺の許しを得て魔物退治を行う職業、冒険者になった。ちなみにこの職業は俺が知っているドラクエにはなかった。よな?

もう10年近く経っているから記憶が曖昧だが、無かったはずだ。あったらすまん。ちなみに俺はps2のドラクエ8しかやっていない。

この職業は国や町村などから依頼を受け、魔物を討伐し報酬をもらう職業だ。まあ、よくある冒険者のイメージ通りでいいと思う。

俺は身元をはっきりと証明する術を持っていなかったので普通に働くことができなかった。だから自ずとこの職業を選択することになった。まずはこの家から近いことから、主にサザンビークからの依頼を受けることにした。

別に国から直接依頼を受けるほど一流ってわけでもなく、サザンビークにある冒険者への依頼をまとめる施設、所謂ギルドから依頼を受けているだけだった。そこで家の周辺にいる魔物退治をしながらギルドからの依頼をこなしていく毎日に明け暮れていった。この頃になると俺もかなり腕の立つ魔法使いになり、サザンビークでもそこそこ名の知れた冒険者として通るようになっていた。俺を最も有名にさせた要因はフォル爺の弟子という肩書きが大きいだろう。

なんとフォル爺、あの小屋に隠居する前はサザンビークの宮廷魔術師の筆頭だったそうだ。彼の弟子なら依頼も必ず成功させてくれるだろうと、俺を信頼して依頼をしてくれる人が増え、依頼をこなしていくうちに有名になったということだ。

有名になると、次第に国から直接依頼を受けるようになった。例えば大臣の護衛や王の息子の監視まで、冒険者が行わないようなことまで頼まれるようになっていった。

 

そして、大臣の息子ラグサットのリーザス村までの護衛の依頼を受けて俺はリーザス村を訪れ、幼き頃のゼシカに話しかけられたっていうわけだ。

 

長々と聞いてくれてありがとう。それじゃあ話を再開しよう。俺はいまゼシカに魔法を教えろと頼まれている。

 

「ねえ!?聞いてるの!?黙ってないで答えてよ!」

 

「ああ、すまない。少し考え事をしていたんだ。決して君の話を無視して別のことを考えていた訳ではないよ。」

 

「じゃあ教えてくれるの?私は早く兄さんみたいに魔法を使えるようになりたいの!だからお願い!」

 

そう言って彼女は上目遣いをしながら俺にお願いをしてきた。うぐ、これはきついな。こんな純粋な目でお願いをされたら断りづらい。でもここは心を鬼にして

 

「すまない。君に魔法を教えてあげたいところなのだが、俺の魔法はちょっと独特なんだ。だから君には使えないんだ。」

 

「なによそれ!!私には魔法の才能が無いって言いたいの!?あんたもお母さんみたいに私には戦うなっていうの!?」

 

どうやら俺の発言は彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。

確かに先程の俺の発言はまるで彼女には才能が無いと言っているようなものだ。しかしそうでは無いのだ。

 

「いや、君に魔法の才能が無いと言いたい訳ではないよ。

むしろ君は俺よりも魔法使いになる才能がはるかにあると思う。そして俺は君に戦うなとは言っていないさ。戦う理由があるなら戦う力をつけるべきだと俺は思う。」

 

「じゃあどうして教えてくれないの?」

 

「言葉通り、俺の使う魔法は魔法使いが使うような魔法ではないんだ。君はいまメラは使えるかい?」

 

「うん。まだまだ弱っちいけど小さなメラなら使える。」

 

「凄いじゃないか。その歳でメラが使えるなんてやはり君には魔法使いの才能がかなりあるようだね。ちなみに俺はいまでもメラが使えないよ。」

 

「え?」

 

「さっきも言ったように俺は一般的な魔法使いが使うような魔法、メラやバギ、補助系の魔法も使えないんだ。」

 

「じゃあどうしてあなたは凄い魔法使いって言われているの?魔法が使えないんじゃ、魔法使いじゃないじゃない。」

 

「あはは、確かにそうだな。俺は普通の魔法は使えない。でも結界を張ることならできる。」

 

「結界?」

 

「ああ、そうだ。結界だよ。俺は結界を張ることしかできない魔法使いなんだ。」

 

 

 

さて、ここで結界とはなんだという疑問を持つ人がほとんどだと思うから説明しておく。

みんなは、なぜ街に入ると魔物が出ないのか疑問に感じたことはないだろうか。ちなみに俺はドラクエをプレイしている時に、そんな細かいことはまったく気にしていなかった。

しかし、いざドラクエの世界に入ってみると、その疑問は俺にも発生した。魔物に追いかけ回されながらフォル爺のいる小屋に逃げ込むと不思議と魔物達は寄ってこなくなるのだ。

俺はこの不思議な現象についてフォル爺に質問した。すると

 

「それは昔、儂が結界を張ったからじゃよ。」

 

と、あっけらかんとしながらそう言った。こうして俺の疑問は解決したのだ。

 

そして、俺は修行の初めにフォル爺にこう言われた。

 

「そなたは魔法の才能が無い。しかし魔力は膨大にあり、結界を張る才能がずば抜けて高い。故にそなたにはこれから結界を張る修行をしてもらう。」

 

なぜ結界が戦闘の役に立つのかなどの疑問は当時の俺は全く浮かんでいなかった、何故ならフォル爺を盲信的に信用していたからだろう。だから全力で結界を張る練習をした。いま考えるとおかしいだろう。本来結界とは外敵から身を守るために張られるものであるはずなのになぜ戦闘に結界が役に立つのかと。しかしこれがかなり役に立つものだった。簡単だ。結界を敵の周りに張り、結界の範囲を縮め、敵を押しつぶしてしまえばいいのだ。少々残酷な倒し方ではあるが、焼き殺したり切り刻むよりはマシだろう。それにこちらも命掛けだ。そんなことは言っていられない。こんなドライな感情に五年ほどでなってしまう程度にはこの世界には危険と悲劇で溢れている。

 

 

俺はゼシカに結界の使い方を簡単に説明した。

 

「へぇ!結界ってそんな使い方があるのね!でも結界って複数の魔法使いで張らないといけない程たくさんの魔力が必要って聞いたわ。それを一人で張るなんてやっぱり凄いのね!ラグサットもたまにはいいことを教えてくれるわ!こんな凄い魔法使いを紹介してくれたのだもの!」

 

ゼシカの言った通り、本来結界とは複数の魔法使いで張るものだ。それは結界を張るには膨大な魔力が必要であることと、様々な外敵を弾き飛ばすために複数の種類の魔力が必要であるからだ。俺は膨大な魔力とそして複数の魔力を持っていた。まさに結界を張る為だけにこの世に来たようだなと思ったよ。でも折角ならドラクエの魔法が使いたかった。俺の一番好きだった魔法、バイキルトが使えたらどんなに嬉しかったことか。

 

「あはは。ラグサット様のことをあまり悪く言わないでくれよ。彼は貴族を意識し過ぎて少々変わって映るかもしれないけど、紳士的なで良識のあるお方だよ。」

 

「ふーん。まあ、わかったわ。でも残念ね。折角、有名な魔法使いに会えたのに魔法を教えてもらえないなんて。やっぱり自分で身につけるしかないのかなー。」

 

ゼシカは泣きそうになりながらうつむいてしまった。

 

「…俺は魔法を使えないが見ることはできる。俺の師はかなり高名な魔法使いだったんだ、だから完成された魔法を見せて貰ったこともある。だから依頼の間なら君の魔法を見てあげることもできる。だからそんなに落ち込まないでくれ。」

 

「ほんと!!ありがとう!!やったー!!これで私も兄さんに追いついて見せるんだから!!」

 

先程の泣きそうな顔は何処へ行ったのか、彼女は嬉しそうにそう意気込んだ。…女は幾つであっても恐ろしいものだな、これからは気をつけよう。特に、女性経験がない俺は直ぐに騙されてしまうだろうからな。

 

こうして俺はゼシカの魔法を見ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 


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