達磨少女は世界を呪う   作:佐倉 文

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7話

 通されたのは畳が敷かれた和室。

 正面に一人の老人が座っている。

 ――ネテロ。ハンター協会の会長であり、念能力者最強の一角。

 

「よく来たの。まあそこに座りなされ」

「失礼します」

「ほっほ、そう固くならんでよいよ」

 

 私は曖昧に微笑むに留める。

 そんな私に、ネテロは何かを言うでもなく、視線を手元の資料に落す。

 おそらく、私に関する資料だろう。

 

 暫く眺めていると、ようやく視線を上げて口を開く。

 

「389番、リンドウ。ふむ……。これからいくつか質問をするがいいかの?」

 

 私は一つ頷いてみせる。

 

「ではまず、何故ハンターになりたいのかな?」

 

 ふむ。原作通りの質問ね。取り敢えず無難な回答をしましょうか。

 

「ライセンス自体が目的です。色々と便利ですから」

「ふむ。ハンターそのものには興味ないと?」

「正直に言えば。……いけませんか?」

 

 私が尋ね返すと、ネテロは首を振る。

 

「いや。お主に限らず、そういった受験者は少なくない。別に問題ないぞい。ただ、合格することになれば、ハンターとしての活動に興味を持ってくれれば有難いがの」

「そうですね。善処しましょう」

 

 そんな心にもないことを口にする。

 

「是非そうしてもらいたいのう。ではお主以外の8人の中で一番注目しているのは?」

 

 私以外の8人。

 私とジ-クというイレギュラーが加わった試験だが、ハンゾーと私が入れ替わった以外では、最終試験の顔ぶれは変わっていない。

 

 結局、最後まで勝ち上がってくる実力者は、早々変わらないということね。

 

 さて、この質問は中々重要ね。

 

「……一番と言われれば難しいですね」

「そうかの? 別に複数でも構わんよ」

 

 よしよし、回答の幅を広げることが出来た。

 

「そうですね……。まず、99番と407番。あの年であれだけできるなら、将来有望そうですね。後は……44番と301番。理由は言うまでもないですよね?」

「そうじゃの。ふむ……。では、今一番戦いたくないのは?」

「先程と同じく、99番、407番、44番、301番」

 

 ネテロが、戦いたくないと言った相手を外してくるなら、それで問題無い。

 逆に敢えてぶつけてくることも考えて、複数名の名前を挙げておいた。

 

 これで、ピンポイントでゴンをぶつけられる可能性も減ったはず。

 

 なるほどのうと、顎鬚をしごくネテロ。

 

「質問は以上でしょうか?」

「うむ。御苦労じゃった。下がって良いぞ」

「いいえ、大したことでは。それでは失礼します」

 

 そう言って立ち上がる。踵を返そうとして――

 

「ああ。そうじゃ、もう一つだけ」

 

 そんなネテロの言葉が、私を引き留める。

 

「……何でしょう?」

「うむ。実はな、四次試験でそれぞれの受験者に、協会の人間を監視員として付けていたのじゃが……」

「はあ」

「気付いておったかの?」

「いえ。念能力者である私に付けた監視員です。当然、『絶』を得手とする尾行のプロフェッショナルでしょう? 恥ずかしながら気付けませんでした」

 

 私の言葉を受けて、顎鬚をしごくネテロ。

 心なしか、その眼光が鋭くなったように感じる。

 

「ほう? そうか。いや確かに、尾行のプロッフェショナルじゃった。しかし、試験中に何者かに殺されてしまったのじゃ。317番の監視員共々のう」

「それでも私はやってない」

「……まだ何も言っとらんぞい」

 

 鋭い眼光が若干和らぐ。そこには呆れの色があった。

 こちらを見るその目は、いわゆるジト目というものだろうか?

 

 あらあら、少しばかりフライングしてしまったかしら?

 

「いえ。どうしたわけか、そう不思議と、あらぬ嫌疑をかけられることが多くて。ついつい先回りしてしまいました」

「ほう。不思議とかね?」

「ええ。不思議と」

 

 私は困ったように微笑む。

 

「……それは難儀じゃのう」

「本当に」

「……つまり何も知らんということじゃな? よう分かった。今度こそ下がって良いぞ」

「はい。失礼します」

 

 私は軽く会釈すると、部屋を出ていく。

 

 よし、勝った。

 私は内心ガッツポーズを決め込んだのだった。

 

 

****

 

 

 飛行船で飛ぶこと暫し。

 私たち四次試験通過者は、ハンター協会の経営するホテルへと移動した。

 そのホテルの一室が、最終試験の会場というわけだ。

 

 発表された試験内容は、負け上がりトーナメント。

 一勝すれば合格。負ければ、トーナメントを負け進み、最後まで負けた者、トーナメントの頂点になった一人が不合格者だ。

 

 さて、重要なトーナメント表だが……。

 原作通りとなった。ハンゾーの部分が、私に入れ替わった以外は。

 

「何……だと……?」

 

 待って、待って! おかしい、おかしい!

 どうしてそうなるわけ!?

 

 印象値。ハンターとしての資質評価。

 自分で言うのもなんだけど、私ってそんなに高くないよね?

 

 正気!? ネテロは何を思ってこんな……。

 普通駄目でしょう! 私のような危険人物を高評価しちゃ!

 

 何の嫌がらせだと、ネテロを睨み付けるが……。

 あのジジイ、こちらに見向きもしない。

 平然と試験の説明を続けている。

 

「戦い方も単純明快、武器OK反則なし、相手に『まいった』と言わせれば勝ち! ただし、相手を死に至らしめた者は即失格! その時点で残りの者が合格、試験は終了じゃ、よいな」

 

 いいえ、何も良くありませんのことよ。

 

 内心テンパッている私を置いて、審判が前へ進み出る。

 そうして、第1試合の選手をコールする。

 

「それでは最終試験を開始する!! 第1試合、リンドウ対ゴン!」

 

 うへぇー。マジですか。マジですね。

 

 私は渋々と前へと進み出る。

 それとは対照的に、ゴンは目を爛々と輝かせている。

 傍目から見ても、分かり易くやる気満々である。

 

 四次試験後のやり取りがあったからねぇ。

 それは、それは、やる気が漲っているのでしょうよ。

 

 でも私は違う。

 まだよ、まだなのよ。君とやり合うのは。

 

 試験が終わって、このホテルを出た後。

 その輝かしい門出の瞬間に、君を呪ってあげるわけ。分かる?

 

「……リンドウ。俺負けないよ。必ずリンドウに勝って見せる!!」

 

 はい、全然分かっていませんね。

 

 はあ。駄目だ。取り敢えず、この試合を何とかしましょう。

 呪わずに、無難に試合を終わらせる。

 

 さて、どうしましょうか……。

 原作を見れば分かる通り、ゴンは強情だ。

 彼に『まいった』と言わせるのは至難の業。ならば……。

 

「それでは、始め!!」

 

 審判が試合開始を告げる。

 私はその声と同時に、強く息を吸い込みながら踏み込んだ。

 

「まいったぁーーーー!!!!」

 

 そう叫びながら、呆然としているゴンの顎を強く蹴りあげる。

 そのまま後ろ向きに倒れたゴン。

 

 試験会場であるホテルの一室は、しーんと静まりかえる。

 ゴンは立ち上がらない。

 

「ふう。審判、私の負けですね」

「何じゃ、そりゃぁぁああああー!!」

 

 レオリオが大声を上げた。煩いわね。

 また、視界の隅では、ヒソカがくくくくと笑い声を零す。

 笑うな、変態奇術師。

 

「何って、何よ?」

「いやいや、おかしいだろう!? 一体全体何のつもりだ!?」

「だって、この子、相当面倒臭そうなんですもの。絶対、『まいった』って言いそうにないわよ」

「むっ……」

 

 レオリオと、その後ろに控えるクラピカが、どこか納得したような表情になる。

 

「う……。いや、それでもよぉ」

「私がどう試験に臨もうと、私の勝手よ。文句を言われる筋合いはないわ」

「……レオリオ、リンドウの言うことは正しい。ここは引こう」

 

 そんなクラピカの言葉に、レオリオは渋々と引き下がっていく。

 

 

 さて、何とかなった。

 どうしたわけか、会場中から嫌な視線を向けられているが……。

 

 最大の山場は去った。

 私は安堵の吐息を深々と吐き出す。

 

「くっ! これで俺の相手はリンドウに決まったか……」

 

 そんな呟きを私の耳が捉える。

 私はまさかという心境で、恐る恐る声の発生源に視線を向ける。

 

 特徴的な帽子。弓矢で武装した小柄な男。

 

 おう、神は死んだ。

 次はあなたですか、ポックルさん。

 

 

 私は内心で頭を抱え込んだのだった。

 


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