2人の魔法使い   作:黒いファラオ

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19:00には投稿したかったけどギリギリ間に合わなかった……


1段目

「ねえねえ、浅葱プロデューサー!」

「ん? どうした赤城」

 

 控室でスマホを弄りながら暇を潰していると、赤城みりあが声を掛けてきた。何か不具合でも合っただろうか。

 赤城の方に顔を向けてみれば、何やら目をキラキラとさせている。

 

「新しい人達って、何時になったら来るの!?」

「あっ、あたしもそれ知りたーい!」

 

 赤城と仲が良く、いつもつるんでいる城ヶ崎莉嘉もノってくる。

 

「えーっと、確か20分前くらいに武内が今から連れていくって連絡が来たからそろそろだと……」

「申し訳ありません、遅れました」

「……ほらな?」

 

 入ってきたのは4人。それぞれ違う制服を着た3人と、パッと見そっちの筋の人間かと疑ってしまうような固い表情をしたスーツ姿の男性だ。

 

「遅かったな、武内」

「すみません。色々と……滞ってしまって」

 

 その言葉に3人が少し申し訳なさそうな顔をする。これはあれか、初めての場所ではしゃぎすぎて遅刻したとかだろうか。まあ、気持ちは分からんでもない。こんな巨大な建物、探険してみたいと思うのは普通だ。

 

「いや、問題ない。大方予想はつくからな。それで、後ろの3人がそう(・・)なんだな?」

「はい。彼女達が最後のシンデレラ候補です」

 

 目を向けられた3人がピクリと反応する。

 

「皆さん、自己紹介を」

 

 黒く長い綺麗な髪の少女は冷静に。

 

「渋谷凛です。よろしく」

 

 短い髪の活発そうな少女は情熱を感じる挨拶を

 

「本田未央! 高校一年、未央って呼んでね!」

 

 茶色の長い髪の少女は可愛らしい笑顔で。

 

「島村卯月です! えっと、頑張ります!」

「この3人に皆さんを加えた、14名がシンデレラプロジェクトのメンバーとなります」

「それじゃあプロデューサーさん、これで?」

 

 独特のエロ……色気を持った現役女子大生、新田美波が訊いてくる。

 

「ああ、そういうことだよ。なぁ、武内?」

「はい。これで全員揃いました。シンデレラプロジェクト始動です

 

 そこにいた少女達は「やったー!」と手を取り合い、喜び合った。まあ、初期メンバーには本当に長々と待たせちまったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なになに、何の騒ぎ~?」

 

 一通りメンバーの自己紹介が終わった頃に、やけに露出多めな衣装を着たピンク髪の少女が顔を覗かせた。その彼女を見て本田が驚きの声を上げる。

 

「カリスマJKモデルの城ヶ崎美嘉!?」

「は~い♪」

「お姉ちゃ~ん!」

 

 シュッ、といつものギャルピースを決めた城ヶ崎の元に、城ヶ崎が駆けていく。

 

「おっと……。莉嘉~? ちゃんとやってる?」

「もっちろん! 大丈夫だよ!」

 

 城ヶ崎莉嘉……あぁ、そういえば城ヶ崎は城ヶ崎の

 

「莉嘉ちゃんって、城ヶ崎美嘉の妹なの!?」

「そうでーす!」

 

 ピースの仕方は姉の真似か。うん、やっぱり目元とか雰囲気が確かに似ているな。など、うむうむと1人で納得していると、城ヶ崎(姉)の目がキラリン♪と光った……ような気がした。

 

「おっ、遼哉さんじゃん! 久しぶり~!」

 

 自分に抱きついていた城ヶ崎(妹)をわざわざ離してからこちらに駆けてきて抱きついてきた。そういう所もそっくりなのかよ!

 

「だぁ~! その衣装で抱きつくな城ヶ崎! お前は妹とは違ってもう身体が出来上がってんだから! 色々と当たってるっつの!」

「当ててるんじゃん♪ てか城ヶ崎は姉妹で2人いるんだから、いつもみたいに『美嘉』って呼べばいいじゃん。仕事の時の名字呼びは相変わらずなんだね」

「メリハリが大事だって言っただろ。ただ、紛らわしいってのはその通りだな」

「でしょ? だ~か~らぁ~?」

「……ったく、分かったよ美嘉。これでいいだろ?」

「うんうん!」

 

 こうやって話しているとあの頃を思い出す。お互いにちっとも変わっちゃいなかった。

 

「Pくんがお姉ちゃんと話してる時の顔、私たちと全然違う!」

「莉嘉それはね? アタシと遼哉さんはただのアイドルとプロデューサーの関係じゃないからね~」

「そ、それって……」

「お姉ちゃんってば、だいたーん!」

「ダァホ」

「あいたっ」

 

 調子にノッている美嘉の頭に軽くチョップを入れてお灸を据える

 

「妹と後輩が可愛いからって、あんまり調子に乗るな」

「えぇ~」

「そんなに後輩のためになりたいのならば仕方がない。新人がやりがちな失敗を誰かさんの体験談を借りて俺がこいつらに懇切丁寧にジックリと語ってやろう」

 

 俺が、「あれはとあるカリスマJKモデルがアイドルとしてデビューしたての頃……」と始めると、美嘉が「うわーっ、うわーっ!」と俺の口を塞いだ。

 

「そ、それだけはやめて!」

「ったく……」

『美嘉さーん! そろそろ撮影はいりまーす!』

「あっ、はーい! じゃあ、私行ってくるから」

 

 不満ですっ!といった美嘉の目がさっきまでのものとは違う、仕事をこなすプロのモノになっている。

 

「後輩のためだ。きちんとお手本になってこい」

「うん、任せてプロデューサー」

「今は担当じゃねぇよ」

「あはは、そうだったね。いつも通り送り出してくれたからさ。行ってくる」

「おう」

 

 スタジオに向かう美嘉の背中を見送ってから、後ろで俺達のやり取りをボーッと見ていたプロジェクトメンバーたちに伝える。

 

「さて、聴いてたな? 今から本物のアイドル『城ヶ崎美嘉』のジャケットの撮影が始まる。しっかりと見せてもらえ。んで、お前達が目指す"アイドル"っていうのがどういうモノかを肌で実感してこい。分かったな?」

『はいっ!』

 

 ぞろぞろと控え室から出ていく13人。寝ていた双葉は仲のいい諸星によって連行されていった。

 全員が出ていった後で、武内が横に並んだ。

 

「ありがとうございます」

「いいよ。本当はもっとキツいのを言おうとも思ってたんだがな」

「どう言おうと?」

「『お前らはまだスタートラインにすら立っていないのを自覚しろ』とかだな。まあ、思い止まったけどな」

「いきなりやる気を削ぐというのは……」

「分かってるよ。だからやめたんだろ」

 

「浅葱さん、浅葱さんはあの3人を直接ご覧になって……どう、思われましたか?」

「どう……と言われても。俺はお前みたいな慧眼の持ち主じゃないからあんまり参考にならないと思うんだが?」

「そんな謙遜しなくても……長所を見抜くのは浅葱さんの十八番でしょう。私は浅葱の意見を聞いてみたいんです」

「そこまで言うんなら。そうだな……。やっぱり武内の目は確かだ。3人のどれもが逸材。レッスンとか実際の所をまだ見てないからはっきりとは言えないが、光るものがある。それこそ、楓や美穂達に並ぶくらいにはな」

「そうですか……安心しました」

「なんだ、まさか自信がなかったのか」

「ええ。私は一度失敗していますから……」

 

 武内の顔が翳りを帯びた。イラッと来たのでその頭をドつく。

 

「浅葱さん?」

「お前の気持ちは分かってる。痛いぐらいにな。だが、それをあいつらに重ねるな。あいつはあいつ。あの3人はあの3人の物語があるさ」

「そう、ですね……。ありがとうございます」

「ただ……」

「ただ?」

「あの3人に出来なかった分のプロデュースをあいつらにしてやろうぜ」

「……はい、そうですね」

 

 ジャケット撮影の方をチラリと見てみると、美嘉が様々なポーズを次々と決めて順調に撮影が進んでいる。

 

「にしても、随分と撮影も手慣れたもんだな」

「そういえば、そんなこと言ってましたね……」

「ああ。『モデルの時と勝手がちがーう!』って泣き言言われたりな」

 

 そら職種が違うんだから撮られ方も変わるだろ。モデルはあくまでも『服を着こなしている』のを見せる。簡単に言えば服のコーデを如何によく見せるか。

 それに対してアー写やこういうジャケット撮影は、『城ヶ崎美嘉』を見せる。城ヶ崎美嘉というアイドルが如何に魅力であるかを伝えなければいけない。

 目的と結果が違えば、勿論そこまでの過程も変わる。そう伝えたのだが、美嘉はあまり良く伝わらなかった。

 

「説明しても伝わらなかったクセに慣れたらあっという間にコツを掴みやがった。まあ、いいんだけどさ」

 

「島村さーん! スタンバイお願いします!」

「ん? そろそろみたいだな」

「ですね」

 

 後から合流した島村、渋谷、本田がスタンバイしている間に他のプロジェクトメンバーの撮影が順調に進んでいく。

 ……しかし、

 

「上手く行かないねぇ……」

 

 後から合流組の島村、渋谷、本田の撮影がダメだった。

 

「流石に緊張してるか」

「そうですね……」

「他のメンバーはある程度アイドルになるためのレッスンや準備をしてきたが、あの3人はぶっつけ本番もいいところだからなぁ……」

「もっと自然な笑顔を……」

 

 突然言葉が聞こえなくなった武内の顔を見てみれば、傍目からは何も変わっていないように見えるが長年の付き合いだからこそ理解出来る微妙な表情の変化があった。

 

「なんか思いついたって顔だな」

「はい。それよりも、良く分かりましたね」

「わからいでか。何年来の付き合いだと思ってんだよ。ほれ、解決策が浮かんだんならとっとと行ってこい」

「……分かりました」

 

 少し失礼します。と俺に一言律儀に残してから武内はカメラマンさんの元に向かった。

 武内の話を聞いたカメラマンさんはなるほどといった様子で頷いている。どうやら武内の案に賛成らしい。

 

 カメラマンさんは3人を同時に呼んだ。時間がかかりそうだから一気に撮ってしまおうとかそういうことか? いや、それはないか。

 

「今度は3人一緒に撮ってみるから、普段通りにわいわいやってみてよ」

「は、はいっ!」

「普段通り……?」

 

 困惑する本田の元にボールが投げられる。……あっ、なるほど。そういうことか。

 

「ボール?」

「自由に動いていいよ!」

「ええっと……とりあえず、しまむーパス!」

「えっ? ……ほむぎゅ!?」

「おっと」

 

 本田からのパスに反応出来なかった島村の頭にボールが激突。あおれを渋谷がキャッチした。

 

「……しまむー?」

「しぶりーん、パス、パース!」

「……しぶりん? まあ、いいけど!」

 

 『しまむー』『しぶりん』ってのは2人のニックネームか。特徴を捉えてるというか安直というか。『しぶりん』って『しぶやりん』から『や』が抜けただけじゃねぇか。……まあ、異様に語呂はいいけど。耳にも残るし。

 渋谷が投げたボールを本田は綺麗なアンダーで島村へ。これはバレーの流れか。

 

「しまむー、トス!」

「は、は、はうっ!?」

 

 まさかの二連続での顔面受け。でも綺麗に上がったな。さっきも上に上がってたし、運動神経がいいのか悪いのか……反射が悪いのか。

 

「しぶりん、スパイク!」

「……ふっ!」

 

 パスッと渋谷から放たれたスパイクは本田の懐へ。助走なしであそこまで跳べるとは素晴らしい跳躍力だ。バレー部だったら即戦力になりそうだ。思わず拍手しそうになったが我慢。

 

「おおっ、ナイススパイク!」

「……ふふっ」

 

  渋谷から笑顔が零れたのを皮切りに3人が笑顔を見せる。これがあいつらの自然な笑顔。これに武内は魅せられたってわけだ。

 

「いいねぇ……その笑顔だよ!」

「あはっ! 流石、合格理由が笑顔のわ・た・し!」

「えへへっ、私もです! 合格理由『笑顔』!」

「……それしか言わないから」

「え?」

『あははははっ!』

「みんな一緒かぁ!」

 

 笑い合う3人を横目に見ながら武内の横腹を肘でつつく。

 

「まぁたお前は『笑顔』で口説き落としたのかよ」

「口説き落としたと言うと語弊がありますが……まあ」

「本気でそう思ってるのは分かるんだがな……」

「アタシを読モからスカウトした時もそれだったよね〜」

「美嘉、撮影は終わったのか?」

「バッチリ! ちゃんとOK貰ってきたよ! それにしても、初めてにしてはいい感じじゃ〜ん……あっ」

 

 美嘉は3人の様子を見ると、何かを思いついたのか

 

「ねえあの子たち、今後のスケジュール決まってる?」

「……いえ」

「今日からの新人だからな。やらせることと言えば正直レッスンしかないが。それがどうかしたのか?」

 

 

 

 

 

「はい、終了! お疲れ様!」

「ねえねえ、みんなで撮ろうよ!」

 

 全員での集合写真そ撮ろうとメンバーがワラワラと集まっていく。

 

「元気なこった」

「……そうですね」

「プロデューサーさん! プロデューサーさんたちも一緒に撮りませんか?」

「いえ……みなさんでどうぞ」

 

 島村の提案を武内は断った。ええーっ、と不満そうなメンバーを納得させるためにそれらしいことを言っておく。

 

「その集合写真をプロジェクト全体としての宣材写真にするつもりだからな。アイドルじゃないプロデューサーがそこに入ってたらマズいだろ」

「それはそうですけど……」

「撮るよ〜! 笑って!」

 

 カシャッとシャッターの音。撮られた写真には全員が笑顔の花を咲かせていた。




知らない人も多いと思いますので、基本的に更新は『346の〜』と同じく日曜日です。時間は設定していませんが、目標は0:00です。更新されていなかったら、間に合わなかったんだな……と察してください。

更新を休む場合は活動報告で報告します。

ですが、作者は受験生ですので2月頃までは更新が安定しません。ご理解のほどお願いします。待ってる間は『346の〜』を読むといいよ!(ダイマ)

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