さあ!始まらない!   作:まだはげ

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前島での出来事
シェロカルテからの依頼でアルビオンへと旅立つグラン達。その依頼の内容とはアルビオンの領主『ヴィーラ ・リーリエ』がグラン達に会いたいというものであった。到着したグラン達に待っていたのは豪華な待遇であったがヴィーラと先輩後輩の関係であったというカタリナの表情は憂鬱であった。そんなカタリナを見て励ましたグランだが、皆が寝静まった夜にグランはカタリナとヴィーラ 、そして帝国幹部である『フュリアス』が怪しげな取引をしているのを見たグランは部屋へと突入する。昔の因縁があったヴィーラとカタリナの決闘が終わり、一件落着と思っていたグランだが、その隙を突かれフュリアスはカタリナ達に向かい銃弾や矢を放つ。何とかして庇ったグランだが、フュリアスはここにいるもの全てを皆殺しにしてルリアを攫うとのたまう。その余りの非道さに激昂したグランはフュリアスを殺してしまうのであった。しかし全身に銃弾や矢を受けたグランはその後直ぐに倒れてしまう。そしてヴィーラは何故このような事を計画したのかカタリナに話し始めるのであった。


ヴィーラ・リーリエ 過去

まずは一つの報せから、とは言ってもあまりにも急ですね。

 

そうですね… まずは順を追って私の過去から話していきましょう。お姉様にも、まだ私の口から話したことはないはずです。

 

私はファータ・グランデ空域のとある島の商家の末娘として生まれました。

 

私は自分から言うのも少しアレな話ではありますが幼い頃から他人よりも聡く、優れた子供ではあると自覚をしておりました。

 

兄がまだ数字の勉強をしている時には私にはもう家の手伝いができるぐらいの勉学は身につけられていましたし、同年代の子供やさらにその上の大人と比べてみても剣の腕前、魔法の練度。どれを取っても負け知らずであり私には出来ないものなんてありませんでした。

もちろんやってすぐに出来ない物もありましたがそれすらも練習を繰り返せばいずれは必ず出来るようになるものばかりでした。

 

そして私は思います。

将来はこんな小さい商家なんてものからは出ていき自分だけの騎空団を作り、そこで自分の優れた才能を十分に生かし私だけの空を駆け巡るのだと。

 

自分には出来ないものなんてない。私が一番優秀なのだと思っていました。

 

十二歳になった時の事です。毎年私の家では小さいながらも家族間の間で各個人の誕生祭が行われていました。

 

しかしその年は違いました。

やたらと豪華な食事と場。段々と増えていく会った事の無い豪華な飾り物をつけた集団。その中には私と同じくらいの年齢の子供もいました。

明らかに毎年行われる物とは違う誕生祭で私は戸惑いを隠せませんでした。

 

結局、その見たことも無い人達とは一言も喋りませんでしたがちらちらと此方を伺っていた事は分かりました。

そしてその誕生祭の終わりに、何時もはあまり私とは喋らず仕事場で書類の山を片付けている父が、今日の夜に話があるから自分の部屋に来いと言うのです。

 

私はこの話の内容の事を推測しました。父は過去一度たりとも自分の部屋に呼び寄せて話をするなんて事はした事がありません。それだけ重要な事なのだろうと思われました。

 

そして一つの結論に至ります。

ああ、これはこの商家を継いで欲しいという話なのだろうと。

あの見知らぬ人達は父の知り合い商人でこれからこの商家はこの私が継ぐから私の顔を一目見ておこうときたのだと納得がいきました。それならばあの集団に子供がいたこともあのような飾り物を着けていたことも納得できます。これから先、あの子供は私と商売で長い付き合いをすることになるのですから今のうちに顔合わせはしておいた方がいいでしょう。

 

しかし残念ながらその話には乗れません。

何故なら将来私には自分だけの騎空団を作る予定があるのです。そう断るつもりでした。

 

扉を叩き、父に入る許可を得ます。何気に父の部屋に入るのは初めてのことでした。

部屋の中に入ると父は重苦しい顔で机に肘をつき、こちらを真っ直ぐと見据えていました。

少しの間でしょうか、父は口を開け閉めさせ言おうか言わまいか迷っているようでしたがとうとう決心したのか少しの深呼吸をしました。

 

そして当時の私にとって衝撃的な宣告をします。

 

 

「ヴィーラ、お前は今年の夏に嫁に行け」

 

驚きでした。私はてっきり後継の話をするのかと思っていたので、この話は寝耳に水といってもいいぐらいでした。

 

あまりに突然な宣告に呆然としていた私ですが、父はそんな私に何故結婚の話を持ちかけたのか、その理由を語っていきました。

 

「お前は女だ。これまでは家の事を手伝わせていたが、これからはそうもいかない。

今日誕生祭に来ていた集団がいただろう。あれはこれからこの商会と贔屓になる貴族だ。お前にはそこの架け橋となって貰う」

 

ショックを受けました。女という理由一つでこんなにも嘲られるなんて。こんなにも低く見られていたなんて。

私は、女としてしか見られていなかったなんて。

 

「お前は優秀だからな。何処へ出しても恥ずかしく無い。それこそ貴族連中になど遅れを取らないだろう。

だからヴィーラ、ヴィーラ… ?おいヴィーラ何処へいく!待て!」

 

気がついたら足はもう私の部屋へと早々と動いていました。

剣を持ち、荷物をまとめ、今までに家業を手伝い稼いできた金を持ってまだ暗い真夜中の街へと飛び出します。

もちろん後ろから商家からの追っ手が来ましたがそんなものに捕まることはありませんでした。

 

「今ならちょうど、旅行用の騎空艇が港にあるはず…!」

 

旅行用の騎空挺は、客に船の振動で不快感を与えないようにゆったりと進むためその性質上日が出ている内には出発をせず大体真夜中に出発しちょうど朝ごろに到着をするようにします。真夜中に街に着いたところで宿も観光もできないという理由のためです。

つまり、深夜の今ならまだ間に合うはず。

その事を商家に居た頃の私は知っていましたので見事港に辿り着き島からの脱出に成功しました。

 

 

そしてこの日以来、私は故郷に帰ったことはありません。

 

 

ふふっ、意外…という顔をされてますねお姉様。私はこれでも結構無茶をやる性格なんです。

その後の家族ですか?噂では父も母もその後を継いだ兄もそれなりには元気にやっているらしいです。

ただ、私とはもう会うつもりは無いようで元々娘など居なかったことにされているようですが。

 

さて、続きを話しましょうか。

島を脱出した後、私はしばらくの間酒場に泊まっていました。

考えなしに出てきたはいいもののその時の私にはお金も足りないため騎空艇を持てません。

金を稼ごうと働こうにもまだ子供のために安い賃金で終わってしまう。これではその日の給料でその日を暮らすようなものでとても貯金などできるものではありません。

そして当たり前の事ですが自分から商売をしようにも子供の言うことなど誰が聞いてくれれでしょうか。

家に居た頃は裏方で数字の計算や在庫の確認のチェックや仕入れなどを考えればそれだけで表に出なくても良いものでしたが、いざ子供が商売を始めるというのはとてもではありませんが難しいものでした。

そしてそんな現実的な事に悩み段々と持ってきていた貯蓄が少なくなってきた頃、私は酒場に貼ってあったある張り紙を発見します。

 

それは、城塞都市アルビオンへの入試張り紙でした。

 

私はアルビオンという名前をその頃は知りませんでした。ですが要項を見ていくと、それはその頃の私にうってつけのものでした。

 

我ら城塞都市アルビオンは将来有望な若者を育てんとす。

よって剣、魔法、学が優秀であり、かつ多大な才能を持ち合わせている者。城塞都市アルビオンへと来るべし。

なお特待生になった者、すべての学費、生活費を免除するものとする。

 

この張り紙を見た後の私はすぐに街の図書館へ行きアルビオンについて調べました。

お姉様も知っての通りアルビオンは優秀な兵士を育てる学校です。魔物や世界に関する知識、身体の動かし方を効率的に学べる場としてこれ以上のものはありません。

アルビオンは騎空団を立ち上げようとしていた私にもってこいの場でした。

特待生制度というものも私にかかれば絶対に受かるという自信がありました。

しかし私が調べた中でも最も心惹かれた部分があります。それは卒業後の就職先が安定しているところです。私の場合卒業したところでまだまだ若造と呼べる年です。仕事もできることは少ないでしょう。ですがこれならば年や性別に関わらず、早く確実に仕事に就く事が出来るのです。

卒業した後は何処かの国の兵士にでもなり四、五年金をかせいだ後に騎空団を立ち上げればいい。そう思いました。

 

そうして私はアルビオンへと向かいます。

 

また意外…という顔をなされてますね。そうです、私には元々立派な騎士になろうなんて気はありませんでした。

ただ、その選択が大きな変化をもたらしたのも事実です。

 

話を続けます。

アルビオンへと到着し特待生入試にも合格をはたした私に怖いものなどありませんでした。

ただ… 一つだけ問題がありました。

 

それはやはりここでも女扱いをされる事。

いえ、女扱いだけなら別にいいのです。私は自分でも容姿の方は整っていると理解をしていますから。

ですが訓練や研修などで男性を私が負かした後に、いつも言われた言葉は今でも覚えています。

 

「女なのだから手を抜いてやった」

 

ああ… やはりお姉様も言われた経験があるのですね。

そうです、私はこの言葉が悔しかった。ただ一言女だからという言葉で自らの行為は本気ではなかった。こいつ自身には俺は負けてない。という自尊心を満たすための虚勢。

私が今までにしてきた努力、性格、行動。その全てを一言で奴等は壊していきました。

それこそ言った奴ら全員を生まれてきた事を後悔するよう完膚なきまでに叩き潰してやるほどには憎らしくもありました。

 

ウフフ、少しズレましたね。話に戻りましょうか。

私はこの事が原因で、今でも男性は苦手です。あのような下卑た者ばかりではないと、今回の件で分かりましたが… それでもやはり。

 

そんな問題を抱えながらアルビオンに来てから大体一年が経った時に、私はある運命的な出逢いをします。

そうです、私の人生の中で最も大切な物。

お姉様との出逢いです。

 

お姉様もあの日の事は覚えていらっしゃるでしょうがあえて語らせていただきます。

 

あの頃の私は簡単に言うとやさぐれていました。

世界の男は全てが愚かに見えましたし、女性はそれについて何の疑問を抱かない。それどころかそのような男について行こうとすらする。はっきり言って私には理解が出来ませんでした。

こんな事で良いのか、私はやっぱり女として扱われる他ないのか。その事に苦しんでいた時期でもあります。

 

そんな事に悩みながら、その日のうちの授業を終え私は日課の自己鍛錬をおこなっていました。

少し自己鍛錬に夢中になりすぎてしまい、すっかり日が暮れ辺りはかすかな月と電灯の光だけになり流石に帰ろうと訓練でかいた汗を拭き息をついた時のことです。

 

私は背後から突然魔物に襲われました。

 

意図していなかった腰部への強烈な一撃に私は悶えます。

アルビオンでは魔物は常に訓練になるようにと街中をうろついています。それは強さの強弱はもちろんありますが、所詮は獣です。気配を隠す気もなくまた、それを考えて行動するわけでも無い。

私は鍛錬が終わった後の、散漫した注意力の時ですら魔物の気配に気づかないなんて事は一度たりとも無かった。

 

しかし魔物の接近に気づかないほどアルビオンでの窮屈な生活は私の心を疲れさせていました。自分でも気づかないうちに心の中を病んでいたのです。

 

抵抗する力も精神力も無く、後はこの魔物に殺されてしまうだけ。そう考えるとなんだか心が楽になり身体が軽くなった気持ちで目を瞑ります。もうこの世界も自分の夢もどうでもよくなっていました。ただ終わって欲しい。その気持ちで一杯でした。

 

しかし、いつまでたっても魔物は私に襲いかかりません。

 

不思議に思った私は閉じていた目を開けるとそこには私と同じくらいの女生徒が魔物と戦っていました。

 

その戦いぶりは見事というほかなく、私が疲れていた時とはいえ不意を突かれるほどの強さを持った魔物を一方的なまでに圧倒していきます。

 

鉄すらも楽に噛み砕きそうな強力な牙を細剣で見事にさばききり、ついには氷魔法で氷塊にしてしまったのを私は呆然としながら見ました。

 

「君、大丈夫か! 怪我はしていないか」

 

その人は戦いが終わると勝利の余韻に浸る事無く私の身を真っ先に案じました。

あまりに咄嗟の事に、自分のことを言われていたのを分からなかった私は返答を返す事ができません。

 

「おい、大丈夫か! しっかりしろ! 近くの医者は何処にいたか…!」

 

返事が出来ないほど私が酷い怪我をしたと勘違いをしたのかあたふたとしている姿。

その姿をみて、無礼なのですが少し緊張が解けた私は身体の方は少し腰に傷はあるが大丈夫な旨を伝えます。

 

「そうか、よかった… しかし一応医者には行っておこう。こういった怪我は後に残るからな」

 

そう言って私の腰に手を当てます。何をするのかと思うと、腰のあたりが暖かい光と共に痛みがなくなっていったことから回復魔法という事が分かります。

 

「ああ、いやコレか? 最近身につけたばかりだが気休めにはなる筈だ。不快と思ったならば謝ろう」

 

そんな事は無いと激しく首を横に振ります。あまりに振りすぎて首が痛くなってしまい、途中で首を押さえました。

 

「アッハハ!それだけの元気があるなら大丈夫そうだな」

 

そんな私の姿を見て吹き出した彼女。その姿も様になっていて、私はまじまじと観察をします。

笑う彼女の顔は本当に優しそうで、その目には確かな知的な光と暖かさ。風になびいているブロンドの髪は月の明かりに反射し神秘的な雰囲気を醸し出していました。

 

「私の名前はカタリナ・アリゼ。君の名は?」

 

ーー私の名前は、ヴィーラ・リーリエと申します

 

かすかに震えた声で言うと、未だ座りこんでいた私に彼女が手を差し出します。

顔が自分でも赤く染まっていくのが分かりました。それと同時に彼女を直視出来ないほどの眩しさを覚えた自分にも気づきます。

 

まるで彼女は、私が憧れた女性の姿そのものでした。

 




ヴィーラ・リーリエ→SR持ってないからフェイトストーリー全く分からないです。申し訳ない。設定違ったら言って下さい。あとリミヴィーラのフェイトエピを誰か教えてもらえるとありがたいです…!

ちょっとレズっぽい女の子がガチレズになって、それなのに男主人公だけは何故か気になってくるって展開良いですよね… 何がとは言いませんが。何がとは言いませんが良いですよね。ハイ。
説明回は次です。すみません。

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