私には二人の魔法の師匠がいる。
一人はザカといい、私のたった一人の大切な家族。怖い外見をしているけど中身は誰よりも優しい事を私が一番知っている。
もう一人はグラン。つい最近出会ったのだけど、今では私の大切な人。
これはそのグランの話。
私の第二の師匠、グランについてまず最初に抱いた印象は無口だ。滅多な事では喋らないし、喋ったとしても基本的に必要最低限。顔が整っているのもあってちょっと威圧感が凄い。
しかし、冷たく厳しいかというとそうでもなくて誰にでも優しくみんなからの人望も厚い。
戦闘に関しての腕前も凄まじいものであり、魔法だけでなく剣の使い手でもある。
剣と魔法、両方とも使えるというだけでも中々いないというのにそのどちらもが人外レベルまで達しているから驚きだ。
彼は一体幼少期にどんな訓練をしていて、どんな人に教わっていたのか....少し気になる。
カタリナに聞く限りでは普通の村に住んでいたらしいが彼みたいなのがいる村とか絶対普通の村じゃない。なにかあると私は踏んでいる。
そんなグランだが意外と可愛いところがある。
アウギュステ列島に依頼で赴いた時の事だ。
アウギュステ列島には二つの名産品があり一つは美味しく新鮮な魚、もう一つは島全体を覆うかのような大量の水。これは海というらしい。
初めて見た海はとても美しく、水が何処までも青く、まるで磨き上げられた青銅の鏡のような色をしていてとても感動したのを覚えている。
さて、そんな海があるアウギュステに着いた私達。海では魚を取ったり泳いだりすることが出来るらしいが、勿論私達は依頼で来たわけだから海で遊ぶ訳には行かない。残念だけども海で遊ぶことはできそうにない... そう思っていた。
だけども私達に団長であるグランが言いわたしたのは1日の休暇だった。
彼が喋ることなんか滅多に無いし、何より海で遊べると知った時のルリアの目があまりにも輝いて居たからだろう。ラカムとカタリナもしょうがないなとうなづいていた。ラカムの手が小さくガッツポーズしていたのは気付かなかったふりをしてあげよう。私も初めての海ではしゃいでたしね。
しかしその後、帝国兵のいざこざや、なんやかんやがあってグランだけが海に入る事が出来なかった。
アウギュステの星晶獣、リヴァイアサンの暴走による高波から島を救った代償に、一時的な魔力欠乏による気絶の状態が続いたからだ。
その時のカタリナ達と私は何も役に立てなかった自分に落ち込んでいたけど、オイゲンが落ち込んでいる私達を励まそうと海へ連れ出してくれた。
後で魔法の師事をしている時にグランにその話をすると何故か凄く妙な顔をして私の事を見ていた。
彼は無口だけでなく顔の表情も余り変わらないためこの状況はかなり珍しい。
どうしたのかと聞くと彼はただ一言、羨ましいと言った。
彼も海に入りたかったのだ。そういえば最初に休暇を取ろうと言ったのはグランだし、思えば帝国兵を相手どるのもいつもと違い、なんだか気迫が増していたような気がする。
いつも凛々しく、帝国兵なんか相手にならないような強さをしている人が海で遊べなかっただけで拗ねている。
そう考えると今でも少し笑ってしまう。今度アウギュステに行った時には一緒に海で遊ぼうと思う。水着という海専用の服があるらしいからそれも一緒に買いに行こうかな。楽しみにしておこう。
また、アウギュステ後の私とグランの話だ。
彼がアウギュステで魔力欠乏により倒れてしまった後、私は見ているだけで何も出来なかった自分を恥じて今まで以上の魔法の修練をした。
駄目だ、こんな私だと彼の魔法を教わっている私が彼の魔法を乏してしまう。もっと頑張らないと... !
そんな強迫観念が私の背中を押していた。
しかし、いつの間にか限界を超えて修練をしてしまったらしく私まで魔力欠乏による気絶をしてしまった。私はグランほどの魔力は無かったので気絶は短かったが。
気絶から回復すると団の大人達に無理をするなと怒られてしまった。私はまだ子供なのだからと。
そう言われた私は思わず自分の部屋を出て騎空挺の甲板に出た。
いつの間にか夜になっていたらしく、冷たい夜風が体に突き刺さる。
急に部屋を飛び出した私を心配してくれたのか、グランが後からついて来た。
彼は私の隣に立ち、ただじっと遠く彼方の空を見つめていた。多分これは彼は気付いていたのだろう。最近の私が思い悩んでいたことに。
だから今、彼は私の話を聞こうと私が悩みを言いやすいように何も言わず待っているのだ。彼にまで心配をさせてしまっていたなんて....申し訳なさで自分の胸がいっぱいだった。
「ごめんね、グラン」
「.......」
一言話すと自分のなかで悩んでいたものが堰を切ったように言葉となって出てきてしまった。
「私ね、グランがアウギュステで倒れた時に思ったの。グランはすっごく強いけどそんなグランに教えて貰っている私が弱くちゃあなたまで馬鹿にされちゃうって。それで修練も今まで以上にやったんだけど...それで身体を壊すなんて...ほんと」
「...大丈夫」
「えっ....?わっ」
「大丈夫、大丈夫」
そう言ってグランは私の頭に手を乗せた。グランの手のひらの暖かさが私の頭に伝わってくる。そして何故だか妙な既視感を私は覚えた。
(何か懐かしいな...なんでだろう...)
そうだ、たしか昔こうやって貰った思い出がある。
あれは確か私の両親が事故で亡くなった後の時の事だけどもその時もこうやって自分の無力さと、これから先どうしていこうかと思い悩んでいた。
大好きだった両親がいなくなり、頼れる親族も居なかった私は自分の家の前に膝を抱え込んでただひたすらに毎日泣いていた。
そんな時に突然現れた師匠は私をこういう風に頭を撫でて貰ったんだっけ。
あの時の私は泣いていてばかりだったけど、師匠が毎日私に手品をして段々と笑顔になる日が多くなった。師匠は手品の事を魔法と言って言っていたけども、あれは確かに人を笑顔にさせる魔法だ。
そして今更気づいた。
(ああ...似ているんだなぁ、師匠と)
自然と笑みがこぼれる。何を勘違いしていたのだろうか、グランは私が魔法が出来ても出来なくても気にするような人じゃない。
(バカみたいに親切で、アホみたいにお人好しで、けれども...私と師匠を救ってくれたヒーロー)
「ーーありがとう、グラン」
「....?」
「ふふっ、何でも無いわ。今は私の魔力が回復してないから... 魔法理論の勉強をしましょ! そうね、次に学びたい魔法はね...?」
貴方のその顔を、いつか笑顔にできる魔法を。
十天最終解放発表の時の私→ ァ '`,、'`,、('∀`) '`,、'`,、シエテサ-ン!
最終解放素材発表後の私→( ˙-˙ )エッセルサンオイデ
我々はエッセルさんを先に取るのです。我々は賢いので。
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