うたわれるもの ~魂の揺り籠~   作:悪役

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欠けた己

 

 

「馬鹿な………! あれ程奥に行ってはいけないと言ったのに行ったのか!?」

 

ウォセ殿の怒鳴り声に涙と嗚咽で振るえていた子供達の震えが更に酷くなる。

思わずルサミアが庇うように子供の前に出てしまいそうになる怒気だ。

無理も無いが焦り過ぎだ。

 

「落ち着けウォセ殿。相手は子供で、しかも怒りに費やす時間など無い」

 

「だが……だがしかし!」

 

正しく姿通りに逆鱗にでも触れてしまったかという怒り様に益々子供達が震えあがって泣きじゃくっている。

その事に思わず目を細め

 

 

 

 

静まれ(・・・)

 

 

 

すっ、と自然と口からポロリと小さい声が漏れた。

一瞬でウォセ殿が背筋を震わせ止まり、ルサミアが固まる。

かく言う自分も自分で放った余りにも重苦しい言葉に少しだけだが愕然としてしまう。

だが、同時にそんな事に愕然としている余裕は無いという理性の囁きに同意した頭が首を振って不明を追い出し、行動を開始する。

今も泣きじゃくっている子供の傍に寄り、膝を着き出来る限り普通を意識して語りかける。

 

「アリュネイお姉ちゃんがどっちに向かったか、説明できるかい?」

 

「うっ……」

 

初めて見る相手に、しかも人間である事が拍車にかかっているのか。

少し見知らぬ者を見る恐怖が追加で宿っている事は察する。

少年も手足にもウォセ殿程では無いが、ケガイとしての鱗みたいなものがある。

その事に憐憫のような感情が浮かび上がるのを封じ、出来る限り安心させれるよう笑みを浮かべながら

 

「安心しな。お姉ちゃんは自分達が助けよう。任せてくれ」

 

「ほ、本当………?」

 

「ああ、本当だ」

 

その言葉に安心してくれたのか、子供達があっち! と指を指してくれる。

良し、と一度ガシガシッと頭を撫で

 

「ルサミア。子供達の事を頼む。ウォセ殿。落ち着いただろうな」

 

「………承知」

 

さっきよりも頭が冷えているのを確認し、動こうとするがその前に視界に今にも私も、という言葉を吐こうとしている少女の姿を見て、ならばはっきり言うのが自分の責だろうと思い、行動する。

 

「ルサミア。君の眼はこのような森の移動には向かない。ましてや急いでというのは以ての外だ」

 

「………ッ」

 

唇を噛む音と手を握る音が耳に届いたのではないかと思う仕草であった。

酷いことかもしれないが事実であり、納得しなくてもカムイはここに置いていくつもりだったし、いざという時は気絶させることも念頭に置いていた。

が、わずか数秒で少女は力を抜くように息を吐き、力強い瞳をこちらに向け、懐から何か物を出した。

 

「これは………」

 

見るとそれは鉄扇であった。

扇ではあってもその見た目は扇という物として見るには余りにも物々しく、鉄の印象を力強く頭に刻み込んで来るそれは間違いなく武器という分類になるものであった。

 

「私が護身用に持たされていた物です。使ってください……使い辛いかもしれませんが………」

 

「……いや、十分に助かる」

 

受け取った鉄扇はズシリと重みを手に乗せ、重心が先端側にある得物を確かに使い辛いかもしれないとは思った────が、それ以上にカムイは武器を持った事に恐ろしい程の心地よさを得た。

歯車が嚙み合った、と心が答える。

記憶がない故に映像ではなく言葉として心が囁いてくる。

 

 

 

お前はそれ(・・)を握る人間だ。否、お前がそれなのだ(・・・・・・・・)

 

 

 

そんな祝福(呪い)染みた心の声をカムイは黙って聞いていたが、即座に現実に目を向ける。

 

「ウォセ殿、前を頼む」

 

「承知した」

 

次の瞬間、二人の足は迷いもせずに森の中に突入した。

 

 

 

 

 

 

ルサミアは子供達を村にまで送った後、先程までの場所に戻った。

 

「………」

 

視線の先は森。

二人が駆けた場所を見ていた。

ほんの数秒だがまるで彫像の如く不動であった。

そして初めて呼吸を思い出したかのように息を吸うと────

 

「いけませぬ。姫殿下」

 

再び不動を強いられた少女は一瞬、また呼吸を止め、直ぐに視線を声がした方向に向ける。

そこには間違いなく先程までいなかった男が傅いていた。

路上であっても躊躇わずに膝を着いて自分に傅く態勢にこれが普段ならば喜ぶべきが己の不徳を嘆くべきかのどちらかをしていたのだが、今はそんな場合ではない。

 

「……何故止めるのですウヒュウ」

 

「恐れながら…………あの男が言った言葉は何一つ間違ってはいないという事。そして当然ですが、万が一御身の身に何かあれば事だからです」

 

何もかもが実に正しい正論。

故にそれが最もルサミアにとっては耐えられない事実であった。

 

「私は………私は………! 民の前に立つ者が民の危険を見過ごさなければいけないと!?」

 

「……」

 

ウヒュウが何一つ言い返さず、ただこちらの言葉を厳粛に、それこそこちらの言葉で傷つけられるかのような表情さえ浮かべなければそれでも何も言わなかった。

何て酷い女だ。

ウヒュウの告げる言葉は間違っていない上に、カムイさんの告げた言葉も間違っていない。

自分の瞳は他の人間よりも正しく捉える事も出来なければ、身体能力が特別高いわけでもなく、武芸も修めているわけでは無いのだ。

これらの事実からどうやって単独で森に入ってもいいという理由に成り得るだろうか。

本当に正しい。

でも

 

「我が身可愛さだけを優先するなんて…………」

 

己の身だけを優先するのならば今頃何もかも忘れるべきなのだ。

それが出来ないからこそ私は未だルサミア(・・・・)と名乗っているのだ。

なのに、こうして目の前の防げるかもしれない悲劇を見逃すというのはそれこそ暗君ではないか(・・・・・・・)

そんな己の葛藤に気付いたのか。

ウヒュウは傅く態勢から──躊躇わずに頭を地面に押し付け、平服の姿勢になった。

 

「ウヒュ──」

 

「何卒……何卒我慢を……! 何卒……!」

 

血を吐くような、とよく書物で聞く例えを、ルサミアは過剰な表現などではないという事をそれこそ血の気が引いて真っ青になる勢いで理解した。

そこまでさせて己が彼にしている事を理解した。

 

 

何という自儘な事を恥知らずにもほざいたのだ。

 

 

ここにいるのは何だ? 

特殊な力を持った小娘か?

運命に守られる大神の寵愛を受けた存在か?

それともそれこそ物語の中にいるご都合主義の主人公様か?

そんなわけがない。

転べば血を流し、己より強い者が現れば簡単に死ぬただの小娘だ(・・・・・・)

ほんの少し人よりは呪力が強いくらいはあるが、それが一体どうしたというのだ。

 

 

正しく今の自分はそれこそ暗君である事実である事は変わりなかった。

 

 

よろり、と膝から力が抜け倒れそうになると運よく背後にあった木に支えられる。

余りの自分の無能振りに涙すら流れない。

いっそ自分という存在が無くなればいい、とさえ考えると本当に似たような目にあった青年の顔が思い浮かぶ。

自分という存在が無い彼は余りにも不安定であるだろうに私には他の何よりも自由に飛んでいるように見えた。

そしてそんな風に思えた自分が本当に酷く情けなく感じ、落ちた涙に吐き気さえ覚えた。

 

 

 

 

 

 

はっはっはっ、と少女の荒い息が森の空間に響き、響く度に体から力が抜けているような感覚を得た。

フードで顔を隠した少女────アリュネイと言う名の少女は目元に涙すら浮かべながら意識が朦朧とするのを感じていた。

自分が今、どこに向かっているのか。

そもそも自分が今、何をしているのかを思い出す事すら難しくなるような緊張感があらゆる行動を鈍くしている。

森を勢いよく走っているせいで体中が小さいが、だからこそこちらの冷静さを奪うように訴える痛みもあって自分の精神が追い詰められている事を、思う事すら難しい。

ただ全身の機能を走る事に費やさなければ死ぬだけなのだ、という事だけがこんな頭でも理解出来る唯一の事実なのだ。

何故ならさっきから背後からキィキィと煩いのだ。

普段、動物が好きな自分では余り考えないような考えに、もしかして自分は案外野蛮なのかな、とぼうっとした頭で思った。

 

 

嫌な予感はした。

 

 

最近の子供達の様子がやんちゃである事は知っていた。

自分は鈍臭いから分かるけど、親友であるネイラに対して裾捲りをした時は少々命を懸け過ぎだ、と子供がお手玉になって宙を飛ぶ姿を苦笑して見守りながら思いはしたのだ。

でも、気のせいだろうと思い、それが油断に繋がった。

子供達が普段遊んでいる場所ではなく森に向かったのだ。

血が一瞬全て抜かれたのではないかと思った時には慌てて自分も森に向かったのだ。

今思えばその時、せめてウォセさんか他の大人の人に声をかけていけば良かったのだろうけど混乱した頭はそれを考える事も出来ずに、必死に子供を探し、見つけた時は子供達はオルケの巣を荒らしてしまい、オルケ達の怒りを買って逃げている子供の姿であった。

その時に自分がした事は我ながら意外に勇気があったのですね、と思う行動だ。

何せ自分を囮にして子供を逃がせたのだ。

後で親友に自慢してもいいんじゃないかな、と引き攣った笑みでそう思うが、駄目だよね、と思う。

こんなことをした事にネイラは絶対に怒る。怒ってくれる。

 

「ご…………め、ん……ね”…………」

 

つい口で漏らした謝罪に自分がこれから先どうなるかを理解している事実を気付き──気付けば目の前には壁があった。

 

「─────え?」

 

反射的に壁を押すが、壁はどく事は無かった。

もしかして引けば何とかなるのかな、と意味が分からない思考で腕を動かすが余り上手く動かない。

ならば足を動かしてせめて横に動こうとした時に気付く。

自分の足が地についていない事を。

つまり、自分は今、壁と思っている物は地面であり、自分は転んだのだ。

ぞっとする寒気が背筋を走る。

何故なら現実への理解へと同時に耳に届く唸り声が聞こえたからだ。

 

「あ、ぁ…………」

 

絶望を多分に含んだ声がかってに視線を背後に向ける。

視線の先にいたのは四足歩行の獣の群れ。

茶毛の毛皮に包まれ、低い唸り声を上げてこちらに敵意を向けてくるオルケの群れだ。

食い殺される、と理解し、手足を使って立ち上がろうとするが意に反して全く手足が動いてくれない。

自分自身が今までどれ程恐怖と疲労を感じていたのかを精神よりも肉体の方が理解しているのだ、と主張するような震えが体を支配している。

 

「い、いや…………」

 

拒否の声に一切の力が入らないのは半ば死を受け入れているようで嫌だ。

だけど、そんな弱弱しさが獲物の狙い時だと悟ったのか。

群れにいる一匹が一気にこっちに駆けてくる。

慌てて逃げようとするが力を入れようとした腕が肘から折れて顔から地面に激突する。

顔に広がる痛みが思考を一瞬だけ断ち切り、はっ、と気付いて背後に振り向いた時にはオルケが飛びかかり─────横からの鋼による高速の突きが遮った。

 

「え……」

 

全ては連続だ。

横から一人の青年が何か短い武器らしき物を持って地面を滑ると言うより削ってこちらまで駆け、持っていた棒でオルケの顔を思い切り叩き落としたのだ。

叩き落とすという単語では似付かわしくないレベルで骨とか何かが砕ける音が響いたがそれはいい。

唐突な救いに一切の言語を発することも出来ないまま、アリュネイは目の前の青年をただじっと見る事しか許されなかった。

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間が戻り。

カムイはその惨劇10秒前程の光景を見、自身の足では間に合わないという事を冷静に悟った。

森の中で少しだけ開いたような場所で少女とオルケがおり、倒れている少女にオルケが走って食い殺そうとする、という展開中であった。

二歩ほど前を走っている竜のような男から歯軋りと共に速度が上昇するのを感じるがそれでも間に合わないというのは既に考えた上で結論を出しているのだ。

故に間に合う為に別の方を持って対処する。

 

「ウォセ殿! その怪腕は見掛け倒しか!?」

 

こちらの唐突な問いに一瞬、理解が間に合わずに視線を開けてこちらを見ていたが、次の瞬間に理解の光が灯るのを確認する。

右手を横に突き出し、力瘤を作って

 

「否! 試して行かれよ……!」

 

立ち位置を逆転させる。

自分が前に出、ウォセ殿が自分の少しだけ後ろに。

それを確認する手間を省き、その場で飛び上がる。

ただ上に飛んだ跳躍は直ぐに追いついたウォセ殿の手の平にすっぽり収まる形で着地する。

そのままウォセ殿は左の足で速度の停止を図りつつも、勢いのみは殺さず、そのまま全身に力を通すのを意思で確認する。

 

「……ぉ……!」

 

叫びと共に一瞬、ウォセの全身が巨大化したような錯覚を覚え、自身の体が力に包まれる感覚を得る。

 

「うぉ……!?」

 

流石に少々恐怖心が浮かび上がってきたが後には引けないし、これしかないし、引いた気持ちで挑めば失敗するだけであると心が心を諭している。

故にそのまま前屈みで次の動きに対する心構えを完璧に作り

 

「──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

己を矢とした弓が発射された。

 

「く……ぅ、く……!」

 

物凄い圧に体が潰されたような感覚を得るがあながち間違いでは無い気がするが。

今は一気に近づいてくる少女とオルケと着地をどうするかだ。

下手に動いたら足が折れる、と判断が下る。

一番いいのは着地の瞬間にそのまま走るように足を踏み出して勢いを殺すのがベストなのだろうが、流石にそこまで自分の身体を信頼するには聊か記憶喪失者には心許ない。

故にカムイは実に単純な方法を取った。

地面に着地する瞬間に足で制動をかける、という。

着地した足で感じたのは地面ではなく地面を削る己の足の感覚であった。

 

「っ……!」

 

ガリガリガリ、と草鞋と地面が削れ、膝が振動で折れそうになるのを必死に堪える。

この勢いではむしろ少女の前で止まらないのは知っているが、それに関しては構わない。

何故ならこの勢いを押し付ける相手がいい感じに舌を垂れ流して、よだれをまき散らしながら自分が通り過ぎようとする場所に来るからだ。

 

「流石だ……!」

 

ウォセの力加減と読みの深さに感嘆しつつ、先程渡された鉄扇の重みを感じる。

自分が武術が出来るのか知らないし、出来ても流石にこんな際物武器の扱い方までは知っているとは思えない。

だが、今は良い。

今、必要なのは技術ではない。

今、必要なのはこの鉄扇に全てを込めればいいだけだ。

自分の腕の力も、この勢いも、全てこの鉄扇に込める。

そして後はそれを腕の振りで丁度いい所に来たオルケの顔面に思いっ切り────叩き込む。

ベギャ、とおぞましい感触が腕に響く。

相手が獣であってもおぞましい命を奪う感触を感じながら──同時に鉄扇を渡された時のようにある種の暴力的な懐かしさをその感触に覚えながら、歯を食いしばってそれら全てをオルケに全て与えるように押し込んだ。

確実に命が砕かれた感触を手に、自分の勢いも上手い事押し付けられ、その場に止まれた。

目の前には10数体のオルケの群れ。

後ろには恐らく恐怖で腰から抜けて動けなくなっている少女。

少なくともこちらからの退却は難しい。

そう思っていると直ぐにこちらに並び立つ存在に、誰にも気づかれぬようにほっと息を吐く。

 

「流石」

 

「否、それは貴公に相応しい言葉であろうよ」

 

「おだてられても何も出せはしないのが無念」

 

お互い苦笑し、オルケの集団に意識を向ける。

 

「さて、どうする、ウォセ殿。非は……恐らくこちらにありそうだがかと言って死を選ぶわけにはいかぬ」

 

「承知している。故に私に任せて欲しい」

 

そうしてウォセ殿は一切の警戒を解かないまま、しかし平然と獣たちに一歩近寄り

 

 

 

「去れ」

 

 

 

その一言だったが、思わず背筋が一瞬震えるような感覚を得る。

恐ろしい事に今の一言には一切殺意が籠っていない。

本当にただ厳かに去れ、と告げただけだ。

だが、それも怪物じみた技量と見た目から言われれば恐ろしい程の最後通牒にしか聞こえなくなる。

その事実は人とか獣とかの垣根を超越する死の予感だ。

オルケの群れですら震えるように身を縮まらせているのを確認した。

が、しかし

 

「──」

 

唸り声と態度で獣としての不退転の覚悟を示してきた。

 

……それはそうか

 

この感じだと巣を暴いた可能性が高い。

獣からしたら巣を突かれる事は自分達の存亡を脅かされたに等しい行為だったはずだ。

ならば獣であっても否、獣だからこそ引けぬはずだ。

何故なら引いたら死ぬからだ。

ならば、今、ここでこちらに牙をむいて死ぬとしても結果がどうせ同じならば引くという本能はこの瞬間だけ取り除かれるのだ。

 

「……ウォセ殿」

 

「……うむ」

 

そうなると厄介な事態にしかならない。

人と違って、こうなったらもう和解は無い。

単純な殺し合いだ。

まぁ、そうなるとウォセ殿は大丈夫だろうが自分は戦力不明で背後には一人動けぬ少女がいる。

ウォセ殿が如何に強くても彼の肉体は一つて腕も足も二本ずつしかないのだ。

万が一はある。

だが、それでも最早ヤるしかない、と二人で鉄扇と拳を構えて立ち向かう意思を作り

 

 

 

背後の風切り音に気付く。

 

 

 

ウォセ殿が即座に右に翻すのを少しだけ確認し、自分も

 

「失敬!」

 

「あっ……!?」

 

倒れている少女を横抱きにして即座に左に飛ぶ。

自分もウォセも何の音かを確認することは無かった。

例え、少々自分の心が告げたような音では無くても似たような音だ、と無意識が叫んだのだ。

そうして躱した後に見たのは自分でも正気を疑う物であった。

それは木槍だった。

一瞬だから流石に絶対とは断言出来ないが、やはり矢で無いのは確かだ。

何故なら単純に矢より遥かに大きかったからだ。

そしてもう一つ正気を疑ったのは、そんな巨大な物が恐ろしい程の勢いで(・・・・・・・・・)飛んできた事だ(・・・・・・・)

それこそ目の前で歴戦の英雄による刺突を見たような気分であった。

そんな矢が自分達を追い抜き、そのままオルケ達がいる場所まで辿り着き──激突する。

 

「きゃっ……!」

 

腕の中にいる少女が呆然自失の状態からでも悲鳴を上げるような破砕音が辺りと耳と体を打撃する。

少女を腕に抱いている以上、自分は耳を防げないのが厳しいかと思ったが、それ程気にしなかったことに、しかしわざと何も思わないようにして改めてオルケ達の方を見るとオルケ達は唐突な攻撃に悲鳴じみた鳴き声と共に逃げ出そうとしている最中であった。

 

「助かった……のか……?」

 

思わず呟くが、だが今度は先程の恐ろしい威力の射をした人物がいるという事になっている。

見れば木槍と思わしき物体はもう原型が残らないくらいに砕け散っている。

あれが人体に当たって時どうなるかなど余り考えたくはない事だ、とこっちが危険度を上げていると

 

「カムイ殿。心配はいらぬ。あれは身内の矢だ」

 

「…………あー、成程。よくよく考えれば確かに方角は里の方であるな」

 

思わず最初に気の抜けた言葉が出たが致し方なし。

それだけ凄まじい矢だったのだ。

だが、まぁそれならば何も問題ない。

見た感じ少女には森を走り抜けた時に得た負傷くらいしか見当たらない。

今もまだ呆然としているが、まぁ、とりあえず

 

「一件落着、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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