ウォセは村の中にある集会場代わりとなる屋敷に向かう最中であった。
竜のような姿から吐き出される吐息は存外に人間らしい。
そう思い、しかし寒空の下でも無いのにこうも息が白むのもどうか、とつまらん思考を切り捨て、目的の家に着く。
「御免」
言い放ち、戸を開けるとそこには自身の家よりも広い室に複数の存在がいた。
ヒトである、と自分は敢えてそう定義した。
例え身体が人の形を保っていなくても、同じ人である者にケガイ、と蔑まれようが、我らは人ぞ、と。
もっとも……私のように全身が変化した者はこの村でも稀であるがな。
余程自分は
どちらにも心当たりはあるから自業自得というものなのだろう、と思い、皆の視線の元、こちらから話しかける。
「すまない……待たせてしまったか」
「いえ、とんでもない。ウォセ様。我らもついさっき集まったばかりです」
「忝い……だが様はいらないと何度も申すのだが……」
「それこそとんでもありません。貴方に手を差し伸べられなかったら我らはこうして今、ここで息をする事などしておりません」
むぅ、と頑固者の問いにどうしたものか、と頭を搔きたくなるが待たせた人間が話を他所に持っていくわけにはいかない。
皆の中央に陣取り、何時も揃っている者がいる事を確認して主題を語る。
「記憶を失った若者が歩けるようになった。娘の意見だと後、2,3日すれば里の中を歩くか、下手したら走れるようになるのではないかという話だ」
沈黙が皆の耳に刺す。
こうなるのは当然だ。
ここにいるのは私と同じように村の未来について考え、同意した人間が集まっているが、だからと言って人間に対する憎悪を忘れた者でもないのだ。
私も含め、この村にいる者は誰もがそうだ。
だから何時までも沈黙を守っている場合ではないと思い、何か口に開こうとする前に一人が先に口を開いた。
「して……ウォセ様。どのような話を」
「うむ……我らがケガイである事と……里の未来について話をした」
流石に今度は沈黙を守れずに場が少しだけ呆気に取られるのを悟る。
原因は全て自分にあるので自ら頭を下げて謝罪の弁を告げる。
「申し訳ない。僅かの言しか語り合っていない者達に貴公らの意見も聞かずに事を急いでしもうた。叱責の言葉は当然、甘んじて受けるつもり」
「か、顔をお上げください! ウォセ様!」
「そうです! ウォセ様が謝る事などありません!」
しかしだな、と告げようとすると見上げた顔に宿る視線を見て口を閉じる事になった。
どうあっても構わない、という意思が自分の謝罪の意思を打撃したからだ。
心底どうしたものか、と思う。
無論、彼らの好意が嫌とか悪いわけでは無いのだ。
だが、過ぎた好意はこちらに同調し、肯定するだけで正逆の意見が出る事が無くなってしまう。
その事を咎めようとも私自身にそういった場合に対してどう接すればいいのかが分からない。
非才の身である事は承知していたが、これで村長として皆の顔役になるには致命的だ。
無様とはこの事だな……
他人の好意を邪魔のように扱っている時点で己の限界が目に見えている。
本来ならばもっと流れを捉えられるような者に顔役を任せたいのだが、良くも悪くもここに集っている者にはそんな余裕がある者がいないのだ。
誰も彼もが今に集中して明日に不安を抱いている者ばかりなのだ。
ふぅ、と内心で溜息を吐く。
とりあえず今はこうして謝り続けていては時間の無駄になるであろうと思い、皆の好意に甘えて顔を上げる。
そうすると今度は女性が声を上げる。
「ウォセ様……その……その者達はどういったお人柄だったのでしょうか?」
「む……」
完全に不意を突かれた気分で口をつぐむ。
どうしてそんな躊躇いを生むのかが自分でも聊か不明な場所があるからどう語ればいいのか分からない。
しかし、問われた内容は黙るべきものでもない。
「……少女の方は見た目のように性根が優しいのだろう。我等の事を見ても嫌悪よりも罪悪感と苦しみを抱えて見ていた」
「あぁ……そんな感じでしたね……」
同意の声に頷き、自分の感覚が他者と間違ってはいないという事実を認識しながら次の言葉を放とうとする。
「そして青年の方は………」
"貴殿の言いたい事は理解した──が、貴殿の事情と自分の事情は別だ。嫌でも恩は返させてもらおう"
一切の虚飾を排除した声と瞳で訴えた青年を思い出す。
あれは記憶がない故の真っ白な言葉なのだろうか。
それとも彼の心から発生した正しき言葉なのだろうか。
そして自分はそれがどっちかだったのならばどうするつもりなのだ。
私は……一時の感情で動いてはならぬのだ。
自戒のようなものを心の中で呟きながら、心とは別に口で返事を続ける。
「青年の方は少なくとも私の姿を見ても蔑んだりはしなかった。無論、私の所感故に決して慢心はしないでくれ」
それだけを告げ、成程と頷く彼らを見て、自分は何故か酷く情けない思いを抱く。
感傷だ、とウォセはその思いをそう名付けた。
集会の目的を粗方片付け、皆が散り散りになっていく光景の中、一人の少女が残っている事に気付く。
「……ネイラ。無駄に気配を消すなと言っているだろうに」
「ん、ごめん。僕の習慣」
そこにいるのはやはり美しい少女であると言うべきなのだろう。
余り髪に拘っていないのか、前髪は片目を隠すくらいに伸び、首くらいまである後ろ髪も遊ばせているように思える。
表情はそこまで豊かではないが、それでも余り美醜の拘りがないウォセをして十分に美しい少女であるというのだろう。
ただここはケガイの村。
そこに属している以上、例外の者を除いたら当然、彼女にも異形となっているような箇所がある。
寒くもないであろうこの時期に服で覆っている腕の部分を長手袋で覆いつくしているのだ。
昔は包帯で隠していたが、彼女の友人がそれでも邪魔になるであろうと言って縫ってくれたらしい。
それ以降、ネイラの必需品になっている。
そこまで見ればこの村にいる者としては普通の少女なのだが傍らに置いてある物が普通という言葉を拒絶している。
──それは定義は弓なのだろう。
例えそれが通常の弓よりも数倍大きく、弦が普通よりも何重に張られている事に目を瞑れば形は普通の弓だ。
問題が矢が矢というより木を削って作られた木槍というモノになっている事だろう。
持ち手の先端には弓につがえる為に削ってはいるが、普通の人間ならばどうしてそんな物を扱っているのだと馬鹿にするか呆れるかの二択だろう。
だが、ケガイの我等からしたらそうなるだろう、という理解がある故に自分達は特別おかしくは思わずに少女に語り掛けた。
「其方がここに来るのは珍しい。普段声をかけても断るだろうに」
「……大事な事だとは分かっている。けど僕には無理。不適正」
そうだな、と自分の事も含めてその言葉に同意する。
憎悪と嫌悪の感情が前提である以上、ケガイの我等は人に対してただでさえ冷静でいられないのに、生きる為に知恵を出す知者がいないのだ。
無論、皆無というわけではないのだが……そういった者の知の得手も他者との交渉に使うような者は少ない。
溜息ばかりが増えてきそうだが、少女の前でする事では無いだろう。
「ではどうして珍しくここにいる」
「ん。一つ目がアリューが忙しくて構ってくれないから」
「まぁ、アリュネイは子供の世話をしてくれているからな」
「お陰で僕が暇」
友の名を不満そうに口にするのを見ると彼女もまだまだ子供だな、と思うが、事実私からしたら子供なのだから当たり前だろう。
やれやれ、と今度は幾分か気が楽の苦笑と呟きを告げながら彼女との話に付き合う。
「一つ目と言ったな。では二つ目もあるのか」
「当然。二つ目は人がこの村にいるからどうなっているのか」
確かに当然だろう。
理由は人によって違えど人であった者に迫害された我らの村にその人がいるのだ。
それがどんな感情であれ気にならない者は余りいないだろう。
特に我らのようにケガイになって身体能力が上がった中で更に実力者としている者にとっては。
いざという時、何とでもするのが私達の役目なのだから。
それならば致し方なし、とウォセも同意の言葉を吐こうとし
「三つ目──さっきの話、噓をついた」
思わずじろりと目を動かすが見られた本人は特に気にせずに無表情のまま。
数秒見てみたが何も反応が変わらないのを察して、お手上げの溜息を吐く。
「……分かり易かったか?」
「んーーん。そこまでは。そんなに面白い人だった? それとも」
弓にちらりと視線を向け、これを使わなければいけない人だったのかという無言の問いにウォセは少し考えたが首を振る。
そうであったらどれだけ楽だったか。
「……分からぬ。分からぬのだ……」
「……」
あの時、自分が彼と対峙した時芽生えた想いは何だったのか。
分かるような気もすれば分かってはいけない気もする。
その煩悶を口にすれば、実は全てが解決し、楽になれるのではないかと根拠は無いが確信に近い誘惑がずっと体の中で渦巻いている。
だからこそウォセは沈黙を選んだ。
その様子をどう見たのか、ネイラは一度首を傾げながら
「ウォセさんがそこまで悩むなら僕も気になるかも」
ほんの少しだけ微笑を浮かべてネイラは聞くべきことは聞いたという態度で立ち上がり、弓と矢を持って外に出ようとする。
その背にそうか、と告げ
「ちなみに今から何をするつもりだ」
「子供でお手玉する」
「……で? とではなく?」
「子供で」
「……何故だ?」
ん、と言葉の割には少し不機嫌そうな顔を浮かべながら少女はさらりと理由を述べる。
「この前、裾めくりされた。屈辱。やんちゃな子供にはお仕置きが必要」
「……」
ウォセは黙って目を閉じる事になった。
さもありなん。
男は幾つになってもこの手の事には女性には逆らえないのだ。
例え、それが自分からしたら子供のような年の頃の少女であっても、それとこれとは別の話なのである。
「……怪我をさせぬようにな」
「流石にそこまで危険な事はしない。でも、最近ちょっとやんちゃ過ぎだから恐怖は必要」
うわあああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーー
「ん? ルサミア。まるで子供が高く上がっては落ちるような悲鳴が……」
「もう。子供でもそんな簡単に高く持ち上げれませんよ? カムイさん」
「それもそうか……あ、茶柱が沈んで……」
トントン、と足で自分を踏む。
特に違和感なし。
次に軽くその場で跳んでみる。
身体に影響……無し。
「……良し。確かに傷の影響は無いな」
もう既に少女の看病を受けて結構な日数が経った。
今では傷の影響はほぼ無いものと思われる。
もう完治と見做していいだろう。
……看病してくれたルサミアには驚異的な回復力とか言われたが……
さてどうなのだろう。
まぁ、別に気にすることは無いし、今、する事には関係ない。
これから自分はルサミアとウォセ殿と一緒に外に、この家の外に出るのだ。
勿論、村の中であるからかなり大層な事を言っているのは理解しているが、自分からしたら初めての外出なのだ。
多少は大目に見て欲しい。
「あの……体は本当に大丈夫ですか……?」
「ああ。ルサミアのお陰だ。君には本当に感謝しないといけないな」
「いえ。好きでやっている事ですから」
そうして胸に手を置いてほんのりと笑う少女に苦笑し、今度はウォセ殿の方に視線を向ける。
「ウォセ殿。貴重な時間を自分に使わせて申し訳ない」
「気にすることは無い。畑仕事を除けばこの村は言っては何だが何もない村だ。特に案内するような場所は無いが……余計な騒動を起こされたら堪らん」
「……忝い」
そうであろう。
聞けば少女もこの村について以降、一度も外を出歩いてはいないという。
出歩ければどうなるかは保証できないというウォセの言葉を聞いて、忠告を守っていたからだ。
そしてそれは恐らく正しい。
憎悪とは、感情とは決して理性でどうにかなるだけのものではないからだ。
だから、自分はもう一度ルサミアに告げる。
「ルサミア。別に自分一人で構わないんだぞ。いざという時はウォセ殿もいる」
「いいえ。私も行きます」
という風に譲らない。
自分の予想が正しければ間違いなく良い目で見られることは無いというのに。
「全く……恩人に言う言葉では無いが君は頑固者だ」
「……ご迷惑でしょうか?」
その事に呆れと苦笑の溜息を吐きながら、わざと外の方角を見ながら言う。
「生憎自分は外に出るのは初めてだ。ならば今は自分よりも物知りな人が傍にいてくれた方が何かあった時助かる。そういった都合がいい人がいてくれたら心強いが」
「あっ……」
見なくても分かるくらい嬉しそうな吐息を感じた。
だから、わざわざ少女の顔を見ないように外を見たのだ。
少女の笑みは自分のようなおじさんには少し眩いものなのだ。
「ではウォセ殿。案内をお頼み申す」
「……委細承知した。ついてくるがいい」
そうして家の扉を開けて先に行く彼の背を追いかけて、自分も扉をくぐり
「──」
きっとどこにでもある村と空を見た。
特に珍しくもない風景であり、もしくは並みの村と比べても寂れているんじゃないかという風景では他よりも悪かったのかもしれない。
でも、これで十分なのだ、とまるで無くした自分が背後から告げるような確信を感じ取れた。
ならば、確かにこれで十分なのだろうと思い、夢想を止め、現実を直視する。
「まぁ、そうなるか」
村には文字通り人っ子一人としていなかった。
無論、家の中とかには気配がするのだが、そこにはもう完全な拒否の意識を感じれた。
……だが、まだマシな方か
酷いのならば住民全員から石やら何やらを投げられたり、最悪凶器を振り回される可能性もあったのだ。
無論、そうならない為にウォセ殿が一緒にいるのだが、人の感情は抑制出来てもそれが続けられるかはその人次第なのだ。
自分だけならばまだいいのだが、少女がそんな被害にあうのは避けたい所だったからホッとできる。
「……だが、それはそれとして昼間に誰もいないというのは農作業にも影響が出るのでは」
「……」
はぁ、とウォセ殿の口から大きな溜息が吐かれる。
まぁ、幾ら村長とは言っても人の行動を完全に実行させる権利なんてものは持ってないのだから仕方がないのだろう。
「……まぁ、そうは言っても何人かは村ではなく狩りに行ったりしているだろう。さて、案内とは言ったが先程も言ったように案内するような場所などない。どこに行きたいと言うのだ」
「ふむ……」
チラリ、とルサミアを見ると彼女は見え辛い目でこちらを捉えながら微笑むだけ。
自分の好きにしてくれて構わない、と言われたようで困るが、この様子だと自分が外に出ているだけで村の時間を削る。
なら、最低限で今日は閉めるべきだろう。
「なら、田畑と狩りに向かう場所と村の出入口を案内させてもらいたい」
「……出入口に関しては分かるが、何故田畑と狩りに関して知りたがる」
それに関しては簡単だ。
「貴殿は人との交流を避けれないと知っているのなら自分は貴殿らの生活の基盤を見なければいけない。無論、生命線を晒されると反発が起きるのは承知だが臆病は後退への道だ。ならばいっそ初期のこの状態から見ておけば皆の好感度がこれ以上下がる心配も無い故に」
「……理屈は通っているが前向きなのか後ろ向きなのか分からぬ論理だな」
一瞬、苦笑のような響きが聞こえたが見てもそこには竜の仏頂面があるだけであった。
さて、気のせいと取るべきか、自分に都合のいい幻聴が聞こえたかのかと思うべきか、と思いながら彼が無言で動くのを見て自分とルサミアもついていく。
ルサミアは久し振りに村の出入り口である門を見た。
木で組まれた門は外敵からの死守を自ずと望んでいるように思えたし、上には流石に物見櫓から人の姿が見えた。
だが、そこにいる人達は決してこちらを見ようとはしなかった。
つまりはそれが答えなのだろう、とルサミアはその振る舞いを意図的に記憶した。
その後に再びカムイの方を見ると
「成程、最低限だ。敵が来たらこれでは持たないな」
などと唐突にさらりと重い事実をぶつけられた。
慌ててカムイさんとウォセさんの方に視線を向けると何やらウォセさんも頷いている。
「貴公もそう思うか」
「村の状況からしたら仕方がないというのは分かる。そもそもここは関でも無ければ都でもないのだから設備としては当然のレベルではあるのだろうが……門の扉はぎこちなく作られた閂のみ。見張り台に立っている者はそもそもとして兵役についていた者ではないな。更には武器……弓の作りが余りにも粗削りだ。10や20くらいの雑兵ならともかく確かな兵が来たら落ちるであろう」
すらすら、と平然と語られる言葉に思わず遠い、という意味が不明な感想がこみ上げてきた。
ウォセさんと語っているカムイさんは自分に対してとは別人のような語りだ。
勿論、明らかに年下で敬語は不要としているのだから何も特別にはおかしくないのだが、そこには何かの威厳がある。
まるでずっと人の上に立っていた人のようだ。
否、まるでじゃなくて、もしかしたらそうだったのではないのだろうか。
だから、つい
「カムイさんは……もしかしたらどこかの圀の侍大将だったのかもしれませんね」
と口から漏らした。
その言葉に先程まで重い事を語っていたカムイさんの口は苦笑に歪める。
「自分が? 侍大将? それは流石に聊か不相応だし、過大評価だと思うな。良くても下っ端がお似合いだ」
「そんな事は無いと思いますけど……」
ははは、と笑いながらそんなもの、そんなものと語る仕草は今までのカムイさんの姿だ。
……分からないですね……
どちらが本当なのか。
いや、もしかしたらどちらも嘘なのか。
それを読み解けるほど自分は彼を理解しているわけでもなければ、きっと彼もこちらを理解していないだろう。
でも、きっとそれが私達の関係としては正しいのだ、とルサミアはそう思った。
結果としてはカムイからしたら成程、と言える結果であった。
村を死守する門は急造で何かがあった場合に対処できるようなものではない。
村人の練度もそれ相応のレベルである。
そして田畑には幾らか作物があるのは確かだが……収穫を乗り越えた後に次の収穫まで保つのかという問題。
ここはもう極限だ。
切り詰めれるものは切り詰め、余分なんて物は一切無い。
明日すらも余りにも不確かだ。
ウォセ殿の提案はやけに突発的ではあったが、その理由の幾らかには間違いなく未来が無いという絶望から来るものだったのだ。
確かにこれは憂いざるを得ない。
「……最後に狩場か」
「うむ。だが、それに関しては基本、各々好き勝手に動いている。正直、どこが、という場所はないのだが」
何でも近くに川があるからそこで水と可能なら魚を捉えたり、木の実とかは勿論の事、動物を狩っているらしい。
「……最悪、自分が他の村にまで食料を買いに行ってもいいが……」
「……今度は路銀が足りん。当然、売れるものなぞこの村には一つもない」
だろうな、と思い、成程詰んでいる。
この状況を脱するには最早、形振り構わずの手段こそが実は一時的という仮定ならベストになる。
が、当然、そうなった場合、結末がどうなるかも分かり切っている事だろう。
あくまで一時的なのだ。
その後にはより悲惨に滅ぶしかない。
だけど現実とはより残酷な事にご都合主義的な希望を生む可能性があるのだ。
だが
「……それこそ不可能事だな」
今度は誰にも聞き取れないような小声で自嘲し、やれやれ、と首を振る。
そして次の瞬間
「─────!!」
悲鳴が空間を切り裂いた。
一瞬の思考がその悲鳴が、複数の、子供の悲鳴と分類付けた後に即座に足を動かす。
見れば、ウォセ殿も同じタイミングで足を切り、一人ルサミアが反応が遅れたのを理解するが気にしている余裕は無い。
何故なら子供は本当にもう直ぐ傍に来ていたからだ。
「──無事か!?」
ウォセから吠えるような心配を表す言葉を聞いて子供が逆に驚きで足を止めたが、逆にそれを幸いとして自分が近づいて子供たちの様子を見る。
結果、子供には多少の擦り傷や打撲とかはあるが重傷などは一切無し。
その事にアイコンタクトで告げた後、竜の顔でも分かるくらいほっとした顔をしたが……次の瞬間に再び顔を曇らせた。
「……アリュネイがいない」
「アリュネイ?」
「子供達を何時も見てくれている娘だ。外に出る時も何時も危険な場所に近づかないよう見てくれているのだが……」
自分達は子供達が来た方向を見る。
そっちは山の方であった。
部外者の自分ですら思う。明らかに子供が行くには危険な場所だ。
直ぐ近くにいる視線を合わせ泣きじゃくっているのに、出来る限り落ち着かせるような声音で
「もう大丈夫だ。だから焦らず、ゆっくりとどうしたのかだけを教えてくれないかな?」
「う、う、うん……」
餌付きながら、それでも必死に声を出そうとしたからか。
告げられた言葉はさっきの悲鳴とそう変わらない大きさと切実さが込められていた。
「あ、アリュネイお姉ちゃんが……ぼ、僕達をかば、庇って、どうぶ、動物達に追われてるの!!!」
6000で収めようと思ったら8500になっちゃった……ううむ、短くまとめるって難しいですなぁ。
後、肩と目が痛くて……これが一番のしんどさですなぁ。
ともあれまだまだ中身はありませんが、出来れば感想や評価などくれたら嬉しいです。
またよろしくお願いいたします。
今度こそ次回はFateかもしれない……