ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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今回はキャラ崩壊とかいうレベルじゃないです。誰だこいつ?みたいな状態なので、ご了承ください



ドンカン騒ぎ

 △月☆日

 

 今日から日記をつけることにした。でもあたしのことを書いていく日記じゃない。昨日ひさしぶりにダンジョンから帰ってきたおばかさん。あたしたちがどれだけ心配したかわかってない。だから、できるかぎり見て、聞いて、書いておこうって思ったんだ。だって、彼が好きになっちゃったみたいだから。

 

 

 

 △月○日

 

 今日はずっと部屋にこもっていた。あれだけ長い間ダンジョンにいたのに元気そうだ。あたしもいっしょにいてずっとかんびょうしてあげた。くすりをぬりすぎてなみだ目だったけど、あなたのためなんだから我慢してね。

 

 

 

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】の遠征が終わったその翌日。昼時になろうという時間。今日もラプラスはダンジョンには行っていないがオラリオのメインストリート沿いで一人の女性と仲睦まじく歩いていた。ラプラスの噂を知る人はこいつは仕事もしないで何をしているのかと呆れるが、周囲の人々が何よりも驚いたのは、その相手だった。

 

 【大切断】ティオナ・ヒリュテ

 

 迷宮都市の中でも屈指の実力を持つLv.5の冒険者。最強のファミリア【ロキ・ファミリア】の幹部の一人。冒険者なら知らない者はいない彼女が悪い意味で有名な男と連れ立って歩いている。しかも、男のたくさん買ったのであろう荷物を持っていない方の腕を引いて嬉しそうに笑顔を浮かべる彼女の表情だけを見れば、まるで付き合っているかのような甘〜い空間を作り出しているのだ。

 主婦の方々は『あらあら〜』と微笑ましく見守り、冒険者達は疑問符を頭に浮かべ、神々は『リア充爆ぜろ』と陰口を叩いた。

 そんな状況を作り出している張本人のラプラスは、出掛ける前に自らの主神から言われたある一言をずっと反芻していた。

 

 

『ええか、ラプラス。背中と言わず全身に気いつけや』

 

 

「むむ。あれは一体どういう意味だったんだ?」

「ねーねー!ラプラス!次はあそこに行こうよ!あれ、どうしたの?また考え事?」

「ん?ああ、出発前にロキに言われたんだ。『全身に気をつけろ』とな。どういう意味なのかさっぱり分からなくてな」

「全身?大丈夫だよー!ラプラスに何かあっても、あたしが絶対守ってあげるからね。傷一つ付けないようにするからね。指一本触れさせないからね。安心して!」

「ああ……それは良かったよ……」

 

 ニコニコと笑顔を向けてくるティオナに背筋が少し張りつめたラプラスだったが、それ以上は本能的な何かが止めに入り、深く追求することはしなかった。

 

「と、ところでさっき何処かに行きたがっていたようだが、そこに行くか?」

「うーん……でももうお昼だから先にごはん食べちゃおっか!お腹空いてきたし!」

「む、ならこの辺りにオススメの店がある。そこでいいか?」

「うん!賛成!じゃあ早く行こ!」

「待て、お前は場所を知らんだろう。一旦落ち着け」

「えへへ〜ゴメーン!」

 

 ピンク色のオーラを撒き散らし歩いていく二人は本当に仲睦まじいカップルにしか見えないのだが、やはり察しのいい人は居るわけで、『あらあら〜?』『リアルはヤベェ…』という声や、何かを思い出したかのように『ああ…』という声もちらほら聞こえてきていた。

 

 

 

 

 

 

 ラプラス達がやってきた店は素朴な外観で一見普通のオラリオの住宅と変わらないながら、正面入り口の上にあるド派手な看板が落ち着いた雰囲気を台無しにしていた『Jaguar-MARU』という某剣姫も好むジャガ丸くん、その専門店だった。この店は神タケミカヅチの店と神ヘスティアの店と人気を分かつ有名店であり、ジャガ丸くんの素朴な味わいを時々ぶち壊すことでも有名な店でもあった。

 

「ねえ、ラプラス。どうしてここのお店にしたの?ラプラスってそんなにジャガ丸くん好きだったっけ?」

「嫌いではないが、好きでもない」

「だよね。ここ一ヶ月はジャガ丸くん四回しか食べてないもんね」

「ん? まあ、そんなジャガ丸くんなんだが、実はダンジョンに行かなくなってから事業を始めたんだ。金は今までつかってきていなかったからな。それがようやく軌道に乗ったから来てみたというわけだ」

「え!?このお店ラプラスのなの!?すごーい!」

「いや、俺は金だけ払って後は任せてるようなものなんだが…」

「でもすごいよ!会社を始めていたのは知ってたけど、こんなに成功していたんだね!」

「お前は本当に素直だな…」

 

 時々不穏に感じるところもあるが、純粋に自分の成功を讃えてくるティオナに少し顔を赤くしたラプラスはそそくさと店の中に入ってしまった。

 

「ああー!女の子置いていくなんて酷いよー!」

 

 置いて行かれたティオナが店の中に入ると店内は外観通りの落ち着いた雰囲気で、ジャガ丸くん専門店なのか疑ってしまう程だった。また、女性客が多く、店内はお昼時ということもあってか、とても賑わっていた。先にテーブル席についてメニューを見ていたラプラスを見つけると、彼の対面側に座った。

 

「すごいねー!こんなに混んでるんだー」

「ああ、黒字だったが、ここまでとは思わなかったな」

 

 オーナーであるラプラスも人気の高さに驚いているようだった。そこに店員の男性がお冷を持って来た。

 

「ご注文はお決まりですか?ただいま混雑しているため、少々お時間を頂きますが御了承願います」

「この『今月のオススメ』ってもしかして毎月ある新作発表会の商品じゃないだろうな」

「はい!その通りです!毎月自信作が出来ております!」

「だそうだ。ティオナどうする?」

「面白そー!じゃああたしそれにする!」

「なら、俺はうす塩だな。後悔しても知らんぞ?」

「大丈夫大丈夫!自信作なんだからね!じゃあ注文は以上で!」

「か、かしこまりました!すぐにお持ちします!」

 店員はティオナの名前を聞いて驚き、足早に厨房へ戻っていった。周りの客も、有名人のティオナがいることと、男も同じ席にいることの二つの意味で驚き、目を見開いた。

 注文を待つ間、手持ち無沙汰になった二人は暫く静かだったが、水の入ったコップの縁を指でリズムを取るように叩きながらラプラスが口を開いた。

 

「やはり、【ロキ・ファミリア】幹部は伊達じゃないな。どこにいっても視線を感じるだろう?隣にいる俺ですら分かるぐらいだしな」

「うーん、まあね。冒険者だからそういう視線って結構敏感に感じるし……まあでももう慣れたよ。みんなの視線を集めちゃう程強くなれたってことだしね」

「強くなれた、か……」

「あっ……ごめんなさい、ごめんなさい今のは違うの。その……」

「ああ、いや別に気にするな。こっちこそすまなかったな。気を遣わせてしまった」

「ううん、あたしもデリカシーなかったよね。ごめんなさい……」

 

 ダンジョンに行かないラプラスは【経験値】を貯めることが殆ど出来ない。もちろん、訓練などで少しは稼げるのだが、オラリオの外の冒険者のステイタスが最高Lv.3であることから分かるように、ダンジョンに行かないということは、それ以上の成長はないと言っているようなものだった。

 いつになく重い雰囲気になった二人だったが、そこに注文していたジャガ丸くんが運ばれて来た。焼きたてのホカホカと湯気をあげ、仄かにスパイスの香りを放つ二つのジャガ丸くんは、持って食べられるという利点を捨て、皿に乗せてくるという新しい方法を取っていた。そして、食欲を掻き立てられるそれはその場の空気を入れ換えるのに大きく役立った。

 

「ふむ、美味そうだな」

「うん、とっても美味しそう!」

「とりあえず食べるか」

「うん」

「「いただきます」」

 

 ラプラスが一口それを頬張ると、あっさりとした味わいながら、しっかりと主張してくるホクホクした芋が飽きを感じさせない、どこで買っても同じの良くも悪くも普通のジャガ丸くんだった。

 

「うむ、普通だ。?どうした?ティオナ?」

「〜〜!!」

 

 対してティオナは一口食べると顔を真っ赤にして、一気に水を煽った。そしてそれを飲み干すと、勢いよく机に空となったコップを置き、手で顔を仰ぎ、少し涙目になって元凶を指差した。

 

「はぁ……はぁ……な、なにこれー!すんごい辛い!こんなの食べられるものじゃないよー!」

 

 見た目はラプラスのものと全く変わらないのに、確かに香りを嗅いでみると、如何にもなスパイシーな香りが漂って来た。

 

「はぁ……だから言ったんだ。後悔しないようにとな。ほら俺の水で良ければやるぞ。それからこれも交換だな。俺も一口しかまだ食っていないから構わないだろう?」

 

「えぇっ!?そ、それって……か、か、間接キス……」

「む?嫌だったか?だったら店員を呼ぶが……」

「あー!あー!分かった!交換ね!はい!はい!じゃ、じゃあ食べるよ?」

 

 さっきとは別の意味で真っ赤になったティオナは店員を呼ぼうとしていたラプラスの上がりかかった腕を叩き落し、自分のジャガ丸くんと空のコップを彼のものと交換した。そして、ぐおお……と片腕を抑えて蹲っている彼を気にも留めず、彼の齧ってあるジャガ丸くんのただ一点に集中していた,。

 

「じゃ、じゃあ食べるよ……あ、あーむ。むぐ…むきゅう……」

「う、腕が弾け飛ぶかと思った……おい、ティオナ?おい!どうした!?はっ!?なんて幸せそうな顔をしているんだ……いや!そうじゃない!ティオナ!寝るならジャガ丸くんは吐け!喉に詰まったらマズイ!」

 

 一口食べた瞬間に気絶してしまい、ホームまで彼の背中で眠り続け午後の予定をおじゃんにしてしまった彼女は果たして幸運だったのか、それとも不幸だったのか……?

 

 

 

 

 

 

「……と、こんな感じだったな」

「それってデートだよね?」

 

 ティオナをおんぶして帰って来たことで、午後の予定が空いたラプラスは、【ロキ・ファミリア】の構成員に関する資料を纏め、ベートの物品破壊に遭った場所への支払いや、アイズに送られて来た匿名の手紙を焼却したりして午後の時間を過ごした。

 その後日がくれた頃にラプラスはギルド本部に来て、仕事中のエイナにカウンター越しに話しをしていた。今日もピークから絶妙にズレた時間に来ており、冒険者の数は疎らだったが、仕事中にそんな事されたら普通嫌なものだ。しかしエイナは全く気にせず、ラプラスの話に耳を傾け、素直に思った事を口にした。

 

「ティオナは買い物に付き合ってもらうだけだと言っていたが、まあそうだろうな」

「ふーん……それはさぞかし楽しかったんでしょうね!」

「なんか怒ってないか?確かに女性に他の女性と出掛けたことを話すのは良くないと神ミアハも言っていたが……チュールにその日あった事を報告するのは習慣化して来ていてだな……」

「はいはい、じゃあ申し訳ないと思うなら、何かしら誠意を見せないとなぁ」

「む?こういう時どうすればいいのかあの三柱からは教わっていないぞ……むう……」

 

 すると、ラプラスの目線の先、エイナの背中越しに彼女の同僚であるミィシャが姿を現し、口パクで何かをラプラスに伝えようとした。

 

『で、え、と!で、え、と!』

「? え、え、と?」

「どうかしたの?」

 

 ミィシャの助け船に気づいたラプラスだが、その中身までは把握できず、目つきを鋭くする。

 

『で!え!と!』

「え、え、と、ああ!ああ!ベートか!ベートを連れてくればいいんだな!」

「は?ローガさん?急にどうして?」

「待ってろ、チュール!今すぐベートを連れてくるぞ!」

 

『『違ーう!!』』

 

 その場にいたギルド職員全員の気持ちが一つになった。その場から猛ダッシュで立ち去っていくラプラスを、何が起こっているのか全くわかっておらず、呆然としているエイナを必ず幸せにしてあげようと。

 

 

 

 

 

 

「だからベートを連れて行こうとしたんだ。まさか『デート』だとは思わなかったな」

「ウチとしてはなんでそこでべートが出てくるのか、そっちの方が訳わからんわ」

「う〜ん……これは重症だね……」

 

 ギルド本部から『黄昏の館』まで最短距離で最速で戻って来たラプラスは、中庭でアイズとレフィーヤと共に訓練をしていたベートを縄で縛り上げると、そのままエイナの元へ連れて行こうとしたが、第一級冒険者にただの縄が勝てるわけもなく、一瞬で地面に伏せられた。その後主神の部屋で、主神と団長の目の前に強制送還され、事情聴取を受けていた。

 

「僕は君には一度女心というものを叩き込んだ方が良い気がしてきたよ」

「せやなーここまで来ると最早病気やで」

「失礼な、神三柱から女心というものはレクチャーされている。今回は初めてのケースだったがな」

「その神三柱が問題なのかもしれないね…」

 

 ははは、とフィンが苦笑いをすると、ロキが溜息を吐き、ラプラスに注意を促した。

 

「だから言ったやろ。お前は全身気を付けとけって」

「そもそもそれが良く分からない。なんだ、俺は全身串刺しにでもされるのか?」

「ああー最悪そうなってもおかしくないかもね……」

 

 フィンはラプラスを取り巻く少女達を思い浮かべ、遠い目をする。

 

「はぁー……どうすりゃええんや……」

「とりあえず君は明日そのチュールという子に一緒に出描ける約束をして来なさい。それが最優先だ。それじゃあ、今日はもう戻りなさい」

「む、分かった。すまないな。手間を掛けさせた」

「あーハイハイ、早よ行きやー」

 

 ラプラスが部屋から出ていくと、小人族の青年が、その幼い容姿とは比べ物にならない程の年季の入った深い溜息をついた。そして、椅子に腰掛けると、向かい側に座った神と共に、ある冊子を読み始めた。

 それは何時からかアマゾネスの双子姉妹の姉の方が妹に見つからないようにこっそりと渡してくるようになったもので、ラプラスの置かれている状況を表しているものだった。

 

「これがあるからあいつには気を付けろってゆーてんのやけどなぁ」

「うーん、僕も最初にこれを見た時は本当に驚いたよ」

「そりゃそうやろ。まさかティオナにヤンデレ属性があったなんて誰も思わへんもん」

 

 

 

 

 ▽月☆日

 

 今日は遠征から帰って来た。久し振りに会う彼は元気そうだ。私がいなかった間の食事、睡眠時間、移動場所は全部報告してもらった。何の問題もないみたいなので良かった。明日一緒に出掛けるって言ったら一緒に来てくれるかな?もし他の子ともう予定入れてたらどうしよう。あたしは同じファミリアでも、ダンジョンに行かなければならないから、どうしても会える時間が少なくなる。でも、あの二人はいつでも会える。私がいない間、いいなあ。ダンジョンに行くのは好きだけど、それでもやっぱり彼と居たいもん。彼と話しているだけでも、彼と一緒に居られるだけでも、彼を見ているだけでも、どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう。やっぱりあの時からなのかな……

 

 

 

 ▽月*日

 

 今日は一緒に出掛けた。彼はきっと唯の買い物とか思ってるんだろうけど、私にとっては大切な大切な時間。午前中は色んなお店を回ってショッピングをした。彼は私が選んだお店に行っても嫌な顔一つしないで付いてきてくれる。あれは多分心の中でも嫌がっていない表情だった。周りの人達から少し敵意の視線を感じたからちょっと威圧したけど、彼もちょっとだけ怖がらせてしまったみたいだ。でもそんな顔も久し振りに見たから少しラッキー。その後お昼を食べた時、嫌なことを言ってしまった。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいそんなつもりはなかったのだから嫌いにならないで……

 

 

 

 

 

 

「なあ、やっぱりこいついつか刺されるで」

「うーん初期の頃と比べて悪化してるねこれは」

 




えー当社のティオナが病んでしまった経緯はですね、純粋な子が病んだら凄いんじゃないかという作者の妄想が…イタっ!あ!やめて!石を投げないで!


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