ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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本当にお久しぶりです。

一ヶ月以上も音信不通だったこの作品ですが、ようやく次話を投稿することができました。

それではご覧ください




【ロキ・ファミリア】のホーム『黄昏の館』の応接間にて、一人の狼男(ウェアウルフ)の青年がソファーに寝転がっていた。如何にも不機嫌です、といった様子の彼を他の団員はなるべく関わらないようにそそくさと通り過ぎて行く。そんな事を気にした様子もなく、自然な流れで彼に近づく人影が一つ。

 

「む、ベート。こんなところで何をしている?」

 

「うるせぇ、消えろ」

 

「何だ、まるで『アイズ達に一緒にダンジョンに行くのを誘われなかった。何で俺だけ仲間外れなんだ。もう嫌だ、ふて寝してやる!』といった感じではないか」

 

「うるせえッ!蹴り殺すぞッ!」

 

的確に相手を煽るラプラスに噛み付くベート。何時も無表情なこのヒューマンはロキ曰く『結構お茶目☆』だ。ベートの腹わたはとっくに煮えくり返っているのだが、彼はワナワナと震えるだけで、何時もの過剰なスキンシップはなく、起き上がって何処かへと立ち去ろうとしてしまう。

 

「む、どうした?今日はやけに大人しいな」

 

「チッ……どうでもいいだろ、ンな事。つーか付いてくんな」

 

「何かあったなら話していいんだぞ?まあ、どうしようもないこともあるがな」

 

「そのうぜえ顔やめろ。あと付いてくんな」

 

「仕方ない、話を聞いてやろう」

 

「話聞いてんのか!?付いてくんじゃねえ!!」

 

「暇なんだ。お互いに若干団員から気を遣われている身だろう?あと暇なんだ」

 

「お前今日どうしたんだ?何時ものもうちっとはマシな感じはどこに行った?それと何で二回言った?」

 

何だかテンションがおかしい友人にベートは思わずツッコンでしまう。ふむ、と一拍置いたラプラスは顎に手を当てると、不思議そうな顔をする。

 

「団員に気を遣われているのはわかっているのか……」

 

「それはもういいだろ!ああッうぜえな!何か用でもあんのか!?」

 

「用などないぞ?」

 

「だったらどっか行きやがれ!」

 

「用がなければお前と話してはいけないのか?」

 

その言葉にふと、ベートはそこに懐かしい姿を見た。まだまだ弱者の立ち位置に自分達がいた頃。稚拙に、しかし貪欲に『強さ』を求めていたあの頃。このヒューマンはあの時と同じ目をしていた。

 

 

『言いたい事がなければお前と話してはいけないのか?』

 

 

自分より小さく、弱い、しかしこいつは俺の仲間だと胸を張って言えたあの輝かしい少年は、今では同じ目線になってしまったこの青年は、時が止まっているかのように全く変わらない瞳を此方に向けていた。

 

「……チッ」

 

だからこそ余計に腹が立った。何時までこうして暇を持て余して居るつもりなのか。こいつはこんな所で燻っているような器ではないのだ。あれからもう四年も経った。あの時止められなかった自分に、そしてこんな事を考えている自分にも苛立ち、ベートは彼から顔を背けるしかなかった。

 

「どうした?」

 

「何でもねぇ……」

 

「そうか、まあこれからも話し相手ぐらいにはなるからな。あまり置いて行かれた事を気に病むなよ」

 

そこでやっとベートは気づいた。このヒューマンは自分が除け者にされている事を引き摺っていると思い、態々声を掛けてきたのだ。こんな奴に気を遣われた事に腹が立ち、熱くなった顔はまだ背けておく。

 

「おい」

 

自分の部屋がある方へ歩いていくラプラスにぶっきらぼうに声を掛ける。心の中で悪態をつきながらもベートは覚悟を決める。

 

「ん……?どうした?」

 

「暇してんだろ。だったら俺が鍛えてやるよ」

 

「は?いや、もうこっちの気は済んだというか……」

 

「なら次は俺の気が済むまで付き合えよ……!」

 

ニコォ、ととても良い笑顔を浮かべたベートに震えるラプラス。最近鍛錬増えたなあと引き摺られながら考えてしまう。しかし、偶にはこういうのも悪くないとフッと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

その一部始終を見ていたドワーフのおじさんは『青春じゃのう……』と目に涙を浮かべ、その光景を余す事なく見ていた赤髪の女神は『ベートがデレて、ラプラスがかまってちゃんに……』と腹を抱えて笑い転げていたという。

 

 

 

 

 

 

ギルド本部の定時を少し過ぎた頃、受付嬢のエイナは一人溜息を吐く。その可憐な姿を見て、周りにいた男性冒険者や男神もまた溜息を吐くのだが、エイナの表情は浮かばれないままだった。様子を見かねた彼女の上司は彼女と仲の良いミィシャに思わず声を掛ける。

 

「チュールは一体どうしたんだ?」

 

「ああ〜何と言えば良いんですかね?取り敢えず『砂糖吐きそう』ですかね?」

 

「お前は何を言っている?」

 

「はっ!?すみません班長!何だか言わなければならない気がして……」

 

「もうすぐ今日の残業も終わるだろう。あと少しだから頑張れ」

 

「はぃ……すみません……」

 

「それで、チュールのことだが……」

 

チラリと目線を向けると、仕事を進めながらも何処か上の空の彼女の姿が。如何せんエイナは美人の多いギルドの受付嬢の中でも人気が高い。そんな彼女が物憂げな表情をされるとやはり目立ってしまう。彼女達の上司は心配しているのだが、エイナの寂しげな表情も周りの男達は堪能しているので何とも言えないのが現状だった。

 

「エイナは彼が来てないからあんなに落ち込んでいるんだと思いますよ……」

 

「彼?……ああ、そういえば最近見ていないな。と言っても三日ぐらいではないか?」

 

獣人の彼は毛並みのいい獣耳をピクピクと動かしながら不思議そうに言う。しかし、そんな無粋な彼の言葉にミィシャは憤慨する。

 

「何言ってるんですか班長!恋する女の子にとっては三日も会えないなんて本当に辛いことなんですからね!」

 

「そ、そういうものなのか……すまなかった……」

 

彼女達の上司はまさかそんなに怒られるとは思わずたじろいでしまう。しかし、上司を仰け反らせるほどお怒りの彼女の声はギルド中に響いてしまった。そこにゆらりと近づく黒い影。

 

「ミィ〜〜シャ〜〜!」

 

「わわっ!え、エイナ!?も、もしかして聞こえていたの?」

 

「当たり前でしょ!!あんなに大きな声出して!!それに、別に私はラプ君が来てないからって落ち込んだらしてないんだから!!」

 

顔を真っ赤にしてミィシャを怒鳴りつけるエイナ。だが、ミィシャは反省するどころかエイナの言葉を聞くとニヤニヤと口許を緩める。

 

「こらっ!反省してるの?」

 

「ふふふ、エイナ〜、誰がラプラスさんなんて言ったの〜?私達は『彼』としか言ってないんだけどな〜」

 

するとエイナはボンッと顔を赤くすると、ぐぬぬ、とミィシャを涙目で睨んだ。涙目で睨んでいる時点で凄みも何もないのだが……。

 

「もうその辺にしてやれ、フロット。そら、今日の仕事もそろそろ上がりだからもう一踏ん張りだ」

 

そこで上司からエイナに助け舟が出された。上司からしてみれば、このまま何時まで経っても仕事に戻ってくれないのは困るので注意しただけなのだが、エイナにとってはありがたい言葉だった。

 

「もう!ミィシャの残った仕事、今度は手伝ってあげないからね!」

 

「エイナ〜〜!それは酷いよ〜!謝るから許して〜!」

 

ワイワイと持ち場に戻っていく二人を見て彼女達の上司は思わず溜息を吐いてしまう。そして、持ち場に着くと再び憂いのある表情を浮かべているエイナ。獣人の彼はまた深く溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

「ところでエイナ、班長の口調ってラプラスさんに似てない?」

 

「もういいの!仕事する!」

 

ーーーまだまだ受付嬢の夜は長い

 

 

 

 

 

 

「全くもう……」

 

エイナはやっと同僚からの絡みから抜け出し、自分の仕事を処理していた。先ほどは何だか好き勝手言われていて思わず口を出してしまったが、自分はそんなに酷い顔をしていただろうか、と心配になってしまう。取り出した鏡で一度顔をチェックする。何時もと変わらない自分の顔に何処か安心した。そして、鏡から目を外すと、本日何度目かの溜息を吐く。

 

残業中の彼女は、人気も疎らになってきたギルド内を見渡す。大人しそうな雰囲気のエルフや、黒髪の獣人、切れ長の瞳のアマゾネスが通り過ぎ、その中に彼が居ないかと目で追ってしまう。もう三日も会っていない彼。毎日の習慣というのは、なかなか抜けないもので、自分でも彼と一日でも話せないのはモヤモヤとするようになってしまっていた。

 

(……何だかこれじゃあラプ君のこと大好き!って感じだなあ)

 

エイナ自身も自分の感情に上手く整理がついていなかった。ラプラスの事を手の掛かる弟のように見ることもあれば、自分が隣で支えてあげなければならないように思える時もある。本当に時々極稀にほんの少しかっこよく見えることもあるが……。

 

(ラプ君は周りに魅力的な女の人いっぱいいるからなあ……)

 

同じ【ファミリア】の人懐っこいアマゾネスや、行きつけのお店の物静かなエルフなど……。

 

「……ール……チュ……ル……」

 

(そもそもラプ君って私のことを……)

 

先日出かけた時は()()友達と言っていた。しかし、その後お酒の席で何か言われていたような気もする。

 

(……何だか頭が痛くなってきた……思い出さないほうがいいのかも……)

 

「おい、チュール」

 

そこでやっと気づいた。自分の目の前に彼が立っていたことに。結構前から声をかけられていて、自分は全くそれに気づいていなかったことに。ちょうど彼のことを考えていたからか、それともぼーっとしていた所を見られたからだろうか。兎に角エイナはその日、ギルド中に響き渡る大絶叫をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「……………うん」

 

顔から火が出るかと思った。いや、実際出ていたんじゃないかと錯覚するほど、エイナはそれはそれは恥ずかしかった。上司や同僚から、今日の所は上がっていいと言われて素直に頷き、従ったほどには。

 

「突然叫ばれたから驚いたぞ」

 

「まあ……それは……色々あったと言いますか……何というか……ごめんなさい!」

 

只今ギルドの応接間。ベルとの学習会や、折り合った話がある際は良く使うが、まさかエイナ自身の都合で使うことになるとは思わなかった。

 

対面して座る彼は先程淹れたばかりの紅茶を口にしている。視線の先にあるカップには仄かに湯気が立ち上っていた。再び彼に視線を戻すと、彼も此方を見ていた。

 

「ふむ、エイナも疲れていたんだろう?」

 

そして何か勘違いをしていた。確かに残業中で一日の疲れが溜まっていたのもある。しかし、あの絶叫はそんなことでは起こらないのだ。原因の九割は突然現れた彼にあるのだから。と、そこでエイナはジトッと彼を見ると、カップを持ち上げ口に近づけた。

 

「全然違うよ……この話はもうおしまいね。それよりもラプ君は何処に行ってたの?」

 

まだ少し熱い紅茶はエイナの心を落ち着かせるのに十分だった。そして、ずっと気になっていたことを聞かずにはいられなかった。

 

「いや、どこにも行ってはいないぞ。最近は忙しかったんだ」

 

「へえ、また変な薬とか作ってたんじゃないよね?」

 

少し怒気を孕んだ声で尋ねる。彼女はラプラス産のおくすりの間接的な被害者でもあったのだ。

 

「ち、違うぞ。それは少し反省してな。今は自粛している」

 

「ふ〜ん」

 

本当だからな、と念を押してくる彼を疑わしげに見ると、身振り手振りで大袈裟に自分の無実を証明しようと必死になっている。その姿に思わず笑ってしまった。

 

「むう、まだ疑っているのか……」

 

「あはは、自業自得でしょ」

 

二人の間に穏やかな空気が流れる。エイナは再び紅茶を口にしようと、カップを手に持った。

 

「ダンジョンに行くことになった」

 

カップを落としそうになった。震える手を抑えてゆっくりとテーブルに戻す。彼の目は本気だった。それでも……

 

「ラプ君、冗談でもそれは面白くないよ」

 

「悪いが、こんな所でも冗談を言えるほど器用ではない」

 

「ッ! どうして……? どうして急に……」

 

それでも、聞かないわけにはいかなかった。彼をまたあの場所に送るには、納得出来る答えが欲しかった。

 

「チュールには本当に悪いと思っている。だが、フィンは以前から考えていたそうだ……」

 

「私に、あんなお願いをしておいて……?」

 

「ああ、後日、フィンとロキとまた来る。今日は、これを言いに来たんだ」

 

「…………」

 

「団員の皆やリューにも承諾を得た。チュール、お前はどう思う?」

 

「どうして、私に聞いたの?」

 

ふむ、と間を置き、彼は答えた。

 

「チュールは俺の担当者だ。『二人三脚で頑張ろう』そう言ったのはチュールだろう」

 

エイナは何か言おうとするのだが、言葉が出なかった。複雑に絡み合った感情が心を搔き乱した。このまま安全な生活を送って欲しいという思い、約束を覚えてくれていたことに対する思い……

 

だが、何よりも彼が心配でたまらなかった。また自分の目が届かない場所へ行ってしまうのではないか、自分はまた彼を止めることができないのではないか、と。

 

「……ッ」

 

しかし、真っ直ぐ此方を見ている瞳の奥には光が宿っていた。

毎日都市中の冒険者を、見てきたエイナにはわかってしまう。

 

 

それは渇望の光だった。

 

 

冒険者なら誰しもが持っている、持ってしまう光。冒険者を冒険者足らしめる、頑なな意思を持つ光だ。

 

「…………はぁ」

 

過保護なエイナでも今回は折れるしかなかった。

 

「………『冒険者は冒険してはならない』」

 

「え?」

 

「……絶対に忘れないでね」

 

「……あぁ!もちろんだ」

 

迷宮都市を三日月が淡く照らしていた。笑うように弧を引くその月は一人のヒューマンの再発進を祝福をしているようだった。

 




日常を書きたくて始めたこの作品ですが、このままのペースで進めると、どうしても書きたい所まで行くのに相当な時間がかかってしまうので、展開を飛ばし飛ばしにするかもしれません。

私の文才がないのが全ての原因なんですが(汗

それでも待っててやるよ! みたいな物好きな方は是非次回もお楽しみ頂けると幸いです。

感想・評価・批評等お待ちしております

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