ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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約一ヶ月ぶりの投稿にも関わらず、普段よりも少ない文量……

本当にすいません!こんな作者ですが、どうか暖かい目で見守ってやってくださいm(_ _)m

それではご覧ください



彼と彼女の主従関係

「今戻ったニャー」

 

 『豊穣の女主人』店員の猫人(キャットピープル)であるアーニャは買い出しから戻って来て店に入った瞬間、その顔を歪めた。

 

「頼む、おれと付き合ってくれないか!」

 

 『豊穣の女主人』の店内。従業員やミアが見守る中、腰をしっかり曲げ、お手本の様な礼をするラプラス。彼の手は目の前の女性に向けられており、緊張からか少し震えている様にも見えた。

 

「絶対に嫌です」

 

 対する女性はその空色の瞳を鋭くし、冷えた声音で取りつく島もなく断った。

 彼女達の関係を知るものが見たら信じられないが、此れは事実だ。

 

 

 

 ラプラスが振られ、リューが振った。

 

 

 

「何なんだニャ……」

 

 心底どうでも良さそうにアーニャは固唾を飲んで成り行きを見守るシル達の元へと向かって行った。そして、おかしな言い掛かりを付けられぬよう、自然に野次馬の一人と化す。

 一方、覆しようのない結果にラプラスは両膝を地面に着き、項垂れていた。しかしまだ諦めていない様で、四つん這いの状態で顔だけをリューの方へ向けて懇願した。

 

「何故……何故だ……ダメなところがあるなら言ってくれ!頼む、どうしてもなんだ!」

 

 必死にリューに弁明するラプラス。しかし、リューはピクリとも動かずに情けない姿のラプラスを見つめていた。そして一瞬宙に目を泳がせると、クスッと笑う様に口許を少し緩め、ラプラスを見下ろして言葉を放った。

 

「……そうですね……ダメな所を上げろと仰るのなら、はっきりと言いますが……全て、でしょうか?」

 

 彼らの周りを避ける様にせっせと働くウェイトレス達。しかし、耳は二人の会話をバッチリ捉えており、隙を見ては盗み見をしていた。更に、店主のミアですら我観せずの立ち位置に陣取っており、二人の姿を見て呆れた様に溜息を吐いている。

 

「ぐふぅッ!そ、そうか……全て、ダメなのか……」

 

 その言葉だけでなく、今の自分の姿と彼女の態度という三重のダメージを負ったラプラスは左手を胸に当て悶えるが、再び顔を上げ、少しだけ近づいて頭を下げた。

 

「だが、まだ諦めきれない!どうか、どうか……お願いします!」

 

 最近使用頻度の増えた極東の奥義『ドゲザ』を発動するラプラス。

 

『これを使えば大抵のことは何とかなる!』

 

 見惚れる様な笑顔(サムズアップ付き)でこのワザを伝授してくれた尊敬する男神の顔を思い浮かべ、ラプラスは内心交渉の成功を予感していた。だが……

 

「一体何ですか、それは?貴方は本当に頼む気があるのですか?」

 

 一切の表情を捨てた凍てついた視線を送るリュー。彼らの伝家の宝刀は、知らない者にとっては鈍以下のものだったのだ。

 

「なん……だと……」

 

 心の中の男神と言葉が一致してしまう。ラプラスの心の中はどうしてこの作戦が上手くいかなかったのか理解できず動揺するとともに、これが効かないのなら一体どうすればいいのか、という焦りに満ちていた。

 

「貴方の想いはその程度なのですか?はぁ……もっと気合を入れなさい。さあ、続きを言うのです」

 

 何時も振り回されている彼を自分が振り回している様な新しい感覚。下から媚びる様に自分を見上げる彼を見下ろし、命令をするこの状況にリューは完全に酔っていた。新たな世界への扉を破壊する勢いで開け放ち、その先へ飛び立った気がしないでもない彼女は頬を少し紅潮させ、瞳は嗜虐の輝きを放ちながら息を荒くしているのだった。

 

 

 

 しかし、そんな彼女はすっかり忘れていたのだ。此処が『豊穣の女主人』店内で、周りには店員が居り、彼女らの会話を全て聞いていたという事を。

 

「ちょっ!?アレは不味いって!完全にアフターファイブだよ!?」

 

「いきなりルノアは何言ってんだニャ。今はまだお昼前ニャ」

 

 買い出しから帰って来てみると、カオスな空間が広がっており、困惑しつつもルノアの言葉が理解できなかったアーニャだったが、あの二人の周りの妖しく、見ているとこっちがムズムズするような空気におかしな感覚がするのだった。

 

「はぁ……懐かしいニャァ……あの男を屈服させる感じ……」

「クロエ?凄く生き生きしてるけど……なんか怖いよ」

 

 恍惚とした表情で彼らのやりとりを見ているクロエに苦笑いするシル。しかし、彼女は端から見たら色々と酷い二人のやりとりを見ていると感慨深いものが浮かんで来るのだった。

 

「それにしても、あの二人があんなに仲良くなるなんてね……ラプラスさんは凄いよ」

「そういえばそうかもニャ。あの堅物リューをあそこまで近づけるとは、アイツもなかなかやるニャ」

 

 彼女らが思い出すのはリューが店に来た当初の事だった。その頃から彼に対する好感度は高かったのだが、明確に好意を示す程ではなく、一般の男性よりも幾らかマシ、ぐらいのものだったのだ。

 

「どうすれば良いのですか!?『ドゲザ』は伝家の宝刀なのですよ!?」

「その気持ち悪い敬語を止めなさい。もっと誠意を見せたらどうなのですか?ふふふ……」

 

 そうしている間に彼らのやりとりは更に進化していた。ラプラスは更にリューに近づき、姿勢と態度を低くしており、それに対する彼女は口許を緩め、艶然と微笑んでいた。どうやらリューだけではなく、ラプラスも空気に飲まれているようだった。

 

「リューには才能があるかもニャ……今度色々と教えてやるニャ♪」

「確かにシルの言う通り、リューは来た頃って何だか陰があった感じだったよね……」

 

 クロエの事を完全に無視し、ルノアも首肯する。当時、リューがこの店で働き始めたと知ったラプラスは毎日のように通い詰め、彼女と会話をしていたのだった。元々親交があっただけではなく、()()()()もあり、彼に対して後ろめたさもあったリューは彼を見て見ぬフリをする事も出来ず、渋々といった様子で対応していた。その頃から酒が弱いのは変わらず、飲んでいるうちに酔い潰れてしまう彼をリューが送り届ける事は多々あった。お酒が弱いのに態々やって来る不器用な彼に、硬さのあったリューも段々と態度を軟化させていった。そして、彼女が周りと溶け込めていくにつれて彼は段々と来る頻度が低くなっていったのだった。

 それでも彼がふらりと訪れ、来店した時には一緒に二人だけで呑む、というのは変わらない習慣となっていた。酒が入ると普段の理屈っぽい感じを何処かへ放り投げてしまう彼。それを隣で見ているリューは、同僚達に向ける笑顔とはまた違う笑みを何時も浮かべているのだった。

 

「ありがとうございます!リュー様!」

「ふふふ……全く、貴方はイケナイ人だ。私にこんな事をされて悦びを感じるとは……」

 

 そんな心揺さぶられる話の張本人の彼らは、先程の話が捏造なのではないかと疑ってしまう程、目も当てられない有り様だった。四つん這いのラプラスの上で足を組み、腰掛けるリュー。ラプラスは頬を赤く染め、彼らしからぬ大声をあげた。そんな彼に乗っているリューは耳まで真っ赤に染まり、しかし何よりも充足感を得たような満足した表情をしているのだった。

 最早誰も止められる者などいなかった。この混沌とした空間はいつまで続くのか、と店員達が戦慄いた時だった。

 

 

「あんた達いい加減にしな!それ以上したいんなら、イシュタルのところにでも行くんだね!」

 

 

 ガン!ガン!と大きな音が店内に響いた。

 

「全く……ウチはそんな事をするような店じゃないんだよ!小娘共もとっとと止めないか!」

 

 流石に見兼ねたミアが止めに入った。その太い腕で殴られたラプラスとリューは仲良く頭から煙を出して倒れていた。ミアがギロリと立ち竦んでいた従業員達を睨むと、彼女達は溜まったものではないと必死に弁解するのだった。

 

「ちょっ!?母ちゃん!そりゃニャいニャ!あんニャの止めようがニャいニャ!」

「そうニャ!あんなに楽しそ……んんっ!楽しそうにしているアイツラに申し訳ニャいニャ!」

「言い直せてないよ……クロエ……」

 

 ギャーギャーと抗議する店員達を無視してミアは厨房の奥へと去ってしまった。残されたのは羞恥で顔を真っ赤にして俯いて床に座り込んだエルフ。彼女は顔を両手で覆っていた。そして、四つん這いからうつ伏せに床に寝ているヒューマン。彼は未だに頭部へのダメージから立ち直っていなかった。

 何とも言えない微妙な空気が店内に漂っていた。

 『何か声かけてよ』『ミャーが行くのかニャ!?』と四人は小声で相談を始める。誰がこの空気を打破する生贄となるのか話し合っていると、突然スッと赤面のエルフが立ち上がった。

 

「………」

 

 何も言わずに立ち尽くし、俯いているリューの耳は変わらず赤かったが、黒いオーラを撒き散らし、何やら不穏な空気が流れているのだった。

 

「あ、あの〜リュー?」

「何ですかシル?」

「あ、いえ、何でもないです」

 

 シルが心してリューに話しかけたが、一瞬で涙目にされてしまった。

 

「シルーーー!!」

「よくやった!おミャーはよくやったニャ!」

「今はゆっくり休むといいニャ……」

 

 三人がシルを労わる中、リューはポツリと一言呟いた。

 

「やってしまった……」

「ああ、確かにやり過ぎたな。マダムに怒られてしまった」

「え?」

 

 絶賛反省中のリューの横には先程まで倒れていたラプラスがいつの間にか立っていた。やれやれ、といった様子で呆れた顔をする彼は、少し前の醜態など全く気にした様子がなかった。

 

「え?あの、ラプラスさん……貴方は先程の事を……」

「さっき?はて、ナンノコトヤラ」

 

 訂正。ばっちり気にしていた。思いっきり目を逸らし、その顔は羞恥の色に染まっていた。

 

「何もなかっただろう?そうだよな?」

 

 ラプラスはリューの肩に手を置くと、彼女の目を正面から見据え、訴えるような目で念を押すように言った。リューも何かを悟り、微笑を讃える。

 

「ふふっ、そうですよね。何もありませんよね」

「ああ、全くだ。何を言っているんだ、リューは」

「うふふふふ」

「あはははは」

 

 

 

「こえーニャ。あいつら普段は滅多に笑わないから余計こえーニャ」

「絵は良いのに……絵は……」

「さ、仕事仕事」

「ん、つーかニャんかおミャーら忘れてニャいか?」

 

 と、そこでアーニャがある事実に気づく。

 

 

 

「ニャんであの男は振られてんのニャ?」

 

 

 

 素朴な疑問に他の三人は首を傾げ、不思議そうな顔をする。

 

「いや、ニャんでおミャーらがそんな顔するんだニャ。だっておかしいニャ。リューからしたらあいつが告白してるんだから喜んでオッケーしそうニャのに……」

 

 そこで三人はやっと合点がいったように口を開いた。

 

「ああ、そういうこと……」

「そりゃ、リューは別に嬉しくニャいニャ」

「だって、あれは()()()()()()()()()()()()()付き合ってってことだからね」

 

 ああ、なるほどと納得がいったアーニャ。彼女はふと遠い目をしたかと思うと、ふぅ、と溜息を吐いた。そして……

 

 

 

「紛らわしいことしてんじゃねーニャアアアアアァァァァ!!」

「うるさいよ!アーニャ!」

「ごめんなさいニャ!」

 

 

 

 説得の末、ラプラスはリューとダンジョンに行けるようになった。




ダンまちのアプリの事前登録が始まりましたね……

急いで登録せにゃ!皆さんも勿論しますよね?ね?

因みに作者はまだしてません(殴
絶対にするから許して……

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