「……」
「…………」
「……………………」
「…………………………………………」
「……おいこら伊吹」
お前、いったい何を企んでいやがる。
「………………」
答えるつもりは無い、と。
それが、お前の応えか。
「……………………………………」
上等である。
この私にまで、祭りの舞台に立てと誘うなら、乗ってやる。
ただし、だ。
「私が関わる以上、全て台無しになる覚悟をしろよ?」
「…………………………ああ」
まったく、上等だ。
久方振りの、馬鹿騒ぎだ。
この寒い中、雛は厄神様のお勤め。
長い冬のせいで、日に日に備蓄が減る人里には、厄ばかりが溜まるらしい。
ちゃんと休めているのだろうか。心配だ。
人里が厄で満ちようと、雛の体調の方が遥かに大切だろうに。
人間に対する同情や共感? 無くも無いな。僅かばかり。
「……最近の貴女、本当に考えていることが顔に出やすくなったわね」
「昔はどうだったんだ?」
「基本的に、お酒のことしか考えていない顔でしたわ」
なんだ、今と大して変わらんな。雛と酒のことしか考えていない。
「で? 何しに来た。
お前が『春に納品する』よう注文した分なら、まだ冬だから渡さんと狐に伝えたはずだ」
「あまり藍をイジメないでくださいます?
というか、全て分かった上で言っているわよね、貴女」
なんのことやら。
多少冬が長引くくらい、よくあることだ。氷河期よりは暖かいな。
まあ冗談だが。
「そろそろ、博麗の巫女達が動く頃合いだろう。
何のために春なんぞ集めさせたのかは知らんが、さっさと戻れ黒幕」
そして異変解決されて冬を終わらせろ。
「……やはり、協力するつもりは無いかしら?」
「興味も理由もやる気も無い」
「一刀両断どころか、乱切りね」
騒動には関わらない。可能な限り回避する。
必要性も無しに私が揉め事へ首を突っ込むなど、害悪でしか無いと知っている。
私の身一つで済む話であれば、好奇心が勝ることもあるが。
少なくとも、博麗の巫女など『人間』が解決する『異変』は、私という厄種が混じるには万が一の代償が大き過ぎる。
「ではまた、いずれ、ね」
その「いずれ」というのは、この異変が終わった後を指すのか、私がいつか他の異変に関与する時を指すのか。
問い返す暇を与えず、紫はスキマの中に潜った。
……本当に、何しに来た、あいつ。
風が冷たいと思いつつ、いつも通りに酒を造っていたら、異変は解決した。
春告精が飛び回り、雪が溶けて、遅咲きの桜が花開く。
幻想郷に、ようやく春が来た。
博麗の巫女や、前回も居た魔法使いだけでなく、紅魔館の従者、十六夜も異変に参戦したらしい。
おそらくスカーレット嬢が、自分の陣営も1枚噛んでおこう、とか考えたのだろう。
あのお嬢様に従うのは大変そうだ。
十六夜とは、たまに紅魔館に行った時に、雑談かワイン談義をするくらいの関わりだが、何か労いの品でも用意しようか。
雰囲気はお堅いが、意外と甘い酒とか好きそうな気がする。
そして、前回に続いて、異変後の宴会。
今回の異変関係者に加えて、紅魔館の者を始めとする、多くの参加者が集まった。
言うまでも無く、数が増えれば、酒も増える。
前の宴会よりも更に大量の酒を運ぶことになった。狐が。あと、その式の橙という化け猫。
この橙については、特に私に噛み付くことは無いので、大して気にならない。
狐に何か吹き込まれたらしく、警戒は向けてくるが、可愛いものだ。
それはそれとして、追加発注分の用意ができた、持っていけ。
追加発注に応じること数回。
宴会が終わらない。
正確に言えば、数日後には花見の宴会、その後にまた花見の宴会と、別の宴会が始まる。
私と雛も、遅めの花見はした。
秋の姉妹神達は、あと数ヶ月は活動しないため、天狗や河童くらいしか呼べる相手が居ないが。
階級が低い天狗は、私の視界に入ろうともしない。
幹部連中も、天魔以外はビクビクして花見どころじゃない。
それでも『鬼の酒』もとい私の酒を飲みに来る辺り、こいつらも筋金入りの酒好きだ。
酒への思い入れは非常に理解できるので、私としては語らいたいのだが。
鬼だろうと真っ正面から向き合う天魔くらいだな。私との飲み比べに応じるのは。
河童については、私が考案したビール工場に関する会議が始まる。
だが、どうにも河童という種族は、大規模な工事には向かない。
各自が自由に開発するのは、驚くほど得意なのだが。
好き勝手に改造しようするため、まさしく船頭多くして、という奴である。
連中なら、山に登る船くらい勢いで造るだろう。意味も無く。
だがそれでも、河童の技術力は魅力的だ。
河童ビール大量生産を実現するため、私達は今日も議論を続ける。
この幻想郷にビールの大流行をもたらすまで、私の挑戦は続く。
たまには他者が造った酒も良いものだ。
雛も、天狗よりは河童と談笑していることが多い。
というか、天狗達は、雛の不興を買ったら私に殺される、と考えている節がある。
間違ってはいないがな。
だが、雛は早々怒る娘では無いし、もう少し気安く接して良いと思うのだが。
まあしかし、連中からすれば、関わりが浅くどこに逆鱗があるか分からん相手とは、話しづらいか。
仕方の無いこと、なのだろうかね。
他に、紅魔館で催されたパーティーにも呼んでもらえた。ワインが美味い。
ついでに、私がしばしば訪ね厄に慣れている彼女達に、雛の紹介もしておく。
人間が、強大な能力を持ち『人間』扱いするべきか微妙な十六夜だけなので、雛が今後関与することは少ないだろうが。
何にせよ、雛の可愛さを知る者が限られているなど、世の損失だ。友達を増やそう。
冗談半分は別にして、紅魔館という幻想郷でも有力な陣営と顔を繋いでおくのは悪くない。
珍しい存在として、図書館の魔法使いに出自など色々聞かれていた。
あの魔法使い、私には全く近付いて来ないのだが。
それだけ雛が話し掛けやすい、ということだな、うむ。
なお、フランはパーティーの間ずっと、暴れないよう我慢し続けることに成功した。
成長したものだ。以前なら数分ももたなかっただろうに。
だがしかしスカーレット嬢よ。
ご褒美として、私が好きなだけ遊んでくれる、というのは何だ。
自分でやれ。私は戦闘なんて御免なんだ。
フランからキラキラした目で見られて、断りきれなかったが。
相手をしたが。死ぬほど疲れたが。
何故に、私へ向けて放たれる弾幕は、殺傷力に溢れているのか、切実に訴えたい。
横で見学していたメイリンも、私なら大丈夫って、なんだその信用。
初対面時の印象か? 私はあの時、そんなにも怖かったのか。
そろそろ限界。頼むから、助けてくれ。死ねる。
油断した瞬間に手のひらを握ろうとするな。即死するわ。
五百にもならん若者の体力を基準に、遊び続けようとするな。
年寄りに徹夜遊びは堪えるのだ。休憩させろ休憩。
体はまだしも、気力がもたん。力尽きるわ。枯れるわ。
ついでに、十六夜は、やはり甘い酒もいける口だった。
若干口許が緩んだのを、確かに見たぞ、私は。
よし、今度また、好みに合いそうな酒を用意してやろう。
混合酒についても、紫から外の世界のカクテルレシピとやらを貰ったので、色々作れる。
女性に好まれると紹介されていた奴も試してみよう。
意外な相手の意外な好物発見など、何年生きても楽しめるものだ。
あと、花が増えて気分が盛り上がったのか知らないが、風見が山まで乗り込んできた。
なぎ倒される天狗達。
私を探して暴れる風見。
普段はできるだけ私に関わろうとしない射命丸が、伝令とはいえ私の家へ直接来るなど、どんだけ非常事態だ。
足が速いからと、上司から拒否権無しの命令で派遣されるお前も、災難だよな射命丸。
震えながら土下座せずとも、私が原因の一端なら出向くから。
そんな、逃げたいけど上から直々に急げって言われた逃げたい逃げたい、という顔をするなよ。
その表情を見た雛から不快げな目を向けられ、ひきつった悲鳴をあげる様子は、最早喜劇的だな。
今度、新聞取ってやろうかな、と、少しだけ思った。思っただけだが。
妖怪の山上空で風見と砲撃し合っていたら、止めに来たはずの狐も加わり、三つ巴の乱戦になった。
紫の涙目なんて、何百年か振りに見た。正直すまんかった。
そして、遅咲きの桜が散っても、宴会は終わらない。
今日も今日とて、何処かで酒が注がれる。
それなり以上の力を持つ者は、とうに気付いているだろう。
辺りに漂う、妖気と霧と存在感。
久し振りだが、間違えようの無い気配。
何よりも不可解なことは、こいつ、この私まで萃めようとしてやがる。
お前、何を企んでいる、伊吹。
紫「私の誘いは断ったのに! 萃香のには乗るのね! なんでよ!?」
なんか、うちの紫さん面倒臭いですね
なお、妖怪の山における雛の扱いは、黒兎が溺愛する娘であり厄神様、です
紅魔郷に続いて妖々夢もスルーした兎が、萃夢想でとうとう捕まりました
一応とはいえ、主人公がいつまでもダラダラできると思うなよ <●><●>
さらっと流した各宴会や兎花狐戦争については、風神録まで書いてから、各キャラ視点でちまちま書こうかな、と
にとりメインのプ□ジェクトX『河童ビールに捧げた情熱』とか
展開を早めるために、秋もカット
秋姉妹、好きなんですけどね
静葉様の蹴り足も、穣子様の裸足も
勿論、足だけでなく、慎ましい切なくなる寂しさの象徴も、たわわな豊かさと稔りの象徴も
本編無関係な欲望垂れ流しですが、私は元気です