トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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大体、黒兎のせい(真顔




トウホウ・キンギツネ

 

 因幡コクトとの出会いは、八雲藍が『八雲』と成る以前だ。

 一匹の妖狐として生きていた頃。

 大陸において、一大勢力の長として、他の妖怪や神々との戦争に興じていた頃。

 

 アレは、ふらりとやってきて、そして、全てをぶち壊して通り過ぎた。

 

 

 通り過ぎた。

 唯、通り過ぎた。

 

 王である己を。

 最強の妖獣である己を。

 何者をも引き裂き弄び蹂躙してきた己を。

 

 一瞥すらせずに、通り過ぎて行った。

 

 何をしても上手く行かず、同士討ちと自滅の混沌と化した戦場を横目に。

 

 

ーー騒がしいなーー

 

 

 溜め息一つ残し、過ぎ去ったのだ。

 

 

 

 

 厄の台風。

 

 厄災の黒兎。

 

 

 その異名に相応しく、まさしく災害の様に。

 

 不運と不吉と不幸を撒き散らして、通過した。

 

 

 

 

 

 あの時のことを、今も八雲藍は、繰り返し思い出す。

 考えようとしなくても、脳裏を過る。

 

 

 

 

 気に入らない。

 気に入らない。

 あれほどの力を持ちながら、日々を無為に過ごす在り方が、気に入らない。

 宝を持ち腐れにし、酒にばかりかまけ、平穏などというぬるま湯に浸る、妖怪らしからぬ生き方が、気に入らない。

 日和った老いぼれ兎を、主たる紫様が友として遇していることが、気に入らない。

 主がアレに執着して、時には、極僅かと言えども隙すら見せることが、気に入らない。

 己の矜持に泥を擦り付け過ぎ去ったなど、全く覚えていないだろうことが、気に入らない。

 

 何よりも、あの日、『不運』に対して為す術が無く、唯々「早く過ぎ去ってくれ」と祈った己こそが、許せない。

 

 驕った若き日の苦い思い出、などと流しはしない。

 あの屈辱を、八雲藍は忘れない。

 

 

 

 

 

 八雲藍と因幡コクトの出会いは古い。

 

 八雲藍に対して因幡コクトは、何故か突っ掛かってくる、としか思っていない。道端に転がっていたことなど覚えていない。

 

 だからこそ、両者の和解は、有り得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……またお前か、狐。酒の受け取りならチェンとやらを寄越せ。お前よりマシだ」

「何故、私がお前に気を遣わねばならん。

 お前の様な輩と橙を関わらせるなど、紫様からのご命令が無い限り、有り得ん」

 一瞬だけ交差する視線。しかし、同時に逸らす。

 どちらかが意地になっては、延々睨み合い、スペルカードルールに辛うじて収まる勝負に発展しかねない。

 要するに、人間はおろか、中堅程度の妖怪すらも、当たれば蒸発する弾幕の応酬だ。以前、風見幽香を交えて、妖怪の山を消滅させかけた時の様な。

 無論、自己の感情で主の手を煩わせるという愚行を、ここで繰り返すつもりは無い。

 あちらもまた、自ら仕掛けるつもりは無いだろう。

 平和主義などでは無く、面倒臭い、という理由のみにより。

「お前と会話するのも面倒臭い。さっさと品を持って帰れ。

 対価は、紫から後日直接受け取ることにする」

「……お前……また紫様のお手を……!」

「放っておいても勝手に来るのだから、ついでに用件を済ませても、問題ないだろうが。

 お前の意見なんぞ聞いてない。文句があるなら紫から聞く。さっさと帰れ」

 酒瓶を詰めた箱をこちらに滑らせ、再度呟く、面倒臭い、という言葉。

 

 苛立つ。

 こいつのこれは、私を苛立たせようと意図したものでは無く、『気を遣おうと考えていない』が故の態度。

 それは理解している。

 意図したものであろうとなかろうと、それに噛み付き激昂することが、己と主の品格を下げるとも、理解している。

 だがそれでも、そうだとしても、堪らなく、苛立つ。

 

 

 

 殺せるだろうか、と考える。

 

 今の己ならば、嘗て苦汁を舐めた時よりも遥かに強い。

 

 主から『殺せ』と命令されない限りは、『八雲の式』としての全力は発揮できないが、逆に言えば、『殺すな』とも禁じられていない。

 

 ならば、可能性は有るのでは無いか。

 異界に封じて仕留めれば、幻想郷に被害を出すことも無い。

 独断の咎で、主に処刑されるかもしれないが、この妖怪兎をのさばらせておくくらいなら、その方がーー

 

「試すか?」

「何?」

「危機察知が反応した。僅かばかりの『可能性』はあるということだ。

 だから、ここで、試してみるか? 狐よ」

 

 表情は珍しい笑み。

 微かに口角を上げた、挑発的な笑顔。

 

 

 

 これだから。

 

 これだからこいつは嫌いなのだ。

 

 戦闘嫌いを自称しながら、その実、理由さえあれば内心は嬉々として臨むのだろう。

 意味の無い殺しはしないなどと謳いながら、必要なら躊躇わず殺すのだろう。

 通り過ぎただけで死に逝く有象無象など、気にも留めずに歩み去ってしまうのだろう。

 

 ならば何故、常日頃からそう在り続けないのだ。

 

 

 あの日、あの時、あの場所で、私達の戦場を蹂躙した『貴女』のままで、居てくれないのだ。

 

 

 

 

 

 ああ、分かっている。

 

 

 

 

 分かっている。『こいつ』はもう、違う。

 

 

「……なんだ。やらないのか」

「無意味だ」

 

 私がいくら苛立ったところで、届きはしない。

 

「だったらさっさと帰れ。用は済んだだろう」

「当然だ。お前などに、用は無い」

 

 私が何を思おうと、何も変わりはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました、紫様」

「お帰りなさい、藍。早速だけど、一瓶空けましょうか」

「はい。かしこまりました」

 持ち帰った荷物から酒瓶を取り出し、既に杯を手に待ち構えている紫様の元へ。

 注いだ酒を、まずは香りを楽しみ、ゆっくりと一口。

 艶やかな唇から、感嘆の吐息が漏れる。

「また腕を上げたわねぇ。私が外の世界から持ち込んだ技術まで吸収しちゃって。

 人類の研鑽の成果をあっさりと奪うなんて、酷い話。

 そう思わない?」

「人間であれ何であれ、それが紫様の為と成るのであれば、よろしいかと」

 あらまあ、と笑いつつ、もう一口味わい、満足そうな表情。

「貴女は、何だか不満そうね?」

 杯に向けていた眼差しを私へ移し、また笑う。

「紫様を満足させうる酒が、因幡コクトの物のみである点については、世の者らに不満はございます」

 くすくすと、主は笑う。笑う。笑う。

「品質だけを見ても、彼女の酒が最上だもの。それにーー」

 

ーー彼女自身への思い入れを加味すれば、一層ね。

 

 

 長年仕えている主だ。

 言葉にしない部分も読み取れる。

 

 そして、それが私の因幡コクトに対する隔意を踏まえた、からかいであることも。

 

 

 この御方は、私が因幡コクトに挑むことを望んでおられるのだろうか。

 その為に、こうしてことあるごとに煽る様な態度を取られるのだろうか。

 或いは、私が悩むことを見越した上で、暴発しない様に釘を刺されているのだろうか。

 

 分からない。

 

 私ごときでは、未だ紫様の深謀遠慮を全て理解することなど、出来はしない。

 

 

 

 

「ねえ藍。コクトは、何も変わってなんていないわよ」

 

 考えが纏まらぬ内に、更に深く私の内心を読み取った言葉。

 この御方の前では、私の心理を掌握する程度、書いてある文を読み上げるのに等しい。

 脳を開き、さらけ出す様に、紫様は言葉を続ける。

 

「理由があれば戦うし、必要なら殺す。

 時代によって『理由』と『必要か』の判断は変わっても、そこは変わらない。

 荒んでいた頃みたいに、視界に入った知り合い以外が死の遠因に関与したから、なんて殺しはしなくなっても、同じことよ」

 

 だって、と一拍空け、もう一口、酒を飲む。

 

「姉や娘を慈しんで、想って、愛して、それでも。

 友と交流し笑っていても、いつだって。

 彼女はずっと、変わること無く、この世全てを憎んでいる。

 今も昔も、きっとこの先も変わること無く、憎んで憎んで憎み続ける。

 全てを壊したくて、愛する者も壊してしまいたくて、でも壊したくなくて」

 

 私に対してそうした様に、ここに居ない因幡コクトの心もまた、切り開きさらけ出す。

 

「必死に我慢して、生き続けて、あらゆる死の可能性に殺され続けて、我慢して」

 

 愛しげに、愉しげに、鑑賞する様に告げて、酒を、もう一口。

 

「本当に、健気で可愛らしいこと」

 

 これまで数えるほどしか見たことが無い、どろりとした粘性を帯びた笑み。

 執着心を露にしたそれは、杯に残った酒を飲み干すと共に、普段通りの微笑に覆い隠された。

 

 

 

 

「……私は、紫様ほど、奴を理解することはできません」

 

 漸く絞り出せた言葉は、そんな愚にもつかぬもの。

 今更な話だ。私がこの御方に並び立つなど、不可能なのだから。

 

「唯、殺せ、と命じられたなら、殺します。

 手に入れろ、と命じられたなら、如何なる手段を用いても、必ずや御前に」

 

 故に、私が宣言できるのは、こんなものだ。

 

「そうね。その時が来たら、よろしくお願いね、藍」

「御意」

 

 私には因幡コクトが分からない。

 奴が何を考えているのかなど、理解したいとは思わない。

 私が「変わった」と思う奴のことを、紫様は「変わっていない」と仰る。

 それが何故かも、私には理解が及ばない。

 

 

 だから、主が奴に対して何らかを為せと命令を下されたなら。

 一切の私情を持たず、完遂しよう。

 

 

 

 

 

 

「その時が来るまで、もう少し悩むのも面白いかもしれないわよ、藍」

 

 再び、くすくすと笑う主の杯に、次の酒を注ぐ。

 

 




Q. なんでわざわざ戦場横断した
A. 死なせたくない知己も、私を殺せる要因も居ないのだから、わざわざ進路変更する理由が無い



【黒兎の超ざっくり年表っぽい雑記】

百数十万年前:誕生(第兎話)

 姉が因幡の素兎と判明(第兎話)

生後約千歳:姉が名と明神の号を授かったことを契機に、放浪開始(第蛙話)

 神やら妖怪やらに(大体ゆかりんのせいで)散々絡まれまくって荒む

824710年前:孤独感が(大体ゆかりんのせいで)ピークに達したところを(ゆかりんに)優しくされて(ゆかりんに)すがって泣く(シゴクイロ)

十数万か数十万年前:大陸へ渡る

 列島を中心に、妖怪と神々の大戦が勃発し、神の造った『人間』が絶滅
 ↑をガン無視し世界各地やら魔界やらを放浪

十数万年前:月の尖兵に何百年も何万回も追い回され、五十余柱を虐殺(第月話)

 大陸にて妖怪や神々による縄張り争いを一般通過黒兎(キンギツネ)

約二万年前:列島へ戻り、諏訪の国に一、二万年居候(第蛙話)

二、三千年前:諏訪の国を出て山奥に数百年引きこもり、能力の制御を修得(第鬼話)

 鬼と喧嘩三昧の宴会三昧(第鬼話・第幻話)

千年以上前:幻想郷の成立に関与(第幻話・第厄話)

 幻想郷の領域内に厄を循環させることで、『異界』としての認識を強め、大結界の下地を(良く分からずに)創る(第厄話)

 鬼が地上を去り、天狗と会合(クロカラス 上)

 自我を得たばかりの秋姉妹を発見し、暇だったので飯食わせたら懐かれた

 吸血鬼異変(第厄話・クロカラス 中・アカアクマ)

 雛様養子入り(第厄話・クロカラス 中)

紅霧異変直前:百足君死亡(クロカラス 幕間)

原作開始:紅霧異変(第霧話)










感想返しにて、マザコンシスコン悪神娘の出番を、次々回かその次辺り、と書きましたが


設定だけが先走りました


そして設定だけのクセに湧いて湧いて文字数増える orz



言うまでも無いかもですが、「主人公以外のオリキャラ増やすとか二次創作として恥ずかしくないの?」という方は、ちゃちゃっと一番下までスクロールしちゃってください m(__)m

だが! 本編への侵攻だけは絶対阻止するぞ諏訪娘ぉっっ!!! いやマジで(真顔






【とぉほぉ・くりょぅしゃぎ:設定編】


舞台設定

 悪神化した因幡コクトの神霊の座
 型月世界にまで繋がっている、ということは、あらゆる世界線が混在してもおかしくない
 因幡コクトの子供が勢揃いしていても問題無い
 要するに何でもありのゆるゆる時空
 本編とは無関係ですよ←念押し




黒兎一家


母:因幡コクト
 悪神仲間であるアンラマンユに分霊を貸し、復讐者になったり狂化したり
 本体の方も、酒を造って呑んで子供達とダラダラする日々
 幸せ←相変わらず貞操の危機は察知不可

長女:諏訪子娘
 もしも同棲中に黒兎が洩矢神と一夜の過ちシたら、の可能性世界で誕生
 外見は、美少女に成長した黒兎、乳尻太ももくびれ完備バージョン
 蓬莱山輝夜に匹敵する神話級の美貌(ただし性格は腐れ外道)
 神霊として自分も座があるクセに、御母様のところに入り浸っている
 極度のマザコンであり、母と同じくらいに雛を愛するシスコン姉でもある
 祟りを司る程度の能力を持つ、和製アンリマユ(真)な悪神EX
 御母様食べたい(性的な意味で
 雛も食べたい(性的な意味で
 まごうことなきケロちゃんの子(性欲的な意味で
 祟り神の王たる洩矢神様を差し置き『祟りを司る』と自評する部分から、彼女の歪みを読み取ってもらえると、それはとっても嬉しいなって
 ぶっちゃけ機会さえあれば洩矢神も食べたい(凌辱的な意味で

次女以降
 各相手と黒兎が結ばれた世界線の子供達
 長女に比べれば(重要)、みんなまとも
 作者が各ルート番外編でも書かない限りは描写されない
 されない……はず……(不安

養女:鍵山雛
 本作メインヒロイン
 誰が何と言おうがメインヒロインは雛様
 厄神様可愛いよ厄神様
 雛様を愛でる為に本作は生まれた
 厄神様は、神よりも妖怪に近い存在のはずなのだが、日常回を雛様抜きとかヤダヤダヤダヤダ(駄々っ子
 なお、黒兎と結ばれた世界線の記憶もある

長男(?):アンリマユ
 第四次聖杯戦争にバーサーカーで喚ばれた黒兎、狂兎が、穢れた大聖杯を飲み干し孕み、座に連れ帰った
 とある集落において、「この世全ての悪」であれ、と願われ、誰でも無くなった最弱の反英霊
 で、あったが、大聖杯と狂兎の魔力を受け、本物の悪神に昇格
 普段は影で覆われた少年の姿だが、黒聖杯アイリスフィールのアルビノ美女形態にもなれる
 息子?
 一家で一番苦労性な疑いあり(姉達がマザコンシスコン過ぎるせい)
 愛称はマユたん

末っ子:雛娘
 ロリ枠
 厄を創造する程度の能力を生まれ持つ厄の申し子
 黒兎の娘であり義孫であり、雛様の娘であり義妹である
 健全で純粋無垢な幼女という本作における絶滅危惧種
 守護(まも)らねば(使命感



一家以外(出番は無し)


旦那候補:複数
 雛様以外、悪神EXガードでシャットアウト
 セ□ムしてますよ(全力
 黒兎の方から遊びに行く場合は、各娘が護衛に付いて行く

伯母:因幡てゐ
 白兎明神の座に居るはずだが、生き飽きて寝ている
 妹が酒を持って来た時のみ起きる

ご近所さん:秋姉妹
 稲田姫の座から時々遊びに来る
 紅葉神はどこぞの現人神な風祝の嫁

不干渉:高天原の神々
 誰があんな穢れの巣窟に近付くかぁっ!?!?

被害担当:八坂神奈子
 とある悪神EXが「ターケーさん♪ あっそびっましょ♪」と現れる度にトラウマが抉られる
 魔王が来る! 魔王が来るよ! 助けてくれ化物だ! 嫌だ! 嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない!
 そしてその様子を鑑賞し御満悦愉悦な腐れ外道
 作者はそろそろ、神奈子様信徒に殺されるかもしれない



【黒兎との子供の能力】

鍵山雛娘
 厄を創造する程度の能力:厄のサラブレッド

洩矢諏訪子娘
 祟りを司る程度の能力:悪神EX

八雲紫娘
 厄を引き出す程度の能力:厄専用五次元ポケット

星熊勇儀娘
 拳に厄を乗せる程度の能力:厄×妖力×握力×体重×スピード

伊吹萃香娘
 厄を萃め疎める程度の能力:厄特化型萃香

風見幽香娘
 不運を咲かせる程度の能力:開花したら相手は死ぬ

射命丸文娘
 厄を吹かせる程度の能力:風に乗って飛んで逝け

フランドール娘
 ありとあらゆる幸運を破壊する程度の能力:きゅっとしてボジュワァ

水橋パルスィ娘
 誰よりも不運にする程度の能力:不運と嫉妬のループ



説明ざっくり過ぎて意味不明ですが、どんとしんくふぃーる
他の相手との子とかも今後の本編次第で増えるかもしれないかも分からんね

とりあえず漏れ無く厄いです




そしてついに、後書きが二千六百字を超えました (ー_ー;)<自己新記録ですわ……

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