トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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さしみ大尉さん誤字報告ありがとうございました

金髪の子が不遇ですが、私はあの子のこと好きです
苦しくったって歯を食いしばり頑張る姿が可愛い愉悦
だからついやっちゃうんだ★



トウホウ・ホウキボシ

 

「は? 霊夢が負けた?」

「言ってなかった?」 

「まったく聞いてないぜ!?」

 いつもの神社で茶飲み話。

 話のネタに、拾った新聞にあった、鬼とかいう奴と妖怪兎の戦いを持ち出してみたところ、ああ私そいつに負けたのよね、という大爆弾。

 聞けば、まさにこの記事の異変の際に、その妖怪兎から、今回は自分に任せろ、と退けられたとか。

 任せろと言われて大人しく引くだなんて、霊夢にはありえない。

 当たり前の様に勝負に。

 それも、普通の弾幕ごっこではなく、限りなく実戦に近い形式で戦ったらしい。

 そして負けた。

 あの霊夢が、博麗の巫女が、妖怪に負けたのだ。

「て言うか、その話、聞いて良かったのか?」

「天狗には記事を書かないように、紫から圧力なり何なりかけられたんでしょうね」

「でしょうねって、お前な……」

 他人事かよ、と言おうとして、言葉が引っ込んだ。

「次は勝つわよ」

 ピリピリと肌を刺す、研ぎ澄まされた霊力。

 やはりまだまだ、自分ではこいつに敵わない。そう、思った。

 同時に、なら、こいつを倒した妖怪って、どんな奴だったんだ、とも。

 

 

 因幡コクト、という妖怪兎に関して、魔理沙が知ることは少ない。

 異変後の宴会には、酒を届けに姿を見せるものの、知り合いと軽く会話してすぐに帰る。

 その時の印象だけでも、ろくでもない妖気を纏った化物だとは感じていたが。

 記事にあった『鬼』本人である、博麗神社に居着いた萃香に聞いても、勝負したら分かるんじゃない? と笑うだけ。

 同じ山に住んでいて取材魔の文なら何か知っているだろうが、生憎あのお方については口外厳禁なんですよ、と口を割らない。

 紅魔館の連中とも付き合いがあるらしいが、どいつもこいつも口裏を合わせた様に、不思議な妖怪、面白くて楽しい、良く分からない人、と曖昧な証言ばかり。

 咲夜とパチュリーに至っては、挑むのはやめておきなさい、と先んじて釘を刺してくる始末。

 結局、分かったことはごく僅かだ。

 てゐが、あたしの妹だよ、可愛いでしょ、と言っていたが、名字と顔形はともかく、妖気が明らかに違い過ぎるだろ。

 ないない。いくらなんでも、アレは無いって。

 ホラ吹くにしたって、もうちょい真実味のある嘘にしろよな。

 兎繋がりで何か分かるかと思ったが、当てが外れたぜ。

 

 

 

 他に得られる情報と言えば、人里では子供だって知っていることばかり。

 

 自ら動くことは滅多に無いが、逆らう者には容赦しない、不運を操り人間に人間を殺させ弄ぶ、残虐な妖怪。

 もしも遠目にも見かけてしまったら、すぐさま逃げて、厄神様にお供えをしないといけない。

 厄神様と対を成す荒魂。厄神様を祀ることで、その災厄から逃れることができる。

 幻想郷のみならず、外の世界も含めて、あらゆる不運には、あの妖怪が関わっている。

 

 いや、最後いくらなんでも盛りすぎだろ。この世全ての不運って何だそりゃ。スケールがデカすぎるぜ。

 

 まあそれはとにかく、そんな、子供だって知っているのに、詳しいことは分からない存在。

 それが、厄災の黒兎と呼ばれる妖怪だ。

 

 

「こうなったら、出たとこ勝負だな!」

 相手は未知数で意味不明。霊夢に勝った以上、とんでもない実力者であることは間違いなし。

 嘘か真か、幻想郷の成立に携わった賢者の一人、何て噂もあるくらいだ。

 なら、まずは1度勝負してみて、どんなものか確かめる。

 

 挑むのはやめておきなさい、という忠告は、魔理沙の頭からは、すっぱりと切り捨てられていた。

 

 

 

 

 そして今、目の前には、件の妖怪、因幡コクトが居る。

 その視線からは、こちらに対する僅かばかりの関心も感じられない。

 完全無欠に興味無し。

 お強い大妖怪様は、人間なんぞ眼中に無いってか。吠え面かかせてやる。

 

「見つけたぜ! 弾幕ごっこで私と勝負だ!」

 

 気がはやっていたのも確かだろう。

 今回の異変では、道中の強敵は、人里で信仰を集める厄神様も、最速の鴉天狗である文も、霊夢が倒した。

 どちらも、自分では勝てるか怪しい程の強者。

 そして、緑色の巫女との弾幕ごっこで疲労した魔理沙を置き去りに、霊夢は敵の親玉の所へ向かってしまった。

 

 それはまるで、自分は霊夢のおまけの様な、単なる露払いの様な。

 そんな、対等で居られない、友人であれない関係なんて、魔理沙には我慢ならない。

 

 だから倒す。

 こいつを倒す。

 霊夢にも勝ったくらいに強いこいつを、私が倒す。

 

「そういきり立たずとも、私は今回の異変とは無関係なのだがな……」

「その辺は勝った後に考えるぜ!」

「ああ、うん。そうだよな。いかにも幻想郷の住民らしい理屈だよ」

 短く溜め息を吐いて、やっと視線を向けてくる。

 だがそれでも、やはりこいつは私に、まるで意識を向けていないままだ。

 そこいらの雑草でも見る様な目だ。

 上等。雑草根性見せてやる。

「この先の本殿に、今回異変を起こした神とは別の、もう一柱の神が居る。

 私としては、ここは力を温存しておき、そちらに注力すべきと提言するが?」

「知ったこっちゃないぜ! 今この瞬間に全力だ!」

「だろうな……はぁ……仕方が無い……早く帰りたいのだがな……」

 気だるげに無気力に、いかにも面倒臭そうに、そいつが告げる。

「スペルカード1枚、耐えきったら貴女の勝ちだ」

「はん! 耐えきる前に撃ち落としてやる!」

 飛ばして行くぜ! 様子見なんてする暇も無しだ!

「弾幕はパワーだぜッッ!!!」

 ありったけの弾を撃ち込む。

 これだけで倒しきれる相手では無いだろうが、何かしらの対応はーー

 

 

 

 相も変わらず億劫そうに、しかし滑らかに、因幡コクトが片手をかざす。

 宣言、と呼べる程の覇気など込めず、どこまでも静かに冷ややかに、スペルカード名を告げる。

 

 

    鏡符『ミラームーンボール』

 

 

 前方にかざされた右手を起点に、大量の鏡、いや、結界か、とにかくそれらが、一瞬で展開された。

 上も下も右も左も前も後ろも、私の周囲を覆い尽くし、鏡面の球体に取り込まれた。

 

「私が自分の弾幕を放つのは、最低限、死にはしない相手だけだ。ごっこ遊びで殺す趣味は無い」

 その向こう側から、出会った瞬間から温度の変わらない、冷めた声が響いてくる。

「設定しておいた時間は1分間。耐えれば勝ちで、当たれば負けだ。

 跳ね回る自身の弾幕を避けきって見せろ」

 それはまさに、歯牙にもかけない態度。

 

 

 

 

 ではご機嫌よう、と言ったそいつは、1分後、何発撃ってもビクともせず、反射する弾幕を増やすだけだった鏡が一斉に砕けた時には、影も形も無く。

 こちらの意気込みなど、まるで意に介さず。

 嘲笑いすらせず無関心に。

 どうでも良さそうに、通り過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 自分の喉から溢れ出た咆哮が、どんな感情によるものなのか、魔理沙自身にも分からなかった。

 

 

 分からない。分からない。分からない。

 力が及ばないことは何度もあった。

 力が足りないことは何度もあった。

 その度に、踏ん張って、立ち上がってきた。

 立ち塞がる壁を乗り越えて、或いはぶち壊して、ここまで来た。

 自分がまだまだ未熟なことは、理解している。

 だけど、もっと新しい魔法を覚えて、今ある手札をもっと鍛えて、もっともっと強くなれると信じている。

 スペルカードルールなら、弾幕ごっこなら、人間だって、普通の魔法使いだって、妖怪と競い合える。

 霊夢や咲夜の様な、『特別』と並び立てるはずだ。

 そう思って、今日まで進んで来た。

 なのに、なのにアレは何だ。

 この有り様は何なんだ。

 人間だからか。

 だから相手にもしないのか。

 赤ん坊の癇癪の様に、宥めて終いにされるのか。

 何をすれば良い。

 どうしたら良い。

 どうすれば、私の方を見させられる。

 見向きさせられる。

 畜生。

 畜生。

 畜生。

 お前のスペルカードを攻略してやったぞ。私の勝ちだ。

 そう言ったところで、ああそうかおめでとう、で終わりにする気だろう。

 誰だったかな、なんて言いやがるかもしれない。

 そのくらい、あいつは私に興味が無かった。

 あいつの視界に、私は映ってもいなかった。

 畜生。

 畜生。

 

 声が掠れて尚も叫ぼうとする口を閉ざし、漏れ出る息を噛み殺す。

 

 

「必ずだ……必ずお前に、私の名前を覚えさせてやるぜ……因幡コクト……!」

 

 それでも、砕けない、諦めきれない、俯けない。

 へし折れたプライドを叩き起こし、絶対に、と誓いを立てる。

 道筋なんて、ほんの僅かにも見えないし、目標は遥か彼方だけれど。

 そうだとしても、やると決めた。

 通り過ぎる人間の内の一人ではなく、『私』を刻み付けてやると、決意した。

 

 





鏡符「ミラームーンボール」
 因幡コクトが唯一持つ、対人間用スペルカード。
 自機が一定数以上のショットを撃つと発動する耐久型。
 多数の反射結界で相手の周囲を覆い、自分が撃った弾を自分で回避させるイライラスペル。
 反射の度に弾の色が変わって無駄にカラフル。
 高難易度用に、反射方向がランダムとか、跳ねた弾が曲がったり加速したり分裂したり追尾したりとかも設定できるが、勝つ気が無いので使わない。
 1分耐えれば良いので、最低限の弾を撃って適当に避けていれば、クリアは簡単。やさしいね。
 普段の結界より強度は低いため、ゆうかりん辺りに使うと、目眩ましにしかならず「ふざけてるの?」とブッ壊される。かなしいね。

Q.1分くらい終了まで見届けてやんないの?
A.1分も早く雛達の無事を確認する方を優先した



金髪の子かわいがってみた(歪

黒兎は別に人間が嫌いな訳じゃないんです
唯、すぐ死んじゃうから近寄りたくないんです
でも↓のオマケにも書いたけど割りとチョロいです






【トウホウ・エ□ゲフウ】

ウスイホン投下後、感想欄が「どうやって黒兎にエ□いことするか談義」と化していたので、ちょっと考えてみるか、とトチ狂いました今は後悔している

いかがわしいシーンはカットしてますが、生理的に無理な人はスルーしてください





 何をしても、何もしなくても、余命1年を宣告された『あなた』。
 失うモノなど最早無い。これっていわゆる無敵モード?
 なら一丁、皆が怖がって近寄らない、厄災の黒兎に会ってみようじゃないか。

 それはある種の自暴自棄。ヤケクソになった青年の破滅願望。

 しかし、死に近い存在になったからこそ、彼は、『誰よりも死に近く、誰よりも死から遠い』妖怪兎に、引き寄せられた。



【共通ルート】
 最低限の目標は、『因幡コクトから身内認定される』こと。
 これが達成されていないと、共通ルートの最後に「危機察知に死の遠因として引っ掛かった」と処分されます。無慈悲。
 この時点でエ□選択肢を選ぶと死にます。
 コクト、雛、秋姉妹、てゐの好感度が最低ラインを超えていないと死にます。
 サンドイッチを食べても死にます。奴隷ちゃんprpr←別ゲーネタ
 家事炊事を積極的に手伝ったり、酒に付き合ったりしましょう。割りとチョロいです。

【各キャラルート】
 攻略可能キャラ数は追加パッチ次第!
 限られた余生を駆け抜けろ!
 制限時間前の死亡endも追加パッチ次第!



【コクトend】

「1年、か……長い様で短い……いや、短かったな。どうしようもなく」
 そりゃまぁ、コクトさんにとってはそーでしょーよ。
 百何十万分の1なんて、塵みたいなもんですし。
「それを言い出すと、私にとっては全てが塵、となるだろうさ。
 しかし、この1年は、悪くなかったよ」
 デレキタコレ!
「死にかけの癖に、相変わらず煩いな、お前は」
 ジト目いただきましたー! ありがとうございます!
 我が人生に一片の悔い無し!
 あ、待って。やっぱり有るわ。
「何だ?」
 厄遮断黒ニーソで踏まれるのが至高だったので、最期にもう一度お願いします!
「半死人にそんな真似できるか馬鹿者」
 殺生な!
「私が踏んだのがトドメになったら、それこそ殺生だろう。物理的に」
 マジかよ……この世に救いは無いんですか!?
「こんな形(なり)に興奮する輩が救われる世の中なんぞ、滅んでしまえ」
 くっ……そんな冷たい態度にも……悔しい……でも感じちゃu
「今ここで仕留めてやろうか?」
 どうせ仕留めるなら、踏んでください。
「……変態」
 しまった録音し損ねた!
「どこまでも……こんな時まで馬鹿野郎か……」
 面目ねぇです。
「そんなに、しんみり看取られるのは嫌なのか?」
 !?
「その程度で誤魔化される訳があるかよ。浅はかだな」
 ……えーっとですね。
「元より今日までと決まっていた命。覚悟はできている。せめて最期まで自分らしく。といったところか」
 一言一句違わずに。
「馬鹿が」
 バカって言い過ぎじゃないですかねぇっ!?!
「自覚はあるだろうが」
 そりゃそーですけれども……。
「他の者は居らん。らしくない我が儘も、多少は聞いてやるさ」
 …………そんじゃ、1つだけ……。
「ああ」
 ……膝枕、してもらって、良いですかね? どっちにしろ、もう永くは無いんで。
「そんなことだろうとは思ったが……本当に、私がトドメを刺すことになるとはな……」
 無理にとは……。
「末期の水代わりだ。多少は聞いてやると言ったろう」
 ……すみません。
「構わんよ。どっちにしろ、元より血塗れだ。お前一人くらい、背負う数が増えたところで、負担にもならん」
 ありがとうございます……。あはは、やっぱコクトさん、小さいっすねー。
「やかましい」
 こんな小さいのに……本当にすみません……ありがとうございます……。
「別に、大したことでは無い」
 ……ああ……本当に……。




 死にたくないな……。


 青年の最期の思考は、形にすら成らなかったが、『不運にも心臓を止めた』亡骸を抱く彼女には、確かに届いた。

「そうだな……私も、死にたくないよ」








ハッピーエンドも追加パッチ次第ですかね

にしても、本文三千字の後書き二千字ておま……

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