超融合! 次元を越えたベジータ   作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)

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ロゼを圧倒! ベジータのミラクルパワー

 超サイヤ人ロゼ──かつて「超次元」の未来世界で孫悟空達を幾度となく苦しめたその力は、この次元でも変わらずに猛威を振るった。

 メタフィクスの分身はかの神の化身の姿だけではなく、その力をも完全に模倣していたのだ。

 この場において最強の戦士であるウーブ、悟飯、悟天の三人はそれぞれにフルパワーを解放し、禍々しい「気」を持つ彼を相手に果敢に挑んだ。

 

 しかし、まるで歯が立たない。

 

 彼らの中で唯一ウーブだけは「戦い」の形にはなったが、以前のゴールデンフリーザをも上回る彼の分身の力を前にしては、そんなウーブの技でさえも通用しなかったのだ。

 かの神の化身──ゴクウブラックの姿を模したメタフィクスの分身は、ただでさえ地球の戦士達を凌駕する戦闘力に加え「瞬間移動」に「かめはめ波」等、孫悟空と同じ技を使いこなしている。加えてその腕からは「気」の剣を繰り出してきたりと初見殺しの手数があまりに多く、別の次元で本物のゴクウブラックと対峙した戦士達ほど実戦経験が無いウーブには対処出来なかったのだ。

 唯一の勝ち筋としては魔人ブウから受け継いだ相手を菓子にする魔法光線があるが、それは以前メタフィクスに見せている為か最初から警戒されており、ウーブの必死の抵抗も虚しく光線が命中することはなかった。

 

「くそっ……!」

 

 既に悟飯、悟天は倒れ、最後に残ったウーブも朦朧とした意識で膝を折っている。

 敵の──ゴクウブラックの姿を模したメタフィクスの力は、彼らの想像を遥かに超えていたのだ。

 

「終わりです」

 

 ゴクウブラックを模したメタフィクスの分身が、ウーブにとどめを刺す為にかめはめ波の構えを取る。

 禍々しいエネルギーが両手に集束していくだけで、身体中が凍り付くような寒気に襲われ、この地球もまた恐怖に震えているようだった。

 

 ──しかし、その攻撃が彼の手から放たれることはなかった。

 

 突如上空から飛来してきた気弾の雨が彼の元へと着弾し、エネルギーの集束が強制的に解除されたのである。

 そのマシンガンのような隙間の無い気弾の連射攻撃は、一同には一目で誰の攻撃かわかるものだった。

 

 

「なんてザマだガキども」

 

 尊大な態度で腕を組みながら、彼はゆっくりとウーブの前に降り立った。

 超サイヤ人でもない素の状態で逆立っている特徴的な髪型に、M字を描くような広い額。小柄な体格とはとても思えない威圧感を撒き散らしながら、彼はその鋭い眼光でウーブ達を一瞥した後、ゴクウブラック──メタフィクスを睨んだ。

 

「この俺が居ないだけで、あんな奴に良いようにされてるんじゃない!」

「ベジータさん……!」

 

 見るからに不機嫌さを滲ませた表情から、彼──ベジータはメタフィクスに敗れた若者達を叱責する。

 孫悟空(カカロット)が居ない今、この地球で頼りになる戦士は悟飯達サイヤ人のハーフと魔人の生まれ変わりであるウーブだけだ。それ故に、ベジータは地球の未来を担う彼らに期待していたのだ。だからこその厳しい発言であったが、ベジータはあえて自身の言葉に込めた意図は伝えなかった。

 尤も、今のベジータが非常に苛立っている理由の多くは戦いに敗れた彼らに対するものではなく、大半が目の前に立つカカロットと同じ顔をした人物に対する不快感が占められていた。

 

 

「貴方は……ベジータですか。雰囲気が随分と違いますが」

「そういう貴様は、カカロットですらないようだが……どいつもこいつも、あの野郎のツラをしやがって!」

「この姿の基となった人物は厳密には孫悟空ではなく、孫悟空でもある界王ザマス……ゴクウブラックと呼ばれていた者です」

「そんなことはどうでもいい!」

 

 つい先ほどまで別の次元でその孫悟空と会って戦ってきたばかりだというのに、元の世界へ帰れば今度は孫悟空と同じ姿をした「全くの別人」と対峙する。別人で我慢していろと言っているかのようなその状況は、まるで「この次元の孫悟空」を捜して奔走している今のベジータに対する当てつけのようで、彼の神経を激しく苛立たせていた。

 実に一方的で勝手極まる理不尽な怒りであったが、ベジータはそんな自分を顧みる気は一切無い。

 そんな彼が特に許せなかったのは、住んでいる「次元」こそ違うが正真正銘本物の孫悟空(カカロット)だったあの次元の孫悟空(カカロット)とは違い、ここに居るのはもはや同一人物ですらない全くの他人であるということだ。

 この時ベジータ自身は自覚していないが、彼は敵の禍々しい「気」に似ても似つかないその姿に対して自分が認めた生涯のライバルを侮辱されたと感じ、激しい怒りを抱いていたのである。

 

「今の俺は気が立っているんだ……あの野郎の姿で俺様の前に出やがったんだ! 容赦はしないぞおお!!」

 

 歳を取り地球に馴染んできたことにより若い頃とは比較にならないほど穏やかになったベジータだが、その沸点はやはり高くはない。

 普段の彼であれば、まず最初に様子見をして敵の実力を測ってからその形態に変身したのかもしれないが、生憎にも今のベジータの心には戦いを楽しもうとする感情は無かった。

 既に怒りの臨界点を超えていたベジータの怒りが身体中から「気」の解放として顕現すると、彼は大猿の如き咆哮を上げながら自身の潜在能力を一気に引き出していった。

 

「ベジータの超サイヤ人4だわ!」

「あれが、超サイヤ人4……宇宙最強の戦士、ベジータさんの本気ですか。物凄い力です……」

 

 揺れる大地の上で、ベジータの変身を後方から見届けたギャラリー達から慄然とした様子の声が漏れる。

 大猿と超サイヤ人、その両方の力を併せ持った真の伝説の戦士──超サイヤ人4。

 大猿になる為に必要な尻尾を失ったベジータは、五年前までは妻ブルマの発明したブルーツ波発生装置が無ければその姿に変身出来なかったものだが──今は違う。

 ベジータは戦いの天才だ。天才故に、彼の適応力もまた並のサイヤ人とは比べ物にならない。

 日々の修行の中でブルーツ波発生装置を使った超サイヤ人4への変身を何度も繰り返していく内に、彼はその感覚を学習し、自身の身体へと染み込ませていったのである。そうして変身時の感覚を完璧に掴んでいったベジータは、今では尻尾が無くとも自由に、自分の意志で超サイヤ人4に変身出来るようになっていた。

 無限に進化し続ける戦闘民族サイヤ人の王子である、彼にしか出来ない芸当であろう。赤毛に覆われた彼の姿を見た憎むべき敵が、感心した様子で呟く。

 

「なるほど、それがこの次元で最強の戦士、超サイヤ人4ですか。神の「気」を纏わぬ人間でありながら、ここまで高めることが出来るとは……ゴッドとはまた別の強い力を感じます」

「貴様が何者かは知らん。そんなものには興味もないが、一つ言っておくぞ」

 

 超サイヤ人4になったベジータが、孫悟空の顔には似合わない口調の敵に対し、宣言する。

 

「超サイヤ人4になったこの俺は、誰にも止められないとなぁっ!」

「ッ……!」

 

 その瞬間、ベジータの足が大地を蹴り、他の戦士の誰よりも重い拳が彼の腹部へと突き刺さる。

 邪神とサイヤ人の王子の戦闘が、この地球にて幕を開けた瞬間だった。

 

 だがそれは、超サイヤ人4の恐ろしさを存分に思い知らせる一戦となった。

 

 孫悟空──正確にはゴクウブラックの姿を模したメタフィクスは既に超サイヤ人ロゼの状態で扱える力の限界を引き出し、ウーブ達を翻弄した技の全てを惜しみなく繰り出している。

 しかしベジータは、彼の繰り出す技の全てを放たれた上で完璧に捌いていたのだ。瞬間移動であろうとかめはめ波であろうと、彼はまるで未来予知の如く一切無駄の無い動きでそれに対処していた。

 

「すげぇ……あいつの攻撃が全然当たってないぞ……!」

「父さんはこの五年間、ずっと超サイヤ人4の悟空さんとの戦いをシミュレートしていました。そんな父さんだからこそ、悟空さんが使う技には反射的に対応出来るんでしょう」

「あっ、トランクス」

「どうもクリリンさんに皆さん、お久しぶりです」

「お前も大人になったよなぁ……昔はあんな悪ガキだったのに」

「はは……これでも俺は、カプセルコーポレーションの社長ですからね」

 

 見ている側も彼の動きはもはや全く捉えることが出来ていないが、ベジータが戦闘開始から一発も攻撃を喰らっていないことだけはわかり、クリリン達が久しぶりに目にした彼の戦闘ぶりに驚きながらも安堵した表情を浮かべる。今のベジータの姿にはまるで、往年の孫悟空のような安心感があったのだ。戦闘中においては不適切かもしれないが、彼の戦いを眺める一同の心にはもう大丈夫だろうという安心が芽生えていた。

 そんな彼らの元にいつの間にか合流してきたのは、自身の会社からベジータと共に急遽帰宅してきた彼の息子──トランクスである。

 

「ところで、アイツは誰ですか? 見た目は悟空さんそっくりですが、なんて禍々しい気だ」

「この宇宙を狙っている悪い神様だって。あの子が言っていたわ」

「あの子?」

 

 トランクスからしてみれば会社から帰ってきて早々に対面したこの壮絶な光景であったが、それでも傷を負っている悟飯達の様子を見れば「孫悟空そっくりの敵が一同に襲い掛かってきた」という大まかな状況はすぐに飲み込むことが出来た。突然招集を掛けられたのも、今ベジータが戦っている敵に関係していることなのだろうとも察しはついている。

 しかしトランクスにはさらにもう一人、一同の中に見知らぬ少女の姿があることが気に掛かった。

 

(あの子……なんだろう? 前にどこかで……)

 

 母ブルマの指差す方向に立ち、真剣な表情でベジータの戦闘を見つめている青髪の少女。

 トランクスにとっては間違いなく初対面の筈であるが、その姿を見た際に彼が抱いたのは妙な既視感だった。

 

「ファイナルシャインアタック!」

 

 彼がそんな奇妙な感覚を催している間にも、メタフィクスとベジータの戦いは佳境に迫っていく。

 ベジータが突き出した右手から放たれた必殺の気功波──ファイナルシャインアタックの光が、メタフィクスの身体を飲み込んでいったのである。

 彼の居る空中で巻き起こった激しい爆発にこれで勝負ありかと判断した一同だが……爆煙が晴れた場所にあったのは道着の損傷が激しいながらも彼の攻撃を耐え抜いたメタフィクスの姿だった。

 

「ちっ、あの野郎の姿をしているだけのことはある」

 

 今の一撃は全力ではなかったが、殺す気で放ったつもりではある。存外頑丈なメタフィクスの分身に対して、ベジータが苛立たしげに舌打ちする。

 並外れたタフネスを指して伊達に孫悟空の姿をしているわけではないようだと感心はするが、それだけだ。

 所詮は紛い物……今のベジータを恐れさせる強さではない。

 本物の孫悟空さえも凌駕した今の自分が、偽物に負ける道理はないのだと。パワーアップした自分の力に絶大な自信を持っているからこそ、ベジータはこの戦いの中でもなお余裕を見せていた。

 そんな彼の攻撃をその身で受けたメタフィクスが、傷だらけの姿で彼を賞賛する。

 

「ベジータ……その超サイヤ人4は素晴らしい変身です。貴方のような人間が居るとは、この次元に寄ったのは正解でした」

「その声で喋るな。消えろ、二度とこの俺にふざけた姿を見せるな」

「貴方にとっても、この姿は不快でしたか。あの「次元」でもそうでしたが、ベジータという人間は孫悟空に対して友情とは別の強い絆を感じているらしい。故に苛立つ。私にはそう感じます」

「ごちゃごちゃとうるさい野郎だ! 言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ!?」

 

 孫悟空の姿にはまるで似合わない敬語口調が、ベジータの神経をさらに逆撫でする。

 その怒りに同調するようにベジータの内なる「気」がさらに高まっていき、戦いを見守る一同の表情を驚愕に染めた。

 メタフィクスの分身を圧倒してもなお、彼はまだ実力をほとんど出し切っていなかったのだ。

 

「……もはや今の貴方の前では、神でさえも無力なのかもしれませんね」

 

 孫悟空の姿をしたメタフィクスの分身が、ノイズの混じり始めたその声で彼に対して畏敬の念を送る。そしてそこにはどことなく、彼に対する憐れみの感情が込められているように見えた。

 

「人間の極地を体感させていただいたことに、礼を言います。これで、心置きなくアレを殺しに行ける……」

 

 彼が意味深な言葉を呟くと、その姿が朧のように消えていく。ゴールデンフリーザの姿を模した分身でウーブと戦った時と同じように、彼はこの場から姿を眩ませたのである。

 

「決着をつけたければ、別の「次元」でお会いましょう。この戦いは貴方の勝ちです」

 

 最後に言い捨てたその言葉の意味は単なる負け惜しみか、新たな戦いの宣戦布告か。

 彼の禍々しい気配がこの場から消え去ったとて、今のベジータの心には敵を退けたことに対する喜びは欠片も無かった。

 ただそこに残っていたのは彼を逃がしたことへの苛立ちと、自分の宿敵を自分以外の者に侮辱されたことへの不快感のみ。

 そしてその感情は、彼を新たな戦いに駆り立てる十分な理由になった。

 

「ふざけた野郎だ。次はぶっ殺してやる……」

 

 彼が何者であるかも、まだベジータは何も知らない。しかしベジータには、彼が孫悟空の姿をしていたこと以外にも無性に彼の存在が気に入らなかった。

 

 次はこの手で葬ってやるとサイヤ人の闘争本能に染まった決意を胸にするベジータの元に、彼の妻や息子、先に敵にやられて満身創痍な状態のウーブや悟飯達が駆け寄ってくる。

 

「ベジータさん」

 

 そして一同の中に居る見知らぬ青髪の少女が、真っ先にベジータに向かって声を掛けてきた。その瞬間、少女とベジータの視線が交錯する。

 ──妙に似ている気がする、というのが彼女の青い瞳を見た際に抱いたベジータの感情だ。そんなベジータは一旦隣に立つ自身の妻子の姿を一瞥した後、再び彼女と向き直る。

 冷淡としていて感情の読み取れない、しかし力強さを持った青い瞳で見つめながら、少女がベジータに言った。

 

「滅びゆく二つの次元を守るためには、あなたの力が必要です」

 

 

 そうしてベジータは、宇宙の危機と邪神の存在を知ることになる。

 少女──龍姫神はブルマ達に告げた話と全く同じ話を彼に語り、その上で協力を要請したのである。

 しかし事が自分達の宇宙に関わっている以上、既にベジータに退路は無い。断らなければこの宇宙が滅びるという事態がすぐ目の前にまで来ているというのなら、始めからつまらんことを訊くなというのが頭を下げた彼女に対するベジータの感情だった。

 

「奴の居場所はわかっているんだろうな?」

「はい。邪神メタフィクスの本体があるのは「次元の狭間」──私なら、貴方をその場へ送り届けることが出来ます」

「御託はいい。さっさと連れていけ」

「……ご協力感謝します。では、私に掴まってください」

 

 今この時でさえも邪神の本体がこの宇宙を喰らっているというのなら、もはや無駄話も出来ない一刻を争う事態である。

 龍姫神はベジータの協力に感謝の意を表すと、すぐさま目的地への移動の準備に取り掛かり、彼にその右手を差し出した。その意図を察したベジータは、カカロットに掴まるよりはマシかと思いつつもそっぽを向きながら彼女の手を掴む。

 今邪神の本体の居場所である「次元の狭間」に向かえるのは、ベジータと龍姫神の二人だけだ。

 そんなベジータに対して、若者達は申し訳なさそうな表情で頭を搔いていた。 

 

「ベジータさん、あの……」

「お前達は邪魔だ。俺が片づけてくるまで精々ここで悔しがりながら待っているんだな」

「パパ! そんな言い方は酷いんじゃないの?」

「……怪我人が来たところで役に立たんと言っているだけだ」

「素直じゃないわねぇ」

「ふん……」

 

 これから行く戦場に既に先の戦闘で満身創痍な悟飯達を連れていくことは出来ず、彼らの傷が癒えるまで待っている時間も無い。一応息子のトランクスは合流が遅れた為に無傷で済んでいるが、悟飯達と大差無い戦闘力の彼が着いて来たところで役に立つ相手ではないだろう。それどころか超サイヤ人4の足を引っ張る可能性があり、ベジータは彼の同行には頷けなかった。

 結局、実力を信じて戦えるのは自分だけだと──本来ならば不甲斐ない若者達に対してもう少し苦言を呈したかったところだが、娘のブラに責められるのもまた面倒だった為にベジータはこの場は引き下がることにした。どうにも彼は、成長するに連れて妻に似ていく娘に頭が上がらなかった。

 

「……では、行きます」

 

 龍姫神がそう言った次の瞬間、青白い閃光がベジータと龍姫神の姿を包み込む。

 そして龍姫神の立っていた場所から、一本の光の柱が天を突き刺すように立ち昇っていった。

 

「次元移動」

 

 ベジータの手を心なしか大事そうに掴みながら龍姫神がそう唱えた次の瞬間、彼女とベジータの姿が上昇するエレベーターの如く、光を超える速さで飛び立っていった。

 二人の姿は瞬く間に地球から宇宙へと抜けていき、次元の壁をも越えて飛び去ったのである。

 

 新たな戦場へ向かう二人の姿を見届けた一同は、二人が無事に戦いに勝利して帰ってくることを祈っていた。

 

 


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