超融合! 次元を越えたベジータ   作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)

5 / 25
邪神の謎! 姿を変える超分身

 

 

 ブルマの家では、「邪神」に対する最高戦力であるベジータの帰りを待っていた。

 その間、一同は孫悟空に関する情報等、龍姫神に対して矢継ぎ早に質疑応答を行っていた。

 

「孫君は元気にしてる?」

「元気に修行しています。龍神界では修行の相手に事欠かない為、彼も充実しているようです」

「龍神界って、地球の神龍もそっちに居るんですか? 神龍って模型から作られたって聞いたことありますけど」

「貴方がたのよく知る神龍もまた、こちらの世界に居ます。人々からドラゴンボールの記憶が薄れるその時まで、深く眠りにつくとあの子は言っていました」

「ずっと神龍に無理させてきたからなぁ……アイツって、やっぱり感情あるのかな?」

「もちろんです。あの子もまた五年前の件について、多くの葛藤や後悔を抱えていました」

 

 自分達の居る宇宙とは違う世界。ドラゴンボールから召喚される神龍の出身地と聞いて、特に彼らの中で最もドラゴンボールと多く関わってきたブルマ達の世代が興味津々な様子だった。

 思えば神龍は時々人間臭い態度を取ったり、「願いを言え」、「願いは叶えた」以外の言葉を発することも多々あったものだ。

 最後に彼と会った五年前のことが、彼らには妙に懐かしく感じていた。

 

「神龍が、悩んでいたんですか?」

「皆さんがドラゴンボールを使いすぎてしまったことに対して、確かに神龍は厳しく批難したかもしれません。しかしドラゴンボールがあったからこそこの宇宙が救われたこともまた確かであり、神龍も感謝していたのです。あの子はとても怖い顔をしているかもしれませんが、龍神界の誰よりもこの宇宙の人間を愛し、人の願いを叶えることに喜びを感じていた優しい龍なのです」

「神龍がそんなことを……」

「ってか、神龍をあの子って呼ぶ人初めて見たぜ。本当に神様なんですね」

「新米の身ですが、神の役目を務めさせていただいております」

 

 涼しげに彼らの質問を捌いていく彼女だが、その表情は終始穏やかであり、微塵の不快感も見せていない。姿こそ地球人の少女そのものだが、身に纏う女神めいた雰囲気は確かに人ならざる者と感じさせるものがあった。

 そんな彼女はおもむろに窓の外へと目を向けると、感慨深げな声で呟いた。

 

「この地球も、無事に復興出来たのですね……」

 

 彼女の視線の先にあるのは、高層ビルに覆われた西の都の大都心部だ。行き交う人々で賑わう町並みは活気に満ち溢れており、とてもつい五年前に未曾有の大事件が起こったとは思えない平穏さに包まれていた。

 

 五年前、地球は邪悪龍達との戦いで深刻なダメージを受けた。

 

 大地は蹂躙され、人々の町はそのほとんどが壊滅し、都会だった筈の場所は悉く瓦礫の山と化した。

 無論、発生した死者の数もまた悲惨そのものであり、当時の地球人口は半分以下にまで減少したほどだ。

 しかし孫悟空が神龍に頼み込んだ最後の願いにより、人造人間17号やクリリン含む一連の事件で命を失った人々は全員無事に生き返ることが出来たのである。

 

 しかし壊れた町だけはそのまま残り……人類は自分達の力で生活圏を立て直すことになった。

 

 この町の復興もまた、人間の力だけで成し遂げたものだ。当時のことを振り返りながら、何かが可笑しかったのかブルマがくすりと笑みを溢す。

 

「まあ、この子達だけで何億人分の働きしてたし、人手に困ることはなかったのよねー」

「ベジータさんまで手伝ってくれましたもんね。わざわざ超サイヤ人4になって建物を持ち上げたり、沈んだ地盤を元に戻してくれたり」

 

 あれほどの被害を受けておきながら復興に然程の時間が掛からなかったのは、ここに居る宇宙最強の人間重機達のおかげである。ここに居る彼らは皆、本来重労働になる作業を片手だけで成し遂げてしまう力があり、そんな彼らが全力で各地の復興作業に当たったのだ。これが効果的でない筈がない。

 それはサイヤ人男性達が本気で労働すればどうなるのかということが身に染みてわかる、地球の人間では到底真似できない凄まじい光景だった。強い力も、使い方次第では壊すだけでなく生み出すことも出来るという良い例である。

 因みにそんな彼らの手柄は、悟飯のような面倒事を避けたい者は全部カプセルコーポレーションやミスター・サタンのおかげだとか言って適当に誤魔化していた。……大概の市民はそれだけである程度まで納得してしまう辺り、いかにカプセルコーポレーションの科学力とミスター・サタンのカリスマが異常なのか窺える話であろう。

 

 ──と、ブルマが当時起こった出来事を懐かしみながら話すと、龍姫神はしばし考え込むように目を瞑った後、一同の側へと振り向いて訊ねた。

 

「皆さんは、私達を恨んでいないのですか?」

 

 それは、彼女からこの場に居る全員に対する問いかけだった。

 その質問の意図を即座に読み取ったのはブルマと悟飯、パン、亀仙人と天津飯、18号ぐらいなものだ。他の者は皆、「なんで?」と、そもそも彼女の恨みという言葉に対してピンと来ないような顔をしていた。

 そんな彼らに向かって、彼女は言葉を続ける。

 

「かつてこの星の平穏を奪ったのは七体の邪悪龍であり──皆龍神界に生きていた、私の同胞です。私は言わば、彼らの仲間なのですよ? そんな私の言うことを、界王神様が認めたとは言え何故こうも信じるのです?」

 

 龍神界の住民である邪悪龍達と、その世界の神を務めている龍姫神。二つの関係は先に彼女が明かした通り、全てが同類として結びついているのだ。決して彼女自身が直接手を下したわけではないが、龍神界の管理者である以上、彼女もまた五年前の事件に関与していた身だと言えなくもない。

 龍姫神はそんな自分がこの場に居ながらも、彼らから何の敵意も受けていないことに対して不思議がっている様子だった。

 そんな彼女の問いに対して一同は各々傍らの人物と顔を見合わせた後、彼らを代表するようにしてブルマが答えた。

 

 

「そんなこと言ったら、私の旦那なんてどうなるのよ。貴方は悪い奴に見えないし、いちいち気にしてられないわ」

 

 その発言に、うんうんと頷く一同。その言葉には彼女が今までに乗り越えてきたものを窺わせる妙に物凄い説得力が込められており、それを聞いた龍姫神はこの時初めて神の表情とは違う人間的な呆け顔を浮かべた。

 彼女にとって予想外だったのはここに居る者達が皆、過去のしがらみだとかそういうものは色々と超越した愉快な連中ばかりだったことである。彼らの中ではとっくに当たり前になってしまっているが、ここに居る者達は全員通常ならばあり得ない人間関係で構成されていたのだ。

 

「……噂通りの方々ですね……」

 

 ふっと微笑みながら、龍姫神が呟く。

 

 まあ、ここで恨み恨まれの話など、深く掘り下げても気まずい思いをするだけだろう。

 そう思った悟飯はこの話題を変えることを意図しつつ、彼女に別の質問を送ることにした。

 

「龍姫神様、「邪神メタフィクス」のことで聞きたいことがあるんですけど……」

「なんでしょう?」

 

 彼に質問された途端に、彼女の表情は元の冷淡に戻る。

 邪神メタフィクス──それはこの宇宙を脅かす新たな敵だ。その存在についてあまりにも無知である今の彼らにとって、情報収集は必須だった。ドラゴンボールという保険が無い以上は尚更だ。

 

「僕とウーブ君が戦ったのが、貴方の言っていた「邪神メタフィクス」なんですよね? フリーザではなくて」

「はい。メタフィクスには自身が記憶している数多の次元に存在する戦士の姿を再現し、自らの分身として作り出す能力があります。お二人が戦ったのは、ゴールデンフリーザの姿を再現したメタフィクスの影……人形のようなものです。あの時、ウーブさんは彼の分身を打ち破りましたが、本体はまだ無傷で別の場所に居ます」

「人形で、あの強さか……」

 

 金色のフリーザ、ゴールデンフリーザと彼は言っていたが、その口ぶりは確かに別人のようだった。

 悟飯は当初彼自身が「パラレルワールドのフリーザ」なのではないかと想像していたが、正確には「パラレルワールドのフリーザを模した人形」だったのである。

 ……しかしそうなると、なお恐ろしいものだ。

 あれほど凄まじい力を持った敵さえも「本体」ではなく、「分身」でしかなかったという事実が。

 

「本体はどこに居るんですか?」

「人では寄り付くことの出来ない「次元の狭間」……次元と次元の間に存在する虚無の空間に居ます。あれは今も、その場所からこの次元の宇宙を喰らっています」

「この宇宙には居ないんですか?」

「そういうことですね」

「おっかねぇな……宇宙を食べちまうなんてスケールがデカすぎてついていけねぇぜ」

 

 まだ邪神メタフィクスという敵の素性がわかりきっていない今、その本体というものがどれほどの力を持っているのかは定かではない。しかし、現在進行形で行っている悪行から鑑みても決して見逃すことが出来る存在ではないし、見逃してはならない存在だった。

 宇宙を喰らう敵の存在に今では非戦闘員組の一人であるヤムチャが嘆きながらも苦笑を浮かべ、悟天がその所在について尤もな疑問を浮かべる。

 

「ちょっと待ってよ! 人じゃ行けない場所になんて、どうやって行くのさ?」

「それに関しては問題ありません。私の力で、貴方がたをその場へ送り届けることが出来ます」

 

 次元の狭間などという、この宇宙の何処でさえないような場所に敵は居る。

 そんな敵の居場所を知った上で、龍姫神は確実な移動手段を持っているようだ。彼女は彼らに対して「警告」という形でこうして話に来た筈であったが、それではまるで、かつて魔人ブウの対応に当たった界王神のように彼女自身に彼らと協力する意思があるように見えた。

 

「僕達を、その場所へ連れていってくれるんですか?」

「私は始めから、そのつもりで警告に参りました。……いえ、ここは誠意を見せ、取り繕うのはやめましょう」

 

 そう言って、龍姫神の表情が変わる。

 その瞳には彼女の言う「誠意」の感情が見え、引き締まった頬や口からもはっきりと真剣さが伝わる。そんな表情で、彼女は一同に頼んだ(・・・)

 

「龍神界の掟により、私自身が直接戦うことは出来ませんが……皆さんの宇宙を救う戦いに、私も協力させてください」

 

 自分が敵との戦いを手伝うのではなく、手伝わさせてもらうのだと。「神」の名を冠する立場としては、非常に大きく意味が変わる言葉を選び、彼女は発した。

 それは他の誰でもない、幾度となく彼らの願いを叶えてくれた神龍の──その世界の神からの願いである。一同はにべも無く、力強く頷いた。

 

 

 

「あの、龍姫神様」

「貴方は……」

 

 邪神の情報がまとまったところで、残るはベジータの帰りを待つだけとなる。

 そんな折に、これまで沈黙を守っていたパンが未だその胸に一つの疑問を抱えながら、龍姫神の元へと詰め寄ってきた。

 その瞬間、パンの姿を目にした龍姫神が何かを察したように表情を伏せた。

 

「龍姫神様?」

「……すみません。パンさんは、私に訊きたいのですね? 何故自分があの時、メタフィクスに狙われたのかを」

 

 パンが用件を話すよりも先に、龍姫神がその話を言い当てる。

 ゴールデンフリーザを模したメタフィクスの分身──それがあの時、パンの身を狙っていたことは明らかだった。しかし、その理由がどうにも解せない。元々戦士ではないブラを抜けば、パンはサイヤ人の中では最も戦闘力が低い戦士である。彼からしてみればとても脅威になるような力を持ち合わせている筈が無く、にも拘らず自分を狙ってきた理由がパンにはわからなかったのだ。

 それと全く同じことを父の悟飯も訊ねようとしていたが、その前に龍姫神が答えた。

 

「おそらく、邪悪龍達との戦いが原因なのでしょう。今の貴方の身体には、確かに「龍の気」が眠っているのです」

 

 龍の気──それは、あのメタフィクスも言っていた言葉だ。文面から察するに、おそらくは彼女が身に纏っているような特殊な「気」のことを言うのだろうとパンは当たりをつける。

 しかしそれは、尚のこと謎が深まるばかりだった。

 

「あいつもそんなことを言っていたけど、それって……」

「パンさんもまた、龍姫神である私や孫悟空さんと同じ存在に近づいているということです」

 

 龍姫神がそう言うなり、柳眉をしかめて明後日の方向に目を向ける。

 彼女の話にパン達が深く問い詰めるよりも先に、彼女だけが上空からこの場所へ向かってくる「神」の気配を感じたのだ。

 

「メタフィクスが来ます!」

「みんな、伏せて!」

 

 瞬間、容赦の無い激震と轟音が、体勢を崩した一同の身を襲う。

 遥か上空から物凄いスピードで飛来してきた黒い人影がこの家の壁を突き破り、彼女らの前へ強引に降り立ったのである。

 

「一つ、龍の気が現れたと思えば……やはり邪魔をしますか、レギンス」

 

 おびただしい量の土煙の中から、彼が一歩ずつ前に出てくる。

 それは以前感じたフリーザの「気」とはまるで種類が異なる、特殊な気配だった。

 そしてそこにあったのは金色のフリーザの姿ではなく──一同が別れて久しい最高の友にして、この宇宙を救った英雄の姿だった。

 

「悟空!?」

 

 その顔も、身体も、髪型も──身に纏う「気」以外の全てが、往年の孫悟空の姿と同じだったのである。そのほかに違う部分と言えば身に纏っている黒い道着と、左耳にかつて界王神が持っていた宝具「ポタラ」を着けているところぐらいなものだ。

 

「メタフィクス、その姿は……!」

「新しい分身に姿を変えさせていただきました。ここより別の「次元」で孫悟空の身体を手に入れた、神ザマスの化身。「ゴクウブラック」とあの世界の者は呼んでいましたね」

「お前……よくも悟空さんの姿で!」

 

 孫悟空の姿をした邪神メタフィクスの影が、厳密にその姿の基となった人物の名を紹介する。しかし動揺からか一同の耳には届いておらず、その心にあるのは大半が彼の声までも孫悟空を模されたことに対する「戸惑い」や「憤怒」であった。

 特に、孫悟空に対して弟子という立場から尊敬し、憧れを抱いていたウーブの怒りは一層激しかった。彼に悟空の姿を模されること──それ自体が、師匠への侮辱にしか見えなかったのである。

 しかし、そんなウーブの殺気はどこ吹く風と彼は相手にせず、自らの視界に捉えた「想定外」の人物の姿に顔をしかめていた。

 

「龍の姫君まで訪れるとは、つくづくこの次元は不思議なものです。一体何故、今になって龍神界が動いたのでしょうか」

 

 彼が両の手に拳を握り、その身体に力を入れた瞬間──悟空の姿を模したメタフィクスの内なる「気」が爆発的に上昇し、暴風が吹き荒れる。

 そして彼の悟空と同じ黒髪が逆立ち、花のように優雅な──美しいピンク色へと染まり輝いた。

 

「貴方の能力は厄介です。本体の元へ辿り着かれる前に、龍の気を持つ人間共々消えてもらいましょう」

 

 その変身を行った彼の姿は、穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚める黄金の戦士ではない。

 しかし血と戦闘を好む殺戮の戦士という意味ならば、それは間違いなく伝説の戦士「超サイヤ人」だった。

 

「私が創造し、再現した……「超サイヤ人ロゼ」の力で」

 

 かの神の力さえも模した邪神の分身が、「GT次元」の戦士達に牙を剥いた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。