超融合! 次元を越えたベジータ   作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)

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 ヤムチャは自由な発想でヤムチャしていいんだ!


ドラゴンボールZ ヤムチャとヤムチャ

 睨み合う二人のヤムチャ。

 滲み出る闘気が渦を巻き、両者の間では痺れ刺すような気迫が空気を揺らしていた。

 自然体ながら、全く隙が無い。それはヤムチャでありながら、孫悟空を彷彿させる佇まいだった。

 

「相当、腕を上げたようだね」

「ああ、サイヤ人連中に置いて行かれたくないんでな」

 

 一瞬、二人の姿がその場から掻き消える。

 二人のヤムチャが、超高速で上昇したのである。

 ラッシュとスウェイが交差する攻防。両者は互いに鋭い乱打を浴びせ掛かるが、どちらも痛打を許さない。鮮やかな拳の応酬を受けて左右に弾き飛ばされた二人は、共に宙返りを打ちながら岩の柱へと着地し、同時に繰り出した跳び蹴りで互いの脚を交差させていく。

 当然、脚の長さも同じ二人のヤムチャは、互いの靴底を互いの頬へと突き刺し合う形になった。

 しかし、どちらも怯まず同時に体勢を立て直すと再び肉弾戦へと移り、拳を連打していった。

 

 ──速い。そして、強い。

 

 二人の戦いを最も近くで見上げながら、レギンスは想像を遙かに超える「ヤムチャ」の戦闘力に驚嘆した。

 

「これが……全盛期のヤムチャさんの力……?」

 

 人間だった頃のレギンスは、ヤムチャと会ったことが無い。精々が祖母の噂で耳にした程度であったが、ヤムチャという男がこれほどまでめっぽう強いとは聞かされていなかったのだ。

 実際、彼女が今回のように各次元に顔を出した時もヤムチャは特別印象深いと言えるほどの力は見せていなかった筈だと振り返る。

 

 しかしどうだろう? このヤムチャは。

 

 もしかしたら、自分が知るヤムチャはまだ全盛期ではない時期のヤムチャだったのかもしれない。

 

 リボーンズヤムチャは神の気を習得し、それを自身の力として完全に使いこなせている。もちろん神の気を持つ者が必ずしも別格に強いというわけではないのだが、少なくとも彼の実力は魔人ブウを上回っていると言っていいだろう。

 それに対してヤムチャは……ヤムチャ・ティエリアーデという男は、神の気とはまた別の力で渡り合っている。レギンスには何よりそれが衝撃的だった。

 

 仮にこの世界で「力の大会」が開催された場合には、間違いなく第七宇宙代表に選ばれるだろう。それほどの実力が二人にはあった。

 

 しかも、彼らとしてはこれでまだ「小手調べ」の段階だというのだから恐ろしい話だ。

 

 

「何とも感慨深い……まさか君が、ここまで強くなるとはね。新婚生活で忙しかったろうに、七年でよく仕上げたものだ」

「守るものが増えたからな。人間ってのは、それだけでびっくりするぐらい強くなれるのさ」

「……なるほど、そういうことか」

 

 二人が間合いを空けながら、再びレギンスの前へと着地する。

 ヤムチャの実力を正当に受け入れた上で賞賛するリボーンズヤムチャの姿は、心なしかヤムチャの成長を喜んでいるように見えた。

 

「ふっ」

 

 そして次の瞬間──リボーンズヤムチャの姿が薔薇色に変わる。

 

 超サイヤ人ロゼ。

 

 界王神とサイヤ人の因子を研究した結果生まれた、神の気を持つ人造超サイヤ人ヤムチャキャノン。そのヤムチャキャノンとリボンズヤムチャが合体したこのリボーンズヤムチャは、神の魂と孫悟空の肉体を持つゴクウブラックのようにこの姿へと変身することが出来るのだ!

 圧倒的な威圧感と神々しさ、そして禍々しさをも併せ持つ混沌の超サイヤ人の姿には、もはやヤムチャらしい要素は微塵も無い。

 

「なら、この上を期待してもいいかい?」

 

 変身によって戦闘力が数百倍まで引き上がった薔薇色のリボーンズヤムチャが、不敵な笑みを浮かべてヤムチャの目を見据える。

 その瞳に、ヤムチャは同じく笑みで応えた。

 

「ああ、目に物見せてやるぜ!」

 

 そして、ヤムチャもまた変貌する。

 

 右手に繰気弾。

 左手に繰気弾。

 

 同時に二つの繰気弾を展開したヤムチャは、自身の周囲を旋回していくそれを自身の体内へと吸収していく。

 瞬間、ヤムチャの両肩から凄まじい量の気の光が緑色のオーラとなって奔流していき、瞬く間にヤムチャの全身を覆っていった。

 

「これは……!」

 

 それはまるで、超サイヤ人フォレストのようだった。

 龍姫神であるレギンスが、一瞬、龍の気かと見間違えるほどの神々しい光だった。

 光の粒子を撒き散らす緑色のオーラを纏ったヤムチャが、薔薇色のオーラを纏うリボーンズヤムチャと相対する。

 

 

「これがヤムチャドライヴの応用……【ツインヤムチャドライヴ】ってとこかな」

 

 

 超サイヤ人のような爆発的なパワーアップを遂げたヤムチャが、両目の虹彩を金色に輝かせながら言う。

 それこそが、純粋なるヤムベイターが会得した極みだった。

 

「二つの繰気弾を体内で同調させたのか? まったく君というニンゲンは……実に面白い」

「俺もビビったぜ。悟空達は、こんな世界を見ていたなんてな!」

 

 そして、二回戦が始まる。

 リボーンズヤムチャとヤムチャ。

 超サイヤ人ロゼとツインヤムチャドライヴ。

 変革を遂げた者同士のぶつかり合いは人知を超えた波動をぶつけ合い、彼らの拳や蹴りが閃く度に大地が震えた。

 

 ──狼牙風風拳は光をも超える。

 

 並大抵の人間には観測すら出来ない神次元の激突は、横槍を入れるには無粋すぎると感じるほど見入ってしまうほどだ。

 時系列的にはまだ魔人ブウが復活するかしないかという時期な筈なのだが、この二人が居ればもはや破壊神ビルスすら返り討ちに出来るのではないかとさえ思えるレベルだった。

 

「狼牙双龍剣!」

「狼道斬月波!」

「繰気龍!」

「繰気斬!」

「かめはめ波ー!」

「リボーンズかめはめ波ー!」

 

 鍛え抜かれた技と技が幾度となくぶつかり合い、その余波だけで大地が裂けていく。

 レギンスはそんな地面から逃れるようにふわりと舞空術で浮かびながら、彼らの死闘を傍観していた。

 龍神界の者は、外界の者達に対して常に公平であらなければならない。神龍が中立的な存在であるように、龍姫神もまたどちらか一方に肩入れするわけにはいかないのだ。

 勿論時と場合にもよるのだが、こうして現地の人間同士が戦っている場に割り込むのは避けたい事情があった。

 

 このままヤムチャがリボーンズヤムチャを倒してくれるのなら……レギンスにとってはそれが最善であったが、リボーンズヤムチャは強かった。

 

「界王拳」

 

 リボーンズヤムチャはこの第七宇宙に居る戦士達の、全ての技をラーニングしている。

 膠着状態に陥った状況の中、このままでは埒が開かぬと最初に切り札を切ったのはリボーンズヤムチャの方だった。薔薇色の超サイヤ人ロゼの姿からさらに赤みを深めると、爆発的に上昇したスピードとパワーを持って一気にヤムチャを圧倒していく。

 力任せに打ちつけた拳がヤムチャの身体を吹っ飛ばし、赤い彗星となったリボーンズヤムチャが残像を残す螺旋を描きながら追撃を掛けていく。

 無論、ヤムチャもやられっぱなしではない。

 

「界王拳!」

「ふっ……そうだ、それとやりたかった!」

 

 リボーンズヤムチャの仕掛けた追撃の狼牙風風拳を、同じく赤く染まったヤムチャがかわし、横合いから回り込んで蹴り飛ばしていく。

 本気を出したヤムチャの姿に闘気の笑みを深めたリボーンズヤムチャが、その高揚を表すように放出する神の気を高めながら体勢を立て直し、再び青い空に真紅の軌跡を描いていった。

 界王拳は体内に潜在する気をコントロールすることで一時的に通常の数倍もの戦闘力を引き出す短期決戦の大技である。無論肉体への負担も大きいが、その威力は絶大だ。

 

 ──故に、決着は一瞬でついた。

 

 尤もその一瞬の中で彼らは数百をも超す拳を互いに打ち付け合っていたが、時間にしてみれば一分と掛からない戦闘時間だったのだ。

 

「貰っ……ッ!?」

 

 リボーンズヤムチャの攻撃をかわし、彼の背後を取ったヤムチャが狼の牙を象った右手を振り上げる。

 そして次の瞬間──突如としてヤムチャの身体が爆発し、地に墜落したのである。

 それは、彼がリボーンズヤムチャから攻撃を受けたからではない。彼自身の技によって発生した変調が、この戦いの敗因となったのだ。

 

「愚かなニンゲンだ」

 

 拍子抜けしたような顔で、リボーンズヤムチャが異常を来したヤムチャの姿を見下ろす。

 ヤムチャが苦虫を噛み潰した表情を浮かべながら、うつ伏せの姿勢から敵の目を睨み返した。

 

「どうやら、その力はまだ完全ではなかったようだね」

「うるせぇ……っ、もう少し、帰るのを遅くしろよな……!」

 

 界王拳はただでさえ肉体への負担が大きい技だ。それをまだ未知数な部分が多いツインヤムチャドライヴの状態に重ね掛けして扱うには、「ツインヤムチャドライヴ」を会得したヤムチャの熟練度は万全ではなかったのだ。

 その結果、あと少しでリボーンズヤムチャの首元へと届いたであろう狼の牙は、紙一重のところで砕け散ることとなった。

 身動きが取れず、這うような姿勢で倒れ伏したヤムチャの首元に、鞘から引き抜かれたリボーンズヤムチャの青竜刀が差し向けられる。

 

「いいところだったのに……残念だ」

 

 壮絶な激闘の末の呆気ない決着に、リボーンズヤムチャが失望感を滲ませる。先までの興奮が消え失せた冷酷な眼差しだった。

 このままではヤムチャが殺されてしまう。流石にそれは止めなくてはならないと、レギンスが手を出そうとした──その時だった。

 

 

「おい、おめえ!」

 

 

 聞き慣れた、男の声が聞こえた。

 

 澄んだ瞳に鍛え抜かれた肉体。その身に山吹色の胴着を纏った男の名は、龍神界の誰もが知っている地球育ちのサイヤ人だった。

 

「今度はオラとやろうぜ!」

 

 孫悟空。

 いつからそこに居たのやら、この世界の孫悟空が二人の戦いを嗅ぎつけ、やって来たのである。

 彼の声に反応し、振り向いたリボーンズヤムチャがふっと再び喜悦に唇をつり上げ、ヤムチャが申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。

 

「孫悟空か。どうやら彼は、君がやられるまで律儀に待ってくれたようだね」

「まあアイツはそういう奴だ……くっそー……完全に、前座になっちまった!」

「ふふ、その方が「ヤムチャ」らしいじゃないか」

「うるせぇ」

 

 悟空の方を見ながら、二人のヤムチャが今の状況に対して語り合う。そんな二人を見て、レギンスが不思議に首を傾げた。

 出会った途端お互いに容赦の無い殺し合いをする割には、どこか気心が知れた仲のように見えたのだ。

 彼らはもしかすると、超次元で言うところの「力の大会」後の孫悟空とフリーザの関係に近いのかもしれない。

 

「リボンズ、地球に帰ってたんだな」

「この星で面白そうなことが起こっていたから、少し顔を出してみたんだ。今日のところは君達と戦う気は無かったんだけどね」

「だけど今は、やる気満々だろ?」

「ふっ、それはそうだろう? あのヤムチャが、ここまでボクに迫ったんだ。だったら君はどれほど高めているのか期待するものさ」

 

 薔薇色のオーラがリボーンズヤムチャの身を再び覆い、以前二人が戦った七年前よりも高まったその力をまざまざと見せつけていく。

 もはや彼の眼中には孫悟空しか収まっておらず、レギンスのことどころか今しがた打ち倒したヤムチャにとどめを刺すことさえも頭から消えているようだった。

 それほどまでに、リボーンズヤムチャの目は孫悟空に釘付けだった。

 

「やっぱすげえなおめえ。チチには怒られたけど、修行の手を抜かなくて良かったぜ……ふん!」

 

 相対する悟空の黒髪が青く染まり、蒼炎のようなオーラが彼の姿を覆っていく。

 超サイヤ人ゴッドの力を持ったサイヤ人の超サイヤ人。通称超サイヤ人ブルー。静かに練り上げ、研ぎ澄まされた神の気は、まだ戦闘が始まっていないにも関わらず凄まじいものだった。

 

「なるほど……これは凄いね。ウイスも居ないのに、我流でここまで高めていたとは……いや、我流だからこそ、かな?」

 

 この世界には、天使ウイスは居ない。

 それは過去にリボーンズヤムチャに唆されたフリーザが界王神を抹殺したことで破壊神ビルスが死に、次の破壊神が生まれるまでの休眠状態に入ったからである。

 即ち、この世界の孫悟空は「神の気」に関して師匠役が居ない状況に居ながらも、独学でブルーの力を磨いてきたのである。

 その上でなお、彼の成長ペースに陰りは無かった。

 

「最初のうちは戸惑ったさ。超サイヤ人ゴッドの力は、今までの超サイヤ人とは随分勝手が違ったからな。参考にできるもんは何もなかったし」

「だが、君は何とかしてみせたのだろう? 君は戦いの天才である以上に、修行の天才だ。この期に及んで師匠に左右されるような器とは、ボクも思っていなかった」

 

 リボーンズヤムチャがいっそ褒め殺しと言えるほど彼を称えるのは、自身が彼に辛酸を嘗めさせられてきたことからの経験故か。

 しかしその評価は見事なまでに的確で、彼は孫悟空の超サイヤ人ブルーに眠る「真の力」を見抜いていた。

 

「なれるんだろう? その()に」

 

 その力を見透かしたように、リボーンズヤムチャが問い掛ける。

 彼の言葉に、悟空がニヤリと笑みながら肯定を返した。

 

「バレたか」

「なりなよ。ボクの身体はとっくに火照っているんだ。君のウォーミングアップに付き合う気はないよ」

「いいのか? やる気なくなっちまうかもしれねぇぞ?」

「ふっ……それもまた一興さ」

 

 クイッと人差し指を巻きながら、リボーンズヤムチャが悟空を挑発する。

 

「カモーン……ジュッテーム」

 

 妙に色っぽい彼の声音に対して──孫悟空は全身全霊で応えた。

 

 

「はああああああああああっっ!!」

 

 

 咆哮。

 刹那、それまで静かに揺らめいていた超サイヤ人ブルーの蒼炎が唸りを上げて膨張していき、この大地を青い光で染め上げていった。

 火山の噴火よりも激しい力の雄叫びと覚醒。その光が晴れた時、一同が目に映したのは先ほどまでの孫悟空とは違う、超サイヤ人ブルーであって超サイヤ人ブルーではない姿だった。

 

「驚いた……そっちで来たか」

 

 超サイヤ人ブルーよりも一層荒々しくなった青色の光が常に全身を覆い、青い瞳が煌めきを放ち続けているその姿。

 それを見たリボーンズヤムチャは驚き、意外そうな顔で呟いた。

 レギンスも同様に驚いている。何故ならばそれは、大半の世界では彼では無く、彼女の祖父「ベジータ」が至っていた変身だったからだ。

 

「これが進化した超サイヤ人ブルーだ。これとは別に「身勝手の極意」っていうのがあるのはヤムチャから聞いたけど、そっちはなんだかオラ向けじゃなさそうだったからな」

「ははっ……なるほど、ボクが導いてきた君には、もはやあの力を目指す理由も必要も無かったというわけか!」

「まあそんなことはどうでもいいさ。コイツでケリつけようぜ……リボンズ!」

「いい覚悟だ!」

 

 辿ってきた歴史が変われば人も変わる。

 人も変われば性格も。もちろん身につけた力も。

 このヤムチャだらけの世界で孫悟空が会得した極みもまた、他の次元の孫悟空とは違うようだった。

 もはや何をしても面白い男と言うか、何をしてもおかしくない男だと言うべきか……良くも悪くもこちらの目を引き寄せてしまう彼の存在に対して、レギンスは龍神達が面白がるわけだとつくづく思った。

 

 

「リボーンズヤムチャ! 狼牙風風拳──行くっ!!」

 

 

 ……尤も、この世界で一番面白いことになっているのはこの男(ヤムチャ)だったが。

 

 

 

 


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