超融合! 次元を越えたベジータ   作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)

22 / 25
特別編 『Blue velvet』

 第七宇宙の界王神を除く全ての神は邪神メタフィクスによって滅ぼされたが、GT次元の神龍の力で一部を除き人間として生き返った。そんな彼らのその後であるが……人望のある者はかつての部下である界王と行動を共にし、またある者は下界での生活を満喫している。

 もちろん以前の力を取り戻すべく日夜奔走している者達も居るが、その道はやはり困難を極めた。中には超ドラゴンボールに願ったこともあったが、あろうことか超神龍は彼らの願いを「拒否」したのだ。

 

 超神龍が言うには、この次元に居る全ての神龍には神々の願い事に対してのみ、己の意思で拒否出来る権限が与えられているのだと言う。そして彼らはその権限を行使し、「神が自分達の役割を見つめ直すまで、その願いは容認出来ない」と元神達を突き放したのである。

 

 もちろん、そのような権限は今までの神龍には存在しなかった筈である。ドラゴンボールを揃えた者の願いなら、たとえ宇宙を脅かす極悪人の蘇生であろうと引き受けてくれたのが本来の神龍なのだ。

 そんな神龍達が自らの意思で願いを拒否出来るようになった理由はわかっていないが、おそらくは邪神メタフィクスの陰湿な嫌がらせだろうと推測されている。

 

 そのように神龍達が揃って願い事を拒否している現在、元神達がかつての力を取り戻すにはドラゴンボールに頼らない方法が必要だった。当然そのようなものは十二個の宇宙を探し回っても容易く見つかるものではなく、事件から数年が過ぎた今でも神復活への足掛かりは見つかっていなかった。

 

 

 ──そんな話を他人事のように語ったのは、現在人間としての生活をそれなりに楽しんでいる元天使ウイスと元破壊神ビルスである。

 

「ざまあみなさい! ……って思う気持ちもあるけど、巻き込まれた真面目な神様はかわいそうね」

 

 旅人としてこの第七宇宙を流離っていた二人と数年ぶりに再会したブルマは、彼らの語るあちら側の事情に複雑な心境を抱いていた。

 結局人間としても生き返ることが出来なかった全王に関しては胸がすく思いであったが、メタフィクスが及ぼした影響が真面目に頑張っていた善良な神にまで及んでいることを思うと、さしもの彼女も同情を禁じえない。

 しかしそんなブルマの言葉に対して「連帯責任だよ」とあっけらかんと返したのは、意外にも元破壊神のビルスだった。

 

「僕達だって一部の人間を見て破壊するかしないか、生かすか見捨てるかを決めてきたんだ。それが今、僕達の番に回って来ただけだ」

「ええ、ビルス様の言う通りでしょう」

 

 因果応報という言葉があるように、人とは過去の行いから相応の報いを受けるものなのだ。

 今のビルス達はまさにその報いを受けている真っ最中と言っても良く、今度は彼ら自身が取捨選択をされる側の立場になったということである。

 しかしそう語る二人の様子は何ともあっけらかんとしており、自分達が力を失ったことに対する悲壮感を感じさせないものだった。

 

「やけに素直じゃない。あんた達は、神に戻ろうって気は無いの?」

「戻れるものなら戻りたいですが……何分天使時代は掟が多くて不自由な身でしたからね。あれでも私は、それなりの気苦労を抱えていたのです」

「ビルスさんは?」

「別に、どっちでも。破壊神になる前の頃のように、初心に戻って一から鍛え直すのも悪くないからね」

「ビルス様やシャンパ様などは、元破壊神の中でも適応が早かった方でしょう」

 

 ブルマから「様」ではなく「さん」付けで呼ばれたことに対しても、ビルスは特に咎めることなく軽く聞き流している。それは彼自身が神ではなくなったのだから、同じ人間である彼女から敬われなくても当たり前だと考えているからであろう。

 こういった切り替えの早さに関しては、破壊神時代から身分にあぐらを掻いていたわけではないビルス個人の器の大きさを表していると言えよう。

 

 そんな彼だからこそ、なんだかんだで自分を含む地球の人々は彼の存在を受け入れているのかもしれない。ブルマはそう思う。

 

 今は破壊神ではなく、一人の武道家として修練に励んでいると自らの近況を語るビルスに苦笑しながら、ブルマはそれならと彼らの数日後の予定を訊ねてみた。

 

「そう言えば今回の天下一武道会、あんた達は出るの?」

 

 近日開催される、第二十八回天下一武道会のことである。

 息子のトランクスの話によれば悟飯の娘であるパンが出場するらしいその大会には、どういう風の吹き回しか悟空が久しぶりに参戦する予定らしい。

 そんな彼らに触発されたベジータも出場を決めており、父親命令によりトランクスも出場する予定になっている。

 

「悟空さんからお誘いはありましたが、私としては大会よりも出店の方が気になるのでお断りしておきました」

「僕も今回はやめておくよ。アイツの興味も魔人の生まれ変わりっていう奴にあるみたいだし、今の僕が出しゃばっても白けるだけだろう」

「あら意外……でもないか。やっぱりあんた達は、前とあんまり変わらないわね」

 

 神ではなくなったことで破壊の使命も失った今の彼らは、ただ強い力を持っているだけの美食家に過ぎない。

 以前の二人とて、破壊行為そのものを楽しんで行っていたわけではなかったのだろう。ある意味破壊神という生き物は、ブルマ達が思っていた以上に不憫だったのかもしれない。

 

「お前のところの二人は出るんだろう?」

「ええ、たまにはベジータにも稼いできてほしいし、トランクスも出るわ。悟天君も出るみたいだし、面白いことになりそうね」

「トランクス、ねぇ……」

「なに? うちの子がなんか不満?」

「いや……でかくなっても、こっちのアイツは未来に似ていないと思っただけだ」

 

 トランクス──邪神誕生のきっかけになったブルマの息子に対して、時代が違うとは言えビルスには思うところがある様子だ。

 無論、ブルマからしてもかの邪神に対して感じているものは大きかった。

 

 あの時、無理にでも自分が彼をこの時代に引き留めていればと……ベジータから事の顛末を聞いた時は、一時は自責の念により後悔に病んでしまったほどだ。

 おかげで二十代並のアンチエイジングに成功していた肌も、今では実年齢相応にしわがれてしまったものである。

 

 どう足掻いても、時間とは多かれ少なかれ人を変えてしまうものだ。

 

 しかしブルマからしてみれば、そう言った変化の中で邪神に堕ちてまで自分の意志で世界を救おうとしていたと言う彼の行動を、責める気にはなれなかった。

 寧ろよくやったと……よく頑張ったわねと褒めてあげたかったのが、母親としての思いだった。

 

「そうは言いますが、ビルス様は成長したトランクスさんの姿に、時折邪神のそれを重ねているそうですよ?」

「あはは、なに? ビルスさん怖がっているの? 心配しなくても、うちの子はあんまり変わっていないわよ。寧ろ、もう少し未来の方を見習ってほしいぐらいだわ」

「アイツがまた出てくるのは御免だからな。頼むぞ、本当に」

「……わかってるわよ。安心しなさい」

「しかし、あれは破壊神を破壊したばかりか、全王様を完全に消滅させた存在ですからねぇ……皆さんの殺され方もそれは酷いものだったようで、邪神メタフィクスの名前は今でも恐怖の代名詞として扱われているほどです」

 

 邪神メタフィクス──この世界から神を殺した邪神の存在は、今もなお強い影響力を及ぼしている。

 彼のことを覚えている者達はかつて彼から受けた恐怖を幾度となく悪夢に見て、一部の者は重度のPTSDを患い今も怯え続けているという話だ。

 ……というのも、一思いに息の根を止められたビルスやウイスなどにはまだ慈悲深かったぐらいであり、彼の分身が相手をした他の神や天使などは「神封じの結界」に身動きを取られた状態からゆっくりと耳を引きちぎられ、目を抉り取られ、喉を掻き切られては念入りに踏みにじられたのだと言う。そしてそのように瀕死の状態にしたかと思えば、メタフィクスは彼らにより苦痛を与える為だけに、あえて自身の力で彼らの身体を回復させた後で再び嬲り殺しにしたのだそうだ。

 実際にそんな目に遭ったのはビルスやウイス以上に人間の命を軽視していた悪徳な神々であったが、彼らを相手にした時こそメタフィクスはまさに邪神と呼ぶべき残虐性を見せたのである。

 彼らの心がへし折れて命乞いをされようと、メタフィクスは骸と成り果てていく神に振り下ろす暴力を止めなかった。

 何より恐ろしかったのは、そのように神を嬲り殺しにしている時でさえ彼の表情には感慨の色がなく、道端の蟻を見下ろすように冷めたものだったことだろう。

 憎しみや怒りを通り越した虚無の眼差しは、いかに彼がこの世界に絶望していたかを物語っていた。

 

「力だけで統制される秩序は、より強い力が現れた途端、脆く崩れ去っていく……いつしか私達は、そんなことさえわからなくなっていたのかもしれません」

「アッタマに来るけど、そればかりはザマスのことを笑えないよね……」

 

 未だ神の世界で強い影響が残っているのは、彼の死亡を見届けた者がこの世界に居ないというのもあるのだろう。

 故に、ふとした瞬間に再び邪神メタフィクスが自分達の前に現れるのではないかという思いが、ビルスを含む神々の心には纏わりついていた。

 全王復活の為神龍に強行する者が居ないのも、そう言った邪神への根強い恐怖心が抑止力になっている面もあるのだろう。

 神であった頃は圧倒的に高位な存在であったが故に、彼らは人間以上に恐怖への耐性が無かったのだ。

 

「要は神様のみんなは慣れ過ぎていたんでしょ? 何でも出来る自分にさ」

「ぐうの音も出ませんね。ですが、ブルマさん自身も力を持っている側であることをお忘れなく」

「え、どこが? 私はか弱い地球の女よ?」

「元とは言え破壊神と天使にため口聞いておいて、よく言うよ」

 

 いつの日か神が神に戻る日が来るとしても、それで喜びに舞い上がる奴なんてほとんどいなんじゃないかなぁと、ビルスはそう思っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、悟空の孫であるパンが初めて天下一武道会に出場する日だった。

 そして他の出場者には悟空自身と成長した悟天、トランクスにベジータも出場している。

 悟空が今になって出場を決めた理由としてはもちろん魔人ブウの生まれ変わりが目当てにあったが、かと言ってそれだけが目的というわけではない。秘めたる力は大きいとは言え、幼年で心細かろうパンを引率する意味でも悟空の出場には意味があると言えた。

 

「悟飯の奴も出れば良かったのになぁ……パンも父ちゃんが戦うとこ見たかったろ?」

「うん! でもおうえんしてくれるからいいよ!」

「そっか、きっと父ちゃん、パンの強さにビビっちまうだろうな~」

「えへへ」

 

 パンは今、子供達の中で一番根性があると悟空は見ている。それこそ子供の頃の自分とは比較にならない才能を持って生まれた彼女には、悟空の目を持ってしても計り知れない可能性に満ち溢れていた。

 そんな孫の成長を見ることも、人生の楽しみの一つである。

 すっかりオラもお爺ちゃんだなぁとしみじみ感じながら、悟空は孫の手を繋ぎながら予選開始までの空き時間、会場周りの出店を気ままに巡っていた。

 そんな時、パンがおもむろに前を指差してはしゃぎ始めた。

 

「あっ、ハトさん!」

「ん? ああ、いっぱいいんなぁ」

 

 広場に集まっている、白いハトの群れである。

 食べ物を売っている屋台の匂いに誘われてきたのであろう。そんなハト達を何人かの観光客達は餌やりをして愛でていた。

 パンもまたその光景を見てキラキラと目を輝かせており、彼女の心情を察した悟空は近くの出店で売っていた餌用の豆を購入し、パンに与えた。

 

「わわっ」

「ははは、気に入られちまったなぁ」

 

 悟空から貰った豆をパンが嬉々としてばら撒くと、ハト達が彼女の元へ向かって一斉に群がってきた。

 大量の羽毛に驚きながら埋もれていくパンの姿に笑いながら、悟空はふと視界の端に映る、一組の親子の姿に気づいた。

 

「あれ? あそこにいんの……」

 

 パンと同じようにハトに餌をやっている青髪の少女と、その子の様子を後ろから見守っている黒髪の女性。

 母娘と思わしき組み合わせであったが、悟空は親の女性の姿に見覚えがあった。

 女性の方もまた悟空の存在に気づくと、はっと息を呑みながら彼の名を呼んだ。

 

「孫悟空?」

「おめえ、未来の方のマイじゃねぇか! 久しぶりだなー!」

「あ、ああ」

 

 マイ──邪神メタフィクスの事件が起こる前、トランクスと共に別の未来へ旅立っていった彼の恋人である。

 この時間軸のマイもまた大人の女性へと成長を遂げているが、目の前にいる彼女の姿はこの時代の彼女よりも貫録が見える、妙齢の女性であった。

 何か用事があってこの時代に来たのだろうか。悟空はいつものようにオッスと気安げに手を振りながら、彼女の居る方へと歩み寄った。

 

「おめえもこっちに来てたんか。いってーどうやって? タイムマシン使えたんか?」

「いや、タイムマシンは犯罪になるって言うからさ……今回は、龍姫神っていう神様に手伝ってもらったんだ」

「あー、あの神様かぁ。そっちの世界にも来たんだな」

 

 また会うことが出来るとは、と悟空は彼女との再会を喜ぶ。しかしその一方で、悟空は彼女に対して負い目を感じていた。

 その感情を誤魔化すように……という意識は特別抱いてはいないが、世間話もほどほどに悟空は視界の端に映る小さな少女について訊ねてみた。

 

「なあ、もしかしてそっちの……ちょっと目つきの悪いミニブルマみたいな子って、おめえの子か?」

「目つき悪い言うな! 父親に似て凛々しい子に育つんだからな!」

「お、おう……わりぃ、悪気はなかったんだ。この通り」

 

 少女の姿がどことなく似ていることから、悟空は少女がマイの実子であることを察する。

 そんな悟空の能天気そうな態度を見て、呆れたようにマイが苦笑を浮かべた。

 

「まったく……あんたは変わらないな。身体ばかり大きくなっても、中身は昔のままだ」

「そうか? オラもついこの間まで、結構悪い方に行ってたんだけどな」

 

 生きていた時間軸こそ違うが、思えば悟空にとって彼女とは数十年来の付き合いになるか。

 最近まではすっかり忘れていたが、ブルマ達と初めてドラゴンボールを探し回った時、争奪戦を行ったのが彼女やピラフとの出会いの始まりだった。

 

 そんな子供の頃、大切に思っていた場所を思い出し、悟空は苦笑する。

 

 お爺ちゃんになった今でも周りの者達からはあの時のままだと言われることの多い悟空だが、実際のところは思っていた以上に変わっていたのだと最近は思うようになっていた。

 良きにせよ悪しきにせよ、子供の頃の孫悟空と今の孫悟空は違っている。

 

「あとちょっとでオラは、一番大切なもんを無くしちまうとこだった」

「……そう」

 

 だが、どちらも正しく孫悟空というキャラクターなのだ。

 この素晴らしい世界で生きていく中で、悟空は人間として失ってはならないものを持ち続けている。

 その尊さを知った今、もう二度と大切なものを忘れたくはなかった。

 

「なあ、あの子の父ちゃんって、やっぱり……」

 

 ──その時だった。

 

「っ!」

 

 青い風が吹き抜ける。

 

 それは、突如としてこの場に現れた大きな「気」だった。

 人よりも強く、神よりも静かな「気」。

 その性質は今まで悟空が対面してきたどの戦士とも異なるものであったが、根元にあるものは間違いなく、彼の知る未来戦士のそれであった。

 

「悟空さん……ここに居たんですね」

「……おどれぇた。おめえの気、前とも昔とも別(モン)になってるぞ」

 

 青みがかった灰色の髪に、父親譲りの鋭い眼光。

 あの時を最後に別れた青年の姿はあの時のままであったが、身に纏う雰囲気は明らかに違っていた。

 今の彼は憑き物が落ちて、確固たるものを持っているように見える。

 そんな彼との再会を喜びながら、悟空は安心した表情で名を呼ぶ。

 

「よく来てくれたな、えっと……メタフィ邪神ンクス?」

「……トランクスか、せめてメタフィクスと呼んでくださいよ」

 

 感じた「気」が邪神とも人間とも違う気がした為、悟空はいつぞやのピッコロを呼んだ時のように要らぬ気遣いを見せる。

 帰ってきた彼の姿に、悟空は肩の荷が下りたように安心を感じた。

 

「じゃあ、元通りトランクスって呼ぶよ。元気そうで何よりだ。オラもベジータもブルマも、みんなおめえのこと心配してたんだぜ?」

 

 トランクス、青みがかった灰色の青年が、それまで浮かべていた難しい顔を解く。

 脱力したように、彼もまた安心した様子で呟いた。

 

「……貴方は本当に、不思議な方だ」

 

 前に会ったのは敵同士であり、本気で殺し合いをしていた筈の関係だった。

 しかし今のトランクスを見る悟空はそんなことをまるで気にしていないと言わんばかりに、昔と変わらない朗らかさで応じていた。

 そんな悟空の姿に毒気を抜かれたように苦笑を浮かべると、トランクスは広場でハト達に餌をやっている少女を手招きする。

 

「レギンス、こっちに来なさい」

「はーい!」

 

 彼に呼ばれた少女が、元気良く駆け出してこちらへやってくる。

 子犬のように寄ってきた彼女の肩に手を置きながら、トランクスは少女の紹介を行った。

 

「この子はレギンス、俺達の子供です」

 

 思った通り、少女はマイと彼の間に生まれた娘だったようだ。

 こうして両親の間に立っている姿を見ると、どちらの面影もあることがわかる。

 

「はは〜やっぱりか! 髪の毛とか、結構ばあちゃん似なんだなぁ」

「レギンス、この人が悟空さん。孫悟空……俺のことを何度も助けてくれた、悟飯さんのお父さんだよ」

「ええっ!? この人が!?」

 

 一方でトランクスが悟空のことを娘に紹介すると、彼女は驚きの表情を浮かべながら慌てて母親の後ろに隠れた。

 そんな彼女は警戒心を露わにしながら、顔半分だけ出して悟空の顔を覗き込む。

 

「う〜……」

「な、なあトランクス、オラすげぇ睨まれてんだけど……おめえその子になに吹き込んだんだ?」

「多分、貴方が父さんのライバルだからではないかと……」

「この人ったら、レギンスに物心ついた頃からお義父様のことをよく話していたのよ」

「あー、それでか。それじゃあ、しょうがねぇか!」

 

 初対面の彼女に警戒される心当たりがなかった悟空だが、その説明を聞いて腑に落ちてしまう自分がどこか可笑しく感じた。

 彼女がトランクスの影響を受けて自分の祖父ベジータを贔屓しているのだとすれば、これ以上なく納得のいく対応に思えたのだ。

 

「悟空さんのことを悪く言っていたわけではないんですが……レギンス、やめなさい」

「だってぇ……孫悟空って人、おじいちゃんのこといじめてたんでしょ?」

「誤解だ、レギンス。悟空さんは……」

「ははっ、おめえおもしれぇこと言うな」

 

 悟空がベジータをいじめる。何とも新鮮な発想をする子だと、思わず笑ってしまう。

 そんな和やかな空間に、当人が割り込んできたのはその時だった。

 

「トランクス! 貴様、てめえのガキになに吹き込みやがった!?」

「!? と、父さん……?」

 

 未来の息子の存在を察知した途端、大急ぎで駆けつけてきたのだろう。超サイヤ人の姿で現れたベジータが、そのまま胸ぐらに摑みかかるかのような迫力で降り立つと、数年ぶりに親子が対面する。

 

「罰として貴様にも大会に出場してもらう! わかったな!?」

 

 頰の僅かな緩み具合を見るに、未来の息子の無事を確認して喜んでいるのは間違いなさそうだ。しかし、相変わらず何とも不器用な男である。

 だが、このぐらいの方がベジータらしいのかなと、彼のライバルである悟空は一人そう思った。

 

「……はい、父さん」

 

 そんな形で本来の予定になかった大会出場者が一名追加されたわけだが、きっとそれは、本来の歴史と比べても悪いものではないだろう。

 

 不器用な父親と生真面目な息子が、遠慮なくお互いに向き合う機会が生まれたのだから。

 

 それが二人にとって救いとなったのかは……もはや、語るまでもないだろう。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。