超融合! 次元を越えたベジータ   作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)

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トランクスを救え! ベジータ怒りの出撃準備

 

 

 

「最低よ!」

 

 

 ブルマのその言葉に、この場に居る全員が胸の内で同意した。

 

 未来の息子が平和に暮らしていた世界を、神が壊し、神が消した。その事実を知った途端、世界や時代は違えど彼の母親であるブルマが怒るのは当然だった。

 

「そのザマスって奴も、全王って奴も、頭おかしいんじゃないの!? なに? 自分達が神様だからって、何をやってもいいって思ってるわけ!?」

 

 ブルマの年齢は、今では還暦に差し掛かろうとしている頃合いだ。会社を息子に任せて隠居している身であり、既に孫の一人や二人居てもおかしくはない。しかしそれほどの時が過ぎたこの世界の彼女にもまた、時代が違う息子を想う気持ちは一切衰えていなかった。

 そんな彼女に掴み掛かられた青髪の少女──龍姫神は申し訳なさそうに顔を伏せた。

 

「母さん、その……龍姫神様に怒ってもしょうがないんじゃ……」

「……っ、そ、そうね……ごめんなさい。トランクス、あんたどこも悪くないわよね?」

「あ、はい。俺は健康です」

 

 未来の世界に帰った息子の、その後の出来事。

 ベジータと共に次元の狭間から帰って来た龍姫神によって、その話を聞かされた彼女は一同の中で特に反応が大きかった。

 他の者もまた言うまでもない。この場には悟天やトランクスを始めとする未来から来た彼のことを知らない世代も多いが、知っている者は皆全員が悔しげに拳を握り締めていた。

 

「トランクスさんが……そんな……」

「この次元の未来のトランクスさんは何事も無く、今でも平和に暮らしています。……しかし、超次元の彼は人生の最後まで襲われた絶望に抗いきることが出来ず、遂には病に倒れました」

「別の世界って言っても、トランクスさんは悟空さの命の恩人だ……まだ若ぇだろうに、あんまりだよそんな死に方……」

 

 邪神メタフィクスの真実。

 次元の狭間で彼を取り逃がしてしまった二人は一旦元の世界のブルマの家に戻り、ベジータによって説明を求められた龍姫神が彼らの前で知っている全てを語ったのである。

 自分はベジータの、未来の息子の成れの果てだと──メタフィクス自身が語っていたあまりにも受け入れがたい真実に、誰もが動揺を隠せなかった。

 

「未来のトランクスって、兄ちゃん達と一緒に昔セルって奴と戦った人なんだよね?」

「うん……父さんが心臓病で死ななかったのも、この世界があるのも全部あの人のおかげなんだ」

 

 悲劇的な最期を辿ったのはあくまでも「超次元」のトランクスであり、この次元で一同が出会ったあのトランクスではない。

 しかし厳密には別人だと言っても、彼が向こうの世界でも同じように地球を助けてくれたことに変わりはない。

 大切なものを失った喪失感は、簡単に割り切れるものではない。だから、龍姫神も今になるまであえて何も言わなかったのだろう。

 気まずそうな表情でその場に立つ彼女に、ベジータが沈黙を破るように訊ねる。

 

「……それで、奴は今どこに居るんだ?」

「メタフィクスの居場所ですか……今、映します」

 

 次元の狭間で取り逃がした邪神メタフィクスの所在。

 この場で誰よりも早く思考を切り替えたのがベジータである。彼があの次元の未来のトランクスと名も無き界王神の魂が融合した存在だというのは、先の龍姫神の話でわかった。

 ならばどうするか──少なくとも今の自分がするべきことは、この場で黙祷を捧げることでも彼の次元の自分は何をしていたのだと苛立つことでもない。

 

 ──そうとも、全速前進だ。 

 

 今までもこれからもそうであるように、ベジータは愚直にそれを選ぶまでだ。

 かつての殺戮とは別の意味で、正しく「自分の思い通りにする為」に。

 

「……見つけました」

 

 龍姫神はベジータの問いを受けるとおもむろに水晶玉を出現させ、それをテーブルの上に置いて一同に見せた。

 老界王神や占いババが扱っている水晶玉によく似たそれには、ベジータの息子と同じ姿をした邪神メタフィクスの居場所が──破壊神を一方的に叩きのめしている姿が映し出されていた。

 

「ここはどこだ?」

「超次元の、全王宮と呼ばれる聖域です」

「トランクス、準備をしろ」

「えっ……ああ、次元移動装置を使うんですか?」

「それ以外に何がある!」

「そうよ行きなさいベジータ! メタフィクスをトランクスにして連れて帰って、ついでに全王って奴も懲らしめてきなさい!」

「キレてますね、ブルマさん……」

「当たり前よ!」

 

 居場所がわかれば、後はそこへ向かうだけだ。

 幸いにも今彼が居る「次元」はベジータが今日行ったばかりの「超次元」だ。トランクスの作った次元移動装置を使えば、今すぐにでも問題なく行ける場所だった。

 しかしそんな彼を、「待ってください」と少女の声が制した。

 険しい表情を浮かべる彼女──龍姫神は首を横に振りながら言った。

 

「……今確認しましたが、やはりメタフィクスに先手を打たれていました」

「どういうことだ?」

「超次元へ繋がっている次元の扉が、メタフィクスの力に封じ込められているのです。これではその次元移動装置でも……私の力でも、超次元へ渡ることは出来ません」

「それじゃあ……!」

 

 次元の壁を越えた先にある、「超次元」と呼ばれる世界。その超次元とこの次元を繋ぐ部分だけが、メタフィクスの手によって封鎖されているのだと龍姫神が語る。

 つまりそれは……ベジータはもう、あの世界には行けないということだ。

 

「一つ、お聞きします」

 

 メタフィクスを追えないという言葉に一同が落胆する中、龍姫神が顔を上げ、ベジータの目を見つめながら言った。

 

「邪神メタフィクスによるこの宇宙の侵食は、ベジータさんのおかげで食い止められました。おそらくは、この宇宙が消える心配は無いでしょう」

 

 次元の狭間に身を潜め、タマゴの状態で宇宙を喰らっていたのが、先ほどベジータと龍姫神が対峙したメタフィクスだ。

 そのタマゴをベジータが破壊したことによって、宇宙の侵食が止まったことはあのメタフィクス自身も言っていた事実である。

 そしてメタフィクスの目的が破壊か再生かは知らないがここではない超次元世界にある以上、既にこの次元の者が関わる理由は無くなっていると言えた。

 だからこそ、彼女は問うたのであろう。

 

「私が言うのもなんですが……邪神メタフィクスの問題は、全て超次元側の存在が発端になっていることです。それでも、貴方は戦いに赴くつもりですか?」

「なに勘違いしているか知らんが……俺はそこのガキ共とは違って、正義の心なんてものは持っちゃいない」

 

 住んでいる世界さえも違うと言うのに戦う気満々な理由を訊ねる彼女に、ベジータはくだらん質問だと思いながらも律儀に答える。

 どこまでも自分流に。一切曲げることなく。ただ彼は、信念の赴くままに言い切った。

 

「相手がどこの誰だろうと関係ない。気に入らない野郎はぶっ飛ばすだけだ」

 

 言葉だけを聞けば、自分勝手極まりない発言である。

 しかしそんな彼とももう長い付き合いだからか、彼の家族を始めその言葉の裏に隠された意味を察している者は少なくなかった。

 

「……って言ってますけど、ブルマさん?」

「メタフィクスに直接話を聞きに行こうとしているんでしょ。その界王神様じゃない界王神様が本当に悪い奴だったら懲らしめてひっぺ返して、トランクスだけここへ連れて帰ろうって言ってるのよ、きっと」

「くすっ……パパ、カッコいいわ!」

「……………………」

 

 心情を妻に言い当てられ、娘に茶化される。何とも締まらない格好であるが、ベジータはこの際何も言い返さない。

 気持ち的に和やかになった空気の中で彼らの様子を茫然と眺めていた龍姫神が、間を置いて静かに微笑んだ。

 

「……そういうことですか」

「何が言いたい?」

「私も、全力でお手伝いさせていただきます」

「?」

 

 彼女は水晶玉に映る邪神の姿に目を移すと、今一度、現在置かれている状況を整理する。

 

「今この次元と超次元を結んでいる次元の扉は、メタフィクスの妨害によって閉ざされています。私一人の力では、決してこじ開けることは出来ないでしょう。ですが二人なら……そう」

 

 そう言って、彼女は振り向いた。

 ベジータの側でも、ブルマの側でもない。

 孫一家の──孫悟飯の一人娘である、パンの側へと振り向いたのである。

 

「パンさん、貴方の力があれば、ベジータさんを全王宮まで送り届けることが出来ます」

「えっ……わたし?」

 

 唐突に呼び掛けられたパンが、自らを指差しながら目を見開く。

 そんな彼女の声に、龍姫神が真剣な表情で頷き言い放った。

 

「貴方の中に眠っている、「龍の気」が鍵を握っています」

 

 GT次元最強の戦士、ベジータを送り出す為の儀式が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──断末魔が響く。

 

 皮膚と言う皮膚が燃え散り、魂そのものが消し炭になるような熱の中で、破壊神ビルスはその身を覆い尽くす「死」を感じていた。

 

「ビルス様!」

 

 悟空が助けに入ろうにも、圧倒的な熱量を前にしては近づくこともままならない。

 メタフィクスの放ったエネルギーボールは、まさに宇宙を照らす太陽であった。

 

 小型の太陽は時間の経過と共に拡散していき、破壊神の叫びが聞こえなくなった頃になってようやく姿を消した。

 エネルギーボールが消失した頃には既に全王の宮殿の姿など跡形も無く、そこにあるのは無傷のアルファボールとその周りを意識なく漂っている二人の全王──そして力なく宙に浮かんでいる、破壊神ビルスの無惨な姿だった。

 

「生きていましたか」

 

 宮殿と共に消滅していてもおかしくはない威力であったが、ビルスの身体は辛うじて原型を保っていた。

 尤もその命は誰が見ても風前の灯火であり、今にも消えてしまいそうな姿だった。

 

「あ……あたりまえだ……お、おれを……誰だと思っている……っ」

 

 ロウソクの火を上から見下ろすようなメタフィクスの視線を睨み返しながら、ビルスは絞り出すような声で叫び、飛ぶ。

 しかしその飛行速度は羽虫と比べても大差は無く、今の彼が気力だけで持ちこたえていることは誰の目にも明らかだった。

 

「もう動くなビルス様! それ以上動くと死んじまうぞ!」

「だまれ……! おれは……俺は破壊神だ……! 破壊神に破壊できないものなど……」

 

 フラフラと舞空術で浮かびながら、ビルスはメタフィクスの元へと向かう。

 そしてその手のひらを、これまでそうして来たように、彼の前にかざした。

 

「は……か……い……」

 

 そして彼の身体は──砕け散った。

 

 

 

「ああ……っ!」

 

 破壊神の最期である。

 無敵の強さを誇り、孫悟空と仲間がどんな手を尽くしてもまるで歯が立たなかった彼が。

 

 破壊神ビルスが、光の粉になって崩れ去ったのである。

 

「……力尽きましたか」

 

 心なしか憐れむような目で、メタフィクスは彼の最期を見届ける。

 神の力を問答無用で封じ込める、まさに神を殺す為だけに生まれてきたような力を持つ彼にとっては、破壊神さえも恐るに足らない相手だった。

 

 しかしあのビルスは間違いなく、ここに来て本来以上の力を引き出していたと言えよう。

 

 本来であればウイスよりも力が劣る彼など、神封じの結界の中では飛ぶことも出来ない筈だったのだから。

 

「貴方はまさしく破壊神でしたよ、ビルス。曲がりなりにもこの宇宙で必要とされていた役割を担い……ほんの少しでも人々に貢献してくれたことを、感謝します」

 

 白々しい言葉を吐きながらも、その瞳にははっきりと彼に対する憂いの色が浮かんでいた。

 彼にとって破壊神は敵だ。罪も無い者を次から次へと殺していく倒すべき悪だ。

 しかし彼もまた、破壊が無ければ存続できない欠陥を持つこの宇宙には必要な存在だったのだ。彼もまたこの宇宙の駒に過ぎない以上は、ある意味「超次元」という世界に生まれた被害者とも言えた。

 彼がもし人間だったのなら、少しは良い奴になれたのかもしれない。そんなことを思いながら彼の死に様を見届けると、メタフィクスはふと違和感を感じた。

 

「む……?」

 

 砕け散った光の粉が──破壊神ビルスの灰が宙を舞い、孫悟空とベジータの元へと集まっていったのだ。

 

「これは……!」

「なんだこれ……ビルス様か?」

 

 悟空とベジータの身体の表面を覆うように、光の粉は彼らの姿を包んでいく。

 神秘的な、まさに神の奇跡と言うような現象である。だがその光景は、ただ美しいというだけのものではない。

 

 光の粉は悟空とベジータの身体の周りだけを、メタフィクスがこの世界に張り巡らせた神封じの結界から守っていたのだ。

 

 この世界を支配する神封じの結界に対して、彼らに影響を及ぼす部分だけを「破壊」しているかのように。

 

「なるほど……貴方の破壊に掛ける情熱はくだらないものでしたが、そこまで突き抜ければ大したものです。これまでの発言の一部は訂正しましょう。破壊神ビルス……貴方は誇り高い神でした」

 

 破壊の力を、仮初とは言え「仲間」を守る為に使ったのだ。

 破壊神でありながら、人間を守る為に。

 

 ──人間を、邪神に勝利させる為に。

 

 もっと早くそういうところを見せてくれれば……彼がもっと早く、孫悟空と出会っていれば。

 ……いや、その期待は他ならぬ、目の前の地球育ちのサイヤ人に裏切られたのだとメタフィクスは首を横に振った。

 

「ビルス様……力を借りるぜ! はあああっっ!!」

 

 破壊神ビルスの灰という彼の残した置き土産により、彼らだけはこの神封じの結界の効力から逃れることが出来た。

 その事実に即効で気づいた孫悟空が、超サイヤ人2の状態から一気に超サイヤ人ブルーへと変身する。

 

「……フリーザに惑星ベジータを破壊させたことは許さんが、今だけは黙ってやる。ふんっっ!!」

 

 孫悟空に対抗するように、ベジータの髪も黄金色から青く変わり、鮮やかな青いオーラが彼らを包み込んでいく。

 気の質は人間の物から神のそれへと変化し、あらゆる次元を超越して上昇していく。

 それが彼ら「超次元」のサイヤ人達がたどり着いた、最強の戦闘形態だった。

 

「超サイヤ人ブルー……それが、貴方がたの希望ですか」

「ああ、これで勝負はわからなくなっただろ?」

 

 神封じの結界の力を恐れて、これまではあえてならなかった形態だ。

 だが彼らの全身を膜のように覆っている破壊神ビルスの灰が、彼らに振り掛かっている結界の効力を破壊している。

 この灰は彼の──ビルスという神が生きていた証だ。

 神の生きた証が、二人の戦士を守っているのだ。

 

 ──しかしそれは本来ならば、メタフィクスに宿る「彼」の魂が先に受けなければならない祝福だった。

 

「ベジータ、行くぞ!」

「うるさい!」

 

 孫悟空とベジータが力を全開に引き出し、共に神の領域に入ったスピードでメタフィクスへと突っ込んでいく。

 それは神封じの結界で弱体化していた大神官やウイスよりも、遥かに厄介だと感じさせる力だった。

 

「始めましょうか……世界の始まりを」

 

 闇色のオーラを放ち、メタフィクスが迎え撃つ。

 

 その先に訪れるのは未来か、過去か──「超次元」の行く末を決める戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GT次元では、ベジータを超次元に送る為の準備が行われていた。

 トランクスがカプセルコーポレーションの研究室から次元移動装置を手配すれば、龍姫神がパンに対して思いも寄らない事実を告白していた。

 

「龍神界でただ一人、龍姫神の力を持つ者はドラゴンボールを必要とせず、自分の意志で次元の壁を開くことが出来る「次元渡り」の能力があります。私はその力を使って、龍神界からこの世界へとやって来ました」

 

 龍姫神がパンの傍へと向き合い、改めて自らの能力を説明する。

 彼女が龍神界という神龍の住む世界から来た神であることは、既に皆へと伝わっている事実だ。

 ドラゴンボールによって召喚される神龍とは違い、龍姫神は自らの持つ力によって世界を渡ることが出来るのだと。実際その力を使ってベジータと共に次元の狭間へ向かったのが、先のことである。

 それを前提として説明した後で、彼女はパンに語った。

 

「パンさん……信じ難いかもしれませんが、貴方にも私と同じ力が芽生えているのです」

「私に……?」

 

 次元の壁を開き、別の世界を行き来することが出来る「次元渡り」の力。

 本来龍姫神だけが持っている筈のその力は今、パンの身にも秘められているのだと彼女は語る。

 その言葉に納得したのがパンの父であり、メタフィクスと交戦したことのある孫悟飯だった。

 

「そうか、それでメタフィクスはパンを狙っていたのか。その力を使って、自分が居る場所に来られたくなかったから……」

「だけど、どうしてパンちゃんにそんな力が……」

「えっと、それは……どうしてだい?」

 

 メタフィクスが彼女の身を狙っていたのが、その「次元渡り」を恐れていたからだと言うのはわかる。

 しかしビーデルの言うように、何故パンにそのような得体の知れない力が秘められているのかは悟飯にも説明出来なかった。

 宇宙唯一のサイヤ人クオーターというのが他の人間とは違うパンの特徴だが、それが理由とも思えない。

 その疑問に対して、龍姫神が確認するようにパンに訊ねた。

 

「パンさん、貴方はかつて、邪悪龍と戦ったことがありますね?」

「あ、うん……一応、あります……けど」

「その時、龍の誰かと合体……吸収されかけたことはありますか?」

「そんなこと……あっ!」

 

 唐突に訊ねられた五年前の出来事を掘り起こし、パンはある出来事に思い至る。

 それは邪悪龍で最も陰湿な……あの祖父孫悟空をして「殺すのも惜しくない」と言わしめた外道龍との戦いのことだった。

 

「……あるわ。七星龍だったかしら? 七星球に触った相手を、自分に取り込む力があるの」

 

 七星龍(チーシンロン)──五年前に孫悟空が戦った邪悪龍の一体であり、特徴としては核にして本体である七星球に触れた他の生物に寄生し、そのパワーと能力を使いこなす能力だ。

 彼自身の力はそれほど強いものではなかったが、寄生によって自身のパワーアップと同時に人質として取り込んだパンの存在により孫悟空は本気の攻撃を躊躇い、苦戦を強いられたものだ。

 戦いの最後は間抜けを晒した彼の隙を突いて悟空がパンをひっぺ返し、怒りに燃えた超サイヤ人4のかめはめ波で消滅させるというオーバーキルとも言える決着のつけ方であったが、彼の中ではそれほどまでに孫娘を傷つけられた怒りが大きかったということだろう。

 そんな祖父の姿は少しだけ、パンの中では祖父の足を引っ張ってしまった苦い思い出と共に、二重の意味でトラウマになっていたりするという余談である。

 

「あの時のおじいちゃん、カッコ良かったけど怖かったわ……」

「……なるほど。それなら、今の貴方の身に起こっている異変も納得できます」

 

 パンがその時の出来事を語ると龍姫神が深刻そうに頷き、不穏な発言にパンの両親が狼狽えた。

 

「異変ですって? パンちゃんの身体に何かあるんですか!?」

「命に関わることは……別の意味ではあります。パンさんの寿命が増える可能性が」

「え……ええっ?」

 

 命に危険があるわけではないが、パンの今後の人生を大きく左右するものであると。

 

「どういうことですか……?」

「パンさんは今、人間の「気」の中に七星龍から無意識に取り込んだ、「龍の気」を宿しています。今はまだ人に感知出来る大きさではありませんが、これが大きくなった時、パンさんは変質します」

「そ、そうなったらどうなるんです!?」

 

 医者に病状を訊ねるような悟飯とビーデルの姿は、張本人であるパン以上に慌ただしい。

 そんな二人に龍姫神は気押されるように顔を背け、そして数拍の沈黙を置いて答えた。

 

「見た目は変わりませんが……龍になります。パンさんの場合はおそらく、ゆくゆくは私と同じ「龍姫神」になるかもしれませんね……」

 

 サイヤ人の血を引く彼女だが、生まれた時から尻尾も無く大猿になったことは一度も無い。

 しかしそんな彼女の行き着く先は猿どころか(ドラゴン)になるのだろうと、龍姫神は語った。

 

「龍姫神とは神龍と同じで、龍神界における肩書の一つです。私もまた、元々は貴方がたと同じ人間でした。体内にある「気」の半分が龍の気であり、もう半分が人間の気……だからこそ、私は龍でありながらも人の姿をしています」

「……もしかして龍姫神様は、地球人だったんですか? 姿もそうだけど、肌とか同じですし」

「はい。私もまた、かつてはこことは別の地球で暮らしていた一人の地球人でした」

 

 昔を懐かしむように言いながら、龍姫神が説明を続ける。

 

「今パンさんの中に眠っている「龍の気」が目覚めた瞬間、パンさんには私と同じ「次元渡り」の能力が芽生えます。そうなれば私とパンさんの力を合わせることで、メタフィクスに閉ざされた次元の扉を開くことが出来るでしょう」

「私が……龍姫神様みたいになるの?」

 

 つまりはパンの中に眠る「龍の気」というものを覚醒させることで彼女を龍姫神と同じか、それに近い存在へと変質させるのだという。

 龍姫神一人の力では、閉ざされた次元の壁を開くことは出来ない。

 今の次元の壁を開く方法はただ一つ、龍姫神と同じ龍と人間の両方の気を持つ者が、共に力を合わせることであった。

 そして龍姫神は説明だけでは今一つ実感の湧かないパンに対して、彼女の中にある「龍の気」を目覚めさせる為の具体的な手段を提示した。

 

「超サイヤ人ゴッド……五人のサイヤ人と共に手と心を繋ぎ合わせた時、貴方は本当の力に目覚めます」

 

 

 


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