誰かが提案した。
みんなで一緒に寝よう、と。
百鬼夜行を見送り、ミーナたちは広い畳の間に布団を並べて寝転がる。
零れる感想は当然、
「凄かったな」
「ええ、そうね。最初は何かと思ったけど」
トゥルーデの言葉にミーナは笑って応じる。最初に見たときの、二足歩行する鳥のインパクトは忘れない。
けど、
「結局遊んでしまったがな」
「ふふ、力比べとかしてたわね」
くすくすとミーナは笑う。角の生えた大柄な赤いつくもとトゥルーデは力比べを行い、投げ倒して喝采を浴びていた。そして、どや顔で両手を上げていた。
「倒されたほうも笑って健闘を讃えてくれたな」
少女だからと侮る事もなく、凄いな、と。笑って肩を叩いた。……今となっては気安いとも思うが、祭りの最中だ。その後に握手を交わしたことを覚えている。
リーネも笑って頷いて、
「さすがまきょ、……扶桑皇国だねっ!」
「…………リーネちゃんまで魔境っていうようになったんだね」
言いかけた言葉を察し、芳佳は曖昧な笑みを浮かべる。リーネはそちらに視線を向けないようにする。
そして、ぽん、と。
「宮藤、…………もう、諦めろ」
シャーリーは芳佳の肩を叩いて沈鬱な表情を浮かべた。
と、障子が叩かれる音。
「みんなー、お菓子だよー」
「お、気が利くな」
豊浦の声。どうせみんなでのんびり語るつもりだった。夜更かし前提ならお菓子があった方がいい。
歓迎の言葉とともにシャーリーは障子が開く。お盆にたくさんの金平糖とお茶。
「はい、どうぞ」
「ううん、寝転がりながら食べるのも行儀が悪い気がしますわ」
難しい表情のペリーヌ。「なら食うな」とエイラには「冗談じゃありませんわ」と軽く応じ、
「それじゃあ、明日には戻るから、ゆっくりしていきなさい」
「あれ? 行っちゃうのか?」
背を向ける豊浦にシャーリー。彼は難しい表情で振り返って「それはもちろん、君たちはここでこのまま寝るんでしょ?」
「せっかくだし豊浦も夜更かししないか?」
「あのね、シャーリー君」
ごろごろと強請るシャーリー。豊浦は彼女を少し乱暴に撫でて「女の子が寝床に男性を招き入れるものじゃないよ」
「いいじゃん。……なー?」
振り返り同意を求める。「さんせーっ」とルッキーニは両手を上げる。
他、見てわかるほど歓迎の意を表明する数人から視線を逸らして「ペリーヌ君」
「その、わたくしを最後の良識みたいに扱うのやめてもらえません?」
ちょくちょくこういう場面で水を向けられるペリーヌは難しい表情。けど、にやー、と笑って、
「いーんではないですの? 今更そういうことをするようには思えませんし? ここにはトゥルーデさんもいらっしゃいますし?」
「そうだな。何かあったら私が鎮圧しよう」
「それ前提なら普通は「ああもうっ、往生際が悪いっ」わぷっ」
ぐだぐだと渋る豊浦。その後ろからエーリカが突撃。そのまま押し倒す。
「私たちがいいって言ったらいいのっ! ぐだぐだ言ってないで付き合えーっ」
「ああもう、わかった。わかったよ。
ほら、エーリカ君、離れて離れて」
「ちぇー」
離れる、というよりは引き離されるエーリカ。豊浦は溜息。
「まあいいか、いくつかお土産も用意しておいたし。
はい、リーネ君」
「え?」
ぽん、と渡されたのは一冊の本。
「本?」
「扶桑皇国のお菓子の作り方だよ。リーネ君、興味あったみたいだから」
「お菓子、……あ、ありがとうございますっ」
「いいなあ、私も勉強したい」
ぽつり、芳佳が呟く。豊浦は困ったように「ごめんね。それ一冊しかないんだ」
「じゃあ、芳佳ちゃん。一緒にお勉強しよ」
「うんっ、…………え? あ、ちょっと待ってっ、軍務はっ?」
「あ、」と、リーネ。けど、
「大丈夫よ。宮藤さん、リーネさん。
いい、お菓子は私たちの戦意高揚につながるわ。お菓子作りは軍務に必要な技術よ」
ミーナは真剣な表情。トゥルーデがその向こう側で遠くを見ている。何か諦めたのかもしれない。
「あ、あはは。……ええと、じゃあ、芳佳ちゃん。
その、時間の合間に、ね」
「うん、そうだね」
「本当にありがとう。豊浦さん。
今度、扶桑皇国風のお茶会とかしてみようかな」
「あら、それはいいですわね。
その時はぜひわたくしも参加をさせていただきますわ。緑茶にお菓子、とても楽しみですわね」
「あとは炬燵だねっ! 大丈夫、どんなものかはばっちり覚えたから、ウルスラに量産してもらうよっ!」
力強く請け負うエーリカ。
「いいなっ、私の部屋にも炬燵頼む」
「あたしもーっ」
「ちょっと待て貴様ら、炬燵はともかくちゃんと訓練はするのだろうなっ?」
《STRIKE WITCHES》の半数を無力化した炬燵の猛威を思い出し問い詰めるトゥルーデ。対して、
「視線を逸らすなっ」
そっとそっぽを向く少女たち。
「そうね。いざというときに炬燵から出られませんでしたなんて問題よ。
みんなは迅速に動けるようにしなければいけないもの」
ミーナもトゥルーデに続く。トゥルーデが真面目に頷く。
「だから、エーリカ。ウルスラさんには私の分だけ頼みなさい」
「そうだな、ミーナの、…………ちょっと待て」
「そうだー、なんでミーナの分だけなんだー」
エーリカの抗議にミーナは大人らしい笑みを返して、
「だって私は隊長よ。書類仕事も多いし、事務仕事を効率よく行うためにも、リラックスした状態で仕事に向かうのは当然ではないかしら?」
「綿入れとか持ち帰るんですね」
リーネの言葉に「当然よ」とミーナ。そして彼女はリーネを撫でて、
「リーネさん。お茶とお菓子、楽しみにしているわよ」
綿入れを着こみ炬燵に潜り緑茶と菓子を傍らに指揮をするミーナ。…………あまりにも現実的すぎる光景にトゥルーデは頭を抱えた。
「はい、それとエイラ君」
「ん、私にもか?」
こちらも一冊の本を渡される。リーネが受け取った本よりも厚い。
「何の本だ?」
「按摩、それと針治療やお灸についてもね。…………そうだね、扶桑皇国の古い医療についてまとめた本、と思ってくれていいよ。
疲労回復とかに効果があるから、少しずつ勉強するといいよ」
「そうかっ、ありがとな豊浦っ」
ぱっ、と笑顔。こっそりと下心はあってもサーニャが疲れを引きずっているのは嫌だ。彼女のために出来ることはしてやりたい。
「うん、……けど、ちゃんと勉強をするんだよ。
針とかお灸はもちろんだけど、按摩も、やりすぎたりするとよくないからね」
「ん、解った。気を付ける」
「エイラ、練習はいくらでも付き合うから、いつでも声をかけて、ね」
「う、……うん。…………ええと、最初は下手かもしれないけど」
手を取るサーニャに、エイラは少し気まずそうに視線を逸らして、サーニャはふるふると首を横に振る。
「けど、苦手だったシールドもちゃんと出来るようになったでしょ?
エイラは頑張ればなんだってできるわ。私、ちゃんと知ってるから」
「……うん、頑張る」
エイラにとってそれはあまりいい思い出ではない。情けないところを見せてしまった。……けど、
彼女にちゃんと見てもらえている。そう思うと嬉しい。
「エイラさん。それ、私も読んでいい?」
ひょい、と芳佳が顔を出す。エーリカも興味津々と覗き込む。
「ああ、そういえば宮藤は医者目指してるんだったな。
いいぞ。……んー、それなら私の部屋じゃなくてどっかみんなが読める場所に置くか」
その提案を聞いて、ミーナは未来の事を考える。
綿入れを着こみ炬燵に入ってお茶とお菓子をお供に仕事をして、仕事が終わったらマッサージ。
「…………完璧ね」
「いや、だめな気がする」
きりっ、とした表情のミーナにトゥルーデは呆れたように応じる。長い付き合いだ。何を考えているかなんとなく予想つく。
「むー、本はいいからお兄ちゃんが一緒がいー」
ころころとルッキーニは駄々をこねる。我侭はわかっているけど、せっかくの機会だし我侭言ってみる。
「なかなか、そういうわけには行かないと思うんだけどね。ほら、君たちのいるところは軍事施設なんだよね?」
「ああ、それなら大丈夫だ」
確かに、基本的に軍事施設は民間人立ち入り禁止。ましてやウィッチたちの基地ならなおさら。
軍人で、特に許可の下りた者のみが入れる。……が、例外もある。
「隊長であるミーナの従兵なら当事者同士の合意があればすぐにでもなれる」
「え? そうなの?」
豊浦は意外そうに応じる。トゥルーデは頷く。
「我々ウィッチは、基地のウィッチたちが食事の準備などの家事をしている。
もちろん、軍事活動を最優先にすべきで、家事の類まで軍人がやるのは時間の浪費という意見もあるが、倫理的な問題もあってな。仮に女性ならそのあたり問題ないのだがウィッチではない女性の軍人は少ないし、軍人でない女性を安易に軍事施設に入れるわけにはいかない。だから、生活のサポートをするための従兵に関しては隊長の裁量でどうにでもなる」
「ふふ、よかったわね皆。規則的には問題なさそうよ」
くすくすとミーナは笑う。もちろんミーナも歓迎。いろいろ賑やかな部下の面倒を見てくれると非常に助かる。
「そっかあ、そうなるとミーナ君の従兵かあ。…………僕はミーナ君の言う事を聞かないといけないんだね」
ぴたり、と。誰かが動きを止める。
「そうねっ、……ふふ、楽しみだわ」
仕事中のお供にお茶とお菓子、終わったら凝り固まった肩のマッサージ。……そんな理想に一歩近づけそうでミーナは表情が緩む。
「サーニャ、ミーナがなんか悪い表情してるよ。あれは豊浦にあれこれ我侭押し付けようとしてるね。間違いない」
「……うん、豊浦さん。命令とか何も考えないで言うこと聞きそう」
「み、ミーナさん、どんな命令するの。……あ、あの、あ、あんまりそういう事は、だめ、です」
「まっさーじとか、……むう、そういうえっちなのはだめなのに」
隅っこでこそこそと話をする少女たち。聞こえた言葉に固まるミーナ。彼女の肩が叩かれる。振り返る。重々しい雰囲気のシャーリーは真面目に口を開く。
「ミーナ、えろい命令しちゃだめだ」
「しないわよっ!」
「……………………ミーナ君?」
「しないったらしないわよっ! やめなさいっ、そんな不審の目で見るのは止めなさいっ!」
全方位から胡散臭そうな目で見られ、ミーナは突っ伏した。
「別に基地暮らしでなくてもよろしいなら、わたくしの故郷でも歓迎しますわよ。もちろん、復興のお手伝いが条件ですが」
「あー、ずるーいっ! ロマーニャだって復興中だしっ、お兄ちゃんに助けて欲しい事たくさんあるもんっ」
豊浦の後ろから抱き着いて顔を出すルッキーニ。
「それでね、それでね、お兄ちゃんと一緒に観光したりお買い物したりマリアに紹介したりするのっ!
だからペリーヌだめっ」
「駄目じゃありませんわよっていうか遊んでばっかりじゃないですの。
それに、これは、領主、からの要請ですわ」
ふっ、と格好よく笑うペリーヌと威嚇しながら抱き着くルッキーニ。そして、シャーリーは楽しそうに口を開く。
「ペリーヌがついに男を家に誘い込んだか」
「誤解を招くようなことを言わないでくださいっ! 空き家ですわ、あ、き、やっ! わたくしも離れの一つや二つ用意できますわ」
ペリーヌ怒鳴る。そして、また格好よく笑う。
「ま、わたくしは行くつもりはありませんけど、リーネさんとかが空き家で一人寂しく暮らしている豊浦さんのお世話をしたいというのなら、ええ、咎めるつもりはありませんわよ」
「は、……はいっ! 頑張りますっ! 私、いっぱいいっぱい頑張りますっ! ちゃんとした、お、お嫁さんになれるように家事もたくさんたくさんお勉強したから、大丈夫ですっ」
二人きりの生活。そんな事を考えて精一杯応じるリーネ。
けど、
「その時は私も行きますからね。豊浦さん」
にっこりと、鉄壁の笑顔で芳佳。二人きりに割り込まれてリーネが頬を膨らませる。
「え、……えーと、リーネ君、芳佳君」
なぜか目の前で勃発した冷戦。豊浦はおろおろして、
「あの、…………サーニャ君、ええと、これはどうすれば?」
「…………ふふ、簡単ですよ。豊浦さん」
問いかけられて、サーニャは楽しそうに、少しだけ、意地悪く微笑む。
微笑んで、彼の手を取って、
「エイラと、私の両親を探すお手伝いをしてください。
そうすれば大丈夫です」
「「えっ?」」
唐突な言葉にぎょっと振り返るリーネと芳佳。けど、エイラは頷いて、
「そうだな。豊浦いろいろ出来そうだしな。知らない場所に放り込んでも問題ないだろ。いけるいける」
「大変でも、豊浦さんがいてくれたらきっとやり遂げられるわ。ね、エイラ」
「そうだなー、ん、それはそれで楽しそうだな」
エイラはその様子を想像して笑みを浮かべる。ここに来て、豊浦を含めてみんなで過ごした時間は楽しかった。
今度はオラーシャでサーニャの家族を探してうろうろしながらそんな生活を続ける。それはそれで楽しそうだ。
家族を見つけられず失意を得る時もあるだろう。情報を探し求めて右往左往する事もあるだろう。……けど、それでも、最後には笑って乗り越えられる。そう思ってる。
「君たちは僕を何だと思っているのかな?」
異国など行こうと思った事さえない豊浦は溜息。
「それで、両親に紹介したいです。……私の、好きな人です、って」
「そうだな。そのためにはちゃんと両親を探さないと、……………………え?」
したり顔で同意したエイラは言葉の意味を理解して硬直。サーニャはかすかに紅潮したまま、楽しそうに、少しだけ、悪戯っぽく微笑み。
「会ってくれますか?」
「あ、…………いや、えーと」
豊浦は硬直。もとよりすぐに返事が来るとは思っていないし、なんとなく、この想いがすれ違っていることはわかってる。だから固まる豊浦に笑みを向けて、
「にゃぎゃぁああああああああっ」
謎の悲鳴を上げるエイラが突撃し、サーニャも巻き込まれて三人転がった。
そのままサーニャを抱きしめて威嚇するエイラ。……そして、それさえ楽しいのか、サーニャはエイラの腕の中でくすくすと笑う。
結構笑い上戸なのかもしれない、と。豊浦は転がったままぼんやりとサーニャを見ていると、微笑。
「まあ、見ての通りだ。すぐに来て欲しいとは言わないが、みんな歓迎するし特に問題もない。
連絡を入れてくれば迎えに行こう」
トゥルーデの言葉に豊浦は笑って「そうだね。……まあ、考えてみるよ」と、応じた。
「来てもいいけどサーニャに変なことするなよっ! 絶対だかんなっ!」
賑やかな話も一段落。流石に寝顔まで見るわけにはいかない、豊浦は部屋に戻る。
豊浦、……と。
「入ってきなさい。リーネ君」
「…………ばれて、ましたか」
困ったような表情でリーネが顔を出す。豊浦は頷く。
「尾行にはなれが必要だよ。
さて、どうしたんだい?」
「…………その、……豊浦さん」
「ん?」
「豊浦さんは、……サーニャさんやハルトマンさんの事、……その、」
俯く。豊浦は苦笑。困ったようにリーネを撫でて、
「好き、…………と言いたいところだけどね。
うん、好意を持っているという意味なら好きだよ。二人の事も、もちろん、リーネ君の事もね。……けど、きっとそうじゃないんだよね?」
「…………はい」
小さく、小さな声で、ぽつり、頷く。
「サーニャさんも、ハルトマンさんも、…………わ、……私、も、です」
小さく、けど、必死に思いを形にする。豊浦はそんな少女を撫でて、
「ずれがあったとしてもね。僕は好意を向けてもらえると嬉しい。リーネ君みたいにいい娘なら特にね。
けどね、リーネ君」
不意に、言葉のトーンが落ちる。不吉な事を感じ、リーネは顔を上げる。
「異類婚姻譚の結末はたいてい悲劇だよ。
忘れたかな。僕は、人でなしだ、とね」
人とは違う存在。怨霊。……それが、たとえ誰かを呪い害する恐ろしい存在ではないとしても、
それでも、人とは違う存在だ、と。豊浦は困ったように告げる。
だから、リーネは彼を睨みつけた。
「リーネ君?」
見た事もないほど強い視線を向ける彼女に豊浦は首を傾げる。
「けど、……けどっ、それでもっ! 私は、」
解ってる。豊浦と自分たちは違う。もう数年もすればウィッチとしての力も消える。戦う術も失う。年齢を重ね、いずれは寿命を迎えるだろう。
けど、彼は変わらない。千年以上をある彼は自分たちが寿命を迎えた後も、変わらずあり続けるだろう。
解ってる。彼と同じ時間を歩めない事は、……それでも、
「私は、あなたが好き、ですっ! 傍で見守っていて、頑張ったら褒めて頭を撫でて欲しいんですっ! ずっと、ずっと一緒にいて欲しいですっ」
たとえ、その先にあるのが語られる異類婚姻譚と同じ悲劇であろうとも。それでも、
「私、……ひゃっ」
手を引き寄せられる。少し、強引に抱きしめられる。
「ありがとう、リーネ君」
顔を上げる。豊浦は微笑み、リーネの目元に指を当てる。……その指先は、濡れていた。
涙、と。その意味を察して、
「あ、……れ?」
抱き締められたまま撫でられる。入っていた力が抜け、代わりに、ぽろぽろと、涙がこぼれる。
「あ、……あの、「いいよ。少し、このままね」」
抱きしめられて、ぽろぽろと、涙をこぼす。そんなところ見られたくなくて、リーネは豊浦の胸に顔を押し付けた。
「落ち着いたかな?」
「…………はい」
抱きしめられたまま、小さく頷く。
「あの、……ごめんなさい。私」
「いいよ。恋愛感情、……は、違うけど、リーネ君の気持ちは嬉しいからね。
まあ、少し驚いたかな。リーネ君。大人しい娘と思ってたから」
「見損なっちゃいました、か?」
激情に駆られて怒鳴り、いきなり泣き出した。……変な娘と思われても仕方ない。
けど、
「まさか、そういう思いを僕は大切だと思ってる。
その激情も、恋心も全部ね。……ただ、君たちと同じ気持ちを返せないのは申し訳ないと思うけど」
「…………はい」
申し訳ない。そういわれて、…………リーネは真っ直ぐに顔を上げる。
「けど、また、……ううん、これからも、遊びに来ていい、です、か?」
「もちろん、僕はいつでも歓迎するよ」
歓迎してくれる、だからリーネは笑みを見せて一歩離れる。
「私、頑張りますっ!
また、遊びに来て、いつか、……いつかきっと、先にある悲劇なんて気にしないで、私の思いに応えてくれるように、頑張りますっ」
拳を握って、可愛らしく気合を入れるリーネ。豊浦は笑みを浮かべて彼女を撫でる。
「そうだね。……未来の事は僕も解らないし。リーネ君と接してるうちに考えも変わるかもしれないね。
うん、それは楽しみだな」
「はいっ」
たとえ届かなくても、それでも、この思いを大切にしてくれる。
その事が嬉しくて、リーネは満面の笑顔で頷いた。